【記事】血液、骨そして能力:ラッコのDNAを探る | Blood, bone and brainpower: A deep dive into sea otter DNA

本日は2017年10月23日付のMonterey Bay Aquarium Future of the Oceanより、"Blood, bone and brainpower: A deep dive into sea otter DNAをお届けします。ラッコは短期間に激減し、その後ごく少数から数が増えてきたため、回復したため、遺伝子の多様性が失われています(ボトルネック効果)毛皮貿易以前のラッコのDNAと現在のラッコのDNAを比較することで、どのような特質が残され、どのような特質が失われたのかを知ることができます。

ラッコとして生きるのは単純に聞こえるかもしれない。泳ぐ・食べる・昼寝する、その繰り返し。素晴らしい。

ギジェットはラッコの遺伝子の顔になる
ギジェットはラッコの遺伝子の顔になる

しかしカリフォルニア大学ロサンゼルス校生態学・進化生物学専攻で5年目迎える博士候補生のアナベル・ベイヒマンの目の前にある課題は非常に複雑だ。アナベルはラッコを構成するすべてのものを、DNAレベルまで細かく調査しているのだ。アナベルは、自分が学んでいることが沿岸生態系の健全性において非常に重要な役割を果たしているラッコの回復に寄与できればと思っている。

 

アナベルがラッコの遺伝子(これについてはアナベルが昨年書いてくれた)(訳者注:【記事】ラッコのゲノムを解析 | Decoding the sea otter genomeで翻訳済)の配列をするためにしている努力は、当館の展示ラッコの中の1頭、ブロンドで白い毛が混ざっている顔のギジェット、を通じてモントレーベイ水族館と繋がっている。アナベルが苦労して配列し集めて注釈をつけているDNAを通じ、ギジェットはラッコの遺伝子のお手本になるのだ。その作業も間もなく完成しようとしている。

「世代の基準点」

「ギジェットは将来のカリフォルニアラッコのゲノム研究の基準点になるのです」とアナベルは言う。この調査は、何十年もの間絶滅危惧種だったラッコを救うものだ。だから、アナベルは言う。「ギジェットはラッコという種全体の保全に貢献しているんです」

1930年代、小さなラッコのコロニーがビッグサー沖で再発見された。© William L. Morgan/California Views Photo Archives
1930年代、小さなラッコのコロニーがビッグサー沖で再発見された。© William L. Morgan/California Views Photo Archives

1世紀前、毛皮交易がカリフォルニアからラッコをほぼ一掃した。わずか数十頭の生き残りがビッグサーの岩の多い隔離された海岸に残っていた。それ依頼、保全活動がラッコの個体数回復に寄与してきた。

 

「今日カリフォルニアに存在しているラッコ、約3,000頭ほどは全て、その小さな群れの子孫なのです」とアナベルは言う。

 

毛皮交易以前10,000頭以上だったラッコの遺伝的多様性で残されているものは、そうした僅かなビッグサーのラッコたちから受け継がれてきたものだ。

 

「集団遺伝学におけるボトルネック効果」の影響と、カリフォルニアラッコが歴史的な個体数や生息域に戻るのために必要なこと(訳者注:【記事】カリフォルニアラッコ、回復への遠い道のり | California’s sea otters need more space to growで翻訳済み)をより良く理解しようとする試みを行うえで、ギジェットの貢献が礎となるのだ。

パズルのピースを合わせる

アナベルとUCLAの遺伝子配列チームPhoto courtesy Annabel Beichman
アナベルとUCLAの遺伝子配列チームPhoto courtesy Annabel Beichman

そのプロセスは水族館での定期健診から始まった。当館の獣医スタッフはギジェットの血液標本を採取し、長いDNAが破壊されないようただちに冷凍する。そしてドライアイスとともに翌朝配達でカリフォルニア大学ロサンゼルス校のアナベルの研究所へ送られ、そこでデジタル化されたパズルのピースの山へ遺伝子コードを解析していくのだ。

 

完全なゲノムは印刷すると電話帳の厚さで3階まで達するほどになるため、パターンをえり分け、解きほぐすのは途方もなく困難だ。それには、解読しても何も有益な情報を得られない「ジャンクDNA」が多く混ざっている可能性があるとアナベルは言う。

 

より関連性のあるDNA経路は特定のラッコがブロックー例えば、ヒゲや手の一部、フワフワのお腹を構成しているタンパク質ーを積み上げるための青写真を含んでいる。

 

ラッコにとってイタチ科の仲間フェレットのような、似たDNAを持つ動物のDNA配列をすでに行っているため、こうした部分を見つけ出すことは可能だ。

このフェレットのように、他のイタチ科で以前行われた遺伝子の配列情報がラッコのDNAで似たコードを見つけるのに役立っている。
このフェレットのように、他のイタチ科で以前行われた遺伝子の配列情報がラッコのDNAで似たコードを見つけるのに役立っている。

