【記事】誰もラッコを撃ちたくなどない(4) | Why would anyone want to shoot a sea otter? (4)

本日から2015年3月10日付のThe Guardiansから、"Why would anyone want to shoot a sea otter?"のパート4、完結編です。

様々な経験を経てラッコ猟をし毛皮で作品を作るという仕事を選んだ、アラスカ先住民の血を引くある男性。ラッコの毛皮をファッションに再度取り入れる試みは、まだ続いています。

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2月半ば、ウィリアムスが毛皮を携えてニューヨークへ行った時、ニューヨークは過去20年で最も寒い日を記録していた。シトカよりずっと寒く、川は凍り初めていた。飛行機の中でベストの縫製を終え、ブッシュウィックの友人の家のソファーで、ドラマ『House of Cards』を続けざまに見ながら、ギフトバックに入れるアザラシのイヤリング100組の組み立てを終えた。夜中の気温はマイナス5度、風によりマイナス25度にまで下がった。そんな天気は毛皮がステイタスシンボルであり、ニューヨークの7つのファッションブロックが毛皮で一杯だった時代を思い出させた。


6年前、ウィリアムスはニューヨークで行われたきらびやかな毛皮エキスポに現れた。カーゴパンツを穿き、髪を肩まで伸ばしてホール内を歩き回った。(「俺が今までの人生で稼いだよりももっと高い宝石をつけた人たちを見た」)その後、何度かニューヨークを訪れる機会があったが、彼は自分の毛皮の作品を身に付け、ソファーに座り、なんとかパーティーに参加させてもらい、地下鉄に乗っていた人と友達になった。東海岸の毛皮市場と接触がなかったため、操業100年の毛皮会社に電話して関係を築き、毛皮を測ったり等級を付けたり型紙を切ったり、衣服の類を作る方法を学んだ。「自分が『プロジェクト・ランウェイ』(デザイナーが競うアメリカのリアリティ番組)に出演してるみたいだった」と彼は言った。


今日、リンカーンセンターにあるファッションウイーク本部では、毛皮のマフラーやストール、毛皮の縁取りが流行しているようで、至るところに見かけたが、そのほとんどはフェイクだった。ネパール系アメリカ人のデザイナー、プラバル・グランはアメリカ先住民のモチーフにインスピレーションを受けた毛皮のコートでデビューした。19か月の子どもが、3,500ドル程度と思われるキツネの毛皮のコートを揺らしていた。毛皮は「とんでもない復帰を遂げた」とウェブサイト、ファッショニスタは報道した。「我々は、これほど毛皮の露出が多いシーズンのショーに名前を付ける必要に迫られている」


ダウンタウンでは、ウィリアムスはファッションPR映画が企画した1日「反・展示会」が行われたテックスタイルのラウンジに座っていた。「インサイダー・パッケージ」を購入することで、ショーでごった返している街をロフトスペースから見下ろすことができたり、POPディスプレイを出したり、招待があったり、VIP用のギフトバックがもらえたり、ロゴを付けられたり、プロフェッショナルのシンボルのようなものが得られた。ステージはなかったが、3人のモデルたちと知り合った。魅力的で親しみやすく、不思議な感じのするモデルたちだ。モデルたちは、彼のベストを着てカフ(腕輪)やヘッドバンドを付けていた。彼らは、舞台から離れて休憩し、何か目新しいものを探しに来た「インフランサー(影響力のある人)」と呼ばれるブロガーたちや、超富裕層たちや、その取り巻きたちに挨拶した。ウィリアムスは、知り合いになれる機会を探っていた。


テックスタイルのラウンジは販売用の会場ではなかったが、ウィリアムスは60ドルのアザラシ皮のヘッドバンド(ラッコ皮は300ドル)から1,500ドルする3種類のベストを含む8種類の作品を持って行った。「誰か小売業者を見つけられたらいいんだけど」と彼は言った。「卸から作品を買い付けしたい人にね」あるいは、作品を幾つか置いてくれるブティックも。彼の作品は、Esty(オンラインで手づくり作品などを販売することができるサイト)に出したり、工芸品フェアに出したりするには少し高いが、ハイエンドなファッションの基準からすればごく普通である。全ては彼の顧客を見つけることに他ならなかった。おそらくは、何か物語があり、ネタになり、珍しいものを探している流行の先端をいく金持ちのような顧客を。


ウィリアムスは入口近くでモデルと自分の作品を携え、て立っていた。その隣には大きな自分の写真があり「私はラッコを狩り、そして縫う」という弁解抜きの言葉が書かれていた。その部屋には10近くの他の「ブランド」が、非公式にコーナーを設けており、どれもが成功して確立しているように見えた。オーガニックのリップクリーム(「6種以下の材料からハーレム地区のキッチンで手づくりされたもの」)や「フィットシーツのようにヨガマットにぴったりするホットヨガ用タオル」などがあった。その朝、「インフランサー(影響力のある人)フィットネスイベント」ではアーユルヴェーダ(インドの伝統的治療法)のペロペロキャンディーが取り上げられた。人々はオーガニックのメープル・ウィーターや「クチュール・ティー(個人のために配合したお茶)」で喉を潤していた。

