【記事】ラッコ観察のガイドライン | BE SEA OTTER SAVVY 2: GUIDELINES FOR OBSERVING SEA OTTERS SAFELY

本日は2019年8月23日付のMorro Bay National Estuary Programより、"BE SEA OTTER SAVVY 2: GUIDELINES FOR OBSERVING SEA OTTERS SAFELY"をお届けします。
知らない人が寝室に立て続けにどかどか入ってこられたら、誰でもキレますよね。
野生動物も同じです。

この記事はラッコ生物学者でSea Otter Savvyのプログラムコーディネーターでもあるジェナ・ベントールによるBe Sea Otter Savvyシリーズの2つ目の投稿です。このシリーズでは、ラッコの繁栄をどのように手助けできるか、またラッコの行動や生態、河口域や海洋生態系におけるラッコの役割などについての情報をお届けします。

人間とラッコの活動域が重なるとき

ラッコの自然な行動パターンへの妨害は、人間の海に置ける余暇活動とラッコの生息域が重なるところでならどこでも起こりうる。港や湾のような場所は海へのアクセスが容易で穏やかであり、守られた場所であるため、余暇活動を行う人々にも野生生物にとっても魅力的な場所である。ラッコはカリスマ性があり、ラッコを見たり写真に撮ったりすることが海で余暇活動を行う人々の主な目的となることがよくあります。カヤックやパドルボードに乗る人、スキューバダイバー、エコツアー主催者などは、ラッコの近くでとるマナーがラッコの重要な行動パターンを邪魔し、その結果エネルギーを浪費させたり、ストレスを増加させたり、あるいは母親が子どもを捨てる原因となってしまう可能性があることに気が付いていないことがよくあります。

写真のカヤックに乗る人々は害を与えているつもりはないかもしれませんが、母親ラッコとその子どもの邪魔をしており、手前の人は周囲に気を配るよりはいい写真を撮ることに集中してしまっている。

ラッコは脂肪という形でエネルギーを蓄積しないため、エサを食べることによるエネルギー取得と、採餌場へ泳いで行き来したり、他のラッコと交流したり、毛皮のメンテナンスを行ったり子どもの世話をしたりするなどの行動によるエネルギー支出という微妙なバランスに依存している。私たちの中にも給料ギリギリの生活をしている人がいるように、ラッコは日々エネルギー取得と支出のバランスを同じにするために苦心しているのだ。近づきすぎたり、攻撃的に近づいたりする乗り物を避けるために泳いだり潜ったりすることで、結果的にエネルギー支出の負担を増やしてしまう。これがエネルギー不足に繋がれば、ラッコはより多くのエサを見つけるか、あるいは健康や病気への耐性、繁殖の成功や生存に関わる身体のコンディションを犠牲にするかを選ばねばならなくなる。

最も重要なのは、「ディスターバンスのホットスポット」とされるモスランディング、モントレー、そしてモロ湾などの場所は、余暇活動を行う人の密度が高いほど、ディスターバンスの頻度が上がってしまうということだ。人間を避けるために潜ることが付きに一度ほどのビッグサー沿岸のラッコは、私たちの調査で1日に6回から多ければ20回も邪魔をされてしまうような人の往来の多い場所で暮らすラッコほど、ディスターバンスの累積の影響で苦しむことはないだろう。

 

モロ湾のラッコは、比較的短期間に人間が近くにいることに慣れてしまった。15ヤード(訳者注:1ヤードは約0.9m)、10ヤード、あるいは5ヤードにカヤックが近づいてきてもラッコが逃げない場合でも、そのくらい近づくのは間違ったことなのだろうか。私たちはまだ科学的視点からこの問題を掘り下げられていないが、ディスターバンスに慣れてしまうことにより、人獣共通感染症や、攻撃的になったりなどの代償がもたらされる可能性が高い。人類が増え続けている世界で、私たちは子の動物たちのため、そして私たちのため、動物の野性味を維持するためできることをしなければならない。モロ湾の人間に慣れてしまったラッコについては今後のブログで議論したいと思う。

