【記事】ラッコと漁業の軋轢 | Dive fishermen and sea otters face complex competition

 本日は、2015年12月2日付のKTOO Public Mediaから、"Dive fishermen and sea otters face complex competition"をお届けします。毛皮貿易時代に一掃された後そこには人間の漁業を中心とする営みが確立しました。ラッコがかつての生息域に戻ってきた時、そこで暮らす人間との軋轢が生じはじめます。ラッコと人間、共存への道はあるのでしょうか。

自然科学者ゲオルク・ウィルヘルム・シュテラーによるイラスト (Wikipedia commons photo)
自然科学者ゲオルク・ウィルヘルム・シュテラーによるイラスト (Wikipedia commons photo)

多くのアメリカ人が可愛いとか仰向けになって浮かぶ動物と考えるものは、アラスカ州南部のある漁師たちにとっては害獣であり泥棒でもある。


人類とラッコはともに同じ底生の海産物を食べる。ダンジネスクラブ、貝、ナマコ、ウニなどである。


しかし、南アラスカ地域潜水漁協会(SARDFA)のディレクター、フィル・ドハーティによると、こうした生物が完全に消えてしまった場所もあるという。


これが、漁師とラッコの間の軋轢を大きくしてしまった。


ハリエット・ワドリーは商業ナマコ漁に27年間携わっている。彼女は1996年に閉鎖されてしまうまではアワビを採るために潜っていた。


「ラッコがアワビを食べ尽くしてしまうまでは、ここにはアワビ漁産業がありました。その後わたしはアワビ漁業がだめになっていく頃、ナマコ漁を始めました」


2014年に魚類野生生物局が公表した論文にはラッコが年12%から14%の割合で増加しているとある。これは2014年から2015年にかけて3,000頭が増えたということに等しい。ラッコが増えたということは、ラッコの生息域が拡大しているという意味でもある。


ロシアの毛皮貿易により絶滅の淵に追い込まれてから1960年代に再導入されるまでの1世紀以上の間、アラスカ南東部にラッコは生息していなかった。


しかし、今やラッコは人類を縁に追い込んでいる。


2011年、南アラスカ地域潜水漁協会はラッコの捕食による商業漁業への直接被害額を’2240万ドル(約27億円)と記録している。


「私たちが収穫しているのは、毎年その種の生息数2%から4%という、非常に低い割合です。しかし、ラッコがやってきた場所では、ラッコは全てを食べ尽くしてしまいます」とドハーティは言う。


多くのナマコ漁やウニ漁を行っている地域は、ラッコがまるはだかにしてしまったため、商業漁業を閉鎖しなければならなかった、と彼は言う。


女性の漁師として、始めるのはたやすくなかったとワドリーは言う。彼女には経験もなく、若かったが、熱意があった。評判のいいダイバーが、最終的に彼女をアワビ漁に連れていくことを認めてくれたのだ。

 

「最終的には、私は他の残りのダイバーを合わせたよりも多くの手数料を得ることができました」と彼女は言う。


ワドリーは現在、45フィートの船「バルカン号」を所有している。ナマコ漁の割り当てを持ち、自分で潜って漁を行う。ワドリーともう一人別の人物が、猟の解禁する日の7時間のために船で出かける。


彼女は4つの袋を持ち、背中には酸素のタンクを背負って海底に潜る。もう一人のパートナーが、船で待つ。そして、ナマコでいっぱいになった思い袋を引き上げるのだ。


「水の中に潜ると、それはそれは美しいのです」とワドリーは言う。


しかし、ここ数回彼女が出かけても、ナマコは非常に「やせ細って」いる。


「ラッコがいるエリアに入ると、そこはまるで第二次世界大戦で爆撃を受けたところのようです」と彼女は言う。「埃だらけなのです。ラッコのせいで、海底はひどいことになっています」


ワドリーによると、ラッコの一番の好物はアワビだそうだ。だから、アワビ漁が一番最初に閉鎖になってしまった。次はウニ、そしてナマコ。その次はミル貝だろうと彼女は言う。

「ラッコは私たちの資源を食いつぶしてしまう」

仰向けになって浮かぶラッコ(Photo by Theresa Soley/KTOO)
仰向けになって浮かぶラッコ(Photo by Theresa Soley/KTOO)

