【記事】ラッコとサメ-保護動物の保全の難しさ | When One Protected Species Kills Another, What Are Conservationists to Do?

本日は2019年6月3日付のScientific Americanより、"When One Protected Species Kills Another, What Are Conservationists to Do?"をお届けします。ここ数年、ホホジロザメによる噛みつきがラッコの死因の多くを占めています。サメはアザラシなどを間違ってラッコを噛んでしまうのですがラッコにとっては致命傷となります。ラッコもホホジロザメも保護動物であるため、サメを駆除するということもできず、また駆除してもそれにより生態系のバランスが崩れて予期せぬことが起きてしまう可能性もあります。ある種の保全が、結果的に多くの種に影響を与える可能性があるということを理解することが重要なのです。

ホホジロザメがラッコを脅かしているとしたら? ますます混乱する環境の中で高まるジレンマ

人類史上かつてないほど野生生物が絶滅の危機に瀕している世界において、保全活動家らの使命は明らかに思われる。野生生物の絶滅を阻止し、絶滅の危機に瀕している個体群を回復することだ。一般に、野生生物の保護とは、脅威を軽減したり排除したりすることにより、種の死亡率を低下させることを意味する。これは、重要な生息地の保護や再構築を行ったり、資源をめぐって競争している外来種を除去したりするといった単純なことが多い。

 

しかし、ますます破壊が進む今日の自然環境において、保全活動家らが保護し回復しようとしている種が直面している最大の脅威は---保全活動家らが保護し回復しようとしている別の種だということもある。そうなると、環境保護活動家らや野生生物管理者が利用できる解決策は、たちまち複雑で混乱したものとなってしまう。「私たちが今日直面している海洋保全の課題の1つは、成功を通じていかに管理するかです」と、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校サメ研究室の所長を務める海洋生物学者のクリストファー・ロウ氏は言う。「多くの種が歴史的に生態学的な相互作用を持っているとはいえ、個体群が回復すると予想外の新たな相互作用が生じ、保護されている種同士が競争を起こすことがよくあります」

 

今春、Ecology and Evolution誌に発表された論文は、この現象の最新の例の1つを示している。かつて乱獲されていたホホジロザメの回復は、保全の成功例としてもてはやされてきたが、大型の捕食者が回復するということは、エサを食べる口も増えるということになる。この論文では、モントレーベイ水族館の研究者らが、ホホジロザメの個体数の回復により、別の動物が過去の乱獲から回復するのを難しくなっていることを明らかにした。それがラッコである。「カリフォルニアのラッコは、アザラシやアシカを食べたり、時折クジラの死体を食べるために海岸へやってくるホホジロザメに偶発的に噛まれる危険性が高まっています」とジェリー・モクスリー氏は言う。モクスリーはこの論文の筆頭著者で、モントレーベイ水族館の研究者だ。「ラッコをエサとして食べるわけではなく、サメにとっては試して誤って噛んだに過ぎないが、結果的にラッコは傷ついてしまうる。サメはエネルギーを浪費するだけでエサを食べる機会を逃し、ラッコは命を落としてしまうことが多いため、これは本当にサメとラッコのどちらにとっても損なのです。大きな捕食魚にとって、ラッコは燃料となるカロリーの高い脂肪がないため、ホホジロザメは脂肪の塊ではなく毛の塊であるラッコをそのまま残し、食べないのです」

 

「カリフォルニアのラッコは、アザラシやアシカを食べたり、クジラの死骸を漁ったりするホホジロザメに偶発的に噛まれる危険性が高まっています」論文筆頭著者で、モントレーベイ水族館の研究者であるジェリー・モクスリー氏は言います。「ラッコをエサをして食べるのではなく、サメは試しで噛みつくだけなのですが、結果的にラッコは傷ついてしまいます。サメはエネルギーを浪費しエサを食べる機会を逃し、一方ラッコは命を落としてしまうことが多いため、これはどちらにとっても損なのです。大型の捕食魚であるホホジロザメにとって、カロリーの高い脂肪がラッコにはないため、サメは脂肪の塊ではなく毛の塊であるラッコを食べずに残してしまうのです」

 

