【記事】シェッド水族館のルナ、がん予防のため手術を受ける | Shedd’s famous otter Luna goes under the knife to prevent cancer

本日は2020年2月13日付のChicago Tribune紙より、"Shedd’s famous otter Luna goes under the knife to prevent cancer"をお届けします。2014年にカリフォルニアからシェッド水族館へやってきたルナ。今後起こりうる生殖器系のがんの予防措置として、卵巣と子宮の摘出を行いました。翻訳に時間がかかって遅くなってしまいました(汗

ルナは全米でおそらく最も有名なカリフォルニアラッコだ。ルナは北西部郊外にある動物病院の手術室で仰向けになり、体を支える型の中に横たわって青い布のようなシートをかぶせられていた。

 

麻酔のはじめの間、シェッド水族館の海洋哺乳類のしっぽは、強い麻酔前の夢うつつの状態の時ルナの後脚の間で痙攣した。今やルナは完全に麻酔下にあり、ミッチ・ロビンズ博士は、飼育ラッコに対する新しい治療を開始する準備がほぼ整っていた。この治療は、卵巣と子宮を摘出するもので、今後起こりうる生殖器系腫瘍を予防するために行われるもので、政府の承認が必要だった。

 

「これだけ毛があると、執刀医は緊張します」と獣医専門センターの経験豊富な獣医、ロビンスが言う。

 

にぎやかなバッファローグローブの施設のルナ周辺の部屋では、不妊手術のため、きれいに毛を剃って手術の準備を受けている。 小さく、縮れた毛の犬は、腹全体をむき出しににて、担架の上で転がっている。 前十字靭帯断裂の治療を受けたゴールデンレトリバーは、同様に後ろ足の毛が剃られており、細長い太鼓のように見える。

 

しかし、ルナの厚い毛皮には別の段取りが必要だ。 ルナの下腹部が露出した状態で、シェッド水族館のマット・オコナー博士は、切開を行う2か所に滅菌液を塗布する。 アシスタントが黒い紳士用櫛と無菌の潤滑剤を使い、メスで切るラインをきれいにするために、慎重に毛を分ける。

 

「ラッコは犬や猫のように毛を剃るわけにはいきません」シェッド水族館の獣医は説明する。この獣医は水曜の早朝、10人余りの水族館スタッフを引き連れて北西部の郊外にあるクリニックへやってきた。「バリカンが2つほどダメになってしまうでしょうね」

 

 

ラッコのルナ。シカゴのシェッド水族館にて。2019年2月26日月曜日。(Jose M. Osorio/Chicago Tribune/Chicago Tribune)

それ以上に、ラッコに対し回復期に水に入らないように指示することはできない。わずかな毛皮さえ失っても、生息地の55度の水域で体温を維持する能力が失われてしまう。 「たとえ小さなはげがあっても、ラッコは大量の熱を失ってしまうのです」

 

 

しかし、毛をそのままにしなければならないことを考えても、ロビンズ博士はその組織の表面に非常に満足していると断言する。 「見てください。君たちは素晴らしい準備をしてくれたね」

 

主日室には15名ほどの人々がいた。シェッド水族館の獣医スタッフ、動物トレーナー、広報担当、専門センターの外科スタッフ、そして記者とカメラマンだ。ビデオモニタータワーは手術台の側面にあるので、ロビンスは後で腹腔鏡やカメラを入れた際、動物の腹部の中を見ることができる。

 

「準備はいい?」ロビンスは言う。「開腹」

 

ロビンスは2か所の切開のうち最初の切開を行い、数滴の血がラッコの茶色の毛に滴った。

 

2014年9月にカリフォルニア州中央のビーチで独りぼっちで空腹で体重が900gもない状態で救助され、シェッド水族館にやってきた時、ルナはすぐにスターになりました。ルナのふわふわの顔はインターネットや「グッドモーニングアメリカ」(訳者注:アメリカのニュース番組)で広まりました。

 

