【記事】ラッコレスキュー:原油流出事故の影響 7 | Sea Otter Rescue : The Aftermath of an Oil Spill part 7

1989年3月24日、1艘の巨大タンカー、エクソン・バルディーズ号がアラスカ州プリンスウィリアム湾のブライ岩礁にぶつかり座礁し、当時米国史上最悪の原油流出事故となりました。
バルディーズとスワードにラッコレスキューセンターが作られ、多くのスタッフとボランティアが、油で汚染されたラッコを懸命に助けます。この洗浄・リハビリを行ったポイントデファイアンス動物園水族館のローランド・スミス氏の本、Sea Otter Rescueの翻訳をお届けします。本の写真は掲載できませんので、Archive.org(https://archive.org/details/seaotterrescueaf00smit/page/n71)でご覧ください。

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4 ラッコの手当て

ケージに入れられた汚染されたラッコ
ケージに入れられた汚染されたラッコ

レスキューセンターへ運び込まれたラッコの多くは瀕死の状態で、レスキューの人々はラッコの命を救うために多くの問題に苦しんでいた。

解決しなければならない最大の問題は毛に付着した油ではなかった。ラッコが毛についた油を舐めとろうとした際にかなりの油を飲み込んでしまっていることがより深刻だった。原油は有毒で、体の中にとどまって肝臓や腎臓を抜けて体の中を繰り返し循環し、こうした重要な内蔵に深刻なダメージをもたらした。

驚くべきことに、母子が一緒にセンターへ運び込まれた際、赤ちゃんは比較的油が付着していない一方で、母親の状態は非常に悪かった。これは、母親が子どもを助けようとずっとグルーミングをしていたためで、その間母親は自分の毛に付着している油のことは全く気にかけていなかった。

ラッコレスキューセンターには、ヘリコプターや飛行機でラッコが直接運び込まれた。センターに着くとラッコは体重を測定する部屋へ連れていかれる。体重を記録すると、ラッコたちは静かな部屋へ移動する。トラウマになりそうな捕獲や輸送から、落ち着くことができた。

 

ラッコが落ち着きを取り戻した様子になると、鎮静室に連れていかれる。そこで獣医師が鎮静剤を注射する。ラッコは人間に扱われることに慣れていないため、具合が悪くてもまだ力が非常に強い。鎮静剤を打たなければ暴れて噛みつくことになり、ラッコを扱うスタッフやラッコ自身にとって非常に危険なことになる。

 

ラッコがリラックスすると後足のヒレのどちらかに番号付きの個体認識用のタグが取り付けられる。これにより、ボランティアやスタッフがリハビリ期間を通じラッコを追跡することができる。また野生に返した跡でラッコの進捗を追うのにも利用される。

 

この時点で獣医師は採血を行う。重要な器官が正常に動いているかをみるためだ。

 

バルディーズのセンターでは、ラッコが大量の油を飲んでいると疑われた場合、獣医師は慎重に喉から胃へチューブを入れた。そしてチューブから水と活性炭を混ぜたものを入れる。この活性炭は家庭用の水槽の水をろ過するものとほぼ同じで、ラッコの中を「洗う」役割を果たす。活性炭はラッコの消化器官の中を通る際有毒な油を吸収し腸から出す。こうした処置を取らなければ、油はラッコの体内を循環し続け、最後には肝臓を破壊しラッコにとっては致命的なことになる。

その後、ラッコは洗浄室に移される。ラッコを洗うのは非常に手間のかかる作業で、どの程度油で汚染されているかにもよるが、洗い終わるのに4人で2時間以上かかった。

 

洗浄室ではラッコは台の上に置かれ、レストレイナー(抑え係)と呼ばれる人ができるだけラッコを快適にする。レストレーナーは必ず動物の扱いに慣れた人で、スタッフもしくは訓練を受けたボランティアから選ばれ、他のスタッフがラッコを洗っている間、スタッフらの安全と福祉に責任を持つ。洗っている間にラッコが鎮静剤から覚めてしまうと、レストレーナーは獣医師に連絡し、ラッコに追加で鎮静剤を打ってもらう。このようにして、ラッコに噛まれることがないよう、洗浄作業を続けることができた。

ラッコの洗浄を行うにはレストレーナーの他に少なくとも3人が必要だった。ラッコの両側に一人ずつ、尻尾の側に一人だ。ラッコを洗う際は、ラッコをDawn(訳者注:アメリカで良く使われる食器用洗剤※写真参照)を水で薄めたもので濡らす。薄めた洗剤液をかけ、それから手で油がついた毛皮を洗う。この作業は優しく、しかししっかりと完全に行われなければならない。ラッコ全体に洗剤が行きわたると、水で洗い流す。すすぎの水が適温かどうか最新の注意が払われる。水温が低すぎても高すぎてもいけない。ラッコの体が冷えないよう、あるいは温まりすぎないよう、レスキューの人々は注意しなければならない。水温を調整することで、ラッコの体温をなんとかコントロールすることができる。洗浄とすすぎは毛皮から油が全部なくなるまで、多い時は15回も繰り返された。

 

洗浄とすすぎが完了すると、追加で何度かすすぎが行われる。ラッコの体から自然に出る脂が戻ってくるためにも、洗剤が全く残らないようにすることが重要なのだ。

※食器用洗剤Dawnはどこでも手に入るので、油に汚染された野生生物を洗うのに広く利用されている。


すすぎが終わるとラッコはタオルで乾かされ、乾燥室へ運ばれる。乾燥室では丈夫なブロワーがラッコを完全に乾かすために使用された。このプロセスには1時間半ほどかかった。

 

ラッコの洗浄と乾燥が終わると、獣医が「拮抗薬」を注射する。これは、鎮静状態にあったラッコを元に戻す働きがある。

 

ラッコは乾燥室から回復室へと運ばれる。ラッコはこの部屋で獣医スタッフにより数時間注意深く見守られ、何か異変が起こると手当てを受ける。汚れたら再びすすいで、必要なら乾燥させる。この段階では低体温症がまだ致命的な問題になる。ラッコは体が冷えると、体温を維持するため持てるエネルギーを全て使ってしまう。エネルギーをすべて消耗してしまうと、低血糖になり、けいれんを起こしショック状態になる。そうなった場合、獣医がブドウ糖を皮下注射し、血糖値のレベルを上げラッコがショック状態から戻るよう手助けをする。

 

ラッコレスキューセンターに滞在する時間が長くなればなるほど、ラッコを野生に返すことが難しくなる。そのため、極力早くラッコの状態を安定させることが重要だった。

 

数時間後、回復ユニットでラッコが元気そうな様子を見せていれば、水の中に入れて自分でグルーミングができるようにする。ラッコが泳いでいる際、レスキューの人々は常にラッコを観察し、寒がっていたり、元気がなくなっていないか確認する。まずラッコは水を張った魚を入れるプラスチック製の桶に入れられる。この時ラッコに何か問題があるようであれば、すぐに水から取り出すことができる。

 

ラッコが水の中で順調な様子であれば、泳いでいる時間が長くなる。ラッコが24時間水の中で過ごすことができていたら、もっと大きな水槽に移され、他のラッコと交流することができる。

レスキューセンターでリハビリを受けるラッコたち
レスキューセンターでリハビリを受けるラッコたち

Roland Smith
Sea Otter Rescue - The Aftermath of an Oil Spill
Published in  1999