【記事】ラッコの死に繋がるトキソプラズマ株を特定 | What’s Killing Sea Otters? Scientists Pinpoint Parasite Strain

本日は2019年8月22日付のUC Davis Newsより、"What’s Killing Sea Otters? Scientists Pinpoint Parasite Strain"`をお届けします。カリフォルニア沖のラッコの実に7割ほどがトキソプラズマに感染していることが分かっていますが、直接の死因となっているものは多くありません。研究により、トキソプラズマのうちある種の株が特に毒性が高くラッコに影響を及ぼしていることが分かりました。

野生のラッコの親子。カリフォルニア州モスランディング (Trina Wood/UC Davis)

Genetic Link Found Between Deadly Pathogen and Wild and Feral Cats on Land

 

カリフォルニアの野生のラッコは、寄生生物のトキソプラズマ・ゴンディに感染しているが、その感染がごく一部のラッコだけにとって致命的となっており、科学界を困惑させてきた。カリフォルニア大学デービス校の研究では、この寄生虫の特定の系統がカリフォルニアラッコの死因となっており、その源は近隣の水域に暮らすボブキャットとイエネコに遡ることが分かった。

 

Proceedings of the Royal Society B誌に今週発表されたこの研究は、ネコ科動物を宿主とするトキソプラズマの系統と、海洋野生生物の致命的な病気を引き起こす寄生虫との間に、遺伝的な関連性が初めて明らかになったことを示した。

 

この研究は、カリフォルニア大学デービス校獣医学部のカレン・ C・ドレイヤ―、W野生生物健康センターとカリフォルニア州魚類野生生物局(CDFW)が率いる研究者らのコンソーシアムによる長年の研究を土台にしている。科学者らは、1990年後半にトキソプラズマがカリフォルニア沿岸のラッコに死をもたらした時の謎の解明に協力するよう求められた。

 

「この研究数十年かかっています」と、カリフォルニア大学デービス校獣医学部及びそのワンヘルス研究所の准教授であるカレン・シャピロは言う。「私たちは現在、特定のタイプの寄生虫とラッコに致命的な結果をもたらすトキソプラズマの間に明らかな関連性を見出しています。ラッコの死は野生のネコ科動物や野良ネコと関連があるのです」

カリフォルニア州モスランディングの野生のラッコ(Trina Wood/UC Davis)

陸から海へ

野生のネコ科動物や飼いネコは唯一知られているトキソプラズマの宿主であり、この寄生虫は糞便中にオーシストと呼ばれる卵のような形態を持つ。シャピロは、オーシストがどのようにケルプの森に蓄積し、巻貝に取り込まれ、ラッコに食べられるかを示す最初の取り組みを主導した。

 

この研究では、著者らは1998年から2015年の間にカリフォルニア州魚類野生生物局が調べた100頭以上の座礁したカリフォルニアラッコにおけるトキソプラズマ株の特徴を明らかにした。カリフォルニア州魚類野生生物局の獣医病理学者メリッサ・ミラーは、トキソプラズマが主要な死因もしくは引き金となっているかラッコを査定した。科学者らは、病気の原因となる病原体とその宿主との関係を確認するために、ラッコや近くにいる野生のネコ科動物や家ネコに見られる寄生虫の系統と病理データを比較した。

 

この研究の結果は、トキソプラズマのような感染性病原体が陸上の猫の糞から海に拡散し、海洋野生生物に有害な影響を与えることを示している。

 

注意深く見守る

カリフォルニアラッコは、カリフォルニア州にとって絶滅の危機に瀕した種であり象徴的な動物でもあることから、カリフォルニア州で最も熱心に研究されている海洋哺乳類の1つである。ラッコは海岸線からわずか数百メートルのところに生息しており、詳細な観測が可能で、科学データを豊富に得ることができる。

 

以前の研究では、座礁したカリフォルニアラッコの70%ほどまでがトキソプラズマに感染していたが、死に至るのはそのごく一部にすぎなかった。カリフォルニア州魚類野生生物局とカリフォルニア大学デービス校による数十年にわたる詳細な調査により、トキソプラズマのような陸上に生息する原生動物の寄生虫や、関連する寄生虫であるサルコシスチス・ニューロナによる感染が、ラッコの病気や死の一般的な原因であることが確認された。

 

シャピロによると、トキソプラズマは他の野生生物にも影響を与える可能性があるが、ラッコについてはより確かなデータがあるという。

 

「トキソプラズマはよく研究されている病原体の1つで、私たちが関心を持っているものですが、他にも陸から海に流されているウイルスや細菌でおそらくまだ知られていないものはたくさんあるでしょう」とシャピロは言う。

対策

排水処理ではオーシストを死滅させる効果がないため、ネコを室内飼いし、ネコの糞を屋外やトイレではなくゴミ袋に入れることで、トキソプラズマの感染を抑えることができる。

 

野生の齧歯類や鳥類を餌とする屋外のネコは、トキソプラズマに感染する可能性が高い。この寄生虫はこうした被食動物の組織に普通に存在するからだ。

 

陸上でネコの糞の中に排出されたオーシストは降雨によって水路に流され、以前の研究では、淡水の流出がカリフォルニアラッコのトキソプラズマ曝露の重要な源であることが確認された。

 

湿地や森林、草原は、オーシストを含む汚染物質から流域や海洋を保護する役割を果たしている。湿地や自然地域の保全と回復、雨水流出の管理、舗装を透水性のある表面へ変更することにより、汚染を減らし、水に侵入する病原体を最小限に抑えることができる。

 

著者と資金提供について

 他の研究著者には、カリフォルニア大学デービス校獣医学部のパトリシア・A・コンラッドとアンドレア・パッカム、ネブラスカ大学のエリザベス・バンワーマー、カリフォルニア州魚類野生生物局のエリン・ドッド、カリフォルニア大学デービス校ワンヘルス研究所及びカリフォルニア州魚類野生生物局のメリッサ・ミラーが含まれる。

 

本研究は、全米科学財団、米国動物園獣医師会の野生動物衛生基金、カリフォルニア沿岸保全、及びカリフォルニア州魚類野生生物局油流出防止対策室からの資金提供を受けた。