【記事】ラッコがグレーシャー湾で驚くべき復活を遂げる | The extraordinary return of sea otters to Glacier Bay

本日は2017年4月19日付のThe Conversationより、"The extraordinary return of sea otters to Glacier Bay"をお届けします。アラスカのグレーシャー湾ではラッコが順調に回復を遂げているようです。

カチェマック湾のラッコ AP Photo/Laura Rauch
カチェマック湾のラッコ AP Photo/Laura Rauch

人間は、オオカミ、トラ、ヒョウなどの頂点捕食者を虐げてきた長い歴史がある。こうした捕食者、つまり食物網の頂点にいる動物がいなくなると、地球上の生態系や経済、社会に影響を与えてきた。人間に抑圧されてから完全に復活した頂点捕食者はまれであり、もし復活したとしても、私たちにはその回復を評価するデータもツールもないことが多い。

 

アラスカ州グレーシャー湾のラッコたちは例外だ。最近の研究で、私たちのチームは250年ほど前に失われた場所へラッコが驚くべき復活を遂げた記録を行った。

 

私たちのアプローチは、数学と統計、生態学を融合し、海洋生態系におけるラッコの役割や一度消滅させられたのち生態系に復活を遂げた頂点捕食者の能力を理解する手助けとなる。また気候変動が他の多くの種にとってどのような意味を持つのかを知る手助けにもなるのだ。

グレーシャー湾での回復

オオカミやトラ、ヒョウなどと同じものとしては通常見られないが、ラッコは陸と海の間の狭い一帯である沿岸生態系における頂点捕食者だ。

 

18世紀と19世紀の毛皮交易時代にラッコは北太平洋地域で絶滅近くまで追い込まれた。1911年までにはほんの一握りの孤立した個体群が残るのみとなった。

ラッコの歴史的な生息域(灰色)と1911年に散在していた個体群(赤い印)。クイーンシャーロット諸島とサンベニート諸島の個体具運は1920年までに絶滅した。
ラッコの歴史的な生息域(灰色)と1911年に散在していた個体群(赤い印)。クイーンシャーロット諸島とサンベニート諸島の個体具運は1920年までに絶滅した。
アラスカ南東部 グレーシャー国立公園
アラスカ南東部 グレーシャー国立公園

しかし、いくつかの変化のおかげで、ラッコの個体数は多くの地域で回復しつつある。1911年の膃肭臍保護条約(おっとせいほごじょうやく)により、ラッコは人間による捕獲から守られることになった。野生生物団体はラッコの再定着のため力を尽くした。

 

最終的にラッコは個体数、生息域ともに増加し始め、アラスカ州南東部にある潮水氷河フィヨルドの国立公園、グレーシャー湾にも戻ってきた。グレーシャー湾は北半球で最大の海洋保護区という機能を果たしている。

 

 グレーシャー湾は1750年ほどまでは完全に氷河に覆われていた。同時期、ラッコは乱獲のため周辺地域から消えてしまった。その後、歴史上記録的な速さで氷河が後退した。氷河の後退後、豊かな環境が現れた。この新しい環境で、ラッコのエサとなるカニや貝類、ウニなどを含む野生生物の個体密度が高くなった。こうした生物はラッコがいない間大きさも数も増加させることができたのだ。

 

ラッコは、1988年にグレーシャー湾の入り口に現れた。ラッコはここで広い場所と豊かなエサ、そして人間の狩りから身を守る場所を見つけた。

私たちのアプローチ

ラッコは動くため、その個体群がどのように成長し広がっていくのか推測することは困難だ。毎年ラッコは新しい場所へと動き、移動する範囲も広がるため、ラッコを見つけることは難しい。航空機によるラッコの調査はより多くの土地をカバーしなければならず、同じだけの時間と費用がかかる。また、個々のラッコはラッコの社交的な行動や環境への対応を含む様々な理由からいつでもある場所から別の場所へ移動する。こうした困難により正確な個体数の把握が困難になるため、ラッコを理解し、扱うことが重要になる。

 

ラッコがグレーシャー湾にやってきて間もなく、アメリカ地質調査所の科学者らがラッコの回復を記録するためのデータを集め始めた。そのデータはラッコが増加していることを明らかに示していたが、ラッコの増加の程度を明らかにする新しい統計手法が必要だった。

 

まず、個体群の成長と広がりを示すため、偏微分方程式を用いた数学的なモデルを開発した。偏微分方程式は流体力学や量子力学などの減少を示すために一般的に用いられるものだ。従って、偏微分方程式はある集団、この場合ラッコの個体群が、空間的・時間的にどのように広がっているかを表すのにぴったりな選択だ。

 

新しいアプローチにより、どのような場所を好んで生息しているか、最大成長率、ラッコがグレーシャー湾のどこで最初に見られたかなど、私たちが現在理解しているラッコの生態学や行動を統合することができる。

 

また、方程式を階層的な統計モデルに統合することができる。階層的モデルは複雑な過程から出てきたデータから結論を導く際に使われる。それらはデータ収集や生態系プロセスなどの不安定性など、様々な不安定なソースのなかで述べたり区別したりする柔軟性を与えてくれる。

 

偏微分方程式は生態学の分野では新しいものではなく、1951年に遡る。しかし、私たちの発見と関連ある不安定なものの量を的確に定め、こうした方程式と正式な統計モデルと統合させることで、動的生態学のプロセスを信頼をもって推論することができる。これにより過去25年間のラッコの個体数調査を分析するデータ駆動法が利用できる。

 

これにより生態系システムの理解を統合する定着動学を厳しく正直に推測できるようになった。

グレーシャーベイ国立公園のラッコの群れ 2016年 Photo by Jamie Womble
グレーシャーベイ国立公園のラッコの群れ 2016年 Photo by Jamie Womble

記録を破る回復

新しいアプローチを用いて、私たちはグレーシャー湾のラッコが1993年から2012年の間、年に21%増加していたことを発見した。

 

比較では、同じく回復していたアラスカの他の個体群の成長率は推定17%から20%だった。さらに、生物学的な最大増殖率ーラッコが最速で繁殖できる比率ーは年に19%から23%だ。これは、グレーシャー湾のラッコの増加率は最大限もしくはそれに近い状態で、歴史上記録のあるどのラッコの個体群よりも高い。

 

氷河の後退に伴い、20年間でラッコは全くいない状態からグレーシャー湾ほぼ全域に広がるまでになった。今日、ラッコはグレーシャー湾で最も多い海洋哺乳類の一つだ。最近の観察によると、グレーシャー湾下部のある場所には500頭以上の巨大なラッコの群れが記録されており、これはエサが豊富にあることを示している。

グレーシャーベイ国立公園のラッコの推測数

最先端の統計的・数学的手法による表現を融合し、初めてラッコの個体群の成長と広がりがいかに尋常ではなかったかということが明らかになった。

 

ラッコはグレーシャー湾の潮の影響を受ける氷河の後退に伴い大きな成功を収めた。気候変更による海氷の喪失が広範囲に生息するホッキョクグマやセイウチなどの頂点捕食者に負の影響を及ぼしているが、他の生物の中には新しく利用可能になった生息域やエサ資源の出現により、利益を受けるものもある。

 

人間は地球的な規模で頂点捕食者を減少させてきた。この現象はたいていはもとに戻すことが困難だ。しかし、私たちの調査の結果、人間の干渉が最低限であれば、頂点捕食者は適切な生息地に再定着できるのだ。