本日は、2015年3月4日付のChugiak Eagle River Starから、"Students conduct DNA research at Chugiak High
School"をお届けします。アラスカ州のBioTAPP(日本でいうスーパーサイエンススクールのようなプログラム)に参加している高校生が、アラスカラッコの遺伝子について研究を行っています。こうした研究が将来的にラッコの保護に関する政策を決める一つのきっかけになればいいですね。
BioTAPPが未来のバイオテクノロジー研究者を育成
生物の授業でカエルの解剖?そんなことは忘れて結構。チュギアック高校のBioTAPPプログラムに参加する生徒たちは、本物のバイオテクノロジー研究を行っています。
BioTAPPはBiotechnology Training and Preparatory Program(バイオテクノロジートレーニング・準備プログラム)の略称で、アラスカでは類のないものです、と講師のアーロン・カラス氏は言います。
「このプログラムは、アラスカ州の医学の専門家やバイオテクノロジーの技術者の需要の急増に対して非常に重要なことだと思っています」
カラス氏はアンカレッジのポラリス校で2010年にこのプログラムを開始させました。その後、そのプログラムは2013年-14年度の開始時にチュギアック高校へ移りました。
2年に渡るプログラムの1年目は、研究室における技術の手順についてみっちりと学びます。学生たちは、滅菌に用いる高圧滅菌器やDNAの画像を撮影するジェルドキュメンテーションシステムや、DNAの断片を何百万にも複製するのに使用されるサーマルサイクラーといった研究室にあるバイオテクノロジー関連機器の操作方法を学びます。
BioTAPPは専門的な技術を教育するコースであるため、学生たちは研究者として適切な態度や専門家としての振る舞いのようなバイオテクノロジー関連への就業能力に関するソフトスキルについても学びます。
「私たちは、有能な研究技術者になる方法をトレーニングしているのです」
学生たちは2年目になると、自分で決めた研究プロジェクトを行います。
3年生でプログラム2年目のカレブ・ハンティントン君は、専門家が使用している10万ドル(約1200万円)もする機器を使うことができて嬉しい、と語っています。
ハンティントン君は周囲を見回し、現在取り組んでいるラッコの研究に使用している機器を差し、その役割を説明しました。
「これは、非常に高価なものです。でも、僕たちは'カラス先生のオモチャ'で遊ぶ機会を与えられているんです」
ハンティントン君がこの研究をすることになったのもごく自然ないきさつでした。母親のキャシー・ブレク=ハンティントンはコンサルティング企業の獣医病理学者です。父親のヘンリー・ハンティントンはピュー・チャリタブルプロジェクトの北極調査の科学部長です。
両親の交渉とカラス氏からの資金協力により、ハンティントン君はカチェマック湾とコディアック島の周囲25か所で野生生物局により採取されたラッコの組織標本を入手しました。
2つの別々の場所に生息するラッコたちが遺伝的に別のグループに属しているという現在の分類について、ハンティントン君はこの生態標本から得たDNAがその根拠になりうるかをはっきりさせたいと思っています。
アリューシャン列島環帯に生息する南西部のラッコたちは国の「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」でthreatened(絶滅の危機に瀕している)に挙げられています。ところが、カチェマック湾に住む南部中央部のラッコたちはそうではありません。この2つのラッコのグループが別々のものだと考えられている理由は、、コディアックとホーマーの間のアラスカ湾でそれらの2つのグループが交わることがないという推測によります。しかし、漁業関係者や船に乗る人、野生生物ウォッチャーなどいより、その湾内でラッコが目撃されているんです、とハンティントン君は言います。ということは、2つのグループには行き来があることを示唆しています。南西部のラッコたちは、絶滅の危機に瀕している動物に挙げられているため、アリューシャン列島においては漁業関係者に対する管理がより厳しくされています。
ハンティントン君は、自分のプロジェクトは僅かな生体標本に頼るしかないので、2つのグループが同じだということを発見できたとしても、政策を変えるには不十分だろうと語っています。
