本日は、11月10日付のseaotter.comの記事"The Sensitive Whiskers of Sea Otters"をお届けします。
ラッコのヒゲは系統的に近いカワウソよりも、同じように海底で餌を獲るアザラシやアシカなどのヒゲと構造が似ているということが分かりました。
らっこちゃんねるより
今回は専門用語が多く非常に翻訳が困難で日本語に翻訳しても何かよく分からないということがおきてしまいました。日本の解剖学の本などを調べることができなかったため、正しい専門用語や表現に訳されていない部分がある可能性があります。誤訳等お気づきの場合はご指摘いただけましたら幸いです。
緑文字は読者の皆さまの便宜のため、訳者が加えた注意書きもしくは説明です。
なお、専門用語の一部についてmonchan様にご協力を仰ぎ、快く応じていただきました。この場を借りまして感謝申し上げます。
ラッコは多毛な海洋哺乳類
ラッコは、海に戻った動物の中では最も小さく、最も新しい海洋性哺乳類です。体毛を持つのは哺乳類のみであり、ラッコはこの点において並外れています。ラッコの体毛は動物の中でもっとも密度が高く、1平方センチメートル当たり15万本に及びます。ラッコは他の海洋性哺乳類とは異なり脂肪層を持たないため、体温を保持するためにこの高密度の厚い毛皮を利用しています。また、ラッコには触毛と呼ばれる(通常はヒゲとして知られている)他とは異なる、特別な毛が存在します。ペットの犬や猫を含むほとんどの哺乳類がこの触毛を持っています。
ヒゲの役割
ヒゲは、周囲の環境から脳まで、触覚情報を伝えることに特化した感覚を持つ毛です。物体に直接接触して毛幹(皮膚から出ている部分の毛)が動くか、もしくは空気や水の動きによりこの機能が達成されます。ヒゲは他の体毛とはその構造が異なっています。柔軟な組織、神経、そして血洞(血に満たされた管)に囲まれた毛幹で構成されています。こうした構造や血洞は、毛胞を構成する硬いコラーゲンの被膜の中に閉じ込められています。専門用語では、毛包-血洞カプセル(Follicle-Sinus Capsule)略してF-SCと呼ばれています。毛包-血洞カプセルにはそれぞれ深部洞毛神経が通っています。この神経は毛包-血洞カプセルの内部組織にある受容体(機械受容器と呼ばれる)に繋がる多くの軸索(神経細胞からのびた突起で, 細胞本体から神経衝動を伝える)で構成されています。毛幹の動きは機械受容器を刺激し、その受容器が軸索を経由しその動きに関わる情報を脳へ送り、脳がその感覚を受け取るのです。個々の毛包-血洞カプセルの感度は、これらの軸索の数を数えることで推定することができます。
▲ラッコの毛包-血洞複合体の銀染色(細胞内外に存在する好銀性タンパク質やDNAを見るための染色法)
写真A:中央に縦に伸びる部分はDVN(深部洞毛神経)。LCS(下部海綿静脈洞)から小柱帯とMS(結合組織性毛包)を抜け、RS(輪状静脈洞)のRW(環状塊)へ向かって上に伸びている。
写真B:LCS(下部海綿静脈洞)の断面図。DC(真皮性カプセル)、小柱帯中のaxon bundle(軸索束)、MS(結合組織性毛包)、GM(硝子膜)、ORS(外毛根鞘)、HS(毛幹)の位置と、同心円状の組織を示している。
写真C:銀染色されたaxon bundles(軸索)がLCS(下部海綿静脈洞)の小柱帯に散在している。
【省略記号】CT:Collagenous Trabeculae(コラーゲン性小柱)/ DC:Dermal Capsule(真皮性カプセル)/ DVN:Deep Vibrissal Nerve(深部洞毛神経)/ F-SC:Follicle-Sinus Complex(毛包-血洞複合体)/ GM:Glassy Membrane(硝子膜)/ HS:Hair Shaft(毛幹)/ ICB:Inner Conical Body(内部円錐体)/ LCS:Lower Cavernous Sinus(下部海綿静脈洞)/ MNC:Merkel-Neurite Complex(メルケル細胞-神経突起複合体)/ MS:Mesenchymal Sheath(結合組織性毛包)/ ORS: Outer Root Sheath(外毛根鞘)/ RS:Ring Sinus(輪状静脈洞)/ RW:Ringwulst(環状塊)/ SG:Sebaceous Gland(脂腺)/ UCS:Upper Cavernous Sinus(上部海綿静脈洞)
