【記事】ラッコ保全と地域経済の共存 | Serenity in the slough

本日は、2018年7月16日付の米国魚類野生生物庁のウェブサイトから、"Serenity in the slough"をお届けします。カリフォルニアラッコの回復に伴い、観光客が増大していますが、一方で知らない人々によるハラスメントも増加しています。保護団体や地元のビジネスが、ラッコなど野生生物を守りつつ経済的な発展を助けるため、活動を行っています。

ジューニャ・ロペスが静かな22フィートのボートの舵を注意深く切り、太陽を浴びて空を見上げる百頭ほどのゼニガタアザラシに平行に近づく。

 

土手には、ペリカンやウミウからカモメ、他の海鳥がたくさんいる。カリフォルニア最大の湿地帯の一つ、エルクホーン湿地帯のうららかな朝だ。ここはモントレーから20マイル北にある、人口204名のモスランディングという町だ。

 

水面で休むラッコの群れの近くにいるカヤック乗りたちをよく見るため、ジェナ・ベントールは双眼鏡を掲げる。見えたものに満足したようだ。

 

「あの人たちは、やすべきことをちゃんとしています。邪魔しないよう、ラッコに平行に、20メートル離れることです」とベントールは言う。

 

カリフォルニアラッコは絶滅に瀕する種の保存に関する法と海洋哺乳類保護法で守られている。これは危機に瀕した種をディスターバンスや危害から守るための法である。米国魚類野生生物庁はパートナーらとともにカリフォルニアラッコの回復のために力を尽くし、また一般市民にラッコの沿岸生態系における重要な役割にして教育を行っている。

この22フィートの電気で動く船は排気ガスを出さない。「私たちのボートはクルーザーとして作られています。非常に静かです。電気で動き、自然に優しいので皆気に入ってくれます」とカリフォルニア州モスランディングのウィスパー・チャーターのオーナー、ジューニャ・ロペスは言う。Photos courtesy of Joonya Lopez.


休んでいるラッコを邪魔しないようにするには、カヤックは少なくとも5つ分、つまり20メートルもしくは60フィート離れていなければならない。また艇の先を直接ラッコに向けないで平行にし、止まらずゆっくりと確実に通り過ぎること。Photo by Lilian Carswell, USFWS.

エルクホーン湿地帯のようなカリフォルニア中央沿岸部にラッコが回復すると、観光客が増大した。それは小さな地元も町にも経済的な影響が増大した。

 

「モスランディングはモントレー郡における穴場です」とモスランディング商工会議所所長ミシェル・アルカンタラは言う。「ここでラッコが繁殖すれば、エルクホーン湿地帯はラッコを見るのに最適な場所になります」

カリフォルニアラッコがモスランディングの北のジェッティ近くでフェザーボアケルプの中にとどまって休んでいる。人間と同様、ラッコもエサを探したり子育てをしたりするためのエネルギーを蓄えるため、相当の休息が必要だ。Photo by Lilian Carswell, USFWS.

ベントールはモントレー湾エリアに住んで15年以上になるが、この小さな町でエコツーリズム業は成長しているという。「みんな海へでかけて、こうした自然の場所を経験したいのです」

 

しかし、このように訪問者が増えるとベントールや、ラッコなどの野生生物を湿地帯で研究している研究者は心配になる。訪問者が増えすぎると、意図しない結果を生むことになるからだ。

 

状況を改善する

ラッコがカリスマ性があるのは明白だ。ラッコはエサを食べたりグルーミングしたりする際に独特の行動をとる。これは陸からも、ボートからも見ることができる。「そういう行動はこうした場所に人々がやってきて地元のコミュニティを活性化する重要な呼び物なのです」とベントールは言う。しかし、時々近づきすぎる人たちもいる。

 

ベントールは2015年に米国野生生物庁から経済的なサポートを受けSea Otter Savvyと呼ばれる教育イニシアチブを設立した。非営利団体として、Sea Otter Savvyは人間によるラッコへのディスターバンスを扱う組織された長期的なアプローチを行う。

 

「状況を改善するために」そうしているとベントールは言う。

敬意をもったラッコ観察を促すSea Otter Savvyが制作した歌。歌詞の日本語訳はこちら。

「私が気付いたのは、海に出てラッコや他の野生動物を邪魔している人たちのほとんどは、意図的にそうしているわけではないということです」とベントールは言う。「皆写真やセルフィ―を撮りたいだけで、近づくことで動物の行動を変えてしまうと言うことを知らないのです」

 

