ラッコの保全活動 | Sea Otter Conservation

最終更新日:3/27/2018

ラッコを保全しなければならない理由

ラッコを保全しなければならないのは、ラッコが可愛いからというだけではありません。

 

全ての生き物は、お互いに食う・食われるという関係、つまり食物網の中に存在しています。ラッコもウニやカニなどを食べ、またシャチなどに食べられています。しかし、ある生態系においては、ある動物の存在がその生態系に属する多くの生き物に影響を与えています。そのような動物を「キーストーン種」と呼びます。キーストーン種は、特定の生態系において個体数が比較的少ないにも関わらず、その生態系全体に大きな影響を及ぼします。ラッコはそうしたキーストーン種としての役割を果たす動物の一つです。

 

18世紀から20世紀初頭にかけラッコが乱獲され絶滅寸前になってしまうと、その影響はすぐに生態系に及びました。ラッコが旺盛な食欲で抑制していたウニやアワビが急増し、ケルプを食べつくしてしまったため、ケルプの森に暮らしていた多くの魚や無脊椎動物たちがすみかを失い、残ったのは一面ウニだけの砂漠のような海底でした。

 

20世紀に入りラッコが保護により増加するに従い、ラッコが復活してきた沿岸にはまた豊かなケルプの森が戻り、それに伴い多くの魚や無脊椎動物、それを食べる海洋哺乳類なども戻ってくるようになりました。ラッコは豊かな海を作るためには欠かせない動物であり、そのためにも保全が必要なのです。

アメリカにおけるラッコの保全活動

現在、アメリカでは1972年に制定された海洋生物保護法(Marine Mammal Protection Act)および73年の絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(Endangered Species Act)によってラッコが保護されています。

 

この法律により、ラッコを含む希少な野生動物の保護が定められ、許可を得た者だけが直接保護にあたることができます。許可を得ていない一般人が野生動物に接触したり捕獲したりすることが禁じられているため、もし怪我などで動けない状態のラッコを発見しても決して触れたりせず、すぐにラッコの保護団体へ連絡する必要があります。

保護方針

野生のラッコが怪我や病気、親とはぐれた等の理由でラッコが保護される場合、大前提として治療・リハビリ後は自然に返すことになっています。しかし、継続した投薬治療が必要だったり、自然に適応することができないという判断がされた場合は米国内の施設で受け入れ先を探すことになります。これは魚類野生生物局が様々な手順に基づき判断するようになっています。カリフォルニアラッコについては海外への輸出が禁じられているので、どうしても受け入れ先が見つからない場合は、残念ながら安楽死になることもあります。アラスカラッコについては、近年カナダやヨーロッパの施設に受け入れられています。

赤ちゃんラッコのリハビリについては特に受け入れ側に対する条件が厳しく、受け入れ可能な施設はほんの一部に限られています。また、赤ちゃんラッコをリハビリし野生に返すことができる施設はモントレーベイ水族館のみとなっています。

 

2011年のSea Otter Conservation Workshop(ラッコ保全ワークショップ)において、AZA(アメリカ動物園水族館協会)に所属する北アメリカの水族館は、急増しているリハビリが必要なラッコの受け入れ先を確保するため、飼育下での繁殖を中止することに同意しています。

カリフォルニア

カリフォルニアでは、ラッコは絶滅危惧種に指定されており、完全保護状態にあります。

毎年春に行われている個体数調査で、3年平均値が3年連続3,090頭を超えることが絶滅危惧種のリストから外れる目安となっています。

ラッコの保護活動をしている団体はいくつかありますが、中でも際立っているのがカリフォルニア州モントレーベイ水族館のSORAC(Sea Otter Research and Conservation:ラッコ調査保護機関)です。SORACは、怪我や病気などで打ち上げられたラッコや、親とはぐれてしまった赤ちゃんラッコなどを保護し、リハビリ後野生に帰す活動を行っています。投薬治療を続けなければならないなどの理由で野生に帰すことができないと判断されたラッコは、全米各地の水族館で余生を過ごし、ラッコや環境保護への理解を深めてもらうための親善大使として活躍しています。

ラッコ保護プロフラムのスタッグがカリフォルニアラッコを野生に帰す© Monterey Bay Aquarium
ラッコ保護プロフラムのスタッグがカリフォルニアラッコを野生に帰す© Monterey Bay Aquarium

