【記事】ラッコの苦しい戦い - ラッコと人間と環境(4) |Threatened: The Controversial Struggle of the Southern Sea Otter - Part.4

ラッコが直面する問題を捉えたPalomar Universityの動画"Threatened: The Controversial Struggle of the Southern Sea Otter"の書き起こしパート4、ついに完結。
ラッコと人間と環境の繋がりは、どんな未来を導いてくれるのでしょうか。

 

これまでの書き起こしはこちら パート1 | パート2 | パート 3

動画は前回の続きの28:41くらいに設定されています。

ラッコは、多岐にわたる物を餌とするため、様々な毒素や寄生虫に特に侵されやすい状況にあります。

カリフォルニアの沿岸で不足しつつある餌を探すために、今や一日の大半を費やさねばならなくなりました。

十分に栄養を採れていないラッコが数多くいます。

独特な生態を持つため、生き残るためには、より栄養が少なく毒素の多い餌を獲らなければならなくなり、余分な餌を探すために、貴重なエネルギーを消費しなければならなくなるという結果をも生みました。

 

パロマ大学 生物学教授 レスリー・ウィリアム氏

「ラッコは他の海棲動物たちとは異なり、体温を保つ役割を果たす厚い脂肪層を持っていません。従って、体温の多くを水にとられてしまいます。その結果、ラッコは一日あたり、体重に対し多くの割合を占めるほどの、より多くの餌を食べ、消費するエネルギーや失われる体温を作り出さなければならないのです。

ラッコは一日に体重の25%から30%に相当する量を食べます。人間で考えると、160パウンド(約72.5kg)の人が、体温を保つためだけのために一日あたり60パウンド(約27.2kg)のハンバーガーを食べなければならないことになります。」

 

オッタープロジェクト ブラッド・ハント氏

「概して、ラッコは多くの時間、休んでいます。50%の時間を休むことに使い、餌を撮るために移動したり潜ったりするエネルギーを温存します。年齢や潜水能力に拠りますが、17~38%の時間を餌を獲るために使います。」

 

パロマ大学 生物学教授 レスリー・ウィリアム氏

「全てが手に入るものと仮定すれば、ラッコが餌を獲る場合、非常に多くの餌の選択肢があります。

一番いい餌は、ウニやアワビなど高カロリーなものですが、それらがない場合もしくは数が少ない場合は、他のものを餌としなければなりません。他の餌はサザエやスナガニのようなカロリーがそれほど高くないものもあります。そのため、一日に必要なエネルギー量を満たすため、より多くの餌が必要となり、そのためにより多くの時間を餌探しに費やさなければならなくなります。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「私たちの調査によると、個々のラッコが餌探しに費やす時間の割合は最大限まで増加していることが分かりました。つまり一日に使える時間の45%から50%を餌探しに費やしていることになります。」

 

ラッコがより栄養価の低い餌を獲るようになると、健康には悪い方向へ影響します。

 

アメリカ魚類野生動物局 カリフォルニアラッコ回復プログラムコーディネーター

リリアン・カーズウェル氏

「モントレー湾には無脊椎動物(ウニやタコ、貝類など)が豊富に存在しますが、ラッコも多く、そこにいるラッコたちの間で餌をめぐる競争が激しくなります。

ティム・ティンカー氏は、食べ物の制限が全くないサンニコラス島のラッコと比較して、カリフォルニア中央沿岸部のラッコは健康状態がよくないと指摘しています。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「その海域で入手可能な餌の量をもとに考ると、カリフォルニア中央沿岸部のラッコの生息数は、その収容能力の上限に近付いているのではないかと考えています。」

 

パロマ大学 生物学教授 レスリー・ウィリアム氏

「収容能力というのは、ある環境下で、そこから得られる資源によって支えられる個体数の数のことです。

ここでいう資源とは、土地や食べ物、空間のことです。ラッコにとっては、主な要素は餌となります。

もしそれが問題であるのだとしたら、環境の収容能力を上げるには、そうした特定の水域に餌になるものを増やすか、水域を広げて別の場所へ移るか、という方法のいずれかとなります。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「ラッコにとって、生息域を広げることが環境収容能力を挙げることにつながるでしょうか。答えは簡単、「イエス」です。間違いないでしょう。個体密度を等しくすることになりますから。従って、あるラッコの集団により多くの生息域があれば、持続可能な集団の個体数は大きくなるでしょう。非常に単純な関係です。」

