【記事】ラッコの研究にドローンが活躍 | Eco-Friendly Multirotors

本日はRotor Drone Magazineの2015年11月・12月号より"Eco-Friendly Multirotors "をお届けします。以前もご紹介いたしましたが、アラスカでは無人航空機(ドローン)がラッコの研究に取り入れられはじめています。あくまで専門家が許可のもと使用しています。一般の方は動物たちにハラスメントになる可能性がありますので、野生動物の近くでは使用しないようにお願いします。

絶滅危惧種のアラスカラッコを空から見守る

ラッコは公的に絶滅危惧種に制定されており、アラスカ大学フェアバンクス校や他の機関による研究はその個体数を増やす上で重要だ(Photo by Brent Paull)
ラッコは公的に絶滅危惧種に制定されており、アラスカ大学フェアバンクス校や他の機関による研究はその個体数を増やす上で重要だ(Photo by Brent Paull)

浜には氷も雪もなく、灰色の岩肌や砂利が暖かな日差しの中で乾いている。近くの草は僅かに緑がかって、アラスカの早春だ。アラスカ州ホーマー近くのカチェマック湾で仰向けに浮かびながら、ラッコが深く潜って取ってきたエサをひとくちかじった。

海岸で高倍率の望遠鏡でエサを食べるラッコを観察する一方、研究者らはパイロットに指示して回転翼を持つドローンをラッコの上空を飛ばしていた。その一団はデータの収集に無人航空機が役立つか試していた。

 

ラッコがエサを取りに海に潜ったらドローンを水面近くに降下させ、ラッコが水面に戻ってきたときにドローンに気が付くかみていた。「ほとんどの場合、ラッコはドローンを気にしていないようでした」とアラスカ大学フェアバンクス校(UAF)の海洋生物学教授ブレンダ・コナーは言う。「ゆっくりと泳いで行ってしまうラッコもいましたが、ほとんどのラッコは食べることにより興味があるようでした」

 

静かにデータを収集

ブレンダ・コナーとカトリン・アイケンとGoProカメラを装備した「ターミガン」六回転翼機
ブレンダ・コナーとカトリン・アイケンとGoProカメラを装備した「ターミガン」六回転翼機

アラスカ大学フェアバンクス校の科学者たちは、フィールド調査を2つ行った。無人航空機が様々な高度から干潮時の浜で高解像度の写真を撮影することができるか、そしてまた、ラッコたちを邪魔することなく上空から撮影できるかを調べるためだ。

 

アラスカ大学フェアバンクス校海洋水産学部(SFOS)の研究者らは、2つの研究においてより効果的により良いデータを収集する方法を得るため、地球物理研究所無人航空機システムインテグレーション(ACUASI)のチームに協力を仰いだ。1つ目はアメリカ地質調査所(USGS)と共に行われ、ラッコがエサを食べている時に邪魔をすることなく無人航空機を上空にホバリングしながら高解像度の写真を撮影することができるか調査することだった。2つ目は、モニタリングプログラムをより効率的にするため、干潮時の浜の写真の撮影に無人航空機を使用するというものだった。こうした試験的な調査が有効であることが判明すれば、この技術は多くの分野で利用されることになるかもしれない。

 

ACUASIはフィールドテストを実施するために小さな回転翼航空機を2機送った。1つはACUASIが開発した「ターミグン(ライチョウ)」という名のヘキサコプター(回転翼が6つついた航空機)で、安定したマルチローターシステムを必要とする近距離に適用する、センターの主要な機材だった。有効荷重は2.2ポンドで、広範囲の科学機材を扱うことができる。「ターミグン」はGoPro(動画や写真を撮影できる小型カメラ)を搭載した。

 

もう1つの航空機は「エアリオンスカウト」、小さいながらもパワーのあるクワッドコプター(回転翼が4つついた航空機)だった。20分で充電できる電池を使用しており、使うのも簡単だ。「ターミグン」のように垂直に離着陸でき、特定の場所で低空飛行を行ったりゆっくり飛ぶこともできる。オペレータは、Window XPを搭載し「スカウト」の地上管制のために作られたタブレットを使って航空機を制御する。「スカウト」もGoProカメラを装備した。

潮間研究

左の写真から時計回りに:マンソン号で船上から制御を行う「スカウト」の準備を行っている。■マンソン号から「スカウト」を離陸させる準備をする。■ラッコ(Photo Brent Paull)■横断飛行をするため「スカウト」のタブレットにGPSポイントを入力する
左の写真から時計回りに:マンソン号で船上から制御を行う「スカウト」の準備を行っている。■マンソン号から「スカウト」を離陸させる準備をする。■ラッコ(Photo Brent Paull)■横断飛行をするため「スカウト」のタブレットにGPSポイントを入力する

潮間研究

これまで浜をモニタリングするフィールドワークでは、アラスカ大学フェアバンクス校海洋水産学部(SFOS)のコナー、カトリン・アイケンらのチームにとって潮が引いて塩ビ製のパイプグリッドが露出するまで待たなければならなかった。研究者らはそれから、四分円(円の1/4扇形)の中の巻貝やヒトデ、ケルプ、海草の房などの生き物を数える。「これらの浜に現在どんな植物や動物が生息しているかを記録し、自然な変化や気候により起こる変化をモニターするのです」とコナーは言う。「それにより、原油流出のような大規模な事件が起こった際に何が起こったか知ることができるのです」

 

