本日はカリフォルニア大学デイビス校ワンヘルス研究所のニュースEVOTISから、”How a Parasite in Cats is Killing Sea Otters - THE JOURNEY OF TOXOPLASMA GONDII”をお届けします。昨年10月ごろに見つけた記事だったのですが、翻訳が後回しになってしまっていました。日本では「トイレに流せる猫砂」が販売されています。北海道沿岸に住む僅かな野生のラッコもトキソプラズマの影響を受けているかもしれません。ネコの糞はトイレに流さず、必ず燃えるゴミとして処理をお願いします。
トキソプラズマ年表
年表をクリックし、モントレー湾で死んだラッコから陸上のネコにいたるトキソプラズマ原虫の道を逆にたどったカリフォルニア大学デイビス校野生生物保険センター研究者のカレン・C・ドレイヤーとトキソプラズマ原虫の時系列の物語をご覧ください。
1991-1992
復活しないラッコ
魚類野生生物局のデイブ・ジェスップ博士が、なぜ絶滅危惧種のリストに挙げられながらラッコの個体数が回復しないのかを断定するため、ラッコの健康状態についての調査を開始。現在、カリフォルニア大学デイビス校のワン・ヘルス研究所に所属しているリンダ・ローウェンステイン博士、ジョナ・マゼット博士とチームを組み、死因の調査を行なった。
1992-1998
数年にわたる研究
モントレー湾において、調査が続く一方、野生生物の獣医らはラッコの健康状態に対する脅威や、ラッコの死と関連する幅広い要因について断定するため研究を行なう。
1996
大きな発見
ラッコの死因として、トキソプラズマが発見される。謎を解読するため、パット・コンラッド博士とその研究所を雇用した。
1998-2001
動物、人間、そして環境を研究
カリフォルニア大学デイビス校や病理学、寄生虫学、生態学、疫学と獣医学の専門家らが集められ、トキソプラズマの広がり及びラッコと人間への影響を説明するための科学論文がいくつか書かれた。ワンヘルス研究所のクリスティン・クルーダー=ジョンソンは言う。「様々なスキルを持った多くの専門がが集まった結果、トキソプラズマの研究に不可欠なラッコに関する膨大な知識が集まりました」
2002
関連性の確立
カリフォルニア州魚類野生生物局のメリッサ・ミラーがラッコへのトキソプラズマの感染と、陸地からの排水の間に科学的な関連性を論文で確立した。
また、ラッコへのトキソプラズマの感染を示す抗体を見つけるため、カリフォルニア大学デイビス校の科学者らにより血清の検査が進められ、確証された。この検査は現在、世界中で海洋哺乳類におけるトキソプラズマ抗体を見つけるために利用されている。
2003
野生生物健康センターが謎を解き明かす
「カリフォルニアラッコにおける死因のパターン」という論文がJournal of Wildlife Disease誌に発表された。これはトキソプラズマがどのようにラッコの死因となるかについての論文である。この論文はカリフォルニア大学デイビス校に新設されたのカレン・C・ドレイヤー野生生物健康センターの様々な専門家の努力が結実したものである。
2004
ラッコはどのように感染するのか
この頃までに、科学者らはトキソプラズマがラッコを殺してしまう可能性があることを知っていたが、どのようにラッコに感染するのかについては分かっていなかった。カリフォルニア大学デイビス校の科学者と協働者らはカリフォルニアラッコの間で異常なトキソプラズマの感染がみられることを調べ上げた。また科学者らはDNA検査を用いることで、ラッコへのトキソプラズマの感染と陸上のネコ科動物、ラッコも人間も食用するムラサキガイの関連付けをおこなった。カレン・シャピーロはこの寄生虫が陸から海へどのようにたどり着いたかその痕跡を探るため、カレン・C・ドレイヤー野生生物健康センターへやってきた。
2005
国立科学財団による186万ドルの資金提供
