本日は2017年3月27日付のLos Angeles Timesより、"Defying man and nature, the sea otters of Morro Bay have made a comeback"をお届けします。
モロ湾に増えてきたラッコたちとその歴史についての記事です。
ある海辺の曇りの日ー雲が薄く空を覆い、銀色のアルミホイルのような海ー灰色の毛の玉が、訪れる人々に安らぎを与える。
港の遊歩道から20フィート(約6メートル)ほどのところにぷかぷかと浮かんだこのラッコたちは、カリフォルニアで記録となった個体群の一部だった。ラッコはかつて、ドードーやティラノサウルスと同じように絶滅したと考えられていた。
しかし、確かに、ラッコたちの群れが一列に並んだ観光客らの前で、波に揺れていた。
幼獣が何頭か、母親らの上に頭を載せて休んでいた。一番大きなラッコは、胸の上でバランスをとった石に貝をぶつけていた。ラッコたちはゆったりと仰向けになり、前足を合わせて休んだり、綿棒のように回ったりしていた。
「とても運が良かったと思います」とサンフランシスコから来た小児科看護師のエリカ・バウムスティーガーは言う。「こんな風にラッコに会えるなんて、嬉しいサプライズです」
オランダから来たマーティン・ベイスト(読み不詳)は薄い色の目をした赤ちゃんラッコを見つめた。「誰が誰を見てるの?」と妻のシャーロットにオランダ語で尋ねた。
5月、毎年行われる個体数調査で、カリフォルニア沿岸には3,090頭以上のラッコが見つかった。残されたラッコはこれだけだ。アメリカ魚類野生生物局が設定したこのしきい値を3年連続で超えれば、ラッコは絶滅危惧種のリストから除外される可能性がある。
モロ湾では、ラッコが生き延びていくことについては希望があるように見える。
何年もの間、ここでは片手ほどの数のラッコが出没していた。しかし現在ではほとんど毎日40頭から60頭ほどのラッコがドック付近やランドマークであるモロ・ロックそばの細長い砂地沿いに浮かんでいる。
セントラルバレーの家族が週末に訪れたり、漁師やレストラン従業員がボートやトレーラーパークに住む、カリフォルニア最後の両同社階級のビーチタウンの一つであるモロ湾では、地元住民にとってこれは見慣れた光景だ。
太い声の無表情な漁師、ローリー・クリーマーは、観光客らのようにこのひげの生えた毛の多い動物に溜息をついたりはしない。
「ラッコは乱暴な生き物だよ。意地が悪い。ネコみたいに、出し入れできる爪があって、犬みたいな顎をしている。600ポンド(約270kg)のアシカならラッコの周りをうろつけるだろう。サリナン・インディアンはラッコのことを海の熊と呼んでいたんだ。でも、ああ、赤ちゃんはかわいいと思うがね」
カリフォルニアラッコは、アラスカラッコとは異なり、魚は食べない。だからラッコといがみ合うことはないとクリーマーは言う。
「問題は、ロサンゼルスから来るような慈善家モドキが、カヤックを漁船とラッコの間に浮かべることなんだ。どうして25トン級の船の前にカヤックなぞ浮かべるのかね?」
「ラッコの赤ちゃんを見つけたら、私はエンジンを切る。ラッコにぶつからないようにね。母親たちについてはそうは言えないけどね」
毎朝2時頃、ある決まったラッコがトーマス・「サージ」・ポーリーを起こす。ポーリーは引退した陸軍軍曹で、ガールフレンドで以前集中治療看護師だったジョディ・トゥルールソンと一緒に、ティキボートで港をめぐる観光船を運営している。そのラッコは彼らの家でもあるボートに貝をぶつけて割るのが好きなのだ。
「どうするつもりなの?」ポーリーは肩をすくめて尋ねた。
カリフォルニアラッコは1700年代から1800年代にかけての毛皮貿易で、絶滅近くまで乱獲されてしまった。最後の群れは、モントレー付近で18631年に虐殺されたと考えられている。
しかし、1938年、ビッグサー付近で小さな牧場を営むハワード・グランビル・シャープがポーチから望遠鏡を覗いていた際、ケルプの中に何か奇妙なものがいるのに気が付いた。毛の生えた、水かきのついた足を持つ、彼がフィリピンの熱帯湖で一度見たカワウソに似た動物がいたのだ。
シャープはその発見を、ホプキンス・マリン・ステーションと、魚類野生生物局の職員4名、そして3名の新聞記者に報告した。しかし、だれも真面目に受けとってくれなかった。
最後に魚類野生生物局のリッピンコット部長と3人の部下の職員が見に来た。シャープはその場面についてこう書いている。
「彼らは望遠鏡を覗いた。そして奇妙に静まりかえった。ある職員はレンズを拭き、もう一度覗いた。リッピンコットは一旦下がって、手で目をこすった。レンズを覗き、対眼レンズを焦点が短くなるよう調整した。私大に、リッピンコットの体が緊張し、その声が鋭くささやいた。「ラッコ・・・ラッコだ!」
これは世界的なニュースになった。
新しく発見されたラッコを守るために監視が置かれた。しかし、密猟者が銃で撃ち少なくとも1頭を殺し、残りのラッコを散り散りにしてしまった。サメも襲ってきた。
それ以来、ラッコは不安定な状態が続いている。まずは1973年に絶滅に瀕する種の保存に関する法律で保護を得た。ラッコたちは原油流出、毒素、バクテリア、サメによる生息域の限定により脅かされている。
研究者らは、最近の個体数増加はヒトデが謎の消耗症により死に、ラッコが食べることができるウニの数が増えたことによるものではないかと考えている。
ウニや貝に加え、ラッコはカニも食べる。そしてカニはウミウシ類を食べ、ウミウシ類は海草に生える藻類を食べ、海草をきれいに健康に保つ。
海草は魚に生息地をもたらし、周囲の水をきれいにし、大気中の二酸化炭素を取り込む。しかし、こうした水中の草原は農業廃水により死滅しつつあった。
3年前、研究者らは再び生息しだしたラッコと中央沿岸部のエルクホーン湿地帯における海草の復活を結び付けた。サリナス地域の農場から肥料が流れ込むにもかかわらず、海草が復活したからだ。しかし、最近モロ湾の夕刻、人々の心にとってより大きな環境への繋がりが最優先ではないように思える。
いつものように、漁師たちは仕事が終わると魚の頭を水の中に捨てた。
「一日でこの時間が一番好きだね」とトグナツィーニ・ドックサイド・レストランのパティオで音楽の演奏をするリッチー・ビギンが言う。先だって巨大なアシカが鳴いて彼の「タイニー・ブルース」の演奏を邪魔した。
「ちょうど日の入りの頃、モロ湾にすべての生態系がある」とビギンは水を指さして言った。「序列のトップは私の敵でもある、あそこにいるアシカさ。心ではラルフって呼んでる。ペリカンたちが爆弾のようにヤツに飛び込んで、文字通りヤツの口から魚を奪い取るところを見たよ。ほら、ウミウとカモメが来た」
「それから、ほら!夜のラッコパレードだよ」
ラッコたちは均等に距離をとって一列に並んでいた。
観光客らは見とれていた。船を清掃していた漁師らも、手をとめてみていた。
「行ってしまったな」ビギンは言った。「いるのが当然と思っちゃいけないということを心に止めないでラッコを見ちゃいけないね」
Los Angeles Times
Defying man and nature, the sea otters of Morro Bay have made a comeback
March 27, 2017
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