本日から2015年3月10日付のThe Guardiansから、"Why would anyone want to shoot a sea otter?"を数回に分けてお届けします。
アラスカ先住民の血を引くある男性。自らラッコやアザラシを捕り、肉を食べ、その毛皮で衣服やアクセサリーなどを作って売っています。元記事のコメント欄先住民の文化の継承を理解する声、この男性に対する批判的な意見で大荒れでした。
100年前ラッコはほぼ絶滅していた。数十年に渡る保護活動が行われている現在、あるハンターがラッコの毛皮を再びファッションにもたらそうとしている
※緑字は訳者による註
猟に行く度、ピーター・ウィリアムスは引き金を引く前に獲物に無言のメッセージを送る。「お前の命をおくれ。私はお前の肉を食べよう。お前の皮から美しい服を作ろう」1月半ばのある寒い午後、33歳のウィリアムスは無人島のフジツボと鳥の糞にまみれた岩場に跪いていた。アラスカ南東部の海岸沖にある狭い海、シトカ湾に囲まれた場所だ。ウィリアムスはオレンジ色のコートを羽織り、耳当てを付けている。ライフルは岩の間の隙間に置かれている。約100フィート(30メートル)先では、10頭ほどのラッコが水面にぷかぷかと浮いていた。ウィリアムスは、群れの端にいたラッコを狙うことにした。彼にとって、これは儀式だ。獲物を探して海面を見渡すとき、彼の眼は不自然に大きくなり仮面のようになって、頭を回転し始める。
彼の獲物は、心を溶かすような可愛らしさのために進化してきたように思える。黒くつぶらな瞳。柔らかい三角形の鼻。すぼまった小さな口。ラッコは、毛皮に包まれた子犬や人間の赤ん坊のようにも見える。手を取り合って、一緒にいる。「ラッコは本当に人間っぽいんだ。体つきのような見かけだけだはなくて、振舞いも。とても社交的で、家族思いだ。頭がよくて、陽気なんだ」とウィリアムスは言う。ラッコは仰向けになって足を突き出して浮かび、100頭ほどにもなるラフトと呼ばれる群れを作る。寝る時には、長いケルプを手繰り寄せ、沖へ流されないようにする。
ウィリアムスはラッコの毛皮を求めていた。動物界でもっとも密度が高く、柔らかい毛皮だ。ロシアの貿易商たちはかつてその毛皮を「ソフトゴールド(柔らかい金)」と呼んだ。同じような素材は他にない。黒く、滑らかで光沢のある毛皮はすぐに心地よくなるため、まったく毛皮のようには思えない。人間でも頭に15万本以上毛が生えている人は少ないが、ラッコは体温を保持するため2層の抜けない体毛があり、その数は1平方インチあたり100万本ほどにもなる。
ウィリアムスは自分で獲ったラッコの毛皮を使い、自分でデザインして服やアクセサリーを作る。忘れられ、禁じられたラッコの毛皮を使った市場をよみがえらせるため、彼は自らを傷つけられた文化の再興者とみなしている。彼の父親はアラスカ先住民で最も大きな民族グループであるユピックだった。ユピックは民族全体として不相応なことではあったが、貧困や薬物乱用、自殺、レイプなどに苦しんでいる。海洋生物の猟をする伝統はアラスカの先住民の間に深く根付いていたが、18世紀初頭に白人の移民が先住民のハンターたちを強制徴用し、多くの種を根絶に追い込んだ。
岩の上で、消音銃が静寂を切り裂いた。ラッコの群れがひっくり返り、10頭余りのラッコの頭が散り散りになると、ウィリアムスは2頭目を狙い打った。はやく一発で殺すには頭を狙うのがいい、とウィリアムスは言う。「弾が当たると、音がするんだ。弾が止まると、ゴツンというような音がする。キノコのように広がり、膨らんで弾け散る」55グレイン、.223口径のソフトポイント弾だ。
ウィリアムスは島のすぐそばに付けてあったボロボロの船ジェンナ号へ進んだ。船の中に溜まったバケツ何杯か分の水を捨て、エンジンをかけ、獲物を追いかけた。海に沈んだり、流されたりしてしまうかもしれないからだ。小さな島々が、シトカ湾に散在している。湾は、遠くで寒冷な太平洋へと繋がっている。火山は雪を被っていた。
「ラッコを取りに行くと、まだ生きていることがある。命というのは、強い力を持っているものだね」
