本日は2016年5月7日付のAlaska Dispatch Newsから、"Orphans of the ocean "をお届けします。アラスカでは前例のないレベルでラッコや他の生き物の座礁や死亡が相次いでいます。生き残ったラッコたちをケアするアラスカシーライフセンターの取り組みをご紹介します。
アラスカ沿岸では尋常でない数のラッコが死んでいる。残された親のないラッコの子どもたちはアラスカシーライフセンターで育てられているが、その数も記録的だ。ラッコは賢く、要求も多く、可愛らしく、そして費用のかかる動物だ。
スワード--生まれたばかりのラッコを育てるのは24時間体制の仕事だ。
アラスカシーライフセンターの飼育員にとって、日常はこのような感じだ。:鳴きながら震えた目をしたヨセミテ・サム(アニメのキャラクター)のようなヒゲをした艶のある毛皮のラッコの子どもを水槽に入れる。哺乳瓶で人工ミルクを与える。貝と犬用のおもちゃを与える。グルーミングをする。塩ビ管とネットでできた間に合わせのベビーベッドに氷を入れ赤ちゃんを置く。(ラッコはオーバーヒートするため)赤ちゃんが跳ねたり足ヒレをパタパタするのを観察する。それが延々を繰り返される。
今、シーライフセンターは多くの時間と費用をラッコを育てるために費やしている。
科学者らはまだ完全に理由を理解できていないが、前例のない数のラッコが浜や港で病気になったり、死にかけていたり、身動きがとれなくなって表れている。米国魚類野生生物局によると、昨年その地域で死んだり身動きがとれなくなったラッコについての通報は300を超えている。
シーライフセンターは、保護されたラッコが健康を取り戻し生きる可能性を得られるアラスカにおいて唯一の場所だ。現在、センターには保育室にいる2頭の赤ちゃんを含め7頭のラッコがいる。以前最高で3頭同時に保護したこの施設にとっては、尋常でない数だ。
この状況に、スタッフは神経質になっている。まだ5月になったばかり。海洋性哺乳類の座礁のシーズンはまだ始まってもいない。
「今は快適といえるキャパシティにあります」とシーライフセンターの主任獣医師キャリー・ゲツ博士は言う。「もしこれ以上収容することになれば、考え直さなければならないこともあるでしょう」
ランドリーと貝
シーライフセンターにいる7頭のラッコたちには、みな辛い物語がある。
2頭の一番幼いラッコたちはまだ人口ミルクで育てられているが、単純に「ボーイ」「ガール」として知られている。ボーイはコルドバで、生まれたばかりだったが近くに母親がいないところを発見された。センターによると、ガールはホーマーの港近くで浮かんでいたが、シャチからの攻撃が差し迫った状況にあった。
2頭は生後数か月だが、飼育員のデアナ・トロボーが「本当のラッコらしさ」と呼ぶ、たとえば水に浮かんで寝るというようなものを学び始めたところだ。
「一つの指標になります」とトロボーは言う。
ラッコの子どもを育てるには費用も時間もかかります、とセンターで7年間ラッコのケアを行っている海洋哺乳類学者エミー・ウッドは言う。センターはこうしたケアを行うために連邦や州から助成金を受けていないため、資金調達によって余分なラッコのケアにかかる費用を吸収している。
人間が喜んで大金を払うようなカニ、ムラサキガイ、エビなどの多様なエサを食べることも、ラッコに費用がかかる理由の一部だ。さらに、成熟していくと1日に5〜7パウンド(2.25~3.15kg)食べるようになる。ウッドによると、昨年の夏、ラッコのエサだけでも1万ドル(約110万円)かかっているそうだ。
ラッコはまた非常に賢く、道具を使うことで知られるエリートの動物グループに属している。ケアする人たちは、どんな環境も本当の意味でラッコに耐性があるわけではないと冗談を言う。
生まれてから9か月は母親に強く依存するということもまた、シーライフセンターにおいてラッコが最も要求の厳しい動物となる要因となっている。
センターは病気のラッコにリハビリを行うことはできても、ずっと飼育し続けるための適切な施設を持っていない。人間と密接に接触したラッコは、再度野生に帰すことができない。米国内で新たにラッコを受け入れるキャパシティがある施設を見つけるのは難しい、とウッドは言う。そこで、センターは海外での受け入れ先を探し始めた。直近では、2頭のラッコがシーライフセンターからデンマークの水族館へ移った。現在いるラッコのうち5頭は、受け入れ先を並んで待っている状況だが、海外の受け入れ先に移すには長い、官僚的なプロセスが必要になる。