このカヤックの人々は写真を撮るためにラッコに近づきすぎている。この人たちが近づいていることにラッコたちは警戒しているが、まだ潜って移動はしていない。ラッコがその場所に留まっていれば、邪魔したことにはならないのだろうか。今後このブログで、モロ湾の「寛容な」ラッコたちに触れたいと思う。

ガイドラインが必要な理由

ガイドラインの手助けがあれば、人々は推薦すべき選択肢を選ぶことができる。Sea Otter Savvyのガイドラインの設立にといて、2つの基本的な目的がある。

 

1.ハラスメントからラッコを守る法の順守を強化する

2.慢性的な、有害になる可能性のあるディスターバンスを軽減する

 

私たちのプログラムは、ほとんどの人がラッコに危害を加えることを望まないという基本的な前提に基づいている。これらのガイドラインは、ラッコがなぜ人間のディスターバンスの影響を受けやすいかの情報があれば、ディスターバンスをしてしまうよりもスチュワードシップを促進する行動を選択するよう、人々を奨励している。

ガイドラインはどのように作られたか

どのガイドラインが必要で、実用的で、効果的であるかを決定する過程は、険しい道のりだ。異なる場所のラッコはそれぞれ異なるしきい値を持つため、ラッコと最低限離れなければならない距離を設定することは特に困難だ(ビッグ・サーのラッコとモーロ湾のラッコを思い浮かべてほしい)。

 

その他の要因、つまり場所の特徴や人間の心理は、影響を決定する上で重要な役割を果たす。例えば、モロ湾の最も人気のあるアクセスポイントの一つ、コールマン・ビーチから出発するカヤックやパドルボードは、水に入るやいなや、すぐに50ヤード以内になってしまうかもしれない。たとえ彼らがラッコを避けようと最善の意思を持っていたとしても、50ヤードの距離ガイドラインを設定してしまえば、パドラーたちは守ることができないだろう。

最も良い方法は陸地から見ること。邪魔することなく、静かに座ってラッコの自然な行動を見ることができる。

場所の特性を考慮したとしても、実用的でないガイドラインを作成すればパドラーに信頼とコンプライアンスが失われてしまい、ガイドラインが効果的ではなくなる可能性がある。人間とラッコが出会ってしまう文脈も考慮する必要がある。採餌中のラッコは、カヤックとの最も短い距離の目安内に飛びでてくる可能性がある。パドラーが採餌中のラッコを追跡しない限り、または母ラッコとその子どもとの間を移動しない限り、ガイドラインの精神に従っている。このように、コミュニティ、利害関係者、専門家からのインプットと最新の科学が、Sea Otter Savvyのガイドラインの基礎となっている。今後もラッコへの人間のディスターバンスを可能な限り低減できるように進化させていきたい。開発の背後には複雑なプロセスがあるにもかかわらず、私たちのガイドラインは、誰もが従うことができる単純な行動ルールだ。これらのガイドラインは、人々が「リスペクト・ザ・ナップ」を助けるだけでなく、私たちの近くに住むラッコの重要な自然行動を保護することによって、すべての人々の野生生物の経験を向上させるだろう。

Sea Otter Savvyガイドライン

1.全ての野生生物から経緯を持った距離を保つ。野生生物は場所や状況により反応が様々なため、推薦すべき特定の距離を設定するのは困難だ。しかし、全ての海洋野生生物から少なくともカヤック5つ分(約18メートル)離れるようすすめている。どうかな?と思った時は、余分に距離をとること。

緑ゾーン(カヤック8つぶん):ラッコにとっては安全だが、ラッコとの距離は最も遠い
黄色ゾーン(カヤック5つぶん):ほとんどのラッコにとっては安全。行動の変化に注意。
赤ゾーン(カヤック4つぶん):ディスターバンスが起こりやすい。これ以上近づかないように。

2.ラッコに直接近づくことは避ける。カヤックなどを直接ラッコや群れに向けると、距離を保ちながら平行もしくは斜めに通り過ぎるよりも、ラッコにとってはずっと脅威に感じられてしまう。

これらのカヤックは敬意ある距離からラッコの観察をおこなっている。ラッコの群れに真っすぐ向くのではなく、平行に通過している。これらのカヤックは周囲に気を配っており、スマートフォンをしまって邪魔しないようにしている。