作品を着たウィリアムス。ニューヨークにて。 Photograph: Tim Knox
作品を着たウィリアムス。ニューヨークにて。 Photograph: Tim Knox

ニューエイジでニューエコノミーのカーニバルの締めくくりには、マイナーな有名人が登場した。現れたと言われているのは、リアリティ番組「メイド・イン・チェルシー:NYC」のビリー・キャロル、18歳のインディー・カー(自動車のレース)のドライバー、ルカ・フォルジョワ、作家でありインストラクター、フィットネスコーチでもあるナディア・マードック。人脈作りと露出目的であったが、Shaman Fur(ウィリアムスの商品のブランド名)にハッシュタグを付けてインスタグラムやツイッターに投稿する有名人は皆無だった。午後、時間が過ぎていくと、ウィリアムスは次第に苦悩に満ちていくように見えた。「このプレミアムな作品を皆見て気に行ってくれるのに、一つも売れないとはね、面白いもんだね」彼は言った。「ここに商品はある。みんな気に行ってくれる。他にはない。特別だ。しかし一体どうやって売ったらいいんだ?」


「通りすがりの人で、触っていかない人はいないよ」モデルの一人、アンソニーは言った。アトランタから来たという、ライフスタイル・コーチが立ち止まって写真を2、3枚撮った。出版社の人に追いかけられ、金色の靴とアーミーパンツをはいていた。「セクシュアルだね、暖炉の前にいるみたいだ」と、出版社の人が、指で毛皮を撫でながら言った。あるブロガーは、Shaman Furを「自然に近い本物の獲物」と評したが、不快さも表した。「PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)のメンバーは何て言うべきだろうか」世界における、毛皮貿易はまたブームになってきている。国際毛皮連盟によると、市場は年間に400億ドル(約4兆8000億円)、その85%は養殖で、その他や野生動物を狩猟したものだ。しかし、反毛皮キャンペーンはまだ共感されている。


次の朝ウィリアムスに電話すると、彼は努めて明るく振舞おうとしているようだった。「皆興味を持ってくれたし、俺のやっていることを理解してくれていたと思う。でも、何のコネクションもできなかった。ブティックや小売業者と話ができなかった」彼は空港に向かっている途中だったが、私はまたニューヨークで会えるか尋ねてみた。「できるだけポジティブになろうとしてるんだ」彼は言った。「一歩下がって、リラックスして、もう一度始める。そうすれば、いつも魔法が起きるんだよ」しかし、状況が変わらなければ、航空会社の荷物係をして働くか、ドラッグカウンセラーになるトレーニングを受けなければならないかもしれない、とウィリアムスは言った。猟とデザインは時々やる仕事という位置づけになるだろう。


数日後、再度話した時には、ウイリアムスはアラスカに戻っており、少し元気になっていたようだった。彼と彼のガールフレンドは接続の飛行機を逃してしまったが、航空会社がしゃれたホテルを用意してくれたので、「ボーイフレンド・ポインツ」という下らないテレビ番組を見た、とウィリアムスは笑って言った。園芸をするのを楽しみにしているんだ、と彼は言った。そして、書類を出したばかりの、4月にブルックリン地区で開催されるファッション・ウイークへの申し込み心配していた。最初の日に戻り、彼はまた、猟場に出かけていった。

らっこちゃんねるより

4回にわたってお送りした長編ノンフィクション、いかがでしたでしょうか。

ラッコに関する物語というよりは、ラッコと密接に生きてきた先住民の血を引く一人の男性が抱える苦しみについての物語です。このような記事はあまり目にすることがないので、ぜひご紹介したいと思い、翻訳しました。

 

白人の中の先住民としてもマイノリティ、先住民の中でも更にマイノリティのユピックとして二重の苦しみを背負ってきたウィリアムス。複雑な家庭環境や先住民としての生い立ちは、彼の人生を一層難しくしてきたのでしょう。こうして猟をし、作品を作ることでしか、彼は自分のアイデンティティの居場所を見つけられなかったのかもしれません。

彼がファッションの世界で成功するかどうかは分かりませんが、一人の人間としては、もがき苦しむ人を応援したい気持ちもありますし、一人のラッコ好きの人間としては、彼がラッコを殺める以外の手段で、何か自分を表現でき、満足できる方法を見つけてくれたらいいなとも思います。


誤訳・誤字脱字等たくさんあるかと思いますがご容赦くださいませ。

記事元:
Ross Perlin

Why would anyone want to shoot a sea otter?

the Guardian |  Tuesday 10 March 2015 02.00 EDT Last modified on Tuesday 10 March 2015 09.00 EDT