「重要なタンパク質を暗号化しているものはラッコとフェレットの間で変わらなければならない必要性がありません」とアナベルは説明する。進化論的な視点では、ラッコはアザラシのような他の海洋哺乳類よりも、フェレットやイタチやアナグマとより多くの共通点を持つ。

 

しかし、完全なゲノムがどう一致するかを解読するには、相当の計算力を必要とする。「コンピュータが50台一緒になって、何週間も続けてこの解読に全精力を傾けているところを想像してみてください」

ラッコのゲノムの配列を特定するDNAコードの一部
ラッコのゲノムの配列を特定するDNAコードの一部

一旦その「新しいDNA」の組み立てが完成し、DNAコードのどの部分がタンパク質のものなのかマッピングができれば、他のラッコの標本との比較も容易になる。

 

「DNAを一から配列する代わりに、関心のある部分、恐らくゲノム全体の3~5%になりますが、を取り出すことができるのです」とアナベルは言う。

個体数と生息域の拡大

中央沿岸部のカリフォルニアラッコの現在の生息域は歴史的に生息していた場所の一部に過ぎない※クリックで拡大
中央沿岸部のカリフォルニアラッコの現在の生息域は歴史的に生息していた場所の一部に過ぎない※クリックで拡大

モントレーベイ水族館のラッコプログラムを20年以上管理しているアンディ・ジョンソンは、ここ数年野生のカリフォルニアラッコの回復は壁にぶち当たっているようだと話す。

 

個体数を増加させるには北や南の、歴史的な生息域で現在はラッコがいない部分への拡大が必要だ。ラッコは現在コンセプション岬からハーフムーン湾までの間だけで見ることができる。

 

「ラッコが生息域を拡大することができないとしたら、それはどのようなことを意味するのでしょうか。私たちにできることはあるのでしょうか?」アンディは問う。「アナベルの研究の一部はこれをより理解する一助となるでしょう」昔のDNA標本を調べたり、個体群がボトルネックを迎える以前、まだ豊富にいた時代のラッコからは失われてしまった特徴を調べたりということが関わってくる場合には特にだ。

Monterey Bay Aquarium Future of the Ocean Blood, bone and brainpower: A deep dive into sea otter DNA October 23, 2017  血液、骨、知能:ラッコのDNAを探る    アメリカ先住民の貝塚から発見されたラッコの顎の骨の歯から抽出されたDNAは、毛皮猟で一掃されてしまう前のラッコの遺伝学的多様性に光をともすPhoto courtesy Annabel Beichman
Monterey Bay Aquarium Future of the Ocean Blood, bone and brainpower: A deep dive into sea otter DNA October 23, 2017 血液、骨、知能:ラッコのDNAを探る アメリカ先住民の貝塚から発見されたラッコの顎の骨の歯から抽出されたDNAは、毛皮猟で一掃されてしまう前のラッコの遺伝学的多様性に光をともすPhoto courtesy Annabel Beichman

アナベルは現在のラッコのDNAと、2000年以上前アメリカ先住民が肉や毛皮のために獲って残したラッコの骨のDNAを比較し、現在のラッコの個体群からは失われてしまった特質を調べることができる。そうした先住民が残したラッコの骨の山は貝塚と呼ばれ、掘って時代を特定することができる。そうしたものの中には、多くは歯の中に、DNAの宝の山が隠されている。

生態系のエンジニア

ウニや他の海藻を食べる生物をエサとすることで、ラッコはケルプの森の繁栄に寄与している。Photo by Neil Fisher
ウニや他の海藻を食べる生物をエサとすることで、ラッコはケルプの森の繁栄に寄与している。Photo by Neil Fisher

ラッコは沿岸生態系の多様性に滝のように上から恩恵をもたらしている。アンディは、水族館の象徴的なケルプ水槽を「ウニ砂漠」と呼ぶものと照らし合わせる。ラッコはウニを喜んで食べるが、ラッコがいなければウニの個体数がコントロールされなくなり、ケルプの森をハカイし、他の多くの種にとって重要な生息地が失われてしまう。

 

「生態系のエンジニア」というこうした規格外の役割が、アナベルをラッコの遺伝子の歴史に向かわせ、ラッコの特質を非常に重要なものにしているとアンディは言う。

 

「ギジェットのようなラッコは可愛らしくフワフワですが、気がきいており、人々が思うよりもずっと複雑なのです」とアンディは言う。「水族館にいる間、ラッコたちから学べるということは、決して見落としたくない機会なのです。アナベルのようなプロジェクトにより、野生のラッコをケアしていく方法を理解することができるのです」

 

アナベルのほうは、ギジェットを一般市民に対する大使として迎えていることに魅力を感じている。

 

「コンピューターの画面で白黒で表示されているギジェットの遺伝子コードの研究に没頭してきたので、展示水槽でギジェットを実際に見ると、とても印象的ですね」

Monterey Bay Aquarium Future of the Ocean

Blood, bone and brainpower: A deep dive into sea otter DNA

October 23, 2017