本日は2015年12月18日付のConservation & Science at Monterey Bay Aquariumから、"Sea otters and abalone: A special synergy "をお届けします。ラッコの回帰によりアワビが減ると思われていましたが、実はラッコが増えることでアワビも増えていることがわかりました。一見相反する関係も、自然界の生態系の中では共に作用しあっているのです。
数十年にわたる保護活動により、カリフォルニアラッコは絶滅の淵から復活してきた。今年、カリフォルニアラッコの個体数は19世紀に毛皮貿易により消えかかって以来初めて3,000頭を上回った。しかし、ラッコがカリフォルニア沿岸の新しい地域に移動してくるに伴い、ラッコは新しいエサと出会うことになった。絶滅危惧種である黒アワビだ。
漁業業界は、ラッコが黒アワビの復活や、カリフォルニアにおける商業アワビ漁の再開の妨げになるのではないかと憂慮している。しかし先月、科学学術誌である Ecology誌に発表されたある論文はラッコの復活は黒アワビの復活を妨げないと発表した。実際、それら2つの種はお互いに利益を与えあっているのだ。
複雑な関係
カリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授ピーター・レイモンディとカリフォルニア大学デイビス校とアメリカ地質調査所の研究者らによって書かれたその論文は、カリフォルニア中央部沿岸のラッコがいる場所、いない場所を含め12か所のアワビの個体数を調べたものである。
ラッコがアワビの個体数に害を及ぼしているとすれば、ラッコが多い場所ではアワビの数は少ないはずである、と研究者らは論じている。実際、データは正反対のパターンを示した。ラッコがより多い場所では、アワビもまたより多いのだ。
その結果は直感的ではないが、海洋生態系の複雑さを反映しているといえる。レイモンディとその同僚らはラッコとアワビが何故お互いに利益となるのかについてははっきり分かっていないが、いくつか考えはある。
まず、ラッコもアワビも同じ住環境、つまり岩の多い場所の豊かなケルプの森で暮らしているということが挙げられる。二つ目に、アワビはラッコのエサとなるが、ラッコはアワビにエサを提供しているとも考えられる。ウニはラッコの主要なエサであるが、ウニによりケルプの森は一掃され、他の生物に与えるエサがなくなってしまう可能性がある。
ウニの個体数をコントロールすることで、ラッコはケルプの森の健全性を向上させ、間接的にアワビにエサを多く与えていることになるのである。
全体論的なアプローチ
アメリカ魚類野生生物局のカリフォルニアラッコ回復コーディネーターのリリアン・カーズウエルはこの発見に驚いてはいない。「わたしたち人間は、これまで私たちが実際にはその価値を見出してこなかった様々な影響をラッコが与えているということに気づきつつあるのです」
科学者らは長い間、アワビとラッコの個体数はお互いにプラスの効果を与えているのではないかと予想してきた。2012年、サンタクルーズの海洋野生生物獣医ケア研究センターの前ディレクターであったデイヴィッド・ジェスップはラッコとアワビは捕食者と被食者として何十万年もともに進化してきたと指摘している。
「ラッコがアワビを希少にしたり絶滅に追い込んだりしたら、それはラッコそのものの生存にとって非常に不利益になってしまうだろう」とジェスップは2012年のseaotters.comへの投稿で述べている。「進化的には明らかに大失敗になっただろう」
アワビが激減し、1997年に絶滅に瀕する種の保存に関する法律のもと黒アワビと白アワビが絶滅危惧種に制定されたのは、ラッコとは無関係だとジェスップは付け加える。当時、野生のラッコはまだ非常に少なく、アワビの個体数に影響を与えるほどではなかった。そのかわり、乱獲とキセノハリオチス症と呼ばれる致命的な病気の組み合わせがアワビの個体数の激減をもたらしたのである。
カーズウェルは、長い間アワビの個体数レベルについては誤解があったと付け加えた。20世紀初め、カリフォルニアへ移住してきた人々は海岸に多くのアワビが漂着しているのを見ていた。これは、アワビが非常に繁殖していた状態が一般的な水準であったことを示すものであり、それを利用しようとアワビ漁業が湧き起こった。しかし、現在、科学者らは、アワビや他の甲殻類が異常に多かったのはラッコがいなかったためと知っている。
「(アワビの)基準自体が非常に歪められてしまったものなのです。なぜなら、ラッコがいなかったからです」とカーズウェルは言う。
モントレーベイ水族館のラッコ保護プログラムのアンドリュー・ジョンソンは言う。人々はラッコがいない間、数十年に渡りアワビ漁を享受してきた。「規制がなかったため、人々はアワビを過剰開発し、そこから利益を得たのです。しかし、今は、より良いバランス状態になってきたのです」
完璧な組み合わせ
長期的にはアワビもラッコもカリフォルニア沿岸でともに繁栄できるだろうとレイモンドの論文は示唆している。
動物どうしの関係というのは複雑であり、科学者や管理者が複数の生物を考慮してこそ、生態系マネジメントは機能する。ラッコがアワビの数を減らしてしまったという古い考えとは対照的に、レイモンドの研究は二つの種の重要な協働を示している。
ラッコがかつての生息域に再度繁殖するようになるにつれ、ラッコは生態系の健全性を改善している。ジョンソンは、その論文が生産的な保全活動を促進し、アワビとラッコが共に回復できる一助になることを望んでいる。
Conservation & Science at Monterey Bay Aquarium
Sea otters and abalone: A special synergy
Diana LaScala-Gruenewald December 18, 2015
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