【記事】気候変動を遅らせるラッコ | Researcher: Sea otters help to slow climate change

本日は2019年9月3日付のPeninsula Daily Newsより、"Researcher: Sea otters help to slow climate change"をお届けします。8月下旬にワシントン州のクジラ博物館で行われたショーン・ラーソン博士の講演からです。

再導入されたラッコの役割ーケルプの森を助けること

B.C.のレース・ロックス近くのケルプでのんびり休んでいるオーディンは、目にけがをしたオスのラッコで、セイリッシュ海に戻ってきた数少ないラッコの1頭だ。

 

知恵のために目を犠牲にした北欧の神にちなんで名付けられたオーディンは気候変動と戦うために世界が必要とする救世主かもしれないと、ショーン・ラーソンは信じている。

 

Maya's Legacy Whale WatchingのFacebookページより、オーディンの写真。
本記事中にはオディンの写真の掲載はありませんでした。

シアトル水族館の自然保護研究部門のキュレーターで、フライデー港にあるクジラ博物館の研究学芸員でもあるラーソンは、最近の「ラッコ、Enhydra lutris、保全―これらは世界を救うことができるか?」と題した講演の中で、「ラッコは重要な種です」と説明した。

 

先月末、クジラ博物館のホールで開かれた講演でラーソン氏は、ラッコはキーストーン種として生態系で重要な役割を果たしていると述べた。

 

その重要な機能を探る前に、ラーソンはラッコに関する基本的なことについて説明した。

 

「ラッコは真の海洋哺乳類です」とラーソンは言った。ラッコは自分の心に近く、またこの種に関して大学の論文を書いたと付け加えた。

 

ラッコとカワウソの主な違いは、どれくらい長く海洋環境にとどまっているかだという。ラッコはほとんどの生活を海で過ごすが、カワウソは頻繁に水に入るに過ぎない。

 

ラッコはカワウソの4倍も大きいこともあるので、サイズも大きな違いとなっている。

 

他の海洋哺乳類と異なり、ラッコは脂肪層をもたない。ラーソンによると、その代わりに、動物界で最も密度の高い厚い毛皮に依存しているという。

 

「進化の面でいえば、薄くても脂肪の層があればよかったのですが」とラーソンは言う。なぜなら、十分な食物がない場合や、毛皮の状態が悪い場合は、体温を維持するのに苦労するからだ。代わりに、ラッコは毛皮に頼っている。

 

 

フライデー港のナチュラリストで、Maya's Legacy Whale Watchingの創設者であるジム・マヤは、ラッコの毛皮には1平方インチ当たり約100万本の毛があると言う。それに比べて、犬は普通6万頭くらいだ。

 

ラーソンが発表した狩猟記録によると、1741〜1911年に行われた毛皮取引の最盛期、1804〜1807年の間に15,000匹近いラッコが殺された。ワシントン州で最後に目撃されたラッコは、1910年にウィラパ湾近くで射殺された。

 

翌年、オットセイ条約が締結され、この協定はオットセイを保護することを目的としていたが、ラーソンによると、残された一握りのラッコも守ることになった。

 

今日、ラッコはアラスカ西部とカリフォルニア全域で絶滅危惧種に指定されている。

再導入

1960年後半にラッコがワシントン州に再導入された。ラーソンによると、それ以来、個体数は毎年約10%の割合で増加している。研究者は2017年に、州には約2,058匹のラッコがいると推定した。

 

ラーソンのプロジェクトの一つは、ラッコの遺伝的多様性に対する毛皮交易の影響を研究することだった。毛皮交易時代以前のラッコのDNAをアメリカ先住民の貝塚で探した結果、過去の個体群では平均して0.79の遺伝的多様性があることがわかった。

 

絶滅寸前の現在の個体群は、遺伝的多様性は0.47だ。近交系でない動物のほとんどは、遺伝的多様性が0.79から0.8であるとラーソンは指摘した。

 

過去10年から20年の間に、ワシントン州のラッコの個体数が徐々に増加していることから、サンフアンでのラッコの目撃は増加している。しかしラーソンは、ラッコはサンファン郡や内海には決して多くないと説明した。

 

マヤは、約20年の間にオディンを含むラッコを計10回見たという。

 

識別するためのヒントは、ラッコの頭は尖っておらず丸い形をしており、色はアザラシの灰色の頭とは対照的に茶色であるとマヤは指摘した。またラッコはケルプの中で仰向けになっていることが多い。

 

マヤが見た数少ないラッコはみな一人で、そうしたラッコたちはメスを探している若いオスだったと推測している。ラーソンは、ラッコは自然界では非常に社会的な動物である傾向があると指摘した。

 

「ラッコ大きなグループ、つまりラフトにいることを好みます」とラーソンは言った。「ラッコたちは兄弟であろうと、姉妹であろうと、いとこであろうと気にしません。しかし、彼らは性で分かれており、オスは他のオスと、メスは他のメスと集まる傾向があります」

 

ワシントン州の個体数が徐々に増加している一方で、アラスカのラッコの数は減少している。

 

ラーソンによると、研究者たちはトランジエント・オルカ(哺乳類を食べるシャチ)が原因ではないかと疑っているという。トランジエント・オルカの増加によってアラスカのアザラシの個体数も減少しているため、代わりラッコを食べている可能性もある。

地球温暖化

ラッコの個体数の減少が懸念されているのは、少なくとも地球温暖化を遅らせるうえでラッコが重要な役割を果たす可能性があるからだとラーソンは言う。

 

体重を維持するためだけでも、ラッコは毎日約7,000~9,000カロリーを消費する必要があり、ラッコの好物はウニだとラーソンは指摘する。一方、ウニはケルプを好んで食べる。

 

ラーソンによると、ケルプの森はサケなどの魚や他の海洋生物の隠れ家となるだけでなく、樹木と同様に炭素を酸素に変換するという。

 

ラッコがウニをコントロールしなければ、ケルプの森は壊滅状態になり、大気中にはより多くの二酸化炭素が残ることになる。実際、ラッコが生息するケルプの森は、生息しない森の100倍もの二酸化炭素を吸収しているというデータがあるとラーソンは言う。

 

オーディンとその一族が世界を救うためには、有害な化学物質や肥料、殺虫剤、除草剤のないきれいな海が必要だとラーソンは言う。

 

石油流出を防ぐ必要があります、とラーソンは付け加えた。1989年のエクソン・バルディーズ号原油流出事故で、800匹以上のアラスカのラッコが死んだ。

 

ラッコは1つの地域に留まる傾向があるため、より大きな政府機関よりも州政府や地方自治体は有効にラッコの管理ができる可能性がある、とラーソンは続けた。さらに研究を進めていけば、ラッコへの理解が深まり、保護活動にも役立つだろう。

 

「私たちが知っていることはたくさんありますが、ラッコについて知るべきこともたくさんあるのです」とラーソンは締めくくった。

Peninsula Daily News

Researcher: Sea otters help to slow climate change

September 3, 2019