【記事】ラッコの復活をめぐる対話 | Coastal Voices: Navigating the Return of the Sea Otter

 本日は、COASTAL VOICESというウェブサイトから、カナダのサイモン・フレーザー大学による”Coastal Voices:Navigating the Return of the Sea Otter”という動画の書き起こしをご紹介いたします。アラスカ先住民は昔からラッコと共存してきました。ラッコの乱獲による減少ののち、アワビやウニが増え、その漁を生業とする人も増えました。そして今、ラッコがかつての生息域に復活し始めたとき、それらをめぐって人間とラッコの間に軋轢が生まれはじめます。人間とラッコがどのように共生していくべきか、先住民とラッコ研究者らがお互いを尊重する対話を始めています。

2014年、様々な人々で構成されるグループが、新しい考え方を知り耳を傾けるために危機に瀕している海に対する情熱を分かち合った。このグループは先住民のリーダー、芸術家、科学者、ジャーナリストらから成り、ブリティッシュコロンビア州の中央沿岸部に集い、ラッコの復活による大きな変化について話し合った。我々の目的は、伝統的な知識と西洋科学を通じ、情報を共有したり、沿岸に住む人々のコミュニティがラッコの復活による生態学的、社会経済学的な変化をうまく切り抜けていくための、お互いを尊重する対話を行うことにある。我々の対話をご覧いただきたい。

女性: 雲に触ったらきっとこんな感じなんだろうと思いました。柔らかで、毛が密で。

男性: ラッコの毛皮は、族長や偉い猟師だけに許されていました。地位の高い人だけがラッコの毛皮を持っていたのです。

Hup in Yook, トム・ハピーヌック

Huu‐ay‐aht族 代々の捕鯨船長, ヌートカ族
私たちの言葉では、ラッコを「クワックワッ」と呼びます。

 Wickaninnish, クリフ・アトレオ

ヌートカ族カウンシル前会長
「クワックワッ」ですね。どういうスペルかは私に訊かないでくださいよ。

Kii'iljuus, バーブ・ウィルソン
ハイダ族の女族長
「クー」です。私たちは「クー」と呼んでいますね。

Wigvilhba Wakas, ハービー・ハンチット Sr.
ヘイルツク族の代々の族長

ラッコはわたしたちの環境にいるべき場所があると思います。ラッコはケルプの森が育つ場所で重要な役割を果たしています。私たちはラッコがいなければケルプの森はウニに占領されてしまうということを知っています。だから、そのバランスをどう維持するかを学ばなければならないのです。

アン・サロモン
サイモン・フレーザー大学

人間とケルプの森そしてラッコの関係は文字通り千年にも及び、実際、こうした関係を管理している場所があります。毛皮貿易は、そうしたものをことごとく変えてしまいました。毛皮貿易はラッコを消し去ってしまっただけではなく、ラッコのエサとなる生物、つまり甲殻類、ウニ、アワビ、貝、そしてそうした生物を頼っている生物の増加を招きました。そうしたエサになる生き物がより手に入りやすくなり、人間はそうした生き物により依存するようになったのです。家族が食べる分だけではなく、生活の糧を得るための仕事としてです。 

 

現在ラッコが戻ってくると、私たちが好んで食べ、経済的な価値に頼ってきた貝や甲殻類と同じものが減ることになり、それが軋轢を生みだしたのです。

ボニー・マッケイ
ラトガース大学
ラッコの復帰は確かにある種の問題を引き起こしています。自分たちの地元の海のスペースをどう管理すべきかということを人々は本当に注意して考えなければなりません。また、ラッコが帰ってくると利用可能な魚介類の量が減ってしまうため、もう魚介類はいらないとするかということも。そうして、こんな疑問を持ち始めるのです。「私たちがここに必要としているものは本当は何なのか?」と。それはまるで、この地域の先住民グループの立場での領有権を新たに確約することを求め、そこから利益を得ようとしているように聞こえてしまうのです。

男性
私たちの仲間には伝統的にこうした資源を責任をもって管理している者たちがいて、私たちの領域でラッコが増えると、この一家が私たちが貝を採る浜やカニを獲る地域を守る役目を果たしていました。

 

Kii'iljuus, バーブ・ウィルソン

ハイダ族の女族長
昔、ハイダグワイでは、族長や猟師らが自分のテリトリーでラッコ猟を行っていました。男たちは出かけるまえに儀式を行い、ケルプの森をたやすくすり抜けられるカヌーに乗り、槍やこん棒を使いました。ラッコはラナアグア(?)と呼ばれるヘッドピースに使ったり、冬の間家の中で温かく過ごすため壁を覆うものとして使われました。寝具としても利用されました。

