【記事】モントレーベイ水族館のプログラム、ラッコを助け生息域も再生 | Monterey Bay Aquarium’s program to save sea otters revives their habitat

本日は2018年4月21日付のSan Francisco Chronicle紙より、"Monterey Bay Aquarium’s program to save sea otters revives their habitat"をお届けします。モントレーベイ水族館が育て放流してきたラッコは湿地帯の生態系の再構築に目覚ましい活躍を遂げました。崩壊しつつあるカリフォルニア沿岸のケルプの森もいつか再生しラッコが生息域を拡大できるようになればいいですね。

モントレー郡 エルクホーン湿地帯ーラッコたちはこの湿地帯で、戯れたり、お互いをグルーミングし合ったり、仰向けに浮かんでカニの殻を開けたり、あるカップルはなまめかしく抱き合ったりしていた。

 

このひげの生えた動物は楽しいが、モントレーベイ水族館のラッコプログラムコーディネーターのカール・メイヤーはボートの下に広がるアマモ棚により関心を持っている。特にその水中植物に対してラッコが持っている影響に関心が高い。

 

サンベニート郡を源流としモスランディングを抜けモントレー湾に注ぐ曲がりくねった水路はかつて状態が悪化していたが、ラッコの個体数が急激に大きくなり、そこに生息するアマモを再生させてきたことををメイヤーは知った。

 

ラッコはカニを食べ、カニはウミウシを食べ、ウミウシはアマモを殺してしまう藻類を食べる。

 

カニが少なくなればウミウシが増殖し藻類を食べ、そのおかげでアマモが繁栄することができるのだとメイヤーは言う。それが感潮水路の泥や崩落を防ぎ、魚や無脊椎動物の数を回復させ、河口域の養分を増やす。

 

水面下に緑が茂る場所に5,6頭ほどのラッコがいる場所へインフレータブルボートをゆっくりと向けながら、「ここが最大のアマモ棚です」とメイヤーは言った。「数年前は、このアマモは半分以下の大きさでした。以前なかった場所にすら今はアマモが生えています」

一つの湿地帯にアマモが豊かになったことを発見しても、それは大きな転換点にはならないかもしれないが、カリフォルニア沿岸のラッコを助けるための大きなカギになるかもしれない。ここでは多くのラッコがサメにかまれて死んでいるからだ。

 

ラッコが死んでしまう大きな理由は、3月にモントレーベイ水族館が発表した研究によると、ラッコが隠れるケルプが十分にないことだ。

 

しかし、結局ラッコはアマモと同じようにケルプも育てるという影響力を持っているため、メイヤーは生息域が改善すればラッコが生息域を拡大できるのではないかと考えている。

 

アマモが急激に成長したのは、15年にわたり座礁したり親を失ったりした幼いラッコのリハビリを水族館で行い、捕食者から守られていることが分かっているエルクホーン湿地帯にそのラッコたちを放流したことから生じた、想定外の結果だった。

エルクホーン湿地帯の水面から見えるアマモ。ラッコが個体数を増やすことで、湿地帯でアマモの再生が成功したサインだ。
エルクホーン湿地帯の水面から見えるアマモ。ラッコが個体数を増やすことで、湿地帯でアマモの再生が成功したサインだ。

カリフォルニア州でサンフランシスコ湾以外で最も大きな塩生湿地であるエルクホーン湿地帯は、2000年代初めにそのプログラムが始まった際はほとんどが泥の多い水路だった。誰もラッコがその湿地帯を再生させらるだろうとは思ってもいなかったが、メイヤーとその同僚らは、短期的にそこに住むオスがわずかにいたため、ラッコを放流するのに適切な場所だろうと考えた。

 

プログラムが始まってから、30頭の保護ラッコが無線追跡装置を埋め込まれ放流された。9頭の放流されたメスは、それから45頭~50頭の子どもを産んだ。現在、湿地帯のラッコは140頭に成長している。

 

