本日は、Canadian Wildlife Magazine November / December 2016から"The Two Sides of Sea Otters"をご紹介します。ラッコが沿岸に戻ってくることで、プラスとマイナス両方の影響があります。人間とラッコが共存していくために、多くの人々が解決策を探しています。
ラッコはブリティッシュコロンビアの沿岸で目覚ましい復活を遂げている。ラッコにとっては良いニュースだが、他の多くのものにとっては大きな調整を必要とするものとなる。
7月、夏の早朝、リンダ・ニコルは小さな調査船に乗り、バンクーバー島のクレイクォット湾を移動していた。双眼鏡で入江や岩礁を注意深く眺める。ニコルの使命は、できる限りラッコの数を全て数えることだ。
トフィーノ港を出発して20分ほどで、カナダ水産海洋省の海洋生物学者のニコルは最初のラッコを発見した。バーガス島沖、オスのラッコ1頭だった。目撃情報と場所を関連づけられるよう、ニコルは時間を記録する。
ラッコの個体数の傾向の波を何年も経験していても、このフワフワでカリスマ性のある海洋哺乳類を見つけるのは驚くほど難しい、とニコルは言う。水面に見えるラッコの小さくきらりと光る頭は、ケルプの端切れやゼニガタアザラシの頭と間違えやすい。うねる波の中でボートもラッコも浮かんだり沈んだりすると、波に隠れてしまって見つけるのが難しい時もある。
少なくともニコルはどこを探したらいいかよく知っている。ラッコは適切な居場所を見つけると、生涯そこにそこに留まりあまり遠くへ移動しない。「ラッコの調査に出ると、ラッコたちに会うのが楽しみでした。昔からの友人に会うようなものです」とニコルは言う。「ラッコたちが前いた生息地にいるのを見つけると、どうやってみんな冬をしのいだんだろうと思います」
ニコルは、今や立ち寄らなければならない「友人」が大勢いる。2000年代初めにラッコの個体数を数え始めてから、ブリティッシュコロンビアではラッコの数は倍になった。1930年代に毛皮貿易商人によりこの地で乱獲により絶滅に追い込まれてしまったラッコの目覚ましい復活だ。1969年、バンクーバー島の西海岸にあるキュークォット村近くのチェクルセット湾にアラスカから89頭のラッコが4年計画で移植され、ラッコの復活が始まった。それ以来、ラッコの個体数と生息域は急速に拡大していった。最近の沿岸全域調査ではニコルが数えたラッコの数はバンクーバー島の西海岸とブリティッシュコロンビア州本土の中央部における個体数は7,000頭ほどだった。
しかし個体数が増加するにつれ、ラッコはまた環境も変えている。他の海洋哺乳類とは異なり、ラッコには体温を保持するための皮下脂肪がない。ラッコはその代わりに寒さからの断熱のため、厚い毛皮に依存している。そうした独特の造りのため、ラッコはエネルギー需要を満たすため毎日体重の4分の1ほどまで食べなければならない。従って、ラッコは初めてその地域にやってきた時、食べられるだけの貝や甲殻類を食べてしまう。まずはウニ、そしてアワビ、巻貝、二枚貝、カニなどだ。
生態学者は現在、ラッコの旺盛な食欲が離れたところまで影響を及ぼしていることを発見している。ラッコがいない場所では、ラッコがケルプ床を根絶させてしまい、「ウニ砂漠」と呼ばれる景色の場所に繁殖するようになる。ラッコが入ってくるようになると、ラッコはウニを食べ、ケルプの森の再生を促進する。
生態学者ラッセル・マーケルによる最近の研究で、ラッコが赤ウニを食べつくしたバンクーバー島西岸では、ケルプの森は20倍になったことが分かっている。ジャイアントケルプ(オオウキモ)の森は様々な無脊椎動物やサケやニシンのような魚に、繁殖場と避難場所を提供する。ケルプはまた水流を弱め、様々な海洋生物の幼生が潮に流されないようにし、沿岸の崩落を減らす働きもある。
ラッコの復活はケルプの森とケルプに依存している生き物たちにとっては良い知らせかもしれない。しかし、ラッコが引き金となって起こる劇的な生態学的な変化はまた、人間にとって経済的なコストにもなる。
ラッコがいない環境では、アワビや二枚貝、カニ、ミル貝、その他の無脊椎動物が増加し豊かな状態になり、先住民や商業漁業を行うものにとってそうした魚介類を獲る機会を与えてくれる。しかし、アラスカからカリフォルニアに至るまでラッコがいる全ての場所で、ラッコの旺盛な食欲が、経済的・文化的に魚介類に関心がある人々との間で軋轢を生じさせている。