ラッコが描かれた槍
ラッコが描かれた槍
ラッコの毛皮のヘッドピース
ラッコの毛皮のヘッドピース

イアン・マケニー
オレゴン大学/サイモン・フレーザー大学ハカイ研究所

私たちは北部の沿岸域4か所で、考古学的にラッコの食生活が特化していることを見て、このラッコたちが占めている非常に狭いニッチがあるということが分かりました。それは、人間がラッコの生息数を最大環境収容力を越えないよう保ってきたということを示しています。つまり、貝や甲殻類などの資源を利用し続けられるよう、ラッコをある地域から故意に追い出していたということです。これが、今日、先住民に継続的に広くみられるラッコの取り扱い方なのです。

Hup in Yook, トム・ハピーヌック
Huu‐ay‐aht族 代々の捕鯨船長, ヌートカ族

私の祖父がよく言っていたのですが、ラッコが浜に上がってこないように、ラッコを数頭殺して浜の前に繋いでおいたそうです。そうすれば浜に上がってきたラッコが殺された仲間のラッコを見て、思いとどまるのです。

ジェームス・エステス
カリフォルニア大学サンタクルーズ校

私は様々な人たちによるグループと仕事をします。ラッコが大好きでどんな理由にせよラッコが傷つけられることを望まない人たちもいます。水産業と深い繋がりがある人々もいます。どちらの人々も尊重していますが、彼らの考え方は根本的に異なっていて、私自身の考え方はその中間にあると思います。

ジェーン・ワトソン
バンクーバーアイランド大学
ラッコは貝や甲殻類を食べます。ラッコはウニを食べ、ウニはケルプを食べます。ケルプに依存している生物にとってはいいことです。でも、ウニやミル貝を獲ったり、間潮帯で貝を掘ったりしていたら、ラッコと競争することになってしまいます。そうした人のラッコの行動に対する考え方は、ケルプを見る人の考え方ほど好意的ではないでしょう。良し悪しの問題ではなく、ラッコは生態系において重要な役割を果たしているというだけのことなのです。

ティム・ティンカー
カリフォルニア大学サンタクルーズ校
私たちが研究している生態系を通じて広がる間接的な影響が非常に大きいのです。一般的には、生態系にラッコや他の大型の捕食者が復活することは社会にとって非常に重要です。なぜなら、そうした動物たちは人間同様非常に大切な役割を果たしていたからです。この生態系には、そうした大型の捕食者も人間も含まれていたでしょう。本当に大切な機能を果たしていたんです。

 

Guujaaw

ハイダ族

人間も自然の一部、生態系の一部、バランスをとるものの一部としてみなければなりませんし、そのような役割を果たさなければなりません。貝を掘ったことがない人や、食事のために動物を殺したことがない多くの人たちにとって、私たちが住んでいる世界は別の世界に思えるのではないでしょうか。

 

 Wickaninnish, クリフ・アトレオ

ヌートカ族カウンシル前会長

イサク(?)というのは、自分や他者、生き物や命のないものに対する尊敬の念です。それが統治の柱です。??(聞き取れず)と呼ばれる統治の道具箱があり、そこには族長が部族を支配するために必要なものが全て入っています。何が入っているのかというと、??(聞き取れず)や様々な資源を獲る許可のための彫刻などです。

Guujaaw

ハイダ族

保護地区というのが、人間を追い出しそこから何も利益が得られない所なのだとしたら、私たちの民族にとっては良いことではありません。管理が必要な場所というのは自然の世界とは言えません。管理されるべきなのはむしろ人間のほうなのです。

Wigvilhba Wakas, ハービー・ハンチット Sr.

ヘイルツク族の代々の族長
伝統的な知識と、科学的な知識を融合させることが重要だと思います。お互いに耳を傾けることが有効だと私は思っています。

アン・サロモン

サイモン・フレーザー大学
過去にあった領有権が、今日のこうした軋轢や取引を解決するために使われるかもしれません。

ジェームス・エステス

カリフォルニア大学サンタクルーズ校
ラッコについての問題が、何度も何度もまるで水産業との軋轢だけのように持ちあがっているように思えます。でもそれは単に水産業との軋轢の問題だけなのではなく、多くの間接的な影響を巻き込んでくる問題なのです。

ロバート・ペイン
ワシントン大学
これらは私たちにとって最大の生態系であり、そこに栄養カスケードがみられるというまことしやかで信用できる論争をすることもできるでしょうが、よく見てこれが力学的な世界であるということを考慮する必要があります。この力学を無視したり失ったりすれば、理解という意味では私たちは再び科学的な暗黒時代に戻ることになってしまいます。