【記事】紅い藻類をまとうラッコ | Some otters wear red algae

本日は2015年12月17日付のティーン向け科学ウェブサイト、STUDENT SCIENCEより、"Some otters wear red algae "をお届けします。

ラッコに赤い藻類が付着しているのが発見されました。有害ではないようですが、さらなる研究が望まれます。

赤い生物は侵入外来種か

このメスのラッコはカリフォルニア州モロ湾に住んでいる。背中に紅藻類が生えている。この藻類は侵入生物種と思われるが、このメスのラッコや他のラッコに害を及ぼしてはいないようだ。Photo by BRIAN HATFIELD
このメスのラッコはカリフォルニア州モロ湾に住んでいる。背中に紅藻類が生えている。この藻類は侵入生物種と思われるが、このメスのラッコや他のラッコに害を及ぼしてはいないようだ。Photo by BRIAN HATFIELD

2010年の秋、ジェナ・ベントールはカリフォルニアの海岸沿いにある崖の端から望遠鏡で海を見ていた。モントレーベイ水族館からそれほど離れていないその場所で、ベントールはラッコの調査保護活動を行っていた。モントレーベイ水族館は絶滅に瀕するラッコの保護を一つの目的としている。今年の秋のある日、ベントールとその同僚らは普通でないものを観察することになった。レプというニックネームの大きなオスのラッコが背中にまばらな赤いコートのようなものを纏っているように見えた。その赤い物体は微細藻類の一種だった。

 

 

ラッコは「よい状態に保っておくために、常に体毛をこすったり舐めたり手入れをしています」とベントールは言う。ラッコは機敏に泳ぎ、毛づくろいをするためそうした藻類がラッコの体毛に付着するのは難しいだろうとベントールは考えていた。この紅藻類は通常岩や巻貝のような動きの鈍い動物に生えるものだからだ。

 

"レプ"というニックネームは足ひれにあるタグの赤(red)と紫の(purple)色に由来している。2012年に撮影されたこの写真には首の後ろの毛の白い部分にある藻類が際立って見える。Photo by KIM WORRELL
"レプ"というニックネームは足ひれにあるタグの赤(red)と紫の(purple)色に由来している。2012年に撮影されたこの写真には首の後ろの毛の白い部分にある藻類が際立って見える。Photo by KIM WORRELL

しかしレプはベントールの考えが間違っていたということを証明した。藻類はラッコの体毛にも繁殖できたのだ。

 

これを目撃したのはベントールが初めてではなかった。早くは1980年代に、研究者らが毛が赤くなっているラッコを目撃していたのだ。そして年々そうしたラッコの数は増えているようだ。ベントールとその同僚らは赤い体毛のラッコに関する報告を手にいれた。その赤い色は血や原油と見間違えられる。「藻類だとはわからないんです」とベントールは言う。


最近、ベントールはより間近に見てみることにした。普段は一緒に働くことのない人々を募った。彼女同様野生のラッコを研究する生物学者、ラッコを死に追いやる病気について研究している病理学者、藻類を研究している科学者などである。そのチームが赤藻類の正体やどのようにラッコの毛に生えるのかをを明らかにした。その藻類がラッコには害がないというのは嬉しい知らせだ。

 

ベントールのチームはその新発見を11月27日付のMarine Mammal Science誌(海洋哺乳類についての学術誌)で発表した。

味方か敵か

ベントールのチームは、2000年から2014年にかけての、生きているものおよび死んだもの両方のラッコの状態について書かれた報告書を1,000以上再読した。藻類に言及されていたのは1%に満たなかった。

 

しかし、こうした報告書を描いた人々は藻類を探していたわけではないでしょうから、とベントールは言う。ラッコの体毛が濃い色の場合は、紅藻類は良く見えない。しかしベントールとその同僚らは、紫外線下(ブラックライトとも呼ばれる)ではその紅藻類がオレンジ色に光ることに気が付いたのだ。

 

その生物はアクロカエティウム・セクンダツム(Acrochaetium secundatum)と呼ばれる。通常は北大西洋に生息している。太平洋ではない。もっとも可能性があるのは、この藻類は太平洋と大西洋を行き来する船に付着して運ばれてきたのではないかとベントールは考えている。最終的に太平洋で落ち着いたのだ。「これは大西洋の生き物による侵入ではないかと強く疑っています」と言う。

 

紅藻類が付着したラッコは、全く付着していないラッコと全く同じように問題なく見える。これにはベントールも驚いた。ラッコは保温性のあるウェットスーツのような役割を果たす厚い体毛に依存している。それによりラッコは冷たい海水の中でも体温を維持できるのだ。その体毛を邪魔するものは、冷たい水を皮膚まで到達させる可能性がある。そうするとラッコは体温を失い、死んでしまうのだ。

