本日は2018年7月19日付のKQED Scienceから、"A Sea Urchin Army Is Mowing Down California's Kelp Forests -- But Why?"をお届けします。
ケルプの森は、北カリフォルニアの沿岸の古くからのイメージである陸上にそびえるレッドウッド(セコイア)を、海中に反映したものだ。
しかし、この海の森は現在、気象異常、病気、捕食が協力に混ざり合ったものに囲まれ、それがここ数十年見られなかったようなケルプの森の減少につながっている。
そうした場所では、広く「ウニ砂漠」(磯焼け)と呼ばれる、草食生物に丸裸にされている岩が広がっている。こうした、海における伐採されてしまった森のような存在は、健全な生態系との複雑なつながりを破壊してしまう。
ウニの増加
海水温上昇と激しい嵐により弱ったケルプの森はすでに2015年、研究者らがウニの個体数の増加に気が付いた時には悪い状況にあった。
アメリカムラサキウニが増加し、ジャイアントケルプの食べすぎが生じている。
「ウニが集まってきて、ケルプを食べ倒してしまうのを見てきました」長期的なモニタリング研究を行っている市民科学者のダイバーからなるグループ、リーフチェックの北岸地域マネーシャーのトリステン・マクヒューは言う。
「今年は、例えば、実際にケルプが非常に少なく、砂漠は砂漠のようで、本当にウニだらけなのです」
マクヒューはこのようにウニが増えた原因は、ウニの幼生がプランクトンから高い濃度で定着し、若い時期を生き延びることができた年に増加したことだと考えている。ウニの数が多くなったため、その数を削減する市民科学プロジェクトが生まれるようになった。
フワフワの毛皮をまとった英雄
伝統的に、カリフォルニアの象徴であるラッコはウニの個体数を調整してきた。ラッコはウニを食べ、それがウニによるケルプの食べすぎを防いでいるのだ。ラッコがいなければ、その結果ケルプの森が存在できなくなってしまう。
それなら、もしラッコがウニが自分たちのエサだということを忘れてしまったらどうなるだろう。
何でも食べられるけどピザを好んで食べるということがあるように、ラッコも様々なものを食べるゼネラリストであるということが分かっている。しかし、個々のラッコには好みがあり、それは母親から子どもへ受け継がれる。
カリフォルニア州モスランディングで休むラッコの群れ(Heather Barrett)
ジェームズ・ワタナベはホプキンスマリンステーションの講師で、ラッコが「文化的な記憶喪失」になっているのではないかと指摘した最初の人物だ。
「70年代に大きく増加して以来再びウニが現れている今に至るまで、ラッコは3世代にわたりウニと存在してきました」とワタナベは言う。「しかし、ウニはラッコがウニを主食にしたいと思うほど十分ではないのです」
「どうやって食べるか覚えているラッコが死んでしまえば、その行為が絶えてしまうというのはあり得ることです」とミズーリ大学で動物認知学を研究しているエイミー・ダンラップは言う。「カリフォルニアコンドルを再導入した際、死体を持っていかなければなりませんでした。コンドルたちは、子どもにコンドルになる方法を教えている親コンドルと差があったからです」
「ラッコがちゃんと自分たちの役割を果たしていないということなのではありません。ラッコはよくやっています。ラッコとウニの話はもっと複雑なだけなのです」 米国魚類野生生物局ジョー・トモレオニ |
歴史的な先例
ワタナベは1977年から78年のエル・ニーニョの際、北部のケルプの森へ進出した大型の巻貝Kelletiaを、ラッコが同様の行動を見せる際の歴史的な例として挙げた。
「これは大きく身の多い貝で、大きな殻を持っています。ケルプの森に手を入れれば、1メートル以内に1つはあるというくらいまで増えました。しかし、ラッコはその貝を食べるようにはなりませんでした」
モントレーのケルプの森にすむKellet's Whelk(ボラの仲間)(James Watanabe)
ついに、ワタナベは水面下の変化に気が付き始めた。「6か月の間に、その巻貝の豊度は下がり、そこらじゅうに割れた殻が散乱していました。それは、典型的にラッコだけができる傷だったのです」
ラッコのせいにはできない
しかし、アメリカ地質調査所のラッコ生物学者ジョー・トモレオニは、ウニが増えたのをラッコだけのせいにするのはケルプの森がもともと複雑であることを無視するものだと憤っている。
「ラッコがちゃんと自分たちの役割を果たしていないということなのではありません」とトモレオニは言う。「ラッコはよくやっています。ラッコとウニの話はもっ複雑なのです」
トモレオニはカリフォルニアではウニはずっとラッコの好物であり、実際、以前より多くのウニが消費されていることが最近観察されていると強調する。
パーフェクト・ストーム
成熟したモントレーのケルプの森
ラッコが「無知」だというだけでは、この状況を十分に説明しきれない。アメリカ大気大洋庁の海洋学研究者マイケル・ジェイコックスはこの5年間、ベイエリアに影響を及ぼしている気象異常を指摘している。
それは、2013年後半、太平洋に高気圧が継続的に形成されたことで始まった。カリフォルニアの冬は一般的に湿度が高く穏やかだという特徴があるが、「気圧の峰が嵐をそらし、嵐がない代わりに海上に熱が蓄積された」ことをジェイコックスは覚えている。この蓄積された熱が非常に強い2015年のエル・ニーニョと組み合わさり、最終的にはアメリカ西海岸に影響を及ぼした。
そしてそれが、海洋生態系に非常に深刻な影響を及ぼしたのだ。
特にケルプはこのような温かい状態で大きな打撃を受けました。「ケルプの話は、植物プランクトンと似ています」とジェイコックスは言う。「ケルプは水中の栄養分を必要としており、冷たい水を好みます。植物プランクトンでも直接的な結果として生産性が著しく低下する様子を見ることができます」
ワタナベはそれがウニの大増殖を後押ししている可能性を示唆している。ワタナベによれば、水温が上がると、ケルプは衰弱することはあっても枯れることはない。
「水温が上昇している間、ケルプはあまり幸せとは言えませんが、ウニによる酷い食害にあっている今ほどケルプが大量に失われていたことはありません」
新たな希望
多くの研究者はこの気象異常の前代未聞の規模やその継続性について話題にしているが、皆口を揃えてケルプはすでに回復しつつあると指摘する。もしくは、少なくとも、ケルプが負ったダメージは回復するだろうと楽観している。
ワタナベは、自身の理論に反して、こうしたことは時間の問題だと常に強調していた。
「ラッコは非常に賢いですから」ワタナベは微笑んで言う。「ウニが食べられると分かれば、あっという間にウニを食べ、ケルプは回復するでしょう」
「今年、北部の海岸で冷たい海水が現れています」とマクヒューは言う。「高い貿易風と上昇流が見られています。恐らく、この生態系が回復するチャンスがあるかもしれません」
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