海洋哺乳類のヒゲはそれぞれ異なっている
海洋哺乳類のヒゲは、陸上の動物のヒゲとは著しく異なっています。アザラシ、アシカ、セイウチは、動物の中で最も長いヒゲをもっています。陸上の動物のヒゲには血洞が2つあり、軸索が100から200存在します。一方で、アザラシのヒゲには血洞が3つあり、長さも長く、概算で1350もの軸索があります。アザラシは地上の動物より、ヒゲの軸索の数が7倍から10倍あるのです。アザラシは「水流へのなびき」もしくは「能動接触」により、ヒゲを利用します。「水流へのなびき」とは、例えば魚が群れで泳ぐ際にできる水流のような、水の不規則な流れになびくことで、ヒゲだけを利用します。ハーバーシール(アザラシの一種)やカリフォルニアアシカ、そして他の動物もそのような能力を持っています。「能動接触」の感覚というのは、多くのアザラシが用いているものですが、特に海の底で餌を探すようなアゴヒゲアザラシやセイウチなどの動物に顕著です。アゴヒゲアザラシやセイウチは視覚があまり役に立たない海底を掘り返す際、餌を探すのにヒゲを使うのです。
ラッコのヒゲ
アゴヒゲアザラシやセイウチ同様、ラッコは「能動接触」を用いる海底で餌を獲る動物です。ラッコは餌を獲る際、手を使うことが知られていますが、ヒゲも重要なのです。しかし、どの程度重要なのか、ごく最近までよくわかっていませんでした。ラッコはイタチ科のような陸上の動物に近い動物なので、わたしたちはこのような疑問を持ちました。「ラッコのヒゲは、陸上動物のヒゲに似ているのか、アザラシに近いのか、あるいはまったく別のものに進化しているのか?」ラッコが陸上動物に近い仲間であることや、海に戻った動物としては比較的新しいものであることから考えると、陸上の動物に近いヒゲであることを示唆しています。
また、より敏感なヒゲ(アザラシのような)は、触覚が最も重要である海の底で餌を探すのには有利です。Frontiers in Neuroanatomy誌に最近掲載された私たちの研究で発表しましたが、ラッコは口の周囲に平均120本のヒゲを持っていますが、その数は多くのアザラシと似ています。ヒゲの内部構造はアザラシやアシカと同じです。3つの血洞、しなやかな組織と多くの神経が存在します。ラッコのヒゲには軸索が1340程度あり、それはある種のアザラシと同じです。種族的には近いが半水棲であるカワウソの場合、ヒゲの軸索は500程度であることを鑑みれば、ラッコのヒゲの軸索数は驚くべきものがあります。この研究により、ラッコの鼻の周りにあるヒゲは、海底で餌を見分けて獲るのに、非常に重要であることを示しています。ラッコのヒゲも、アザラシやアシカのよに敏感なようです。最も小さく、また新しい海洋性哺乳類としては非常に素晴らしい発達といえるでしょう。
クリストファー D マーシャル博士
テキサス A&M大学 海洋生物学・野生生物魚類科学学部
マーシャル博士はガルヴェストンにあるテキサスA&M大学の環境形態学・比較生理学研究室の主任研究員。統合形態学、生理学、海洋脊椎動物の採餌行動を中心に研究を行い、その生物の採餌生態や保護に関する情報を提供している。研究には、自然史や海洋脊椎動物の感覚系の比較神経生物学の調査も含まれている。
マーシャル博士の研究についてツイッターでフォロー @EcoMorphLab
記事元:
seaotters.com
The Sensitive Whiskers of Sea Otters
November 10, 2014 by Dr. Christopher D. Marshall
コメントをお書きください
monchan (木曜日, 20 11月 2014 12:54)
らっこのヒゲの話ははじめてきいたので、興味深く読ませていただきました。
紹介していただきまして有り難うございます。
マーシャル博士の図Bにはミスがあります。HSが指しているやじるしの場所は内毛根鞘で、毛幹はもっと内側の非常に色が薄い部分だと思います(Aでは正しい位置にHSがあります)。あと本文の「深い洞毛神経」は「深部洞毛神経」にした方が良いと思います。
seaotter (木曜日, 20 11月 2014 18:44)
monchan様
今回はご協力本当にありがとうございました。本文も訂正させていただきました!
確かに図Aと図Bの毛幹の指している部分が違っていますね。図を作成されるときに矢印がずれてしまったのかもしれません。