【記事】ラッコがアメリカ西海岸から消された歴史 | How Sea Otters Were Once Nearly Wiped Out in Western North America

本日は2018年4月27日のTIME誌の生地より、"How Sea Otters Were Once Nearly Wiped Out in Western North America"をお届けします。寄稿者のRICHARD RAVALLI氏は今年12月にラッコの歴史に関する本Sea Otters:A Historyを出版されます。

ケルプの中で休むラッコ カリフォルニア州モントレーベイVW Pics/UIG/Getty Images

「このような素晴らしい動物がまだその種としての人生を取り戻していないのは非常に残念なことだ」-ジョン・ウッドハウス・オーデュボン

 

今年は、カリフォルニアのゴールドラッシュが始まって170周年にあたる。(訳者注:米墨戦争が48年に終戦、カリフォルニアはアメリカ領となり、49年にアメリカの州へ昇格した)1948年サッターズミルでジェームズ・マーシャルが金鉱を発見し、北アメリカ西海岸の社会的・政治的環境が一変しただけでなく、自然環境も変わった。そのため、今日ではマザーロード・ゴールドベルトでの掘削は以前のごく一部に限られてしまっている。しかし、水圧掘削が地表に傷をつけ河川を汚染するようになる以前は、カリフォルニアの沿岸からかつて数十万頭生息していた動物をはぎとった。フォーティナイナーズ(訳者注:1849年頃から金の採掘のためカリフォルニアへ向かった人々)の中にはラッコに対する仕打ちを目撃する者もあり、特に一人、ゴールデンステート(訳者注:カリフォルニアの別称)で世界的な注目を始めて集めるようになったファー・ラッシュ(毛皮ラッシュ)に対し、心に残る賛辞を残した者がいた。

 

ジョン・ウッドハウス・オーデュボンは著名なナチュラリストであるジョン・ジェームズ・オーデュボンの末の息子で、1849年10月に鉱夫らの一団とカリフォルニアへやって来たが、父のライフラークであった自然史に関する標本や西部の自然の説明図の作成を続けたいとも考えていた。若いオーデュボンには残念なことだったが、採掘で大儲けするという意味でも、植物や動物を採取すると言う意味でも失敗に終わった。しかし、「北米の四足類」という、父の死後1854年に出版された一連の本の3冊目で、重要な現地の動植物について記載している。オーデュボンはその本で、金の採掘場へ向かう途中、サンホアキン川を渡っている際ラッコを見たと報告している。その生物は彼の仲間に二度撃たれ、その後川の向こう岸に消えた。彼らが出会ったのがもし本当にラッコ(Enhydra Lutris)であったなら、内陸にいる、またサンフランシスコ湾支流で暮らす最後の個体であったかもしれない。

 

カリフォルニアにおいて約半世紀の間ロシア人がアラスカ先住民やアメリカ先住民を徴集して行ったラッコ猟により、現地のラッコの個体群は殲滅し、絶滅近くまで減少してしまった。スペイン当局は外国人による密猟を止めることができなかった。(訳者注:1821年に独立するまでメキシコはスペイン領だった)後にメキシコ当局が猟を規制しようとしたが、その規制もほとんど効果がなくまた遅すぎた。ラッコは地上でもっとも密度の高い毛を持ち、その美しく密度の高い毛皮は非常に高価で買い取られた。

 

19世紀後半、アメリカ人がその動物を追い求め、北米の太平洋沿岸へやってきた。1860年代、70年代までにはその地域で地政学的、商業的な変化が起こり、ラッコ猟は海へと進出し、残り少ないラッコを探しだし殺すという探検に変わった。特に、1867年にアメリカがロシアからアラスカを購入してからは、アリューシャン列島やクリル諸島全体で精力的に海洋哺乳類を追いつめていった。20世紀初頭の進歩主義時代になりラッコ猟は遂に禁止されたが、太平洋の野生生物へのダメージはすでに相当であり、完全に元に戻ることはないだろう。

 

最後のカリフォルニア北部のラッコに関するオーデュボンの説明には、彼の'Enhydra Marina"という絵が添えられている。これは疑いの余地のなく、最も美しいテクスチャーで、絹のような、光沢のある毛皮など全てのイメージを生き生きと描いているが、魚を抱えているのがラッコらしくない。ラッコは通常、そのようなことはしないからだ。

 

the University of Michigan Special Collections Library
the University of Michigan Special Collections Library

この作品は人間が魅了されたものと、ラッコに関する知識の欠如が合わさったものを示している。私たちは今日、ラッコを、太平洋の観光地の海に浮かんだり、水族館の展示水槽で遊んだりしている可愛らしく愛でるべき生物として見たり考えたりしている。しかし、沿岸に暮らす愛でるべき象徴的な存在としてみなすことで、血なまぐさい過去や北アメリカ西海岸から完全に消されそうになったラッコたちの歴史をぼかしてしまうことになる。従って、私たちはラッコやその歴史についてより考えなければならない。オーデュボンが1世紀以上前に言ったように、ラッコは種としての人生を取り戻す必要があるからだ。

 

※リチャード・ラヴァリはカリフォルニア州ロックリンのジェスップ大学の歴史学准教授。最初の著作Sea Otters: A Historyがネブラスカ大学出版より今年後半に出版される。

TIME

How Sea Otters Were Once Nearly Wiped Out in Western North America

April 27, 2018 ‘Written by RICHARD RAVALLI