例えば、そうした魚介類を食べるラッコがいなければ、エゾアワビは大きく成長し、また少ないケルプをめぐってウニと競争しなければならないため開けた浅い海で見つかり、収穫もしやすい。乱獲によりアワビは消滅し、1990年初めにはアワビ漁は閉鎖となってしまった。その回復努力として、アワビはアメリカでは国により2011年から絶滅危惧種に指定され、ラッコが戻ってきたためさらに状況は難しくなったように思えるが、実際ラッコとアワビの関係はもっとシンプルなものだ。
サイモンフレーザー大学の博士候補生リン・リーはラッコとアワビの相互作用を研究しているが、ラッコは直接的にアワビの数を減らすことはあっても、アワビを絶滅に追い込むことはないことを発見した。その代わり、アワビは新しいライフスタイルを取り入れることになる。アワビはラッコに食べられないよう、深い海の岩の割れ目に隠れるようになった。ケルプの生息地が増加するため、アワビは食べるものがたくさんある。「アワビは守られるというメリットを得、周囲にケルプの森が育つとエサも得るのです」とリーは言う。
従って、ラッコとアワビは再生された自然のシステムの中で共生するようになるが、その新しいバランスの中には商業漁業は居場所がない。アワビが岩の割れ目に入ってしまうと、広い範囲で個体密度が少なくなってしまうだけでなく、狭い場所にぴったり入れるよう小さいまま大きくならない傾向にあり、商業的に収穫できる大きさを満たさなくなってしまう。「生態系の生産性を増加させるという意味においてはラッコがいたほうがずっと良いのですが、そうすると、この100年で私たちが食べるようになったアワビは以前ほど十分に取れない状態になってしまうということになります」とリーは言う。
影響を受けたのはアワビだけではない。例えば以前商業用のミル貝(穴を掘る世界最大の貝)漁が行われていた場所は、ミル買いを食べるラッコが移動してきてから閉鎖されてしまった。「ラッコが移動してきてから、ミル貝のバイオマスが30~50%減少していました」アンダーウォーター・ハーベスター協会のエグゼクティブ・ディレクター、グラント・ドーヴィーは言う。「ラッコは海中を掘り起こすのが非常に上手なんです」
しかし、その場所にラッコがいるからといって必ずしも漁業が不可能になるというわけではない。キュークォット湾にあるミッション。グループという島が散財する場所にはラッコが数十年もいるが、今でもミル貝を収穫することができる。つまり、短期的にはラッコは痛みを伴う影響を及ぼすかもしれないが、永遠に害を及ぼすというわけではない。「ラッコがある場所で一旦環境収容力の限界に達したとしても、収穫できるミル貝がまだ残されていると考えています。それでも私たちは現実的なのです」とドーヴィーは言う。「ある場所では共存しているように見えても、別の場所ではそうではないのです」
ブリティッシュコロンビア大学資源・環境・持続性研究センターのリサーチアソシエイト、エドワード・グレグルは、ラッコがもたらすメリットとデメリットを定量的にモデル化するためのステップを撮り始めている。グレグルはウニ、ダンジネスクラブ、ミル貝等の無脊椎動物を対象とする商業水産業における経済的な損失は年間約650万ドル(約7億6000万円)になると見積もっている。そのうち、ミル貝の漁獲高の減少による損失が半分以上を占めている。
グレグルは、ラッコの存在の有無における経済サービスに関してPhD(博士号)を最近修了したが、新しいメリットも発見している。キューコットのように、ラッコが最大数存在する場所において生物バイオマスは30~40%増加していることを発見した。こうした場所はその代わりオヒョウ(カレイ科の魚)やサケのようなより大型で商業的に価値のある魚類にとって、よりエサが得やすい状況になる。グレグルはこのメリットは、商業漁業に年間1200万ドル(約14億円)の恩恵をもたらすと試算している。
さらに驚くべきことに、この魅力的で象徴的なラッコの回復により、観光収入も期待できる。ラッコを見ることができる確率が高いなら観光客1人あたり野生生物ツアーに対して平均228ドル(約26,000円)喜んで払うという最近のバンクーバー島の観光客の調査に基づき、グレグルは観光収入が年間4800万ドル(約56億円)の成長になりえると試算している。「ラッコが存在しないシステムより、ラッコが存在するシステムのほうがより価値があるのです」とグレグルは言う。「観光業が、漁業の損失の穴埋めをかなりしてくれるでしょう」
