【記事】ラッコ保全ワークショップ:ハイライト | Sea Otter Conservation Workshop: Highlights

本日は2019年5月15日付のSea Otter Savvyのブログから、"Sea Otter Conservation Workshop: Highlights"をお届けします。前回は初参加の大学院生による参加記録でしたが、今回は20年の研究実績を持つSea Otter Savvyのプログラムコーディネーター、ジェナ・ベントールさんの記録です。北海道のラッコの回復にも関心を持っていただいたようです。

シアトル水族館が主催し隔年で開催されているラッコ保全ワークショップは、ラッコに関わる仕事を行っていたり、ラッコに関心のある生物学者、動物園の飼育員、水族館の飼育員、提唱家、そして政府専門員などにとって最も熱いシーンになっている。

 

今年、ワークショップの3日間の席はラッコ生態学や保全、生理学、飼育、個体群状況、遺伝学、獣医学のテーマに関する最新情報を聞こうとする熱心な参加者で埋まっていた。晩には参加者はWindow on Washington Watersでの晩餐やプジェット湾を背景にし他海洋生物の眺めでもてなしを受けた。基調講演は高名なジェームス・エステス博士によって行われ、過去50年のラッコと沿岸生態系:歴史とクライマックスについて話された。

 

3日にわたり、カリフォルニアから日本まで50名以上の発表者があり、経験豊かなラッコ生物学者にも学ぶことがあった。Sea Otter Savvyを代表し2名が発表を行った。モスランディング海洋研究所の大学院生ヘザー・ベレットは自身のプロジェクトである、カリフォルニアラッコにおける人的ディスターバンスによるエネルギーコスト調査について概要を発表した。これは市民科学者たちによって集められたデータに基づいたものだ。保全に関するセッションでは、私はSea Otter Savvyプログラムの達成事項について概要をまとめた。素晴らしい発表が数多くあったが、私個人の中で最も興味深かった5つの発表を順不同で紹介したいと思う。

1.北海島東岸(日本)におけるラッコの回復

殆ど研究されていない日本のラッコに関する最新情報に関して聞くことができたのは素晴らしいことだった。北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの三谷曜子は北海道東岸のラッコの分布及び採餌行動について発表してくれた。この小さな個体群は大きくなることが予想されており、曜子はこれまでのラッコの回復の歴史にあったのと同様、日本でも地元の水産業と軋轢が生じるのではないかと予想している。

ラッコの目撃地を示す日本の北海道の地図。Hattori et al, 2005


2.海と陸地の接触点における最上位レベルの肉食獣のつながり:ラッコのホールアウトがブラウンベアに与える他にない摂食機会

カトマイ国立公園でラッコを捕食するブラウンベア。Trail cam photo courtesy Dan Monson and the National Park Service

アラスカで長く研究を行っている米国地質調査所アラスカサイエンスセンター・アンカレッジのラッコ生物学者、ダン・モンソンによる話を聞くまで、ブラウンベアがラッコを捕食するなど考えもしなかった。ダンはアラスカのカトマイ国立公園保護区のトレイルに設置されたカメラが撮影した、ブラウンベアがホールアウト(陸地に上がること)したラッコ(やゼニガタアザラシ)を追いかけ殺していることを示す驚くべき写真を見せてくれた。ラッコは食欲旺盛な捕食者だが、常に食物網の頂点にいるとは限らないのだ!


3.カリフォルニアのケルプの森におけるカリフォルニアラッコの役割を再考

消耗性疾患によるヒトデの死の後のラッコ、ウニ、ケルプの森の相互作用を調査した米国地質調査所の西部生態系研究センター・サンタクルーズフィールドステーション(NSF)の大規模で多面的な研究の早期の結果を垣間見ることを期待して、私はNSFのソフィア・リヨンによるこの発表を心待ちにしていた。一言で言えば、カリフォルニアのケルプの生態系は複雑で、それぞれの機能的役割を果たす種が多数存在する。ウニを食べるヒトデPychnopodiaが西海岸の広い地域から失われてしまったことは、破滅的ではあったが、生態学者にケルプの森の捕食者のチームワークについてや、まだ多くのことを学び発見する必要があるということを知らしめることになった。ラッコは今でもこのゲームの重要なプレイヤーであるが、ケルプのの森を安定させ、多様で健全な状態に保つためのオールスターチームの一員でもある。

ラッコ,コンブおよびウニのキーストーン捕食者パラダイムは,アラスカでの観察に基づいて形成された。温帯域であるカリフォルニア州に南下すると、ラッコのキーストーン捕食者のパラダイムは、生態系へ更に寄与しており、より暖かい水域で役割を拡大しているため、より複雑になる。Graphic courtesy S. Lyon, USGS


4.ラッコの調査のための新しいタギング技術:OtterNetの最新情報

将来のラッコのタグは、無線ゲートウェイを介して研究者とデータを共有することになる。Graphic courtesy USGS

新しいラッコのタギング(訳者注:タグを取り付けること)技術の研究開発の方向性は、ラッコへの影響を最小にし、かつデータ収集の効率を最大にすることを目指している。米航空宇宙局(NASA)のエンジニアたちが、米国地質調査所やモントレーベイ水族館と協力し、足ヒレに取り付けるフリッパータグ技術を極秘開発したが、タグの写真をここで紹介することはできない(紹介したらあなたを殺さなければならないかも?)。米国地質調査所西部生態系研究センター・サンタクルーズフィールドステーションのジョセフ・トモレオニは、これらの「スマート」タグがどのようにして新しいデータや改良されたデータを収集し、かつ同時に安価でラッコに対する影響を少なくできるかについて話すことができた。「ラッコにスペースを与えて!」と言ったら、その呼びかけに応えてくれたのだ!(訳者注:筆者のジェナ・ベントールはSea Otter Savvyの活動で人間による野生のラッコへの邪魔を減らす活動を行い、野生のラッコには近づかず適切な距離を保つよう呼びかけており、その合言葉の一つが「ラッコにスペースを!」)


5.アラスカ南東部におけるラッコの複雑な役割

Apex Predators, Ecosystems, and Communities (APECS) の研究者がアラスカ南東部のアマモ床でデータを採集している。Photo by Nicole LaRoche

アラスカ大学フェアバンクス校のジニー・エッカートは、ラッコの個体数が25,000頭を超えるまでに回復した場所で、ラッコと沿岸生態系、また漁業の複雑な相互作用について説明した。アラスカ南東部から経済的な力である毛皮交易により一掃されてしまった生態系の巨人の回復と、人類の経済的利益が直面するというクライマックスに近づきつつあるろいう話だ。アラスカ南東部の生産性が高く、炭素を多く吸着しているアマモの藻場に対するラッコの影響は現在のところ多種多様にわたり複雑なものと言われているが、この発表を聞いてこの生態系のシステムに、沿岸で数千年にわたりエサをとってきた頂点捕食者であるラッコの回復とともに、スイートスポットを見つける時間を与えてくれないかと思う。

 


ラッコについて更に知識を深めたいという方には、さらに興味深い話がたくさんあった。議事録と要旨はここで読むことができる。

 

Hattori, K., Kawabe, I., Mizuno, A.W., Ohtaishi, N. (2005). History and status of sea otters, Enhydra lutris along the coast of Hokkaido, Japan. Mammalogical Society of Japan, Mammal Study 30: 41-51.

 

ジェナ・ベントールはSea Otter Savvyの創始者・プログラムコーディネーターで、2001年からラッコ生物学者である。

Sea Otter Savvy
Sea Otter Conservation Workshop: Highlights

May 15, 2019