【記事】生息域を拡大できないカリフォルニアラッコの苦悩 | Sea otters rebound but struggle to regain historic range

本日は2018年5月17日付のAP Newsから、"Sea otters rebound but struggle to regain historic range"をお届けします。
一度壊れてしまったシステムは、容易に元に戻すことができません。だからこそ、これ以上壊れることがないようにしなければならないのです。

カリフォルニア州モスランディング(AP)-カリフォルニアラッコがカリフォルニア州中央部にある加工沿岸域で穏やかな波に浮かび、日光浴をしている。一方、西海岸一帯の専門家は、ラッコがいなくなった間崩れてしまった海に、沿岸に必要な捕食者を復活させる方法を見いだせず苦心している。

 

カリフォルニアラッコは毛皮をとるために産業規模での狩猟が行われた数世紀の間にほぼ一掃されたが、国や州の保護により1930年代に生き残っていた50頭ほどが回復し、今日3,000頭ほどになった。

 

しかし、問題もある。カリフォルニアラッコは頂点にいる肉食獣で通常は他の生物の個体数を一定にし、生態系のバランスをとっている。しかし、「行き詰まっているのです」とモントレーベイ水族館の上席生物学研究員のテリ・ニコルソンは言う。

 

数十年にわたり政府が保護しているにも拘らず、今日ラッコは歴史的な生息域の4分の1ほどを占めているに過ぎない。連邦の野生生物政策はラッコを自力で拡大させる必要を述べている。しかしラッコの生息域は実際過去20年以上、動いていない。

 

「現時点では、個体数が増えるには生息域の拡大が必要です」と水族館のラッコプログラムのマネージャー、カール・メイヤーが言う。メイヤー曰く、「限定された環境にラッコを詰め込む」ことは無意味だ。

専門家はアメリカの西海岸のカリフォルニアラッコをもとの生息域に復活させるため苦心している。これはヨセミテ国立公園にオオカミを復活させたように、捕食者の葉安役割が世界的に認知されるようになってきたものの一部である。

エルクホーン湿地帯と呼ばれる塩性河口域に集まるラッコやゼニガタアザラシやペリカンに囲まれてボートを進めながら、メイヤーは話した。

かつて捕鯨の町であったモスランディングにある再生された湿地帯は、現在の生息域であるカリフォルニア州中央沿岸部300マイル(約480km)の一部を成している。

 

その朝、オスのラッコたちが水の中で動かないようにお互い手を絡め合って眠り、春の日差しで腹を温めている。水路の奥では、メスのラッコが腹に若い子どもを乗せたり、厚い毛皮のおかげで成獣よりもっと浮きやすい生まれたばかりの赤ちゃんラッコをそばに浮かべている。

 

腹を空かせたカモメがユムシをかじるメスラッコを追いまわしている。それを子どもが目を見開いてみている。

 

海洋哺乳類では標準より小さいが、ラッコはイタチ科の中では最大でオスは最大100パウンド(45キログラム)ほどまで成長する。ラッコの毛は地上で最も密度が高く、体温を保っている。

 

カリフォルニアラッコをかつての生息域へより多く戻す試みは、頂点捕食者を歴史的な縄張りに戻す利点に対する認知が世界的により深まったことを反映している。

2018年3月26日に撮影された写真。カリフォルニア州モントレーのモントレーベイ水族館の展示水槽の底へ潜っていくラッコ。(AP Photo/Eric Risberg)

例えば20世紀前半、イエローストーンでオオカミの導入実験を行った後、アメリカ政府は20世紀後半までにはイエローストーン国立公園にオオカミの再導入の援助を行った。オオカミが狩りを行うようになり、大きすぎたシカやヘラジカの群れが小さくなった。その結果、イエローストーンでは様々な生き物が復活した。ビーバーや魚、そしてポプラの木までもが復活したという生態学者もいる。

 

野生生物当局は猛禽類からクマに至るまで捕食者を再生する試みを世界中で行ってきたが、その動物が生活を脅かすと思う人がいる場合は議論を呼ぶ。

 