この拡大写真は、2種類の異なるラッコの毛の様子を示している。先に藻類が付着した長いガードヘアと、アンダーファー(下毛)の細い毛だ。紅藻類はガードヘアの根元やアンダーファーには生えていない。Photo by MELISSA MILLER
この拡大写真は、2種類の異なるラッコの毛の様子を示している。先に藻類が付着した長いガードヘアと、アンダーファー(下毛)の細い毛だ。紅藻類はガードヘアの根元やアンダーファーには生えていない。Photo by MELISSA MILLER

しかし新しい研究により、紅藻類はラッコの長い毛の先にしか生えないことが分かった。そのほうが海水に含まれる栄養分を簡単に摂取できるからだ。その藻類はラッコのアンダーファー(下毛)の深いところには生えない。だから、レプやその藻類が付着している他のラッコは体温を保持できるのだ。

 

ラッコに藻類が生えるというのは普通ではないとデイブ・ジェスップは言う。ジェスップは以前カリフォルニア州サンタクルーズにある海洋生物獣医ケア研究センターのセンター長だった。カリフォルニア魚類野生生物局(CDFU)により運営されており、ラッコの研究をサポートしている。ジェスップはベントールの研究には参加していない。しかし、ジェスップもその紅藻類は侵入外来種であり、ラッコに付着しだしたのは最近のことではないかと考えている。

 

ジェスップはその藻類は宿主に害を及ぼす理由がないと言う。「その藻類は単に、生きる場所を探しているだけでしょう」そしてラッコの毛が非常にいい場所だった。ラッコがグルーミングを行ってもその藻類が毛に付着していられる限りは、外敵から守ってもらえるのだ。巻貝が藻類を好んで食べるが、巻貝はラッコからは離れている傾向にある。藻類にとって一番いいのは、ラッコの尿や糞に含まれる窒素へアクセスするのが可能なことだ。窒素は藻類の繁殖をあおるものだ。そうした理由から、その藻類はラッコの尾にかけての体毛に付着していることが多い。そこにいれば、栄養分の多い排泄物に近いからだ。

威力を増す藻類

通常光ではラッコの尾は他の体毛とそれほど大きく異なって見えない。しかし紫外線を当てると驚くことに明るいオレンジ色が見える。紫外線により、藻類が光って見える。Photo by GENA BENTALL
通常光ではラッコの尾は他の体毛とそれほど大きく異なって見えない。しかし紫外線を当てると驚くことに明るいオレンジ色が見える。紫外線により、藻類が光って見える。Photo by GENA BENTALL

海水もまた、藻類に窒素や他の栄養分を与えてくれる。しかし、そうした窒素の中には海にあるべきではないものもある。農場からの汚染物質である。栽培農家は定期的に作物に窒素を含む肥料を散布したり撒いたりしている。雨や灌漑用水によりこうした肥料の一部が川へ流れ込み、最終的には海へ流れ込む。そこでその栄養分が、藻類のような他の生物を成長させるのだ。実際、窒素汚染により、多くの藻類の大規模でコントロール不可能な大発生を引き起こしている。

 

 

2010年、サンタクルーズのカリフォルニア魚類野生生物局のメリッサ・ミラーは藍藻類の大発生の研究を行うチームを率いていた。この藍藻類は有害な毒素を産出する。貝やムラサキガイ、カキなどの藍藻類を食べる生物をラッコが食べると、ラッコは病気になったり死んだりする可能性がある。汚染された貝類や甲殻類を食べると他の野生生物や人間も病気になる。

 

実際、有害な藻類の大発生は大問題だとミラーは言う。「今年の夏、そして現在も太平洋沿岸ではこれまで見たことがない規模の毒性海洋藻類の大発生が起きています」

 

ミラーは紅藻類を研究するため、ベントールと協働してきている。有毒ではないとはいえ、そうしたものがあるということに研究者らは憂慮している。その藻類が体毛に引きずられるようになると、ラッコは貴重なエネルギーを更に泳いだりグルーミングしたりすることに費やさねばならなくなるかもしれない、とベントールは心配している。多くのラッコが生き延びるめの他の重大な危険の数々にも直面している。サメによる噛みつき、有害な寄生虫、汚染、そして藻類による毒素だ。ベントールはSea Otter Savvyというカリフォルニアを拠点にしたプログラムを運営している。そのプログラムは、カヤック乗りやボート主に対し、動物の邪魔にならないよう働きかけている。

 

ラッコが直面するあらゆる危険について学ぼうとする科学者が増えれば、ラッコをよりよく保護し、ケアすることができるだろう。

STUDENT SCIENCE

Some otters wear red algae

BY KATHRYN HULICK 7:00AM, DECEMBER 17, 2015

らっこちゃんねるより

実はこの記事をご紹介した翌日、モスランディングで毛の一部が赤っぽくなっているラッコをみかけました。
紅藻類でしょうか?たしかに毛の先端付近だけ赤くなって見えます。