1か所のビーチでの作業は約4時間かかり、潮が満ちてきたら終了となる。このような短い時間では、浜で見られる量も限定されてしまう。コナーは限られた時間の中でデータを集めるのに、無人航空機は使えないだろうかと考えた。ACUASIのエンジニアでプロジェクトマネージャーのサム・バンダーワールは可能かもしれないと考えた。「スカウト」の使命はより多くの海岸の上を飛び、画像や映像でデータを取集するというものだった。

 

それを実行するため、チームは連邦航空局(FAA)から許可を得なければならなかった。その無人航空機は商業空域で飛行することになるため、起こりうる問題のために、チームの一人が’航空管制放送をモニターしなければならなかった。「スカウト」や「ターミグン」は他の航空機の邪魔をする問題は起こらないが、風が強く波も高いうえに雨も降っていた。「ターミグン」は飛行時間が限られているため、「スカウト」が補った。

 

「この分野について、またこうした研究にUAS(無人航空機)を利用する可能性について学ぶことができたのは良かったです」とバンダーワールは言う。「利用はできますが、適切な機体や有効荷重、適切な気象条件、綿密に練られた飛行企画が必要です」

科学者らは自ら集めたデータと「スカウト」の画像を比較することができるはずだ。「うまくいくか試してみたかったのです」とコナーは言う。「海岸上空を飛ばすことができれば、より広く、長い時間個体数を調査することができます」

 

潮間研究は成功もあり停滞する部分もあったが、バンダーワールは科学では予想できることだという。「いろいろな機体を使えば、よりよい詳細情報を得られますし、そのためのよいセンサーも得られると思います」とバンダーワールは言う。「コンセプトを証明してくれました」

ラッコの研究

アメリカ地質調査所アラスカサイエンスセンターの野生生物研究者、ダニエル・モンソンはラッコの研究において、無人航空機がラッコの採餌行動を観察する手助けにならないかここ数年考えてきた。研究者らは現在、ラッコがエサを取るためにどのくらいの時間潜るのか、何をとってくるか、エサを食べるのにどのくらいかかるかを観察するため、浜に立って高倍率の望遠鏡で見なければならない。望遠鏡は600メートルの範囲を見ることはできるが、その視界から外れたとき何が起こっているのだろうかと科学者らは考えた。揺れるボートの上で望遠鏡を使うのは難しい。ボートが動く中で高倍率のレンズの視界を制御することができないからだ。観察する者たちが海岸に立つのはそのような理由からだ。

 

無人航空機が動物の行動を変えてしまうようなことがなければ、こうした観察時の問題を解決することになるかもしれない。また、航空機を使えば上空からより良く見えるかもしれない。

 

この研究にとっては良好な天候だった。「スカウト」はボートからの離陸を含め30回上空を飛行した。これは、観察者にはできないことだ。おおかたラッコたちはクアッドコプターのうなり音を気にすることはなく、ずっと食べていた。とモンソンは言う。

 

この研究の目的は、無人航空機の使用や無人航空システムセンサーのスペックの要件を決定することだった。「私は、使える道具だと思っています」とモンソンは言う。しかし、思ったよりずっと複雑だった。「最初、小さなヘリコプターで誰でも操縦できるものだと思っていました」ACUASIは実験を行う場所に、キャンピングトレーラーを持ったチームを派遣していた。航空管制の監視をする人に加えて、無人航空機は操縦士、そしてその航空機の様子を監視し何か障害がないかどうか確認する人も必要とする。「この実験を終えた今、それが大きな仕事だということが分かりました。しばらくはこの無人航空機を利用するためにACUASIの協力を仰ぐ必要があるでしょう」

左から時計回りに:「ターミグン」が無人航空機に対するラッコの反応に関するデータを陸上にいる観察者に送る。■ラッコ(Photo by Brent Paull)■GoProが撮影したこのショーのスター
左から時計回りに:「ターミグン」が無人航空機に対するラッコの反応に関するデータを陸上にいる観察者に送る。■ラッコ(Photo by Brent Paull)■GoProが撮影したこのショーのスター

明るい未来

無人航空機の制御には高度な訓練を受けたチームが必要なだけでなく、無人航空機の研究には、機体を研究に統合してくれる人々が必要だ。こうしたミッションにおいて、例えばACUASIのチームは機体を活用するため、潮間研究やラッコについての科学を理解する必要があった。過去のミッションではACUASIのチームは複数の政府や研究機関の言語やプロセスを理解し、更に連邦航空局の要件も満たさなければならなかった。次のミッションにおいては、連邦航空局の要件は簡易になるだろう。ACUASIは最近連邦航空局から無人航空機を飛ばす国の許可証を得ることができたため、専門的に機体を利用するのに必要な許可を得ることが簡素化された。

 

モンソンは無人航空機が彼の仕事にもたらしてくれる可能性に様々な想像を膨らませている。無人航空機はタグをつけた動物を再度捕獲することなく、その動物からデータをアップロードする便利な方法かもしれない。単に、クアッドコプターを動物の上に飛ばして、コンピュータにログインし動物に取り付けたチップをコンピュータのストレージにアップロードするだけだ。また、燃料補給地がないため有人飛行機が飛ぶには難しい、アリューシャン列島のような遠隔地の海岸線をモニターするのに役立つかもしれない。

 

無人航空機に何ができるか想像することと、実際にできることは異なることが多い。バンダーワールによると、これらの2つのミッションのように、ゆっくりと始まる段階の多いプロセスだ。「私たちは機体とそれを飛ばすためのチームを提供しています。私たちは専門家なのです」とバンダーワールは言う。「しかし、機体をそうしたプロセスにどのように統合していくか、私たちも学ばなければならないのです」

Rotor Drone Magazine

Eco-Friendly Multirotors

November / December 2015