ベントールはボート乗りやカヤック乗りなど海が好きな人々に、知らず知らずのうちに深刻な危害を及ぼすことなくラッコや他の野生生物を観察するための役立つ最善策のコツを与えたいと考えている。

 

ベントールはそれを一人で行っているわけではない。Sea Otter Savvyの成功はビジネスだけでなく、他のラッコ専門家や政府機関、団体、個人などコミュニケーションとコラボレーションによって成り立っている。

 

Sea Otter Savvyの諮問委員会には米国魚類野生生物庁、カリフォルニア魚類野生生物局、モントレーベイ水族館のスタッフも含まれている。この組織の日々の仕事の多くはボランティアによって行われている。ベントールはある人々にはラッコの行動とディスターバンスに関するデータを集めるトレーニングを行ったり、別の人には学校でのプログラムを行うよう抜擢している。

ラッコたちがジェッティ・ロード付近のほぼ「独身」のオスからなる群れで交流している。Photo by Lilian Carswell, USFWS.

人間と同じように、ラッコもエサを探したり子育てをしたりするためのエネルギーを蓄えるため、十分な休息が必要だ。他の海洋性哺乳類とは異なり、ラッコには寒さに対抗できる断熱としての皮下脂肪がない。その代わり、ラッコは体温を保つため毛皮とカロリーを燃焼させることに依存している。ラッコはそのカロリーに見合うために大量のエサを食べなければならない。

 

ラッコが必要な休息をとっている時に人間が近づきすぎると、ラッコは潜って逃げるために、体温を保ったりエサを獲ったり、あるいは母親であれば子育てをしたりするために必要なカロリーを燃焼させてしまう。こうしたことが何度も起これば、ラッコが生きていくのは非常に大変なことになる。

 

「大したことがないように思われるかもしれません。一度だけ、写真を一枚だけ?そうでしょう?」ベントールは言う。「でも、そうしたことが一日中、5回、10回、20回と起きてしまうと、積み重なってラッコに悪影響を及ぼしてしまうのです」

 

世界中から集まる観光客

ラッコはまた、恐るべき捕食者でもある。ラッコはクズリの仲間で、湿地帯の底から集めてくるカニや他の無脊椎動物を砕けるような強力が咬合力を持っているのも驚くことではない。他の野生生物同様、ラッコも人間が近づきすぎると危険なのだ。

 

ロペスが運営しているウィスパーチャーターのようなボートオペレーターは。環境に優しいツアーの道を開いている。ロペスの顧客は安全で自然で最も邪魔しない方法で動物や景色を楽しむことができるのだ。

エルクホーン湿地帯でエサを食べるラッコを見るSea Otter Savvyの創設者、ジェナ・ベントール(左)。ベントールはラッコや他の野生生物に知らず知らずのうちに危害を及ぼすことなく観察するための最善の役立つコツを、ボートやカヤックに乗る人、その他の海が好きな人に届ける教育プログラムを創設した。Photo by Ashley Spratt, USFWS.

「人々は、自然な状態で、自然を楽しんだり経験したりするためにここへやってきて、人間がいることで邪魔にならないよう、ラッコを観察するのですとベントールは言う。「ラッコから離れ、静かにし、観察者になり周囲で何が起こっているか注意深くなれば、最も自然な状態での経験ができ、また危害を加えることも避けられます」

 

湿地帯を探検したり、ラッコを見たり、あるいはロスアンゼルスからサンフランシスコへ行く途中に立ち寄ったりするためにカリフォルニア中央沿岸部へ世界中から人々がやってくる。

 

「観光客は一年を通じて来ます」ウミウがドックの上でひなにエサをやるのを嬉しそうに見ながら、ロペスは言う。「皆ボートに乗って楽しむだけでなく、湿地帯を敬愛することを学びます。私たちには動物が必要だし、木も必要だ。

モスランディングのジェッティロードからラッコの写真を撮影する米国野生生物庁のカリフォルニアラッコ及び海洋保全コーディネーターのリリアン・カーズウェル。Photo by Ashley Spratt, USFWS.