カリフォルニアラッコは歴史的な生息域の25パーセントにしか現在生息していないため、これは重要だ。かつては、その生息域はバハから西海岸を北上し’カナダへ広がっており、サンフランシスコ湾にはかなり大きな個体群が存在した。

 

手触りのよい毛皮を探していた毛皮商人らは1700年代から数十万頭のラッコを殺した。カリフォルニアでは絶滅したと考えられていたが、1938年ビッグサーで50頭ほどの小さな群れが発見された。

 

1977年、カリフォルニアラッコは絶滅に瀕する種の保存に関する法律で絶滅危惧種に指定され、その回復のために集中的な努力が行われはじめた。現在ラッコの生息域はハーフムーン湾からサンタバーバラ郡のポイントコンセプションまで人がっているが、その数は頭打ち状態になり、10年以上3,000頭に満たない。

 

海洋生物学者によると、問題はラッコが狭い範囲に押し込められておりエサが十分にないということだ。

 

1984年から2015年までに浜に打ち上げられたラッコを調べた水族館の研究によると、生息域の北側や南側に進出していったラッコの多くがサメに攻撃されていたことが分かった。生息域の端のケルプがウニに食べられていたためだ。

 

学術誌エコグラフィー誌に掲載された研究によると、2013年に病気が大発生しウニの主要な天敵であるヒトデを大量死に至らしめたため、その後ウニの個体数が激増したのだ。水面まで広がるケルプはその他のラッコの生息域に広がっているが、それがなくなってしまうと特に母親と子どもはサメにとっていいカモになってしまうとその研究は述べている。

 

「外海沿いでは、ケルプの森はホホジロザメによる噛みつきに対する脆弱性を減らすのに必要であり、繁殖期のメスが子育てに必要な場所を与えています」とテリ・ニコルソンは言う。ニコルソンは水族館の研究員でその研究の筆頭著者であり、メイヤーは共同執筆者だ。

 

メイヤーのエルクホーン湿地帯との関連は、メイヤーのチームが保護してきたラッコの子どもは、多くがサメによって親を失ったり、母親ラッコが飢えるあまり放棄されてしまったものだ。

 

当初は、水族館の生物学者らは自分たちの手で保護したラッコの子どもを育てようと試みたが、ラッコは人間に刷り込みを受けてしまい放流された後でサーファーやダイバーらに近づき始めてしまった。その後、2003年に水族館のスタッフらは保護したラッコを飼育していたメスのラッコとペアにすることを始めた。飼育していたラッコのうち8頭がそれ以来、代理母の役割を担ってきた。

モントレーベイ水族館ラッコプログラムの動物ケアコーディネーター、カール・メイヤーが、ラッコの回復を行っているモスランディングのエルクホーン湿地帯をボートで進む。
モントレーベイ水族館ラッコプログラムの動物ケアコーディネーター、カール・メイヤーが、ラッコの回復を行っているモスランディングのエルクホーン湿地帯をボートで進む。

湿地帯で暮らすラッコの数は、現在水族館で育てられている子どもが放流されると、今年145頭ほどまで成長すると予測されている。5頭いる水族館の展示ラッコのうち、ローザは14頭を育て上げた。

 

メイヤーによると、そうした代理母ラッコたちはあてがわれた子どもたちに対し非常に保護的になるため、人間とラッコの子どもたちの接触は最小限に抑えられている。

 

もし貪欲なサメを近寄らないようにできれば、ラッコはウニを食べ、湿地帯でアマモを助けたようにケルプ床を再生させるためにラッコを利用することができるだろうとメイヤーは言う。代理母に育てられたラッコを現在の生息域の外へ再導入する方法を見つけ出し、ラッコが湿地帯を再生させたように海を再生させることに力を貸すのが自分の仕事であり、水族館の保護プログラムの他の研究者の責務だとメイヤーは考えている。

 

「私たちは放流されたラッコから得た前例のないデータを累積して持っています」とメイヤーは言う。「生態学的観点から、これらは非常に価値があるという結果になりました。これは野生ラッコの個体群について学ぶ手段であり、またラッコが生息域を拡大するためのメカニズムなのです」