【記事】ラッコと原油流出:汚染と健康への影響 | Sea Otters and Oil : Avenues of Exposure and Health Effects

1989年にアラスカで起こり、野生動物や漁業業界に甚大な被害を及ぼしたエクソン・バルディーズ号の原油流出事故から今年で25年。今回から数回にわたって、原油流出がラッコに及ぼす影響についてご紹介します。

第1回目はSeaotters.comの記事"Sea Otters and Oil : Avenues of Exposure and Health Effects"をご紹介します。

原油に汚染されたラッコ (c)Alaska Resources Library & Information Services, Flicker
原油に汚染されたラッコ (c)Alaska Resources Library & Information Services, Flicker

ラッコは他のどの海洋哺乳類よりも石油流出の影響に対して脆弱です。身体が小さく、代謝率が高く、体温の保持を完全に毛皮に頼っており、油が集中する水の表面で浮かんだり泳いだりする時間が長い結果なのです。1989年のエクソンバルディーズ号原油流出事故の際、357頭のラッコがリハビリセンターでケアを受け、100頭以上に検死が行われました。これに加えて血液学、血清生化学的検査、毒物学と組織学に関する膨大なデータが集められました。その結果、海洋哺乳類の原油汚染に対する生理的・行動的反応について、かつてない膨大なデータとなりました(Williams and Davis, 1995)。わたしたちは、今日、原油汚染の原因と動物たちの健康や幸福に対する影響について、より理解を深めています。


外部からの汚染

ラッコは、1)経口摂取、2)吸入、3)経皮吸収の3つの方法で原油に含まれる石油炭化水素に汚染される可能性があります。ラッコは水の表面でかなりの時間を過ごすため、油膜との最初の接触は外部から毛皮が汚染されてしまうこと、また揮発性の石油炭化水素を吸入してしまうということになります。外部からの汚染は経皮吸収につながっていますが、毛づくろいや食事の間の経口摂取を伴います。その結果、多くの臓器、特に解毒やその排出に関する多くの臓器、に対し大きな影響を与える内部汚染を急速に引き起こします。


エクソン・バルディーズ号原油流出事故で死んでしまったラッコ
エクソン・バルディーズ号原油流出事故で死んでしまったラッコ

様々な点で、原油による汚染の身体的な影響は、毒物そのものよりも、ラッコにより悪い影響を与えるように思われます。多くの石油製品(原油を含む)は、ラッコの足ひれの指の間にある水かきや、目や鼻、口、尿生殖器組織の周辺などの敏感な部分を刺激する化学物質を含む可能性があります。さらに、ラッコは毛づくろいの際、ごくわずかの油をも体全体に広げてしまうため、問題を悪化させてしまうことになるのです。


ある程度、もしくはかなり原油に汚染されたラッコは、毛皮が汚染されるとしばしば低体温症に陥ります。原油はすばやく毛皮に沁み込み、毛皮の保温機能の7割を占める、毛皮に含まれる皮膚に接している空気の層を失わせてしまいます。(Costa and Kooyman, 1982, Williams et al., 1988; Davis et al., 1988) 断熱機能が失われ、低体温症に関わる生理的、生化学的、また行動についての一連の変化が引き起こされます。直接的な深部体温の低下による死亡率を除くと、低体温により長期的な内臓への損害や血管系の崩壊やうっ血による機能障害が引き起こされる可能性があります。


内部からの汚染

原油に汚染されたラッコは年齢や、その原油に含まれる毒素に関連した一通りの医学的障害を示します。推測されるとおり、流出初期に酷く汚染されてしまったラッコは、医学的には最も厳しい状態を示し、結果的に致死率が最も高くなります。原油が風化し、石油系芳香族炭化水素類のレベルが下がるにつれ、障害の深刻度は少なくなっていきます。即時に獣医による治療を要する障害は次の4つです。

1)上記で述べた低体温症や高熱

2)低血糖症

3)皮下気腫および間質性肺気腫

4)胃腸損傷

毒性物との関わりが大きい肝臓や腎臓は、主に毒性物が集中し、蓄積する臓器です。毒性物を生体内変換する酵素が肺や腸と同様これらの臓器に存在しています。石油炭化水素は糞、尿、呼気、またわずかに他の分泌物を通じて体外へ排出される可能性があります。しかし、石油炭化水素は脂肪や脂肪層のような、脂肪の豊富な組織に蓄積し、その結果溜まってしまう可能性があります。


まとめ

エクソンバルディーズ号原油流出事故によって、死んだラッコを肉眼、また顕微鏡での検査を行う価値が示されました。事故はまた、石油流出の前に野生生物に対し測定値のベースラインを持つことの重要性を示しました。詳細な検死、病理組織評価や血液化学によって、リハビリテーションセンターでラッコの手当をしている獣医たちに最も価値のある情報がもたらされました。しかし、毒性物検査は非常に高額で時間がかかります。また、石油炭化水素が肝臓や腎臓で素早く浄化される一方で臓器や組織の損傷は生涯残り続けるため、あいまいな結果を示すことがあります。原油に汚染されたラッコの死因のうち大きなものは次の通りです。

1)低体温症
2)ショック、また二次的な器官機能障害
3)間質性肺気腫
4)胃腸潰瘍
5)捕獲される際のストレス

直接的な原油の中毒症は要因の一つではあるものの、原油流出事故の間汚染されたラッコで確認することは困難です。

記事元:
Seaotters.com

Sea Otters and Oil : Avenues of Exposure and Health Effects

June 1, 2012 by Randall W. Davis