【記事】ワシントンのラッコを追って | Paws Up for Science

本日はNational Marine Sanctuaries Earth is Blue Magazine 4より、"Paws Up for Science"をお届けします。ワシントン州のラッコは20世紀初めに絶滅してしまいましたが、1960年代から70年代にかけ再導入され、その後順調に数を回復してきました。今回はオリンピックコースト海洋保護区でラッコを研究する研究者の話です。

ヘイルはラッコが面白いものを食べているのを何度か見た。最初に観察に出た際、1頭のラッコがミズダコを持って水面に上がり、半分食べた後お腹の上にタコをふとんのように掛けて寝てしまった。Photo: Aura Leaf Kaila Edmondson

ジェシー・ヘイルは全世界で最も美しい研究場所を持っているかもしれない。数年前から、ラッコの研究者でありナンシー・フォスター博士奨学生であるヘイルは、オリンピックコースト国立海洋保護区を見下ろす絶壁の上でタケシダ、緑の苔、そしてシトカスプルース(訳者注:トウヒの仲間)に囲まれスポッティングスコープを設置している。海の堆積物が水面から現れ、早朝の霧を切り裂き、海のうねりが眼下の浜辺にぶつかる。ハクトウワシは頭上を飛ぶ。本物とは思えないほどたくさんいる。そして願わくば、海の中でラッコがエサを獲るために潜る。

 

ヘイルはこの場所と、ワシントンのオリンピック半島に沿った他のいくつかの場所に出て、ラッコの食習慣を研究している。ワシントン大学の大学院生であるヘイルは、ラッコが何をどのくらいの量を食べているかに関心がある。ヘイルが集めたデータは、ヘイルと他の研究者が、ワシントンの海岸線沿いのラッコの個体群がどれだけ健康であるかを理解するのに役立つだろう。

Photo: Kate Thompson/NOAA

 

ワシントンのラッコの生態が非常に神秘的なのは、オリンピック半島の外側が信じられないほど遠いことも一因だ。この調査地へ行くために、ヘイルは小さな町モクリプスの外のキャンプ場から、先住民のキノールト族が所有する土地にある舗装されていない伐採道路に車で1時間かけて行く。ルーズベルトエルク(訳者注:ヘラジカの仲間)は幽霊のように路上に現れ、再び下草の中に姿を消す。その後、伐採道路を何マイルも下ったところで、ヘイルは道路の端に車を止め、荒れて傾斜した道を歩き、絶壁に向かった。これもまた、ヘイルにとってはよりアクセスしやすい場所の一つだ。ほとんどの場合、観測地に行くために数マイルバックパックしなければならない。熱心な研究者ですらラッコを見つけるのにこれほど努力しなければならないとすれば、多くの人がラッコのことを知らないのも無理はない。

 

ラッコたちは知られていない沿岸の英雄かもしれないが、重要な存在であることは間違いない。ラッコは沿岸環境のキーストーン種として知られている。「アーチを思い浮かべると、そのの中央に全体を支えるキーストーンがあります。キーストーンなしではアーチ全体が崩壊してしまいます」とヘイルは説明する。なぜならラッコは無脊椎動物、特にウニを食べるからだ。そのまま放置しておくと、ウニはその場所のすべてのケルプを食べ尽くしてしまう。ラッコがウニを食べれば、ケルプは豊かな森に育ち、あらゆる生物の生息地となる。「ウニに占められた均質な環境と、非常に多様な海洋生態系との違いです」とヘイルは言う。

 

しかし何年もの間、ラッコはワシントンの海岸線にはいなかった。20世紀初頭には、厚く柔らかい毛皮が珍重され、捕獲され絶滅した。1969年と1970年に研究者たちはアラスカから59頭のラッコをオリンピックの海岸に再導入した。それ以来、ラッコの個体数は増加し、現在では2,000頭を超えるラッコがワシントンに生息しており、そのほとんどがオリンピック沿岸海洋保護区が保護する水域にいる。

 

ラッコは生息地は遠隔地であるため、再導入されてからあまり研究されておらず、ヘイルは現状を変えようと取り組んでいる。調査地では、ラッコが何を食べたか、どれくらいの時間で獲物を見つけたか、どれくらいの時をかけて水面で食べたかを記録している。こうした観察は、ラッコが生き延びるのに十分な餌を得ているかどうか、どの獲物を好むかを理解するのに役立つ。「環境中にどれだけの食料があるかによって、ある地域では生き残ることができ、繁殖できるラッコの数は限られます」ラッコがどのくらいの量を食べているかを知ることは、ラッコの個体数がまもなく横ばいになるかどうかを理解するのに役立つ。

 

オリンピック沿岸国立海洋保護区は、こうしたつり合いにおいて重要な役割を果たしているとヘイルは言う。国立海洋保護区制度は「私たちが大切にし、健康を維持したい特別な場所として、オリンピック・コーストを優先しており、ラッコはその重要な一部」である。これに加えて、この保護区はラッコへの関心を高めるのに役立っており、そうすることで、ワシントン州にはこのような愛らしい重要な動物がたくさん生息していることを知り、将来の保護活動家や科学者たちが成長していくことになるだろう、とヘイルは指摘する。

 

ナンシー・フォスター博士奨学金は、ヘイルの研究の鍵となっている。「私がやりたいと思っていた科学をする自由を与えてくれました」とヘイルは言う。ヘイルは自分の研究テーマを思いつき、自らデータ収集と分析を行った。博士課程を終えた後も、保護を必要としているラッコやその他の海洋性捕食者を助ける仕事を続けたいと思っている。海洋哺乳類についてヘイルは「答えなければならない質問がたくさん」あると言う。ヘイルはそれに答えたいと思っている。

 

National Marine Sanctuaries Earth is Blue Magazine 4
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