保護種が互いに負の相互作用を与える例は他にもたくさんある。例えば、太平洋北西部沿岸では、絶滅危惧種のサケなどの食用魚を増やすために、アザラシやアシカ(海洋哺乳類保護法によって保護されている)を駆除べきだという声が再び上がっている。また、北西ハワイ諸島国立海洋保護区では漁業は全て違法とされているが(伝統的な慣習を除く)、絶滅の危機に瀕しているハワイモンクアザラシの子どもが食べられないよう、政府職員がサメを殺している。人間はこのように介入したいと考えるかもしれないが、環境倫理学者らは、すでに私たちが被った損害を取り戻そうとして、かえって生態系をさらに破壊するようなことはしないよう警告している。「あなたの足に癌ができているのを見て、たとえ私が優秀な外科医であり、なおかつあなたに大きな利益があるとしても、あなたが苦しまないようにと手術台にに縛り付けて手術をすることはできません。私はあなたの権利と希望を尊重して慎重に行動しなければなりません。あなたの歴史には私が知らないものもありますし、あなたの希望の中には私には理解できないものがたくさんあるかもしれないからです」そう語るのは、コロラド大学ボルダー校の環境倫理学者で、The Wild and the Wicked:On Nature and Human Natureの著者でもあるベンジャミン・ヘイル氏だ。「私たちが、ある動物が野性的な生活ができなくなるようにしようとすれば、私たちが完全には理解していない連鎖的な影響を引き起こし、予期できない未来を開いてしまうことになります」

 

環境保護論者らは、絶滅危惧種間のこうした複雑な相互作用の多くは、人間が生態系の自然なバランスを崩したために起きていると指摘する。「こうした種間の衝突は、非常に混乱したシステムの産物です」非営利団体Defenders of Wildlifeのカリフォルニアプログラムの責任者、キム・デルフィノ氏は言う。「ラッコにとって、ホホジロザメの問題は本当に大きな問題で、個体数が非常に小さき制限されてしまっているという問題、ケルプの森が減少するなど生息地が非常に劣化してしまうという問題なのです。私は、本来生息すべき個体数を上回るホホジロザメが生息しているとは思いません。アシカやサケ(またシャチも)にとって、人間によるサケの繁殖地の破壊や気候変動の影響のために、サケの個体数が非常に少なくなってしまいました。アシカやホホジロザメは、大きな問題の中の一つの兆候にすぎません。治療を行っても、それが危険に晒されている魚や野生生物の減少を真に引き起こしている病気を治療しているとは限らないのです」

 

ホホジロザメやラッコの場合、ラッコの生息域を回復させることは、サメに害を与えることなくラッコ(や他のカリフォルニアの野生生物)を助ける効果的な方法かもしれない。「ラッコはケルプの森の生態系の生物多様性と回復力を高めることで知られています」とモントレーベイ水族館のラッコ専門家で、Ecology and Evolutionの論文の共著者であるテリ・ニコルソン氏は言う。「歴史的に、ケルプの森の生態系は、より大型の海洋捕食者からの自然の避難場所として機能してきた可能性があり、またそうなるかもしれません。私たちは生態系の回復力と、野生生物群集全体を含む目標に焦点を当てる必要があります。生息環境が重要なのです。カリフォルニア沿岸部では、ケルプ群落が増えるとサメに噛まれるリスクが著しく低下することがわかっています。ラッコが永続的なケルプの森を作ることができれば、この避難場所は、現在のカリフォルニアで生きようととしている別の捕食者との、必要のない相互作用を緩和することができるかもしれません」

 

保護を受けている生物種間にみられるこのような問題のある相互作用は、しばらくの間は頭痛や胸やけを引き起こすかもしれない。しかし科学者らは、人間がより多くのことを学んでいけば、やがては複雑な野生生物の回復もうまくいくだろうと確信している。ホホジロザメの専門家でサメとラッコに関する論文の共著者でもあるモントレーベイ水族館のサルバドール・ジョルゲンソン氏は、「野生生物の個体群を絶滅寸前に追いやる前には、生態学的な研究はあまり行われませんでした」と話す。「それらが回復しつつある今、私たちはこれまで予期していなかった相互作用について学んでいます。私たちは学びながら前進しているのです。カリフォルニアにとって朗報なのは、少なくとも現時点では私たちは正しい方向に向かっているようだ、ということです」