 

アメリカ魚類野生動物局 カリフォルニアラッコ回復プログラムコーディネーター

リリアン・カーズウェル氏

「海洋生物保護法で定められた最適な持続可能な生息数に到達させるために南へ生息域を広げることは、非常に批判があがりました。

生息数の目標は8000とされましたが、ラッコをカリフォルニア中央部へ閉じ込めることによってそれが達成されるはずもありませんでした。」

 

そのため、魚類野生動物局は最終的には「ラッコ不在区域」をなくしてしまうことを公的に決定しました。

しかし、多くの環境学者は困難はまだ到底乗り越えられていないと考えています。

 

フレンド・オブ・ザ・シーオター プログラムディレクター ジム・カーランド氏

「私たち環境団体は、次の段階として、漁業産業が裁判を起こすだろうと考えています。従って、私たちは仲裁にはいる準備をしなければなりません。」

 

しかし、漁業関係者の全員がラッコが南カリフォルニアの海域に入ってくることを心配しているわけではありません。

 

サンタバーバラ 商業ロブスター・カニ漁業者 スティーブ・エスコバー氏

「基本的に、私は、ラッコの隣で仕事をしているというだけなんです。いつもラッコを見かけますし、実際のところ、自分の商売に何か影響を及ぼしているかというと、全くそうは感じません。だから、あまり影響は感じられません。」

 

サンタバーバラ 商業漁業者 ブライアン・グラスソック氏

「(ラッコが南の水域へ入ってくることの)何が問題なのか、さっぱり分かりません。

ラッコは何千年もここで生きてきたけれど、今でもロブスターはいるし、カニもいる。ラッコのせいで何かが絶滅するとか、そういうことはないんですよ。聞いたことがない。ラッコは、単に、生きたいと思っているだけの、毛がフサフサの生き物なんですよ。誰も気になんてしません。」

 

漁業関係者

「私たちは慣れていけると思います。ドロップアウトする奴もいれば、常に新しく入ってくる人もいる。そんな感じじゃないでしょうか。」

 

科学者たちは、漁業関係者は十分な時間をかければラッコが南の海域へ広がっていくことを受け入れられるのではないかと信じています。

 

アメリカ魚類野生動物局 カリフォルニアラッコ回復プログラムコーディネーター

リリアン・カーズウェル氏

「実施可能で一番理想的な生息地の拡大方法は、ティム・ティンカー氏とその共同研究者たちによって行われました。それは、10年以内にカーピンテリアやオクスナード(いずれも地名)を生息域にするというものです。生息域を年に数キロメートルずつ広げるという計画で、時にはその拡大が取り消されることもある可能性があります。ですので、非常に時間のかかる、順序だった手段であるといえます。」

 

サンディエゴ沿岸保護 水質研究所 所長 トラヴィス・プリチャード氏

「漁業関係者と環境学者は滅多に合意することはありませんが、一つ同意したことは、海の生物にとって、水質汚染が非常に問題であるということです。

海洋汚染問題を解決することは全ての人を幸せにします。

より安全な魚が手に入る。魚を食べる人もいるし、魚によって生計を立てる人もいます。その両方がより良くなることができます。」

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「ラッコと人間が食べる物の多くは同じですから、ラッコが私たちに伝えようとしていることに注意を払うことはとても大切ですし、ラッコが生き延びていくために必要なのはもちろん、私たち人間が健康に生きるためにも、可能な限り汚染されていない海産物を維持しなければならない、ということを認識しなければなりません。」

 

サンディエゴ沿岸保護 水質研究所 所長 トラヴィス・プリチャード氏

「私たちは、自分が水に与える影響についてもっと考える必要があります。自分が水質汚染にどのようにかかわっているのだろうか、と。比較的単純なステップを踏んで、自分自身が与えている影響を最少にするのです。」

 