トキソプラズマ原虫の感染における3つの側面(陸上生態系、陸ー海間の感染移動、ラッコ生態学)の研究のため、国立科学財団は一連の協働者らに対し186万ドルの資金を提供した。その研究はカリフォルニア大学サンタクルーズ校との複数機関協働としてカリフォルニア大学デイビス校獣医学部、カリフォルニア州魚類野生生物局、ブリティッシュコロンビア大学、カリフォルニア州立大学フレズノ校、生態系学研究所によって行われた。
2006
ネコの研究
陸上でトキソプラズマが普及していることを突き止めるため、リズ・ワーマーがカレン・C・ドレイヤー野生生物健康センターのチームにに加わった。ドレイヤーは陸上におけるトキソプラズマの宿主(ネコ、齧歯動物やその他の可能性のある宿主)を研究した。その結果、環境に対しもっともトキソプラズマを排出しているのは、ピューマのような野生のネコ科動物ではなく、飼い猫や野良猫であることが分かった。
2009
エサの選定と生息地の利用
クリスティーン・ジョンソン博士による研究は、ラッコが病原体にさらされる可能性を増やしているのは何かを調べることだった。この研究は個々のラッコの行動やエサの選定、生息地の利用と結びついた病原体への感染のパターンを突き止めた。そして、エサ資源の豊かな海洋生態系において好まれるエサであるアワビを食べるラッコは感染の危険性が低く、一方小さな貝類を食べるラッコはトキソプラズマ原虫へ感染しやすいことが発見された。
2010
成功を認められる
国立科学財団はトキソプラズマの研究を継続するため、カレン・C・ドレイヤー野生生物健康センターの研究者及び、協働するカリフォルニア大学デイビス校・サンタクルーズ校の海洋学者らに研究費(今回は250万ドル)を提供した。
2010-2014
食物網へ
海洋物理学者や海洋生物学者らとの最先端の研究を通じて、トキソプラズマのような陸上の寄生虫がどのように海洋食物網の中に取り込まれていくかという刺激的で新しい調査結果が発見され、ラッコへの感染経路について初めての見識がえられた。
2015
次は?
トキソプラズマに関する研究は、カリフォルニア大学デイビス校と協働する施設で続いている。多くの博士過程学生、ポスドク、大学生、職員とスタッフが、進行中の研究に貢献しており、このチームは、沿岸開発と気候変動との関連についてを調査している。
野生生物健康センターのチームはラッコに感染しているトキソプラズマから得た個々の分離された100以上のトキソプラズマ分離株を分子的に特徴づける試み広範囲で開始した。それは、なぜトキソプラズマに感染して死ぬラッコと死なないラッコがいるのかを説明する手助けとなるかもしれない。協働チームは沿岸生態系における病気のダイナミクスをモデル化する取り組みを行っており、カリフォルニアラッコにおける長期的な死因のパターンの再検討は2016年に完了する予定だ。
新しく資金提供が行われることにより、陸由来の病原体がラッコのみならず人間に対する感染の仲介になるという意味でも、ケルプの森の役割が拡大することを願いつつ、研究が続けられている。
陸上の寄生虫はどのように海にいるラッコの死に影響を及ぼしているのだろうか。
答えは、トキソプラズマ・ゴンジと呼ばれる寄生虫と、その寄生虫がネコから環境を通じて野生の海洋哺乳類に達する長い旅にある。その物語は注目に値する。何故なら、私たち人間がその過程において能動的な役割を果たしており、また同じ寄生虫によって病気にかかる可能性もあるからだ。
トキソプラズマ・ゴンジは事実上、全ての恒温動物に感染する可能性のある寄生虫だが、決定的な宿主として知られているのはネコ(屋内で飼われているネコ、外に出るネコを含め)だけである。ネコは齧歯類(訳者注:ネズミなど)や鳥などを通じて寄生虫に感染し、糞を通じてその寄生虫を環境中に排出する。
実際、アメリカ人の15~18%はトキソプラズマに感染している。人間の身体はトキソプラズマと戦うことはしない。そのため寄生虫は筋肉や神経組織の中で休眠状態にあり、ほとんどもしくは全く害がない。しかし、これも体が免疫抑制されていなければのことで、免疫抑制されている場合、寄生虫は再び活発になり、病気や死をもたらすこともある。エイズ患者にとっては、これは特に不運なケースである。
