【記事】陸地の開発がラッコに与える影響 | RESEARCHERS ATTEMPT TO UNDERSTAND WHY LAND DEVELOPMENT IS BAD NEWS FOR SEA OTTERS

本日は2016年8月16日付のPOPULARSCIENCEより、"RESEARCHERS ATTEMPT TO UNDERSTAND WHY LAND DEVELOPMENT IS BAD NEWS FOR SEA OTTERS "をお届けします。
人間が暮らすようになるとそこからは生活排水や産業排水が必ず排出され、それは結果的に海へ流れ込みます。こうした排水がラッコを始めとする海の生物や海の生物を食べる人間自身にとっても影響を及ぼします。関連性は判明しつつあるものの、根本的な解決は困難を極めます。

計算論的モデルは人間の土地利用が海洋感染への影響を増加させると示唆

赤ちゃんを抱いた母親ラッコ Photo by "Mike" Michael L. Baird (Wikimedia Commons)
赤ちゃんを抱いた母親ラッコ Photo by "Mike" Michael L. Baird (Wikimedia Commons)

海岸に居を構えることは多くのアメリカ人にとって夢だ。海の近くに住む人間の数は1910年の数百万人から、今日3700万人以上へと増加しており、2050年までには5000万人近くになると予想されている。多くの人が海の景観を楽しめるようになる一方で、離れたところから感染が広がる可能性も増加している。

 

人間が沿岸部を開発すると、病気の蔓延に関する2つの重要な要素の増加を導く。一つは人間と動物の病原体の数の増加。二つ目はその地域において自然が持つ水質管理能力に悪影響を及ぼしてしまうことだ。これは、基本的に海に流れ込む排水が増えることを意味している。また合わせると、ある種の病原体が長い距離を運ばれ、人間や、痛ましいことに野生生物にも発生する可能性も示している。

 

その二つ目の例は、ラッコに現れている。この愛すべき動物はトキソプラズマ原虫という寄生虫に感染しやすい。この原生動物はもともと猫に寄生しているため、水棲の動物で見つかることは稀であるはずだ。しかし、ここ数年、この病原体への感染例が増えている。原因については議論されてきているが、最も可能性の高い原因は陸上で人間が使った水の排水であると考えられている。

カリフォルニア沿岸の排水 Source: MODIS Aqua Satellite Image
カリフォルニア沿岸の排水 Source: MODIS Aqua Satellite Image

この理論を証明するのは比較的難しい。トキソプラズマ原虫を検出する方法は、大規模に水を集めて行うようにはできていない。その代り、研究者らは、ラッコのような動物がその病原体に感染した後に特定するという方法に頼らざるを得ない。そして遺伝子解析により病原体の起源が特定されるのだ。

 

しかし、地域が広いため、その跡をたどるのは効果的とは言えない。こうした障害の影響により、あらゆる状況証拠があるにも関わらず、それを証明するものはほとんど存在しない。この問題を解決すべく、その見地を証明する手段として、集められた統計と野生生物のデータをもとにした数学的モデリングが提唱されている。

 

最近、アメリカの研究者のチームがこの課題を遂行した。このチームは、トキソプラズマ原虫がどのようにネコからラッコへ到達するのか計算論的に垣間見るため、この病原体のモデリングを使用した。人間の活動が確かに関係しているものの、その結果は別の要因を明らかにした。天気である。

 

そのチームはカリフォルニアの2か所で調査を行った。1か所目は沿岸部のラッコの生息域で、もう1か所は海につながる約8,500平方マイルの湿地帯である。湿地帯のほうは広範囲であるため、すでに集められているデータにも届いてトキソプラズマ原虫の排出の予想量が計算された。1990年から2010年までの土地被覆統計によりその土地の場所や開発地域の大きさが分かった。同時期の人口統計により様々な場所にいるネコの数の概数も得られた。

 

分析に基づき、過去20年で人間が占める土地の面積は80~150%に増加した。更に、あらゆる場所でネコの数が25%から50%増加した。これらから最終的に海ね流れ込むトキソプラズマ原虫の増加に関する現実的な見積もりを発展させる基礎を得ることができる。その量は44%であった。顕著な量ではあるが、全体的な地域という点では、ラッコに拡散する可能性はその原因だけを考慮するには低いと考えられる。従って、他の原因が絡んでいるはずだ。

 

水の排出は降雨時に集中するため、チームは同じ期間内の降雨量データを調べ、降雨によってより多くの病原体が海へ流れ込むのかを断定することにした。つまり、もしネコの数が1990年代レベルにとどまっていたとしたら、降雨により海へ流れ込むトキソプラズマ原虫のレベルが高くなるだろうかということだ。そしてその答えは「YES」だった。計算によると79%も増加するということを示した。これは、こうしたダメージがすでに1990年代には起こっていたということを示す。

 

しかし本当にショックなことは、人口統計と降雨量の統計が合わさった時に起こる。海における病原体の増加は過去20年間に175%にのぼった。こうした増加は、ラッコがどのようにこの病原体と接触し感染してしまうかを用意に説明できる。

 

こうした研究にも1点ひっかかることがあり、海に流れ込んだトキソプラズマ原虫の絶対量は計算できていない。こうしたことは研究者らに明らかに主にとなるような実地調査を必要とする。言うまでもなく、例えにあるような「干し草の中の針を探す」(訳者注:無駄骨になること)よりずっと困難であろう。しかし、こうした計算は確実に、土地開発が環境にどのように影響を与えるかということをより良く理解する役に立つ。

 

明らかにこの研究はラッコにおけるトキソプラズマ原虫の増加の背景にあるメカニズムや人間がその病原体の拡散にどう寄与しているのかを垣間見せてくれる。しかし、ラッコを、広くは人間や他の生物も含め、安全にしておくためにこの問題をどう解決していくのかという点では、海へ流れ込む排水の量を減らす中に答えがある。それをどう達成するのか---それはまた別の問題となっている。