「『受け入れ先があった、じゃあそこに移しましょう』と言うだけの問題ではないのです」とゲツは言う。
ウミガラス、ラッコ、クジラ
アラスカ中央南部の海で病気になったり死にかけたりしている謎は、ラッコに限ったものではない。
この冬、ホイッティアの浜に数千羽の海鳥の死骸が打ち上げられた。また2015年に起きた大型のクジラの謎の大量死はアメリカ大洋大気庁による「異常な死亡事例」に分類された。
いったい何が起こっているのだろうか。毒性藻類による死は、アラスカからメキシコに至る太平洋沿岸における記録的な水温上昇と関係があるのだろうか。これまでラッコを死に至らしめてきた最近感染を引き起こす水温上昇が、より病原性を帯びたものになっているのだろうか。単純にラッコの個体数が多過ぎて、エサの量が足りないのだろうか。
誰も確かなことは分からない。
ラッコはコディアックからロシアの水域にかけてのアリューシャン列島で絶滅危惧種と考えられている。しかし、アラスカ中央南部では1989年のエクソン・バルディーズ号以降個体数が復活し、ここ数十年ラッコの数は多いとアメリカ魚類野生生物局でラッコを研究している生物学者ジョエル・ガーリッチ=ミラーは言う。
死亡事例
ラッコたちは広まった他の病気から生き延びてきた。
去る2005年、地元住民がカチェマック湾の浜にラッコの死体が次々と打ちあがっているのに気づいた。研究者らは「死亡事例」を宣言し、連邦政府による調査も開始された。
生物学的な標本は、こうした死亡事例の多くが細菌感染症によるものだということを示した。「連鎖球菌症候群」として知られるこの感染症は、主に壮年期のオスに影響を与えているようだった。
それでも、ラッコの個体数は急激に成長を続けた。
そしてその後、2012年、ラッコの死体や座礁したり病気になったりするラッコの数はま増え始めた。2013年にはそのような報告は60件、2014年には95件にのぼった。
2015年末までに、南部の海岸からの通報は300を超えた。そして、人目が多く通報も多くなる夏のピークシーズンが終わってしばらくしても、ラッコの死体や座礁の報告は続いた。
「秋が来て通報が減るのを待っていました」とゲツは言う。「しかし、通報はどんどん増えるばかりでした」
ガーリッチ=ミラーによると、野生生物の座礁対応者が3つも4つも通報に対応する日もあったという。
(見かけた人は親を失ったり、座礁していると思われるラッコに決して触らないことが重要。訓練を受けた対応者に任せること。そのようなラッコを見かけたら1-888-774-SEAL(7325)へ電話すること。許可なく海洋哺乳類に触れることは違法)
いい質問だが、まだ答えはない
ラッコの座礁や死に更なる刺激を与えているのが何かははっきりしていない、とガーリッチ=ミラーは言う。ここ数か月間シーライフセンターに持ち込まれたラッコはほとんどが幼く、ひとりぼっちだった。
「なぜ母親がその周囲にいなかったのか。いい質問ですが、私たちもその答えはまだ分からないのです」と言う。「恐らく、細菌感染症で死んでしまったのだと思われます」
キシックという名のラッコは死にかけている母親と一緒にいるところを発見された。母親は明らかに細菌感染症で苦しんでいたとゲツは言う。
これまでのところ、波のように押し寄せるラッコの死は健全と考えられているラッコ全体の個体数に対し影響を与えたとはみられていない。
しかし、早くて来年の予定の調査が行われるまで、確かなことは分からないとガーリッチ=ミラーは言う。
今のところ、シーライフセンターのスタッフは7頭のラッコの代理母としての生活に合わせている。このラッコたちが野生に戻ることは決してない。しかし、ウッドは母として、ラッコたちの将来に希望を持っている。水族館で新しい住まいを見つけ、人々にラッコについて学んでもらえることだ。ウッドは、このラッコたちをラッコ大使だと思っている。
シーライフセンターからデンマーク水族館への長い旅に出発する2頭のラッコが引き取られる日の早朝、ウッドはあまり悲しいと思わなかった。
むしろ、大学に進学する子どもたちを見送るようなものだったとウッドは言う。
コメントをお書きください