オーシストとは卵のような構造のもので、ネコが糞中に排出する。これは寄生虫の有性増殖により形成され、決定的な宿主の消化器官でのみ発生する。一旦感染してしまうと、ネコはその後最長2週間にわたり、何億ものトキソプラズマのオーシストを排出していく。
妊娠中の女性がしばしばネコの糞に接触しないように言われるのはこのためである。妊娠中に感染した母親から、胎内の子どもに感染し、その結果胎児に大変な病気を起こす可能性があるからだ。
オーシストは環境からの様々な障害に対して強い抵抗力を持っているため、トキソプラズマは冷たい水の中で何年も安定した状態を保つことができる。オーシストは海に到達すると海水中のケルプやマリンスノーに付着し、その時点で海洋食物網の中へ取り込まれることになる。海草から排出される粘着性の物質により、オーシストは直接ケルプに付着し、そのケルプはターバンスネイルという巻貝が好んで食べるエサになる。それからオーシストは偶然巻貝に取り込まれ、そしてラッコがその巻貝を食べるのだ。ネコからラッコに至る旅は完結となる。
ラッコはグルーミングをしたり他のエサを食べたりすることでオーシストを飲み込んでしまうこともある。科学者らは最近食用のモエギイガイというニュージーランドの貝からトキソプラズマを発見している。
ラッコへの感染を防ぐために
トキソプラズマがラッコに感染する3つの大きな要因がある。
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ネコ:カレン・C・ドレイヤー野生生物健康センターの研究によりネコが原因でオーシストが沿岸水域に達することが分かっている。
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湿地帯の減少:湿地帯の破壊はフィルタ能力を喪失に繋がり、湿地帯があれば糞中の病原菌がそこに留まるが、なければ海中へ流れてしまう。
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排水:私たちが住む町は水を通さない土地に作られており、セメントの上に雨が降ると、自然な土の上に降る時よりも多くの排水が生じてしまう。そのため増加した排水により糞中の病原体が海へ流れ込んでしまう。
こうした危険要因を理解したうえで、こうした問題を緩和していくために人間には何ができるだろうか。
ネコは屋内で飼う。そしてもしネコを外に出すなら、ネコのトイレを家の中と外の両方に置くのがいいだろう。そうすれば糞は環境中には決して入り込まない。もしネコが外で糞をしたら、拾ってビニル袋に入れ、ゴミ箱へ捨てる。
またネコを去勢・避妊する。ネコの数が減れば、徘徊してトキソプラズマに感染し広めてしまうネコも減る。
湿地帯や海との境界になる自然の土地の保全活動や再建をサポートする。
家や庭のデザインを考える際は、環境に配慮する。極力自然を多く残せば、水は排水にならずに帯水層へ戻っていく。
訓話
問題というのは、単独で発生するものではない。人間や家畜などが原因で起こる環境汚染は、見えないところで長く影響を及ぼす可能性がある。そういう意味ではトキソプラズマは恐らく氷山の一角だろう。ネコ由来の病原体によりラッコが病気になったり死んでしまったりするなら、環境を通じて海へ流れ込む他の病原菌もあるだろう。そうした病原菌が今、あるいは将来的に、海の動物や人間に対しどのような影響を及ぼすのだろう。
ワンヘルス研究所は動物、人間そして環境全てを総合して研究しており、こうした難しい問題を解決していくためにその取り組みは不可欠である。
ONE HEALTH INSTITUTE EVOTIS vol.7
How a Parasite in Cats is Killing Sea Otters-THE
JOURNEY OF TOXOPLASMA GONDII
By Desiree Aguiar, Karen Shapiro, Justin Cox and Christopher Ancheta.
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