数分後、ジェンナ号は二つの膨らんだ、艶やかな毛皮の側に止まった。両方とも、メスだった。1頭は若い、人間で言えばティーンエイジャーにあたるラッコだった。もう1頭はがっしりした年老いたラッコで、白い毛があり、体長は5フィート6インチもあった。「ラッコを取りに行くと、まだ生きていることがある」とウィリアムスは言う。「だから、アルミニウムのバットを持ってくるんだ。命というのは、強い力を持っているものだね」彼の主張はこうだ。「棒で殴るのが、殺すには本当にいい方法なんだ。ちゃんと、頭を狙って打てばね」
ウィリアムスはラッコの襟首を掴み、ボートに下ろした。1頭はヒゲが血まみれになっており、目が充血していた。パイレーツ湾と呼ばれている、エゾマツが生い茂り泡の斑点がついた緑色の水をした隠れた湾にジェンナ号を向かわせた。玉石の散らばったこの寒い海岸で、ウィリアムスはスキニング(皮はぎ)を行う。死体を浜に取り出すと、ウィリアムスの防水ズボンに血がしたたった。それから、人類学者の研究から学んだ古いユピックの習慣にのっとって、ラッコの口を持ち上げ、最後の水を与えた。「ラッコは一生を海水の中で過ごすので、すごく喉が渇いているだろうという考えからきたものなんだ」彼は、のちに私にそう話した。「そのハンターが最後の水をくれると分かったら、命を差し出してくれるんじゃないかってね」その動物の魂は、再び他の肉体に宿ってそのハンターを訪れるのだという。ウィリアムスは自分で水をごくごくと飲んだ。
「本当は好きでやってるわけじゃない」そうウィリアムスは言う。皮をはぐことではなく、皮をはぐのにビニルの手袋をすることについてだ。「直接触れられないから」しかし、以前は手袋を使っていなかった。数か月前、ウィリアムスは「シールフィンガー」と呼ばれる、アザラシの骨や毛皮を扱う人がよくかかる感染症にかかってしまった。最初、彼の左手の親指が風船のように膨らんだ。それで抗生物質を数か月間も飲むことになった。それから、うずくようになり、足が燃えるように熱くなり、不眠症、体中の関節の痛みー考えられるのは自己免疫反応だった。狩りもデザインも縫製も、仕事をすることはほぼ不可能になった。しかし、彼は続けるしか、ほとんど選択肢がない状態だった。たくさんの借金があったが、ウィリアムスは2月にニューヨークで行われたファッションウイークに向け、ネットワークを作り、人々をひきつけ、足がかりを得ることができた。貧困ラインの下でなんとか暮らしながら、彼は最後で最高のビジネスを始めることができたと思っている。ファッションウイークまでは1か月もなかったが、彼はしなければならないことが37もあった。
若いラッコに取り掛かると、太ももの内側としっぽの周りを切り、前足と手首の周りに切り込みを入れ、顎の上まで切った。毛皮がジッパー付きのジャンプスーツ(上下つなぎの服)のように開き、紫色をした肉が詰まった助骨と、絡まった腸が露わになった。ウィリアムスは組織と膜をこぞぎ取るために、カーブした中程度に研いだ大きな刃を作った。10分後、皮はなんとか剥がされた。
「鳥たちに肉を残してあげるんだ」ウィリアムスは一番おいしい背中の肉をジップロックの袋に詰め込みながら言った。「時々、カモメたちと仲良くなる。でも、作業が終わるまでは肉をあげちゃいけないと分かった。もっとくれ、としつこいからね」ウィリアムスは歯を取り出した。その歯から、生物学者たちはその年齢を特定するんだ、とウィリアムスは言う。ハンターたちは、ラッコを殺すと必ず歯を提出しなければならない。そうした恐ろしい方法で、個体数を監視するのだ。昔は頭蓋骨を提出しなければならなかった。ウィリアムスは、死体と内臓を、海の中へ投げ込んだ。
「あの血は」足下の、湾内の水が鮮やかな色に変わっていくのを指して恍惚と言った。「美しいエレクトリックな赤だね」闇が迫る中、カモメたちが頭上を飛びまわり、鳴いていた。
「天国みたいだ」
* * *
パート2へ続く>>
記事元:
Ross Perlin
Why would anyone want to shoot a sea otter?
the Guardian | Tuesday 10 March 2015 02.00 EDT Last modified on Tuesday 10 March 2015 09.00 EDT
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