アメリカ魚類野生生物局 獣医病理学者 メリッサ・ミラー博士

「私は猫の寄生虫(トキソプラズマ)に感染したラッコの治療をしていますが、私自身は猫が大好きです。でも3匹の猫たちは家の中で飼っています。猫のトイレを掃除する際には非常に注意を払っています。糞を捨てる時には、それが海へ流れ込む機会を最少にするようにしています。」

 

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サンディエゴ沿岸保護 水質研究所 所長 トラヴィス・プリチャード氏

「湿地帯を作っていくのは、水を浄化していくための遥か長い道のりに思えます。 ここサンディエゴにあるサンディエギートラグーンがその良い例の一つです。ここに4エーカーほどの小さな湿地帯を作り、本来はそのままラグーンに未処理のまま流れ込むはずだった雨水を、ここに流れ込むようにしました。この湿地帯は驚くべき成果をあげています。(農薬などによる過剰な)栄養物や糞便に潜むバクテリアなどを取り除き、沈殿物を捉えて、ラグーンに流れ込まないようにしているのです。 こうした小さな取り組みが、海洋汚染問題に非常によい結果をもたらしてきました。 したがって、ミクロシスティスの問題を解決する最初のステップは、まずそれがどこにあるのかを知るということです。 問題がどこで発生しているのかを知らなければなりません。今のところ、その問題に関する地域単位での評価はまだされていません。問題になっている地域がどこか、直接的な原因が何か、どうやって浄化すればいいのか、そういうことが分かっていません。 もしモニタリングがミクロシスティスが流れ込む先の水で繁殖しているということを示していれば、解決方法は農家に対し彼らが灌漑に利用している水を留めておくような指導をしていくということになるでしょう。」

 

フレンド・オブ・ザ・シーオター プログラムディレクター ジム・カーランド氏

「最終的に、このような質問になります。 ラッコの数を回復するために、一般人には何ができるのだろうか。 一つの方法は、カリフォルニアでは税金を支払う際にラッコ基金に対し寄付をすることができます。それによって、ラッコの調査や保護に協力することができます。」

 

USGS 野生動物研究者 ティム・ティンカー氏

「人間として、社会として、ラッコが存在する損なわれていない生態系を維持していくのはどのくらい価値があることなのでしょうか。部分的には環境的な質問でもあり、人間社会として、最終的に結論を出さなければならない、社会的な質問ともいえます。」

 

フレンド・オブ・ザ・シーオター プログラムディレクター ジム・カーランド氏

「ラッコの回復プログラムに対する個人的な展望は、20年後、ラッコが絶滅危惧種リストから削除され、年々生息数の増加が見られ、ラッコが直面していた多くの脅威から解放されているという状態です。」

 

環境保護センター スタッフ代理人 ブライアン・シギー氏

「ラッコは南カリフォルニアに数千年にわたり生息してきました。しかしほとんど絶滅に近い状態まで追い込まれました。絶滅したと考えられていたのに、ここまで回復したのは素晴らしいことです。

ラッコを、特に自然の状態にいるものを、見たことがある人はみな、ラッコに対して親近感を持たずにいたり、そのカリスマ性を褒めずにいたりすることは難しいでしょう。

だから、非常に素晴らしい成功物語なのです。

ラッコは存在するに値する生き物ですし、彼らが持つ権利を回復するに値すると思います。」

 

無数の脅威に直面しているカリフォルニアラッコたちは私たちの約束を必要としています。

 

ジャック・クストー(フランスの海洋学者)がかつてこう言いました。

 

我々はその歴史の中の多くの時間を、

生き残るために自然と闘ってこなければならなかった。

しかし、我々は気づき始めたのだ。

生き残るためには、自然を守らなければならない、ということに。

全てを一つにする海こそ、私たちの唯一の希望なのです。

私たちはみな、同じ船に乗っている者どうしなのです。


カリフォルニアラッコの苦悩は、この現実のほんの一部にすぎません。

海のためにどうしたいのか、私たちの助けを必要としている、絶滅に瀕している動物たちを守るための解決法があるかどうか、決めるのはわたしたちの責任なのです。