本日は2017年6月13日付のUniversity of Baffalo News Centerより、"Ancient otter tooth found in Mexico suggests mammals migrated across America"をお届けします。
ラッコの祖先がアメリカ大陸を東から西へと移動したという説、面白いですね。
この発見は一部の哺乳類の通った道に関する学説を証明する最初の化石となった
バッファロー(ニューヨーク州)—3月のある暑い日の午後、メキシコ中央部。古代生物学者があごの骨を発見し、ジャック・ツェンが呼ばれた。
ツェン博士はバッファロー大学ジェイコブズ医学生物医科学部の病理学・解剖学の助教授で、化石になった哺乳類の大陸間の移動について大規模な調査を行っていた。
「アナグマの骨かと思いました」とツェンは言う。「ところが、ラッコの研究を終えたばかりの同僚が現場にいて、彼はその骨がラッコのものに似ていると言ったのです。とはいっても、ラッコがメキシコ中央部で何をしていたというのでしょう?」
600万年前からラッコがフロリダからカリフォルニアへ移動した動物たちの一部ではないかということが分かった。この発見に基づき、ツェンとその仲間は6月13日のバイオロジー・レター誌に論文を書いた。彼らはラッコや恐らくは他の哺乳類もメキシコシティの緯度でメキシコに走るトランスメキシコ火山帯の北端に沿って東から西へ移動したという新しい説を唱えた。
「これは今までに誰も唱えたことのない全く新しい学説です」とツェンは言う。「他の哺乳類もこのルートを使ったことが大いに考えられると思います」
The right tooth
多くの突破口と同様これは幸運な小さなものからもたらされた。この顎の骨にはいくつか歯がついていたのだ。
「歯の一つは下の第一臼歯で、肉食獣において最も診断の役に立つ歯です」とツェンは言った。「完全な臼歯の化石を見つけることができれば、役に立つ情報がたくさん得られるのです」
その歯は、フロリダで発見された別のEnhydritherium terraenovae(ラッコの祖先)の化石のものとほぼ一致した。同様の発見はフロリダとカリフォルニアの沿岸で見つかっただけだが、古代生物学者はそうした動物たちがどのように大陸を横断したのか分からない。ラッコの祖先が北へ移動しカナダを経て8,000kmの旅をしてきたのではないかという仮説がある。また、パナマへ南下し西へ渡ったとする説もある。
中新世(約2,300~5,300万年前)にメキシコルートで東から西へ移動した可能性があるということは、大きな生物学的な事件があったことを示唆している。アメリカ大陸間大交差というもので、地峡が形成され動物が南北アメリカ間で分散した。これはこの地域の化石採集地が歴史の一部を形作る生物学的交差の詳細を記録していることを示している。
しかし、こうしたことについてまだ分かっていないのはなぜだろう。
アメリカと比べてメキシコは古生物学という点では白紙状態なのです」とツェンは言う。この地域は地形や植物相、例えばサボテンのような、が理由で調査がしづらいところなのです。そのため、長期的な実地調査があまり行われていません」
「これが研究の始まりなのです」とツェンは言う。「ラッコの祖先たちがメキシコ経由で移動した証拠がでてきたので、他の動物たちが同じように移動した証拠を探すことができるかもしれません」
“これは今までに誰も唱えたことのない全く新しい学説です。
他の哺乳類もこのルートを使ったことが大いに考えられると思います”
ジャック・ツェン博士
バッファロー大学ジェイコブズ医学生物医科学部病理学・解剖学助教授
生息域の拡大
メキシコ国立自治大学地質科学センターの博士課程の学生でその研究の著者アドルフォ・パチェコ=カストロはテキサス州ラレドの南東約535マイル(約856km)にあるフチピラ盆地の発掘現場で顎の骨を発見した。その骨はメキシコの大学に運ばれ、洗浄後調査が行われた。
「その骨をフロリダで発見された骨の実物と歯の先端やサイズに基づいて比較したところ、別物ではありえないという結果がでました」とツェンは言う。フロリダの化石はカリフォルニアのものより古いため、研究者らは動物の移動が東から西へ起こったと推測している。
しかし、なぜ移動が行われたのだろうか。
「生息に適した場所が地理的につながっている時のように、機会があれば、動物は生息域を広げようとするものなのです」とツェンは言う。「したがって個体群が生息域を広げる際には、大陸を横断することもあれば、大陸間を移動することもありえるのです」
中新世から鮮新世への移行期は、障害となる時代だったとツェンは言う。アメリカの平野はアフリカのように大型の哺乳類が多く生息していた。しかし、最初の氷河期が近づきつつあった。
氷河期には環境的な要因や人為的な要因により多くの大型哺乳類が姿を消したが、小型犬から中型犬ほどの大きさだった小型のEnhydritheriumの仲間は近世まで生き残り、今日もメキシコ中央部周辺に生息している。
新分野の研究
他の哺乳類がメキシコを経て東から西へと歩みを進めたという新しい解釈に同意しない人もいると思っている、とツェンは言う。しかし調査が進めば証明できるかもしれない。
「たった一つ発見したに過ぎないということは分かっています」とツェンは言う。「パンドラの箱を開けてしまったようなものです。私たちは今までとは違う要素を提示しました。今日、フロリダとカリフォルニアへのつながりがわかっていますが、それは直線的ではなかったのです」
【動画の翻訳】 【バッファロー大学ジェイコブズ医学生物医科学部病理学・解剖学助教授 ジャック・ツェン博士】初めてその歯を見た時に、鳥肌が立ちました。全く予期しないカードだったからです。それは肉食獣の歯でした。肉食獣の古生物学者として、任務を果たしたという感じでした。 それは、1日が終わり帰り支度をしている時でした。協力者の一人が、面白いものを見つけたから来てみなよ、と。その日は1日、何の肉食獣の歯も見つけられなかったから、おっ、と思いました。彼は私にその歯を見せてくれました。その瞬間、肉食獣の歯だと分かりました。分かりやすい歯だったからです。でも、何の歯なのかはっきりとは分かりませんでした。ラッコとは信じがたかったのですが、精密に、現代の技術を用いて比較しました。携帯電話のグーグルで研究論文を調べ、以前に論文で発表されたものと目の前にある歯の特徴を比較しました。したがって、帰りの車に乗る頃までには、それがラッコの歯である可能性が高いということがわかっていました。ラッコは海だけにいたわけではないのです。 ラッコはどのようにフロリダからカリフォルニアへやってきたか、2つの説があります。一つは北極回りのルートで、西北極圏から北太平洋に向かったものです。もう一つは、ラッコがメキシコ湾や中央アメリカ海路と呼ばれる場所を今日のパナマを回って太平洋に抜けるというものです。 今、私たちはこの生物学的な通路を通って西から東へと移動した可能性考慮に入れなければなりません。私たちのチームや世界の他のチームがとる次のステップはこの東から西へ抜ける通路を指示するか、あるいは反証するための証拠を見つけることです。 |
University of Baffalo News Center
Ancient otter tooth found in Mexico suggests mammals migrated across America
June 13, 2017
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