本日はNOAA(アメリカ海洋大気局)のウェブサイトから、2015年2月6日付の記事"Caring for sea otters offers climate bonus"をお届けします。
ラッコを大切にすると、気候変動にも良い影響を与えるというおまけがついてきます。
皆さんはラッコが可愛らしく愛すべき動物だということはすでにご存じでしょうし、もし実際に家のバスタブで飼うことができたら素晴らしいだろうな、とお思いでしょう。しかし、皆さんが好きなこの動物が、気候変動と戦う戦士だということを知っていましたか?
ケルプ(昆布の仲間)を食べるウニをエサとすることで、ラッコはケルプの森が熱を貯める二酸化炭素を光合成により吸収する力を更に引き出すことができるのです。この写真は、水族館で育てられたマイロというラッコが、気候変動と戦うという彼なりの役割を果たしているところです。赤ウニを食べる支度をしています。赤ウニは、アラスカからメキシコにかけての北アメリカ沿岸によくみられる生き物です。
ラッコがいれば、ウニは海中の岩の割れ目に潜み、ケルプの切れ端や岩に生える藻類を食べてしのぎます。しかし、ラッコがいなければ大胆になったウニは活性化し、生きたケルプを食べてしまいます。コントロールされなければ、ウニたちはケルプを食べつくし、森を砂漠に変えてしまいます。
ラッコは1800年代に乱獲され、その数は数十万頭から1900年代初めには数千頭までに激減し、そこから今も回復している最中です。2012年、研究者たちは南はバンクーバーアイランド、北はアラスカのアリューシャン列島の最西端まで、ケルプの森においてラッコがいる場合といない場合の影響を調べました。
研究者たちは、ラッコのいる水域といない水域からケルプ棚を抽出し、様々な場所からケルプを採取・計量を行い、植物物質の質量(バイオマス)の相対重量を計測しました。その結果、およそ510億平方メートルにおいて、ラッコがいる場合、ケルプの組織に蓄積される炭素量は4.4テラグラムから8.7テラグラムに増加しました。(1テラグラムは1兆グラムで、約20億パウンド超となります)
人間が化石燃料を燃やしたりセメントを作ったりして毎年8000テラグラムの二酸化炭素を排出するとしたら、ケルプが蓄積する4~9テラグラムというのはそれほど多くはないように思えるかもしれません。研究者たちが言うようにケルプによる二酸化炭素の消費は自動的に長期的な炭素の蓄積になるわけではないからです。そのうちのいくらかは、呼吸や腐敗によりすぐに大気中へ戻ってしまいます。
しかし、ケルプの切れ端は海深く沈んでいき、炭素が再び大気中に戻るまでには数百年という時間がかかります。ラッコによってもたらされたケルプのバイオマスのわずか1%でも「深海の倉庫」に収まれば、それは10万台の自動車が排出するガスを相殺するだけの量となります。2012年のヨーロッパ排出取引所における価格に基づくと、その「倉庫」に蓄積された二酸化炭素は2億500万ドル(約240億円)から4億800万ドル(約480億円)に相当します。アメリカの太平洋沿岸の生態系にとって重要な捕食者を再生させる際のボーナスと考えれば決して悪くはありません。
写真はニール・フィッシャー氏がバンクーバー水族館のために撮影したものです。マイロは2012年に死ぬまでこの水族館で暮らしました。許可を得て掲載しています。マイロとタヌは、お昼寝中に手を繋いでいる動画で、Youtubeで有名になりました。
Reference(参考文献)
Wilmers, C.C., Estes, J.A., Edwards, M., Laidre, K.L., Konar, B. 2012. Do trophic cascades affect the storage and flux of atmospheric carbon? An analysis of sea otters and kelp forests. Frontiers in Ecology and the Environment, 10(8), 409-415.
Ciais, P., C. Sabine, G. Bala, L. Bopp, V. Brovkin, J. Canadell, A. Chhabra, R. DeFries, J. Galloway, M. Heimann, C. Jones, C. Le Quéré, R.B. Myneni, S. Piao and P. Thornton, 2013: Carbon and
Other Biogeochemical Cycles. In: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change
[Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York,
NY, USA
記事元:
Climate.gov
Caring for sea otters offers climate bonus
Friday, February 6, 2015
Reviewer: Christopher Wilmers, Kristin Laidre
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