本日は2019年3月22日に発表されたUSGSの論文"Southern Sea Otter (Enhydra lutris nereis) Population Biology at Big Sur and Monterey, California—Investigating the Consequences of Resource Abundance and Anthropogenic Stressors for Sea Otter Recovery"より、アブストラクト(摘要)部分をお届けします。専門用語が間違っているかもしれませんのでお気づきの点がありましたらお知らせください。
摘要(アブストラクト)
カリフォルニアラッコ(Enhydra lutris nereis)の生息域は、ハーフムーン湾からガビオタまでのカリフォルニアの中央沿岸部の大部分に及ぶ。当該域内の沿岸地域の中には開発が激しく人による影響を強く受けている場所もあれば、自然のままほぼ手つかずの場所もある。ラッコの個体数変化に対する、食物資源の豊富さ、環境条件、および人為的な理由で増加している病原体や汚染物質の相対的な重要性を判断することは、個体数増加の限界を理解する上でに重要である。カリフォルニア中央部におけるラッコの個体数の伸びの鈍化と、生存と繁殖の変動を促進する要因との間の因果関係を調べるため、我々は2つの異なる亜個体群を比較する研究を計画した。 その亜個体群の一つは、人間による影響が小さい場所(ビッグサー)であり、もう一つは人間による影響が大きい場所(モントレー)である。 2008年から2011年の間に、米国地質調査所と共同研究者らは、この2か所でラッコのテレメトリベースの調査を実施した。この研究の結果、人口密集地近くのラッコ(モントレー)は人間の影響が少ない場所(ビッグサー)よりも汚染物質や病原体への曝露が高いのではないか、という仮説とは一致しなかった。実際、血清学的分析に基づき、ビッグサーのメスラッコは、モントレーのメスラッコよりもトキソプラズマ原虫への暴露率が高かったが、ドウモイ酸への暴露は両方の場所で同様であった。研究中に発生した森林火災による排水に暴露した可能性のあるビッグサーのラッコの遺伝子転写に一時的な変化がみられたものの、病原体や毒素の暴露に対する反応を示唆すると考えられていた遺伝子発現(具体的には転写)分析は、一貫した有意差がみられなかった。つまり、これらの数値は、環境ストレス要因への暴露に変動が生じたことを示唆しているが、そのパターンは明らかに人間の人口密度や土地利用類型の違いに起因するものではなかった。モントレーと比較した場合、ビッグサーのラッコは採餌により多くの時間を割き、特定の餌種により特化する傾向があり、健康状態がより悪く、そして生存率もより低い(幼獣、成獣ともに)。これは、統計がビッグサーのラッコが1頭あたりの資源量の少なさと一致して、より大きな栄養ストレスを持っていたことを示唆している。全体として、研究結果は、1頭当たりの資源の豊富さによってもたらされる、密度に依存して個体数が規制されている状況が、現在この生息域の中央部で個体数増加を制限している最も大きな要因であることを示している。さらに、環境的および人為的ストレス要因の空間的および時間的変動も、ラッコの健康に影響を与える可能性がるが、変動のパターンは複雑であり、単なる人間が集住している場所への近さとの関数的関係ではない。我々はまた、環境ストレス要因(自然起源もしくは人為起源)への暴露が、しばしば資源の制限と関連していることを見出した。最後に、我々の結果は、ラッコの個体数は比較的小さい空間スケールで構造化されていること、そして個体数の豊度(密度依存性の資源量を含む)を調節するプロセスも、こうしたより小さくより局所的なスケールで起こることを示している。
解説(らっこちゃんねるより)
何やら難しい翻訳になってしまいましたが、、、
この研究は簡単にいうと、「田舎のラッコ」と「都会のラッコ」では「都会のラッコ」のほうが脆弱なのでは?という仮定から行われています。ビッグサーは、カリフォルニアラッコの生き残りが発見された場所として知られていますが、岩礁の多く険しく切り立った崖が連なる場所で、ラッコが人間と接触することはほぼありません。また、生活排水や農業廃水のようなものの流入の可能性も少ない場所です。
一方、モントレーはカリフォルニア中央部では比較的大きな町で、現在は観光地として多くの人間が集まる場所になっています。漁業も盛んで、ラッコが暮らす沿岸部には漁船や観光客など人の往来が多い場所です。そのような条件から、「きっと都会のラッコのほうが人間由来のストレスが多いため、病気になったり死んだりしやすいのではないか」という推測がなされていました。
しかし、病気については都会のラッコと田舎のラッコの間で特に差はみられず、調査の結果はむしろ人間の影響が少ないと思われていた田舎のラッコのほうがエサ探しにかける時間が多く(エサを獲るのが大変=生きるのが大変だということ)、幼獣・成獣ともに生存率が低いことを示しました。つまり、直接人間由来のストレス要因に影響を受けるというよりも、ラッコにとってはエサが豊富かどうかが、病気のかかりやすさや様々なストレス要因をより受けやすくする鍵になっているということです。
ラッコは1日に体重の25%のエネルギーを摂取しなければならないため、日々相当量の時間をエサ探しに費やします。そういう点では、何よりもまずちゃんと食べて命をつなぎとめることが何よりも重要なのかもしれません。嵐などの場合、ビッグサーのほうが隠れ場所が少なく親子が離れ離れになってしまったりする可能性も高いでしょう。近くに住む人間の多寡で比較するには、その他の条件が違いすぎるのかもしれません。いずれにしても、都会のラッコも田舎のラッコも、どちらもギリギリのところで毎日を生きているということは間違いないようです。
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