水産業の一部の人々は、ラッコの復活に反対している。アラスカの漁師は当地で増加するアラスカラッコが、人間が寿司として食べるアメリカオオキタムラサキウニ(アカウニ)を食べてしまうと糾弾する。野生生物専門家は、価値のある魚介類を含む沿岸生態系全体はラッコや他の捕食者がランスを取らなければ、崩壊に直面するだろうと反論する。

 

人間が捕食者の再生を助けようとすることすら、容易ではないのだ。

 

時に「それはハンプティダンプティ症候群です」とオレゴン州立大学の生態学者で、陸上の肉食獣の再生は半分しか成功していないことを発見したビル・リップルは言う。

 

「まず捕食がいなくなった後に連鎖的にことが起こっている間、生態系が機能しなくなるという状況を目にすることがありますが」とリップルは言う。「その生態系をもとに戻すよいうことが本当に容易ではないこともあるのです」

 

カリフォルニアラッコに関して言えば、遠い昔に乱獲されたが、「私たちはどのような環境が普通なのかということすら知らないのです」とアメリカ魚類野生生物庁の海洋保全・ラッコ回復コーディネーターのリリアン・カーズウェルは言う。

 

ラッコが1世紀以上もその生息域からいなくなってしまったため、そして、別の捕食者であるヒトデに謎の大量死が起こったため、食欲旺盛なアメリカムラサキウニが西海岸で大発生している。

 

アメリカムラサキウニの数はコントロールを逃れ、北カリフォルニアのブルケルプの森は2014年以降その90パーセントが壊滅してしまったとカリフォルニア州魚類野生生物局の環境科学者シンシア・キャトンは言う。

 

2018年3月26日に撮影された写真。手前にアマモ、奥にラッコが見える。カリフォルニア州モスランディングのエルクホーン湿地帯で。(AP Photo/Eric Risberg)

ケルプの森は沿岸で暮らす生物にとって水中で隠れ場所になり、エサの貯蔵庫であり、養育室としても重要だ。

 

ウニに丸裸にされた場所へラッコがやってくると、ホホジロザメにすぐに見つかってしまう。

 

ホホジロザメによるラッコへの襲撃は今世紀少なくとも8倍に急増し、ラッコの一番の死因になったと海洋専門家は言う。

 

ラッコは海洋哺乳類の中では特殊で、脂肪層ではなく毛皮に頼っているため、通常サメはラッコを一口かじって捨ててしまう。しかし、ラッコはその多くがそのため死んでしまう。

 

ケルプで覆われている場所ではサメによる噛みつきはほとんどないことをニコルソンと水族館の同僚たちが発見し、エコグラフィー誌に3月発表した。

 

ケルプを助けるため、北カリフォルニアのメンドシノ沿岸の職業潜水師らがアメリカムラサキウニを手で回収したり吸い取りホースを使ってウニを吸い取ったりして、貴重なケルプの森の手入れを行っているとキャトンは言う。

 

アメリカムラサキウニはアメリカオオキタムラサキウニ(アカウニ)とは違って、人間にとってもラッコにとっても良い食べ物とはならない。大規模なアメリカムラサキウニの除去にインセンティブを与えようとアメリカムラサキウニの商業的な利用を試みている専門家もいる。

 

モントレーベイ水族館では、1984年から280頭の座礁したラッコを保護し野生に返してきたが、若いラッコたちがカニや他のエサよりもアメリカムラサキウニに慣れるような試みも行っている。

 

最終的には、カリフォルニアラッコの専門家はいつかラッコを車に積んでケルプが残っている場所へ乗せていき、再定着することを勧めるかもしれない。

 

2018年3月26日に撮影。カリフォルニア州モスランディングにあるエルクホーン湿地帯で、ラッコに気を付けるようドライバーに注意を喚起する看板。 (AP Photo/Eric Risberg)

それまでの間、科学者たちは他に何かできることがないか頭をかきむしるだろう。

 

西海岸の生き物はみな、数百万年かけてそれぞれの命を進化させてきたとカーズウェルは言う。わずかここ数世紀の人間による開発は、ラッコとケルプ、ウニ、サメ、その他の動物のネットワークを引き離してしまうに十分だった。

 

「色々な意味で、私たちは再生の時代にあるのです」とカーズウェルは言う。「特に海洋環境において再生の機会、状況を反転するための機会を強調しなければならないように思います」