【記事】ラッコの観察~エルクホーン湿地帯の頂点捕食者~ |Sea otter insights: monitoring apex predators in Elkhorn Slough

本日は2015年6月3日付のConservation &Science at Monterey Bay Aquariumから、"Sea otter insights: monitoring apex predators in Elkhorn Slough"をお届けします。カリフォルニアラッコ最大の個体密度を誇るエルクホーン湿地帯でラッコの調査を行う研究者のお話です。

ミシェル・ステッドラーはエルクホーン湿地帯の丘の上に立つ。干潮だ。水面下すぐにあるアマモを観察するには十分潮が引いている。ミシェルは指向性無線アンテナ付きの観察用の望遠鏡を覗く。無線機の静かなブーンという音が、ラッコの腹腔内の無線装置を捉えてピッピッピッという音に変わる。ミシェルは時間を記録し、15分ほど観察していたラッコ、501号が貝を持って水面に上がり、子どもの横に並んで浮かび餌を分け合っていることを書き留めた。

ミシェル・ステッドラーはモントレーベイ水族館のラッコプログラムと協働しエルクホーン湿地帯のラッコの行動を観察している。Photo by Cynthia McKelvey
ミシェル・ステッドラーはモントレーベイ水族館のラッコプログラムと協働しエルクホーン湿地帯のラッコの行動を観察している。Photo by Cynthia McKelvey

ミシェルは501号の採餌行動を記録している。501号はモントレーベイ水族館のラッコの代理母プログラムの歴史上、最も有名なラッコだ。赤ちゃんの頃モントレーベイ水族館に保護され、飼育下で育ち、2011年、モントレー湾に注ぐモスランディングの大規模な河口域であるエルクホーン湿地帯に無事放たれた。多くのラッコが繁殖しているこの湿地帯で、501号は自らの子どもを何頭か育て上げている。


ミシェルとアメリカ地質調査所及びエルクホーン・スルー・ナショナル・エストゥアリーンリサーチ保護区の協力者たちは、個体数調査プロジェクトの一環として、2013年9月から湿地帯内のラッコの頭数調査を行っている。30年前モントレーベイ水族館と仕事を始めて以来、ラッコの行動についての調査プロジェクトをいくつも行ってきた。彼女の研究はラッコの母親とその子ども、そしてそのラッコたちがどのような採餌行動をとるかについてだ。湿地帯における採餌行動のデータは、特に生態系研究に役立つことが分かっている。

カニはエルクホーン湿地帯に暮らすラッコの好物だ。カニを食べることで、ラッコは湿地帯の生態系を再建する手助けをしている。(Photo by Ron Eby)
カニはエルクホーン湿地帯に暮らすラッコの好物だ。カニを食べることで、ラッコは湿地帯の生態系を再建する手助けをしている。(Photo by Ron Eby)

ラッコはキーストーン種、つまり、生態系の総体的な健全性の中心となっている動物だ。他の海の頂点捕食者同様、その存在が動物や植物の多様性を維持を助けている。ラッコの個体数が減ると、その生態系の網が崩れてしまう。18世紀と19世紀、毛皮貿易商人たちにより絶滅近くまで追い込まれた時、まさにそうしたことが起こってしまった。


ラッコはケルプの森でウニやその他の草食動物を食べることで、それらの動物がケルプを食べ尽くしてしまわないようにしている。それにより、生産性の高い生態系が繁栄することができる。


ミシェルの採餌データを含む、いくつかのデータを用いてカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究者たちは湿地帯においても同様の重要な役割を果たしているということを発見した。

ウミウシの仲間であるPhyllaplysia tayloriは「アマモの野ウサギ」として知られ、アマモの葉の表面に増える藻類を食べる。(Photo by Brent Hughes)
ウミウシの仲間であるPhyllaplysia tayloriは「アマモの野ウサギ」として知られ、アマモの葉の表面に増える藻類を食べる。(Photo by Brent Hughes)

ラッコの個体数が回復する1980年代半ば以前、エルクホーン湿地帯のアマモは藻類が葉の上に無制限に繁殖し窒息しかかかっていた。その藻類はアマモが光合成に必要とする太陽光をも吸収してしまっていた。健全な生態系では、巻貝やウミウシ類や他の無脊椎動物たちが藻類の膜を食べ、アマモの葉の表面をきれいにするため、アマモは必要な太陽光を得ることができる。しかし湿地帯でほとんど天敵のいないカニがこれらの藻を食べる動物を食べ尽くしていた。ラッコが現れ、カニをむさぼり食べるまでは。


カリフォルニア大学サンタクルーズ校のチームを率いるブレント・ヒューはミシェルのデータがなければ、結論を確実にすることはできなかっただろうと言う。


「この湿地帯において、生態系のシステム、行動、資源開発、生息地の活動という点において頂点捕食者がどのような役割を果たしているかについて、前例のないくらいカバーしています」とブレントは言う。「海洋生態系の世界では前例のないことです。ミシェルとティム・ティンカー(ブレントの協力者)が行ってきた調査のおかげです」


ミシェルと同僚たちがラッコの観察を続けているということも非常に重要だ。


「ここでラッコたちを観察しています」とミシェルは説明する。「何頭いるか、湿地帯のどの部分を利用しているか、微生育地をどのように利用しているかをみています」


例えば、初期には約20頭のラッコたちがエルクホーン湿地帯の入り口にあるモスランディング・ハーバーに暮らしていたとミシェルは言う。時が過ぎ、個体数は100頭を超えるまでに膨れ上がり、ミシェルはラッコたちが湿地帯の奥へ奥へと移動していくのを観察している。ラッコたちは明らかに生態系の回復に対する影響を与えるため、このまま数が増えていった場合、何か起こるか注視していくことが必要だとブレントは話した。


参考文献:

Hughes B.B., Eby R., Van Dyke E., Tinker, M.T., Marks, C.I., Johnson, K.S., Wasson K. (2013). “Recovery of a top predator mediates negative eutrophic effects on seagrass.” Proceedings of the National Academy of Sciences. 110(38).   15313–15318, doi: 10.1073/pnas.1302805110


Sea otter raft photo © Jane Vargas-Smith

Conservation &Science at Monterey Bay Aquarium

Sea otter insights: monitoring apex predators in Elkhorn Slough

June 3, 2015 by Cynthia McKelvey