【記事】粘液産生分子、猫からラッコへ広がる病気の蔓延を促す | Slime-producing molecules help spread disease from cats to sea otters

本日は10月7日付のカリフォルニア大学デイヴィス校(UC DAVIS)のウェブサイトより、"Slime-producing molecules help spread disease from cats to sea otters"をご紹介します。どのように陸上のネコ科の動物から水に棲むラッコへトキソプラズマが伝染していくのか、そのプロセスが明らかになってきました。
専門用語が多いので、誤訳御免でお願いします。

Photo by Nicole LaRoche , U.S. Geological Survey
Photo by Nicole LaRoche , U.S. Geological Survey

海草から生成されるゼラチン質の粘着性のポリマーにより、陸上の動物からラッコや他の海洋動物へ病気の蔓延が促されている、とUCデイヴィスの獣医学の伝染病専門家の主導する研究チームが発表しました。


これらの大きな錯体分子(金属または金属類似元素の原子・イオンの周囲に、配位子(はいいし)とよばれる原子・イオンまたは原子団が方向性をもって立体的に結合し、一つの原子集団をつくっているもの)は粘性のある生体膜を形成し、水性有機物を結びつけより大きな塊にします。そこに病原微生物が閉じ込められ、海の食物連鎖にもたらされる可能性があることが発見されました。


モデルとして寄生虫トキソプラズマ原虫を使い、病原微生物が海に棲む巻貝が取り込む可能性を、これらの粘着性のポリマーがどのように増大させるかを示したものです。それらの巻貝はケルプの表面を食べる生き物で、絶滅の危機にさらされたラッコの中にはその巻貝を食べるものもいます。


新しい研究からの調査結果は、英国王立協会紀要で、10月8日に発表されます


これらの目に見えないポリマーが海において病気の伝染で演ずる役割の発見は、野生生物や人間の健康に対する沿岸の水質汚染の影響をよりよく理解する手助けをするのに、非常に大きな前進と言えます」と、獣医学部の研究者で筆頭著者のカレン・シャピロは言っています。

 

危険にさらされたラッコと人間

病原微生物による近海の汚染が人間と動物の健康に対し脅威をもたらすということは知られていましたが、病気が海洋環境にもたらされるメカニズムについては今まで謎に包まれていました。


研究者たちは世界で広くで動物と人間に感染する原虫寄生体、トキソプラズマ原虫に注目しました。


その寄生虫は、イエネコを含むいろいろなネコ科の動物の間で、活発に繁殖します。その卵はネコの糞を媒介にし、その環境で数か月から数年の間生き延びることができ、カリフォルニアで絶滅に瀕しているカリフォルニアラッコを含む海洋哺乳類に感染します。


人間も、汚染された水を飲んだり、甲殻類を十分に加熱調理しなかった場合、トキソプラズマに感染する可能性があります。


巻貝からラッコへの感染経路

ラッコと他の海洋哺乳類にトキソプラズマ原虫の感染率が高いことから、研究者はその感染ルートの追跡を試みました。

アワビや他の海洋生物を餌にしているラッコよりも、ケルプの表面を食べる巻貝を主食とするラッコのほうがトキソプラズマの感染率が10倍も高いことに注目し、巻貝がなぜ特に寄生虫のキャリアになる可能性が高いのかを調査しました。


研究所での実験から、海草から出るゼラチン質のポリマーが2つの点で病原体を伝染させる環境を作っていることが発見されました。

一つは、そのポリマーは接着剤のような役割を果たし、水性有機物質を結びつけより大きな物質にします。その物質中にトキソプラズマ原虫の卵のような感染因子が埋め込まれ、早く海底に定着することができます。


もう一つは、ポリマーは粘着性のバイオ膜を形成するのを助けます。それがトキソプラズマ原虫の卵を取り込み、ケルプをおおいます。そのケルプの表面を、巻貝が食べるのです。

ラッコが巻貝を捕食すれば、簡単に寄生虫に感染することになります。そして、陸に住むネコから絶滅に瀕している沿岸のラッコまでの、病気の伝染の複雑な連鎖が完成するのです。


この研究については、他に次の研究者が参加しています。
コリン・クルーザー、パトリシア A.コンラッド、ジョン L. ラーギア、ジョナ A. K. マゼット、UCデイビスの皆さん、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のフェルナンダF. M. マッツィーリョ、メアリーW.シルバー


全米科学財団のEcology and Evolution of Infectious Disease program(感染症環境進化プログラム?)が、この研究の資金を提供しました。

カリフォルニア大学デイヴィス校について

UCデイヴィスは、我々にとって最も緊急を要する課題を解決することを目指し、より良い人間性と自然界を結びつける個々のための、世界的なコミュニティです。

 

カリフォルニア州都近くに位置するUCデイヴィスは、34,000人を超える学生と4,100人の正規の教職員とその他の研究者、そして17,400人のスタッフを擁します。

キャンパスは年間7億5000万ドル以上(約750億円)の研究予算を持ち、包括的な保健制度とおよそ24の専門研究センターがあります。

大学は、4つの専門学部と6つの専門過程において学際的な大学院での研究と99の学部の専攻を提供しています。