モントレーベイ水族館の素晴らしい取り組みの一つに「代理母プログラム」があります。みなしごのラッコたちがある程度固形物の餌を食べられるようになったら、メスのラッコを代理母もしくは教育係として、ラッコとして生きるために必要な教育(潜水、餌取り、毛づくろい等)をしてもらうのです。代理母に育てられたラッコは、人間が育てた場合にくらべて自然に帰ったあとの生存率が格段に上がりました。

保護された子どものラッコの世話をするラッコ保護プログラムのスタッフ。代理母ラッコに育てられ、野生に返る予定のこのラッコが人間に慣れないよう、スタッフはマスクとポンチョで姿を隠す© Monterey Bay Aquarium
保護された子どものラッコの世話をするラッコ保護プログラムのスタッフ。代理母ラッコに育てられ、野生に返る予定のこのラッコが人間に慣れないよう、スタッフはマスクとポンチョで姿を隠す© Monterey Bay Aquarium

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アラスカ

アラスカのラッコは場所により保全状態が異なっています(参考)。アラスカで唯一ラッコの保護・リハビリをする公的な権限を持つのは、アラスカシーライフセンターです。広いアラスカを1か所の施設で受け持つのは非常に困難ではありますが、近年ラッコの座礁が急増しており、キャパシティも限界に近付いているとのことです。
ラッコの子どもについては、この施設で育てられたものは野生に帰すことができないため、米国内の水族館を中心に、カナダのバンクーバー水族館や、最近はヨーロッパの施設にも引き取られています。

オレゴン

毛皮貿易によりラッコが絶滅近くに追い込まれて以降、オレゴン州沿岸にはラッコはいなくなってしまいました。1970年から71年にかけ、93頭のラッコがアラスカから再導入されましたが、定着することはありませんでした。州では絶滅危惧種に指定されています。ここ数年、ラッコの目撃情報が何度かありますが、定着はしていません。2019年にElakha Allianceというグループが発足し、将来的にオレゴン州へのラッコの再導入を目指して研究などを進めています。

ワシントン

1969年から1970年の間、59頭のラッコがアリューシャン列島のアムチトカ島からワシントン中へ再導入されました。ワシントン州は1981年、ラッコを絶滅危惧種に指定しましたが、近年増加率が高まっていることから見直し案も出ています。

ワシントン州では、主にシアトル水族館が座礁したラッコのお世話を行っています。

カナダにおけるラッコの保全活動

カナダではSpecies at Risk Act(絶滅危惧種法)でラッコは保護されています。
現在、ブリティッシュコロンビア沿岸のラッコは「special concern」(特に懸念される)に分類されています。

ブリティッシュコロンビア

アメリカのワシントン州とアラスカ州の間に位置するブリティッシュコロンビア州にも、再導入後バンクーバー島の太平洋沿岸でラッコが増えています。この地域で身動きができなくなったラッコはバンクーバー水族館の海洋哺乳類保護センターが唯一保護にあたっています。
また、バンクーバー水族館は、アメリカで保護されたアラスカラッコの子どもも積極的に引き受けています。

ラッコの調査

ラッコの中には、足ヒレにプラスチック製の色がついたタグをつけているラッコがいます。
タグは保護されたものもしくは研究調査のため一時的に捕獲されたものであることを示しており、色の組み合わせや足ヒレの位置から個体を特定することができます。

 

海にいるラッコの捕獲には、ウィルソントラップという特殊な装置を使います。これは、ラッコを捕獲するために使われるU字型の金属の枠に網が取り付けられたもので、水中スクーターの全面に装着して使用します。
ラッコを捕獲するダイバーは訓練を受けた生物学者です。リブリーザーと呼ばれる、軍用の泡の出ない呼吸用タンクを身につけています。
まず、船で対象にするラッコを探します。ラッコは寝ているものを選びます。
目標を定めたら、ダイバーは水に潜り、ラッコに接近します。途中で少し顔を出し、ラッコの位置を確認したら再度水中へ戻り、寝ているラッコの真下に移動します。ラッコを捕獲する際は、枠の部分を一気に上に押し上げるようにして、寝ているラッコを水面下から枠に入れ、網を閉じます。
ラッコを捕獲したら、船は速やかにダイバーに接近し、用意されている輸送用の箱にラッコを入れ、陸地に戻ります。

ウィルソントラップを使ってラッコの捕獲を行う