南アラスカ地域潜水漁協会(SARDFA)はアラスカ先住民にラッコ猟を奨励することで、ラッコの数を減らす法を支持している。


しかし2014年、別の漁業団体である南東部ニシン保全同盟(SHCA)は、パブリックコメントにラッコが繁殖すればニシン漁業界には益があると発表した。

 


南東部ニシン保全同盟(SHCA)は、先住民によるラッコ猟が増大するとトリクルダウン効果によりニシンの卵が産み付けられる場所が減り、ニシンの数が減ると記載している。


連邦法により、アメリカの海域で海洋哺乳類猟は禁じられている。しかしアラスカ先住民が生計のために猟をすることは、法の例外項目となっている。


アメリカ魚類野生生物局の記録によると、今年アラスカ州全域でで1,137頭のラッコ猟が行われた。

 

シトカでは177頭が狩られたが、これは2013年の550頭、2014年の349頭から減少している。かつてシトカは州内のどの町よりも多くのラッコ猟が行われていたと記録されている。25年以上、フーナーはシトカでのラッコ猟の3分の1以下、ケチカンは6分の1だった。


しかし今年、フーナーでのラッコ猟は2014年の49頭から、今年いままで180頭と、3倍以上と報告されている。

 

ネイサン・ソボレフはジュノーにある魚類野生生物局で契約でラッコに標識を付けている人物だ。彼はまたトリンキット族・ハイダ族のカラスーサケクラン(訳者注:クランとはある動物を祖先と考える家系)の海獣ハンターでもある。

 

ソボレフによると、先住民はラッコ狩り後30日以内に毛皮と頭蓋骨を当局へ提出し、標識をつけてもらわねばならない。法にのっとってラッコに関する書類を書くため、毛皮の鼻の部分に標識を取り付ける。また研究のため、頭蓋骨から小臼歯を取り外す。


「木の年輪のようなものです。歯をけずって、年輪を見るのですとソボレフは言う。


2011年と2013年、連邦と州の議員らにより、先住民に対しラッコ猟を奨励する法案が提出された。この法案は斜陽産業となってしまったダンジネスクラブ漁業や潜水漁業を援助するものだった。


2013年、州の上院議員バート・ステッドマン(R-Sitka)が、アラスカ先住民に対し、狩をしたラッコ1頭につき100ドルを報奨金として与える法案を提出した。


しかし、この法案は、通過しなかった。


海洋哺乳類先住民会議(IPCoMM)の議長、マイク・ミラーは、先住民の多くがこうした報奨金制度には反対していると言う。

 

ミラーはシトカ在住で、彼によると、彼の部族の人々は先住民に対する経済的機会を促進する法には賛成だが、「我々は、そうした目標を、捕食者をコントロールすることへ軽率に変えてしまうことは望んでいない。それは単にラッコを排除するだけのことではない」と言う。

 

しかし、南アラスカ地域潜水漁協会(SARDFA)のフィル・ドハーティは、先住民の生計と商業漁業の利益は一致すると言う。「ウィンーウィンなのです」


ドハーティによると、その草案は「先住民に対し、費用の一部を支払おうをするもの」だ。


しかし、ミラーは、法の制定により市場にラッコの毛皮があふれると、それにより価値が下がって結果的には先住民のコミュニティには害を及ぼすのではないかと言う。


2月の州の立法会議の間、議事録でステッドマン議員は「ラッコは急増しており、人間よりも侵略的である」と述べた。


ステッドマン議員はコメントの求めに対し回答しなかった。


ドハーティによると南東部の潜水漁業の運命は首都ワシントンの政治家が握っており、国の海洋哺乳類保護法に縛られていると言う。


ハリエット・ワドリーはなぜ国が先住民以外によるラッコ猟を禁止しているのか理解できないと言う。


「わたしたちはシカ、クマ、オオカミといった他の生き物はコントロールしています。全ての生物をコントロールし、バランスを保たなければなりません」とハリエットは言う。「ラッコがかわいいからといって、バランスを保てず、ラッコ猟を解禁しないのでしょう」


ワドリーは、ラッコに対する対策がとられなければ、ナマコ漁はあと6年ほどしかもたないと推測している。


次にどうなるかわからない、とワドリーは言う。「冬の王」になるか、もしくは休暇になるだろう。

KTOO Public Media

Dive fishermen and sea otters face complex competition

By Theresa SoleyDecember 2, 2015