Welcome Pup 681!(ようこそ、ラッコ681号!)」や「Playtime With Pup 681(ラッコ681号の遊び時間)」のような動画は、かわいいものを求める多くの人々をシェッド水族館YouTubeアカウントへといざない、またハーフムーンベイ近くで見つかったことにちなみ「ルナ」と名付けられたコンテストには1万票以上が集まった。

 

ルナは現在5歳、体重は45ポンド(約20.25㎏)になり、シカゴの湖のそばにある水族館のカリフォルニアラッコたちの1頭になっています。幼く一時的によりかわいらしく見えるラッコたちがその仲間に加わっています。一方、シェッド水族館や他の施設は、飼育下にあるメスのラッコには年齢を経るに従い生殖器官に腫瘍ができる可能性があることを学んだ。

 

ラッコは野生では絶滅の危機に瀕しているラッコに関する協力体制を持つ動物園、水族館および米国政府は飼育下でラッコの繁殖を行わないことに同意している。これは、ルナだけではなく、それぞれその経緯は多少異なるもののシェッド水族館にいる6頭のカリフォルニアラッコとアラスカラッコたちのように、母親と離れ離れになってしまった赤ちゃんラッコを受け入れる余裕があるようにしたいと考えているからだ。

 

通常はメスに対して避妊を行うのではなく、例えば飼育下のゴリラで行うように、オスに対して去勢を行っている。

ロビンズ博士が手術室で尋ねた際にオコナー博士が説明していた説は、メスは定期的な妊娠・授乳のサイクルを経ていないため、腫瘍が発達してしまう可能性がある。

 

「基本的に、子宮の細胞が異変を起こす可能性があるのです」とオコナー博士は言う。「メスは出産の都度子宮内膜をはがすことになっています。そうしなければ腫瘍の形成を促進することになってしまう可能性があります」

 

オコナー博士は、こうした症状は近年シェッド水族館、バンクーバー水族館およびモントレー水族館の年配のメスにのみ見られたという。「私たちこうした腫瘍が本当に問題だと判断したのはつい最近のことです」

 

シェッド水族館の専門家は約1年前、国際的な獣医師会議でこの問題についてプレゼンテーションを行い、動物施設での飼育を監督する米国魚類野生生物庁に対し予防措置としての子宮摘出手術の実施許可を願いでて認められた。

 

私の知る限り、まだ誰もメスの避妊を行っていません、とオコナーは言う。

 

数週間前、シェッド水族館のチームとロビンズ博士は2016年にカリフォルニア州カーメル近くで保護された4歳になるエリーの処置を行った。手術と術後の回復が非常に順調にいったため、本格的にラッコの青年期に入った少し年配のルナの処置を行うことを決定し、トリビューン紙を見学に招待してくれたのだ。

 

「エリーの予防的子宮摘出手術の際は、もっと人が少なかったですね、とロビンズ博士は言う。「間違いなく、記者はいませんでしたよ」

 

ロビンズは例えば、自身が医療諮問委員会に属するシェッド水族館、そしてブルックフィールド動物園およびリンカーンパーク動物園との関係を通じて行ってきた他の特殊な動物を思い出そうとするなど、始終気さくだった。

 

「アシカ、ノコギリザメ、ウナギ2匹、ヘビ・・サメは連れてきたかな?」

 

「99%は犬と猫ですよ」と55歳になるロビンズは言う。ラッコのような動物を扱うのは「楽しい」という。「めったにないので、何というのが正しいかー、そう、クールだよ」

 

非営利団体のために公益として行われる仕事を行う獣医専門センターには、専門家スタッフだけではなく、画面の映像で見ながら臓器を見つけ摘出することができる腹腔鏡がある。

 

つまり、これは腹の中をのぞくために切る必要がなく、非常に小さな切開(ロビンズの測定によれば1.2cmや2.3cm)で済むため、失血がほとんどなく回復がはるかに早いことを意味している。

 

その場にいて体温や心拍数をモニターしたり、ラッコの呼吸を助けたりする機器を使う人々にとって、手術は効率的に行われ、外科医の作業に1時間、全体では2時間で終わる。

 

「手術台で目を覚ましてしまったのはライオンだけでした」と獣医専門センターの麻酔科医ケイティ・ベネットが冗談を言う。

 