「標本は、このラッコのグループのゲノムの非常に小さな切れ端なのです」
ハンティントン君は、自分の研究にMUSCLE(Multiple Sequence Comparison by Log-Expectation)と呼ばれる、類似点や相違点を決定するためにDNAに含まれるたんぱく質やヌクレオチドを配列させるプログラムを使っています。
「このプログラムは非常に役立ちます」ハンティントン君は、2つのラッコのグループ間にある僅かな違いが表示された結果図を示しました。「調査した2か所のグループが異なるという決定的な証拠はない、ということが言えます」
次のステップは、アラスカ大学フェアバンクス校が主催するアラスカ州高校生科学シンポジウムのコンクールに調査論文を提出することです。3月中旬には、1次審査を通過したかどうかが分かります。
カラス氏の次のステップは、アラスカ大学フェアバンクス校で、各学校区に同様のプログラムを発展させる連絡係として働くことです。チュギアック高校で彼の代わりに来るのはタリア・ウィアセック氏です。彼女の7年の教職経験は、アメリカ地質調査所の研究技術者として働いたことが役にやっています。
ウィアセック氏は、BioTAPPの生徒たちが大学で研究を続け研究所のアシスタントとして働くことで、チュギアック高校とアラスカ大学フェアバンクス校の架け橋を作ることを楽しみにしていると言いました。
「私は、ここチュギアック高校の生徒たちと一緒に学べるということにわくわくしています。ほとんとの高校生たちが決してできない、実践的な経験ができるからです」とウィアセック氏は言います。「通常の生物学の授業では、このような実験をする時間も機器もありません。しかし、生徒たちは実験室が好きなのです。そこでまさに科学が起きているのを見ることができるからです。本を読むだけよりはるかにインパクトがあります。このクラスでは、それができるのです」
らっこちゃんねるより
翻訳が下手でよくお分かりにならない方もいらっしゃるかと思いますので、ここで補足いたします。
BioTAPPは、特定の学校に開かれるプログラムで、高校2~3年生を対象にしており、将来のバイオテクノロジー関連の技術者・研究者の育成を目的としたもので、実際に研究施設で使用される専門機器を使用した分析や実験を行ったり、また研究者として必要なコミュニケーションスキルや研究調査書の作成方法などを学んだりできるものです。応募するためにはいくつか指定の単位を取っていること、指導教員の推薦や面接などの条件があります。修了生は大学の奨学金の資格を得ることができたり、大学の研究所でアシスタントとして参加できるということもあり、高等教育機関でその分野に進みたいと考えている高校生には、非常にいいプログラムのようです。
今回登場したハンティントン君は、アラスカ湾からアリューシャン列島にかけて生息する2つのラッコの個体群は同じかどうか、ということを調べています。アラスカラッコにはいくつかの個体群があり、記事にもあるようにアリューシャン列島のラッコともう一方のカチェマック湾に住むラッコはその間で行き来がないと思われているため別の個体群とみなされています。アリューシャン列島のほうのラッコはThreatenedとされ漁業関係者にも厳しい条件が課されていますが、カチェマック湾ではそうした厳しい保護条件がありません。実際、その2つの個体群の間で行き来が目撃されているため、2つの個体群は同じでないかという仮説から、遺伝子解析によってそれを証明しようという取り組みです。もし同じ個体群であることが証明できれば、カチェマック湾のラッコたちもアリューシャン列島のラッコ同様、より厳しい保護条件を得ることができる可能性があるのです。
生体サンプルが少ないため、決定的な証拠にはできないかもしれないとのことですが、ハンティントン君が大学へ進んでこの研究をさらに続けていけば、将来的にラッコの保護の政策を変える一つのきっかけになるかもしれません。
記事元:
Chugiak Eagle River Star
Students conduct DNA research at Chugiak High School
By AMY ARMSTRONG Published: 2015.03.04 11:00 PM
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