本日は2016年4月27日付のConservation & Science at the Monterey Bay Aquariumから、"Sea otters are handy with tools "をお届けします。
ラッコは母親から多くのことを学び、それが次の世代に受け継がれていきます。
人間が他の動物と違うのはどんなところでしょう?科学者らは、人間が道具を作りそれを使う能力があるということが、明確な特徴だと考えてきました。その考えは1960年代、ジェーン・グッドールがチンパンジーが棒を使ってアリ塚からシロアリを釣ることを観察して変わりました。現在、カラスやイルカ、ラッコなどが道具を使う数少ない動物のリストに名を連ねています。
ラッコは浅い沿岸に潜り、ウニやムラサキガイ、アワビ、二枚貝、巻貝などの固い殻を持つエサをとります。巻貝を守る炭酸カルシウムのような殻は他の殻に比べて硬くて割りづらいため、ラッコは石を鉄床(かなとこ)のようにして殻を割るのです。
モントレーベイ水族館のラッコ保護プログラムの上席生物学者ジェシカ・フジイは、もっと学びたいと思いました。ラッコはどのくらいの頻度で石やその他の道具を使うのだろうか?あるラッコの集団は別の集団より道具をよく使ったりするのだろうか?ラッコが環境へ作用することに関し、私たちはラッコのこのような行動から何を知ることができるのだろうか?
地域の食生活にに特化した道具
こうした疑問を探検するため、ジェシカはアメリカ地質調査所やスミソニアン保全生物研究所の協力者とともに研究を行いました。モントレーベイ水族館のラッコ保護プログラムやアメリカ地質調査所、カリフォルニア州魚類野生生物局、カリフォルニア大学サンタクルーズ校から大勢のボランティアがデータの収集に協力してくれました。
彼らはカリフォルニア州、アラスカ南東部の本土、そしてアリューシャン列島においてラッコの採餌・食餌行動を観察しました。各地でラッコが何を食べているか、道具を使っているかどうか、道具を使っている場合、どんな道具を使っているかを記録しました。その調査結果の論文が2014年12月Behavioral Ecology誌という学術誌で発表されました。
研究者らはラッコが道具を使う際、通常石を使うことを発見しました。他にも、人間が出したゴミを含む、様々なものを利用していました。「ガラス瓶はあまりいいチョイスとは言えません」とジェシカは言います。「ガラス瓶を使おうとするラッコを見ましたが、瓶は粉々に割れてしまいました」
ジェシカとその共同研究者らは、カリフォルニアとアラスカ南東部のラッコはアリューシャン列島のラッコに比べてよく道具を使うことを発見しました。これらのラッコは巻貝や殻の厚い貝類をより多く消費するのに対し、アリューシャン列島のラッコは主にウニを食べていました。ウニは裏側に穴が開いているため、道具を使わずに食べることが容易なのです。ラッコは歯で殻をこじ開けることができるのです。ところが、巻貝には中身を取り出しやすい穴がないため、ラッコは石やその他の道具を胸の上に置き、殻をぶつけて開けるのです。
好き嫌いを決める
当水族館の科学者マリアンヌ・リードマン博士率いる長期研究によると、ラッコのエサの嗜好は母親から子どもへ受け継がれます。イタリアで育った子どもがニューギニアで育った子どもとは食べ物の嗜好が異なるように、ラッコもその育ち方によりエサの嗜好が決まります。そうして特定のエサに特化することで、同じ生息域に暮らす他のラッコと直接エサのために競争することを避けているのです。例えば、ウニが好きなラッコもいれば、ムラサキガイやアワビを主に好むラッコもいるということです。
ジェシカは、巻貝を多く食べる「巻貝専門ラッコ」が他のラッコと比べて道具をより頻繁に使うのだろうかと疑問に思いました。
個々のラッコを追跡し観察するという当館の長期コミットメントにより、その疑問に答えることができました。ジェシカは巻貝専門ラッコが実際道具を使う傾向にあるということを発見したのです。しかし、もう一つ驚くべきことも発見しました。巻貝専門ラッコは、他のエサを食べる時も道具を使う傾向にあるのです。
「巻貝専門ラッコがウニを見つけても、実際道具は必要ありません」とジェシカは言います。「ところが、巻貝専門ラッコは何故かより道具を使う傾向にあります」
カリフォルニア大学サンタクルーズ校西部生態系研究センターの研究生物学者ティム・ティンカーは、巻貝専門ラッコはその技術については熟練していると言います。というより熟練していなければなりません。巻貝専門家は生きるために1日に1000個以上も巻貝を食べなければならないからです。そこで、道具の登場となるのです。
「その様は驚くほどはやく、効果的です。前足がぼやけて見えるほどです」とティムは言います。「私たちには開けられないように見える殻も、数秒のうちに取り、その鎧のような殻を外す方法を考え、砕いて中身を取り出します」
ラッコの子どもは見よう見まね
将来的にジェシカは共同研究者らと子どものラッコがどのように道具の使い方を習得するのか調査したいと考えています。水族館にいる保護された赤ちゃんラッコは、何も持たない手を胸にぶつける様子が観察されています。それは本能的なもので後に道具を使う準備をしているのかもしれません。こうした本能と個々のラッコの試行錯誤を合わせ、また他のラッコからも学んで上手な道具の使い手になるのです。
ジェシカは、母親ラッコはエサを開ける際特定の道具を使うことを促している可能性があると考えています。子どもは母親と約6か月過ごしますが、以前の研究結果によると子どもは母親と一緒に見たり潜ったりしながらエサの取り方を学ぶことが分かっています。ジェシカは小さい野生のラッコが道具を使っているのを見たことがあります。
「巻貝を食べる時に道具を多用している母親ラッコを見たことがあります」とジェシカは言います。「当時のそのラッコの子どもは、母親に近づいてその石をよく取っていました。まるで母親が『いいわよ、あなたがそれを使うなら私はこれを使うわ』と言っているようでした」
モントレーベイ水族館の、絶滅危惧種であるカリフォルニアラッコの回復への取り組みについて学んでください。
— Diana LaScala-Gruenewald
写真:カリフォルニア州モスランディング沖で、ムラサキガイを食べる際に石を使っているラッコ。Photo by Jessica Fujii
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