しかし、実際に手術が行われる前には重要なラッコの身体機能が働く。ルナが無感覚になると、体の端から液体がしたたり落ちる。

 

「ラッコの尿、いる?」シェッド水族館の動物行動トレーニングディレクターであるスティーブ・アイベルは言う。「誰かラッコの尿欲しい?尿が出たよ」

 

オコナーは前に進み出て無表情でルナの膀胱をマッサージする。「獣医大学での4年間」とオコナーは言う。毎年の検診のための尿のサンプルがとられた後、尿は床に置かれたタオルの上に落ちる。

 

ルナの頭のほうではシェッド水族館の獣医レジデントが麻酔がかかっているのを利用し、ルナの歯から歯石をとっている。

獣医のジュリー・シェルドンが手術が行われる前に歯石をとっている(Stacey Wescott / Chicago Tribune)

切開が行われ、カメラがチューブ(ポート)に挿入され、動物の胴体に入れられると、ロビンズは二酸化炭素ガスを送り込むよう求めた。

 

これは、オコナーが説明するには、手術領域を膨らませ、生殖器官を見つけやすくするのだという。 「カメラを使って卵巣と子宮を探し、つかみます」とオコナーは言う。 LigaSureと呼ばれるブランドの器具により、外科医は1つのプロセスで血管を切断し焼灼することができる。

 

ガスが仕事をしている。 「腹部がどれだけ素晴らしく膨らんでいるのかがわかるでしょう」とロビンズは言う。

 

シェッド水族館のラッコケアチームのスーパーバイザーであるクリスティ・スターリングは、「ルナはエリーよりも少し太っている」という。

 

ロビンズは、モニターを見やすくするために、部屋の照明を切るように言う。 「そこにある。そこにルナの卵巣があります」

 

ロビンズはLigaSureの先端を調べ、適切なスポットを見つけると、結合組織を切断する。

 

「素晴らしい」LigaSureのロゴが手術室の画面に映っている。ロビンズが言うには、その会社は見えるようにロゴをその場所につけたのだそうだ。

 

「次回はそこに「シェッド」と書いておくよ」とロビンズは冗談を言った。

 

臓器を探せるよう、ラッコは機械式の手術台の上で左右に転がされる。ある時点で外科医は臓器をひっくり返し「腎臓ではないことを確認してくだしあ」という。おそらく外科マスクの下で微笑んでいるのだろう。

 

「苦笑」シェッド水族館のアイベルは言う。

 

「わかった」とロビンズは言う。 「これが2つめの卵巣」ルナの体温は通常の範囲で、華氏100.4度だ。

 

外科医はさらに数片を切り取り、すぐに繋がった生殖器官を引き出し、滅菌したサンプル容器に入れる。 この器官はイリノイ動物園の共同病理学プログラムにより病気の分析が行われ、その後、ミシガン州立大学に送られて、他のラッコの器官との研究と比較を行うのだとオコナーは言う。

 

今回の大きな切開はエリーよりも良い場所にあったとロビンズはオコナーに語った。 「今回わかった。これをラッコの腹腔鏡手術に関する教科書の章に入れることができるね」

 

手術は大詰めとなり迅速に進む。ルナは縫合糸で縫われつはその糸は最終的には溶けてしまう。ルナが輸送用のケージに戻され、麻酔拮抗薬を与えられるとルナのしっぽは再び痙攣する。数分以内に、ルナはひどくもがきだす。

 

ロビンズは、ケージの柵のある扉ごしにめったにない患者を見つめ、人々が犬や猫に話しかけるようなベイビートークで話す。 「あれまあ」と医者はルナに言う。 「誰かがそのトラックのナンバープレートを手に入れたの?」

 

シェッドチームは、シカゴに戻るためにルナをバンに戻す。一日の終わりまでに、彼らは報告をし、ルナは水に戻り、エサを食べるか、そうでなければ元気になるだろう。

 

一方、ロビンズ博士は手術室に足を踏み入れる。そこではゴールデンレトリバーの毛を剃った脚が空中に突き上げられている。

 

「また日常に戻ります」と。ロビンズは言う。