「動物がいなくなったら、ここにはいられないでしょうね」

 

緩やかな回復

ラッコがいなかったのはそれほど昔のことではない。ラッコは、1700年代に始まり約2世紀にわたって行われた毛皮交易によりほぼ一掃され絶滅の淵に立たされていた。1800年代始め、サンフランシスコ湾とその付近の海で毛皮を獲るために一年に2,000頭ほどのラッコが殺された。カリフォルニアの他のエリアでも、数先頭が殺された。

 

ビッグサーの岩礁の多い海岸で、わずか数十頭の断片的な群れがかろうじて生き残った。これらは偶然、その地形により助かった。岩礁の多い海岸線には、ハンターらが安全に停泊できるところがなかったのだ。

 

米国魚類野生生物庁のカリフォルニアラッコ回復及び海洋保全コーディネーターのリリアン・カーズウェルによると、これらのラッコはかつては北はワシントンまでよく見られたという。カーズウェルは2002年からラッコの研究を行っている。

 

「現在、カリフォルニアラッコはかつての生息域の13パーセントを占めるにすぎません」とカーズウェルは言う。「本当に重要な捕食者がいない海岸線が、何マイルもあるのです」

 

100年前の数十頭から今日の3000頭ほどの個体数になるまで。ラッコはゆっくりと回復に向かっているが、まだまだ先は長い。

ジェッティロードの下のビーチに上がりじゃれるラッコたち。陸にあがることでエネルギーをセーブし、交流する機会を得る。Photo by Lilian Carswell, USFWS.

生息域の中央部では、ラッコの個体数はほぼ環境収容力に達している。そして、生息域の北端と南端では、腹を空かせたり好奇心が旺盛なホホジロザメに噛まれている。このようなサメによる死因が多いエリアは、ラッコがなかなか超えられない障壁となっている。

 

「生息域の拡大は、カリフォルニアラッコの回復にとって不可欠です」とカーズウェルは言う。「またラッコの歴史的な生息域に拡大することは、沿岸生態系の健全性にとっても不可欠です」

 

長い道のり

ラッコは自然界の食物網においても必要だ。例えば、ラッコがウニを食べることで、ウニが重要なケルプの森を食べてしまうのを減らしている。湿地帯では、ラッコは全く同様な機能を海草棚で果たしている。ラッコはカニを食べ、カニが食べるウミウシ類に対する圧力を減らし、ウミウシが海草に生える藻類を自由に食べられるようにする。そのようにして海草に光が届くようになる。

 

ラッコは海岸沿いに生息しエサを食べるため、ラッコの健康状態は汚染物質や沿岸地域から排出される病原体によ理発生する可能性のある病気などを科学者が検出するのに役立っているとカーズウェルは言う。

カリフォルニアラッコが、ラフトと呼ばれる群れになって休んでいる。他の海洋性哺乳類と異なり、ラッコは体温を保持するための皮下脂肪を持たない。その代わり、ラッコは毛皮とカロリーを燃やすこと、つまりそのカロリーを満たすため体重の4分の1を食べることに依存している。ラッコが必要な休息をとっている時に人間が近づきすぎると、ラッコは潜って逃げるがそれにより、体温を保持したりエサを獲ったりするのに必要なカロリーを費やしてしまうことになる。Photo by Lilian Carswell, USFWS.

Sea Otter Savvyのようなプログラムや、ウィスパーチャーターのような環境に優しい運営者はラッコやラッコが住む場所を楽しもうとする多くの観光客がいる場所でも、ラッコが元気で繁栄できるようにするものだ。

 

「Sea Otter Savvyとの連携により、ラッコの安全性を保ちつつ、野生生物を見たり写真を撮ったり、海を楽しむ人たちが野生生物が自然案行動をしているのが見られるような機会を作りつつ、ビジネスの羽根井を助けることができるのです」とカーズウェルは言う。

 

ベントールも同意している。「ジューニャのような人々は、本当にコミュニティの動物たちを大切にしています。この地域の大使です」と言う。「彼らはこの生態系の重要性を知っているのです。自然な状態のエルクホーン湿地帯のような場所を見に来る人々は、そうした産業の多くを占めるからです」

 

モスランディングはモントレーの約20マイル北にある小さな港町だ。カリフォルニア中央沿岸部のこの場所にカリフォルニアラッコが戻ってくることで観光客が増大し、それが小さな地域経済を刺激する。Photo courtesy of Jim York.

 

ラッコの保全はそのすぐ周辺から始まるとカーズウェルは言う。

 

「ラッコは、20世紀の絶滅寸前の状態から長くかかってここまできましたが、その行く先はまだまだ長い道のりです。野生生物としてのラッコの需要や行動を理解し、ラッコは必要なスペースを大切にしてあげることで、モスランディングのコミュニティとここに来る観光客はラッコの先の長い回復に¥貢献することができるのです」

 

ロペスも同意する。「ここはラッコの住まいであって、私たちはそこを訪れる客なのです。それを心に留めておかなければならないのです」


USFWS

Serenity in the slough

July 16, 2018