しかし、トフィーノのツアー会社がラッコ関連の観光で利益を得ることができても、ラッコに最も影響を受け、魚介類を獲る機会が減ったために直接経済的にも文化的にも損失が生じる遠隔地の先住民コミュニティには、そうした利益は決して届くことがない。「ラッコが最初に戻ってきた時、貝床やカニ、ウニは本当に崩壊してしまいました。10年ほど、ウニは食べていません」そう語るのはジョー・マーティン、トフィーノを本拠地とするカヌー製作者で先住民ヌートカ族の一員だ。
考古学者、科学者、先住民のコミュニティはかつて人間とラッコはバランスを保って暮らしていたと言う。先住民は貝床や他の魚介類の資源を守るため、ラッコ猟を行った。「昔は、先住民の住村の前でカヌーに乗っていた。そうすれば、その場所を超えていかないようにしなければ、殺されてしまうということをラッコに知らしめることができたのです」とマーティンは言う。
こうした古のラッコの管理方法は現代における人間とラッコの軋轢の解決の助けになるかもしれない。「先住民のコミュニティは、伝統的な習慣を復活させ、伝統的なラッコ猟も含め魚介類とラッコをかつて管理してきたような方法を実験的に行うことに関心をもっています」とサイモンフレーザー大学の博士号候補生でハカイ研究所の研究員、ジェン・バートは言う。バートは先住民コミュニティ、研究者のアン・サロモン、Kii'iljuus(発音不明)・バーバラ・ウィルソンを巻き込んだ大きなイニシアチブにおいて、どうしたらラッコと共存することが可能になるかを理解するため、先住民のコミュニティと協力している。
夏の間、バートとその同僚は過去40年から60年、ブリティッシュコロンビアとアラスカの先住民コミュニティを訪ねた。「ラッコとともに異なる時間を過ごしてきたこうしたコミュニティを訪ねることで、そのコミュニティの未来を垣間見ることができました」とバートは言う。バートは、ラッコが戻ってきた時のためどのように準備をしておけばよいか学べるよう、まだラッコが戻ってきていない先住民の世襲の族長らにも参加してもらった。「何が起きているか理解していれば、よりよく対処できるからです」とバートは言う。
グレグルは損失と利益の分析に基づいて、地域レベルでの特別なマネジメント解決策を提案している。「このような結果により本当に証拠に基づく意思決定プロセスを知らせることができるかもしれません」とグレグルは言う。例えば、グレグルは、ミル貝やカニ漁を守るためクレヨケットやヌートカ湾ではラッコを積極的に排除し、その代わりキュークォットなど別の場所ではラッコの個体群はそのまま手を付けないという方法を思い描いている。そのようなシナリオのもと、グレグルは影響をうけるコミュニティは毎月その損失を埋めるためのウニを送ってもらう。別のオプションとして、伝統的な食糧を守るため、沿岸コミュニティから5㎞離れたところにラッコをとどめておくことも考えている。「ラッコに関する問題は解決できると私は思っています」とグレグルは言う。
ニコルは2013年以来クレヨケット湾を調査していないが、新しい場所にラッコが進出してきてないか調べたいと思っている。1日が終わりに近づき、ニコルはロングビーチ近くの以前調査したことのない場所をラッコが休む時に作る群れを探して調べてみることにした。その場所について間もなく、ニコルは12頭ほどのメスと子どもの群れに出会った。これは、ラッコたちが南へ住み着いている証拠だ。
「ラッコを見ていると、ラッコが直面している制限や危険について考えます」ニコルは後日、インタビューに答えてそう述べている。「ラッコのエサは限られています。ラッコは天気から身を守ることを考えなければなりません。高い代謝率を維持しなければなりません。天敵のことも考えなければなりません。そうしたこと全てがあり、バランスをとっています。ラッコがいる場所を見ていると、そうしたことを考えるのです。この場所は、そのような需要に見合っているでしょうか?」
ラッコの再導入の成功から判断して、ブリティッシュコロンビア沿岸のラッコたちは、確かにそうした場所を見つけたようだ。将来的には、ラッコたちは何年かはそうした場所を持つことができそうだ。
Canadian Wildlife Magazine November / December 2016
The Two Sides of Sea Otters
Story and photography by Isabelle Groc
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