本日は2015年11月24日付のHakai Magazineより、"What’s Killing Alaska’s Sea Otters?"をお届けします。アラスカ州カチェマック湾のラッコの大量死を引き起こした原因は、ウイルスではないかとの説もでてきています。
謎の病気がアラスカ州カチェマック湾付近のラッコを死に追いやる
今年、今までのところ少なくとも250頭の病気のラッコもしくは死んだラッコがアラスカ州南部の海岸に漂着しているが、その理由は分かっていない。
この数は、平均以上だった昨年の報告数の倍以上になります、とアメリカ魚類野生生物局の生物学者ジョエル・ガーリッチ=ミラーは言う。しかしその数は実際よりも少ないと思われる。潮の満ち引きや流れ、腐食動物などが死体を海岸に届かないところへ持って行ったり、海岸に漂着してもどこかへ持っていってしまうからだ。
この死の背景にある原因、あるいは複数の原因は不可解だ。ラッコの症状は多くの病気の可能性を示しており、ラッコの専門家や獣医らは一つの原因に特定することができない。
海岸に打ち上げられたラッコの中には明らかにやせ衰えたものもおり、長い間病気を患ったことを示している。しかし、健康的な体重のまま突然死んだと思われるラッコもおり、そうしたものは「より興味深い」と獣医のキャリー・ガツは言う。
打ちあがった際にまだ生きていたラッコについては、震えがあり、後ろ足に麻痺が見られた。そうしたラッコは「非常に不安定」だとアラスカ海洋国立野生保護区の副部長、マーク・ウェバーは言う。ウェバーは遭難した海洋哺乳類を保護するボランティアでもある。
「前足で立つと少しふらついて、後ろへ倒れるか、ひっくり返りそうになってしまいます。神経性の問題があるような感じです」とウェバーは言う。
キャシー・ブレクは特定の団体に所属していない獣医病理学者だ。ここ4か月間、打ちあがったラッコの死体に鍵を見出そうとしている。
ブレクと他の研究者らは、ラッコの死の原因で最も可能性が高いのはストレプトコッカス・インファンタリウス(連鎖球菌の一種)の亜種コーライだと考えている。人間に肺炎や連鎖球菌性咽頭炎や他の病気を引き起こす様々な連鎖球菌の仲間にあたる。ラッコではストレプトコッカス・インファンタリウスの亜種コーライは脳炎を引き起こし、ラッコをただちに死に至らしめたり、心筋に感染すると心臓発作や後ろ足の血栓の引き金になる。2006年、そのバクテリアは大量死の原因となっていた。
しかし、検査のために送ったスワッブ(綿棒で集めた細菌検査用の綿棒)は陽性との結果が帰ってきたが、ブレクはそれが全体を物語るものではないと考えている。このバクテリアは当地のラッコに特有なため、こうした感染をより致死的にしているものが他にある可能性がある。
「ある病気のプロセスが異常な率で発生している時はいつでも、それが病気のプロセスであると知られているとしても、何が違うのか、どうしてこれほどまでに増加しているのかを理解したいのです」とブレクは言う。「だから、異なるものをたくさん研究しているのです」
人間が他の病気で弱っているときに肺炎に感染しやすいように、ラッコも他の病気によって衰弱し、連鎖球菌に犯されやすくなっている可能性がある。
二つ目の死因の別の可能性として麻痺性貝中毒がある。今年の夏、北米西海岸で大規模な藻類大発生があり、食物網を有毒なドウモイ酸で満たしてしまった。神経性の症状については、ドウモイ酸の毒素で説明することができる。しかしドウモイ酸の毒の検査で陽性だったラッコはわずか数頭であり、歴史的に最多だった時ほどではないとブレクは言う。
しかし、ブリティッシュコロンビア州ハカイ研究所のリサーチ・アソシエイト、エリン・レヒシュタイナーは、ドウモイ酸による毒は簡単に除外できるものではないと言う。ラッコは尿中にドウモイ酸を排出することができるため、検知するのが難しい。(ハカイ研究所およびハカイ・マガジンはトゥーラ財団により設立された。ハカイ・マガジンは研究所および財団とは独立して編集されている)
アラスカ州カチェマック湾域はまた、今年ブロッブ(北米西海岸で水温が上昇している現象)が原因で例年よりも水温が高い。ブロッブは腸炎ビブリオという人間に食中毒を引き起こすバクテリアの一種の発生の引き金となる。しかしブレクは腸炎ビブリオはラッコを死に至らしめるというよりは、胃腸炎の原因となる可能性が高いと考えている。
ブレクはこうしたラッコの大量死の本当の原因は、ラッコの免疫機能を低下させ、連鎖球菌に感染しやすくするウイルスなのではないかと考えている。こうした直感はあっても、どのウイルスが関係しているのか判明するには数週間も数か月間もかかるだろう。
ラッコは病気になり、死んでいく。しかしブレクはこうした大量死がカチェマック湾のラッコを死滅させるとは考えていない。
かつて一度は毛皮貿易のために絶滅の淵に追いやられたが、カチェマック湾のラッコは2000年代前半に年に26%の率で急増し、2012年までには5,900頭に達した。こうした増加は移動によるものや、繁殖によるものだった。こうした比較的個体数の多いことが、謎の病気の広がりを後押ししているのではないかとブレクは言う。
「野生生物の病理学は、動物たちに何が起こっているのかを知るだけでなく、環境全体に何が起こっているのか、どんな人間の健康に影響を及ぼすようなことが起こっているのか、何が他の動物たちに影響を与えているのかを知ることでもあるのです」とブレクは言う。
「それが何なのかという答えを知ることができれば、その疑問を通じて更に多くのことを知るきっかけになるのです」
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