本日は2017年10月25日付のPhys Orgより、"Robust jaws and crushing bites allow sea otters to specialize their diets"をお届けします。
ラッコが生きられるかどうかはエサを獲り食べる能力にかかっている。ほとんどの海洋哺乳類とは異なり、ラッコは冷たい太平洋の水を断熱する厚い皮下脂肪を持たない。その代わりラッコは密度の高い毛皮を持ち、体温を文字するために非常にアクティブな代謝に頼っている。
ラッコは貝からウニ、カニまで様々なものをエサとする。しかし、ラッコのエサは個体群レベルでは多様であっても個々のラッコが食べるエサは決まっている。これは、カリフォルニアに住むラッコにとっては特に当てはまる。カリフォルニアラッコとして知られるこの亜種は、海洋無脊椎動物が豊富な岩の多い環境で暮らす。
特定のエリアにおけるラッコの数が増えると、ラッコは近くにいる仲間と食糧をめぐり競争しなければならなくなる。これを克服するため、個々のカリフォルニアラッコは特定のエサを食べることで競争を緩和するようになる。しかし、この行動はワシントンやブリティッシュコロンビア、アラスカに生息するアラスカラッコでは見られない。
こうした混合土砂の海洋環境では、ラッコはすぐにウニなど好みのエサを食べつくし、ハマグリやムラサキガイなどの二枚貝をとるしかなくなってしまう。そのため、カリフォルニアラッコと対照的にアラスカラッコはゼネラリストとして振る舞うのだ。
アラスカラッコとカリフォルニアラッコの行動が異なるのはなぜだろう。
これまでの研究で生息地のタイプやエサの多様性、豊度がこうした行動に影響を及ぼすことが分かっているが、ラッコの解剖学的構造や給餌のパフォーマンスが特定のエサのタイプに特化する能力を強化するか制限するかについてはほとんど知られていない。
特定の種類のエサを食べるというような特化行動は、動物の体や頭蓋骨の大きさや形態のような専門形態学としばしば関連がある。
バーク自然史文化博物館の哺乳類キュレーター、シャーリーン・サンタナ博士と協働で、ラッコの食糧資源の利用の違いが頭蓋骨の大きさの違いやエサを十分に噛む能力の違いによって説明できるか、調査をおこなった。
私はバーク自然史文化博物館の哺乳類学のコレクションの中から100以上のラッコの頭蓋骨を使い、カリフォルニアラッコとアラスカラッコの咬合力(噛む力)、顎の強度、頭蓋骨の大きさや形状の違いを比較できる数学的モデルを作成した。
私は頭蓋骨を一つ一つ(頭蓋及び下顎)を3つの異なる視点から撮影した。次に、これらの写真から噛んだり咀嚼したりする際に使用される筋肉の大きさを推定し、それぞれのラッコの咬合力の推定を行った。
咬合力をさらに調査するため、デジタル式のカリパス(直径などを測定するコンパス式の計測器具)を使い下顎の特定の場所の直径を測定した。これにより、その骨がどの程度強いかが推定できる。最後に頭蓋骨写真を使い幾何学的形態計測という方法でラッコの頭蓋骨の大きさと形状の比較を行った。
ラッコの頭蓋骨や歯は非常に特化しており、それにより堅いウニの外骨格に穴をあけたり貝をこじ開けたりすることができる。短い頭蓋骨よ平たく破壊耐性のある歯は体の大きさの割に高い咬合力を生み出す(80重量ポンド!(約36kgf))。このような高い咬合力があるからこそ、堅く割りづらい海洋無脊椎動物を食べることができるのだ。
この2つの亜種を比較し、アラスカラッコとカリフォルニアラッコでは頭蓋骨の大きさと形に小さな違いがあることが分かった。しかし、こうした違いにより咬合力が顕著に異なるとはいえない。
つまり、どちらの亜種もエサの入手可能性や生息域の特徴、競争により特定のエサを食べるようになるか幅広いエサを食べるようになるかどちらの可能性も持ち合わせている。しかし、カリフォルニアラッコは条件により特定のエサを食べるようになる。
これらの結果をもとに、同じ個体群中にありうる違いについてより深く洞察を行うことにした。オスとメスのラッコの違いについてである。
オスのラッコはメスのラッコよりも大きい。オスは平均90ポンド(約40kg)でメスは40~60ポンド(18~27kg)だ。従って頭蓋骨でもそのような傾向があると考えたが、その通りだった。
しかしオスのラッコはメスより頭蓋骨が大きいだけえはなく、体の大きさの割により大きな咬合力をもつ特徴を備えている。頭頂部や隆起部(訳者注:ラッコの頭蓋骨の頭頂部には、とさかのように出っ張っている部分がある)が大きければ、筋肉が付く面積も大きくなるということだ(筋肉が多ければ咬合力も大きくなる)。更にオスのラッコはより強い下顎を持ち、非常に硬いエサも砕くことができる。
こうした結果は、頭蓋骨の大きさや形のおかげで、オスのラッコはメスに比べてより堅いエサを食べることができることを示している。
しかしオスとメスのこうした違いにより、オスはエサを食べる際に優位に立っているといえるのだろうか。必ずしもそうとは言えない。体が小さい分、メスは頭でカバーしているのだ。
メスのラッコはオスに比べて、通常より堅いハマグリのようなエサを開ける際に石や岩などの道具を使う傾向がある。オスの中にもそうするものがいるが、それは母親が道具の使い方を教えていた可能性がある。
性選択のため、オスは体がより大きくより大きな咬合力を生み出すことができるかもしれないが、だからといってエサを食べる際にメスより有利であるとはいえない。オスは縄張りやメスのとの繁殖機会をめぐってお互いに激しく戦い、体が最も大きく最も強いオスが通常は勝利をおさめる。
この研究「"Do differences in skull morphology and bite performance explain dietary specialization in sea otters?"(頭蓋骨の形態と咬合力の違いはラッコのエサの特化の理由となるか)」はジャーナル・オブ・ママロジー誌で発表されている。
Phys Org
Robust jaws and crushing bites allow sea otters to specialize their diets
October 25, 2017 by Kristin Campbell
コメントをお書きください