3.ラッコをカヤックなどで取り囲まない。ラッコたちは罠にかかったように感じます。もし誰かが先にラッコを見ていたら自分の番まで待ってから近づき、敬意ある距離を保ってカヤックを止めること。

上の写真ではカヤックはスマートフォンを使っていい写真を撮ろうとしており、ラッコたちにとっては不快な距離まで近づいてしまっている。また2つのカヤックがラッコの群れを囲んでいるため、ラッコは罠にかかったように感じたり、脅威に感じてしまっている。

4.ラッコは静かに観察している人たちよりも、騒がしいパドルボーダーや大音量で音楽を流すボート、あるいは陸地にいる騒がしい観察者にもディスターバンスを受ける。

5.最も重要なのは、注意を払うこと。ラッコの動作に変化がないかよく注意をしてみること。ラッコが頭を上げてこちらの方を見たらそれは近づきすぎているという警告となり、その次のステップとしては潜って逃げてしまうことになる。

この写真はラッコの会の表情をよく表している。ストレスを受けている顔だ。この写真を撮った人はラッコに近づきすぎてラッコにディスターバンスを与えたため、このラッコはカメラの方を見て、危険かどうか、あるいは逃げる必要があるかを知ろうとしている。ラッコがこちらの方をみたら、近づきすぎだということを忘れないでほしい。

一番よいラッコの写真は、ラッコがカメラのほうを見ていないものだ。ラッコは撮影者がいること自体気がついていないからだ。この写真を撮った人は静かに、ラッコから十分離れていたため、ラッコはそのまま休息をとり続け健康でいることができる。

人々に海を訪れる機会を提供するモロ湾のビジネス操業者は野生生物を守るためのガイドラインをシェアしスチュワードシップを促進する義務を負っている。私たち皆が手を貸すことができる。モロ湾でパドルボードを楽しむ人は地元民からも観光客からもよく見える。野生生物の周辺でどのようにふるまうべきか示すため、お多くの人々が他の人々を注意深く見ている。そしてそのロールモデルになるのはあなたなのだ。人々がラッコを見ている時に、ラッコのニーズや福祉について思いをはせるよう人々を励まそう。パドルボードに乗る時はスマートフォンを置いていこう。そうすることによって、その経験を注意深いものにし、また野生生物とセルフィ―を撮ろうという誘惑を避けることができるのだ。ちょっとした情報を得れば、沿岸環境を敬意をもって、また平和的にラッコと分かち合うことができるのだ。

 

ラッコの需要を理解することは、ラッコのディスターバンスを避けるために最も重要なことだが、ラッコは2つの連邦法と多くの地方法や規則でハラスメントから守られているということを知っておくことも重要だ。ラッコや他の海洋哺乳類にハラスメントを行ったりディスターバンスを与えたりすることは、たとえわざとではなくても、法に抵触する。

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注意:ここに記載したガイドラインは、主にカヤックやスタンドアップパドルボード、電動のボートなど、小型の機材を使用する人々に対してのものである。大型のモーターボートをラッコの生息域で使用する人々はこちらのウェブサイトを参照。

著者について

ジェナ・ベントールは2001年からラッコ生物学者として活躍し、アリューシャン列島やロシアのコマンドルスキー諸島、南カリフォルニア沖のサンニコラス島、カリフォルニア中央沿岸部など多岐に渡る場所でラッコの研究を行ってきた。オレゴン州立大学コルバリス校で動物学と海洋生物学を修め、カリフォルニア大学サンタクルーズ校でジェームズ・エステス博士の元生態学進化生物学で修士号を取得。野生のラッコを数年にわたり研究しラッコの独自の生物学や行動を学び、人間のよっ活動により恒常的にラッコがディスターバンスを受けているのを目撃する。ジェナは現在Sea Otter Savvyのコーディネーターであり、モントレー郡、サンルイスオビスポ郡、サンタクルーズ郡における沿岸コミュニティへのアウトリーチ活動を行っている。

Morro Bay National Estuary Program

BE SEA OTTER SAVVY 2: GUIDELINES FOR OBSERVING SEA OTTERS SAFELY

August 23, 2019