【記事】2017年カリフォルニアラッコ年次個体数調査速報 | Annual Southern Sea Otter Survey: Despite Small Population Dip, Species Moves a Step Closer to Recovery

本日は2017年9月29日アメリカ地質調査所が発表した2017年のカリフォルニアラッコの個体数調査"Annual Southern Sea Otter Survey: Despite Small Population Dip, Species Moves a Step Closer to Recovery"をお届けします。絶滅危惧種から外れるためのしきい値は2年連続超えたものの、昨年より個体数は減少しており、ラッコが引き続き様々な問題に直面していることを示しています。

金曜日に発表されたアメリカ地質調査所とそのパートナーによるデータによると、アメリカ魚類や異性生物局の絶滅危惧種リスト除外条件となるしきい値を2年連続で超えたものの、カリフォルニアラッコの総個体数の3年平均値は昨年の高値から減少した。

研究者は北はピジョンポイントから南はガビオタステイトパークまでの本土沿岸、またカリフォルニア南部の湾曲部にあるサンニコラス島の別の個体群の調査を行った。今年の総個体数は3,186頭で魚類野生生物局が設定した3,090頭というしきい値を超えた。ラッコは絶滅に瀕する種の保存に関する法律に基づき「絶滅危惧種」と規定されているが、魚類野生生物局がそのリストからラッコを除外することを検討するためには、ラッコの個体数はしきい値の3,090頭をもう1年超えなければならない。今年の個体数は2016年の調査に比べて3パーセント減少している。この減少はカリフォルニア州本後沿岸の個体数の減少を反映したものだ。

アメリカ地質調査所のカリフォルニア州カリフォルニアラッコ個体数調査の首席科学者ティム・ティンカー。彼はまたカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授でもある。(Credit: Brian Hatfield, U.S. Geological Survey.)
アメリカ地質調査所のカリフォルニア州カリフォルニアラッコ個体数調査の首席科学者ティム・ティンカー。彼はまたカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授でもある。(Credit: Brian Hatfield, U.S. Geological Survey.)

対して、サンニコラス島のラッコの個体数は過去10年間、年10パーセントという良好な比率で成長しており、引き続き増加傾向を見せている。この個体群は1980年代後半に移植により形成され、1990年代は低い成長率にとどまっていた。

 

「今年、本土の個体数が減っていたのは、調査のコンディションがあまりよくなかったこと、そしてケルプ床が非常にまばらになっていたということが原因に考えられます」とアメリカ地質調査所のカリフォルニアラッコ調査プログラムを率いる調査生態学者、ティム・ティンカー博士は言う。「しかし、ラッコの死亡数が上昇していることがその原因になっていることも無視できません」

 

サメの噛みつきの傷による死亡数はこの10年高い値を示している。過去数年、ウニ(ラッコの主要なエサ)が急増していたが、それにより幼獣や亜成獣の生存率が上がり、サメによる死亡率を相殺していたものと考えられる。しかしながら、ウニの増加によるラッコのベビーブームが収まりつつある一方、サメの噛みつきによる死は減っていない。有害な藻類大発生による死や病気を引き起こす病原体による死も含め、ラッコは多くの脅威に直面している。                                                                                                         

 

「生息域の北端・南端におけるサメによる噛みつきを受けたラッコの高い数値は引き続き懸念のもととなっています」とカリフォルニア州魚類野生生物局の生物学者、マイク・ハリスは言う。「特にこうした現象は個体数が減少しているエリアと同じ場所で起こっているからです」

カリフォルニア州モスランディング付近のエルクホーン・スルー・ナショナル・エスチュアリン・リサーチ保護区のラッコ(Credit: Robert Scoles, ESNERR/NOAA . Public domain.)
カリフォルニア州モスランディング付近のエルクホーン・スルー・ナショナル・エスチュアリン・リサーチ保護区のラッコ(Credit: Robert Scoles, ESNERR/NOAA . Public domain.)

サメの噛みつきによる死は、ピジョン岬からモントレー湾、またカユコスからコンセプション岬の間で特に深刻だ。どちらもここ数年、ラッコの個体数が激減しているところだ。生息域端における個体数の減少は長期的なラッコの回復と密接な係わりがある。「生息域端での個体数の減少は恐らく、過去10年生息域の拡大が起きていないことの原因と考えられます」とティンカーは言う。「個体群の中のこうした一群は、典型的に新しい生息域への定着を促進するからです」

 

「サンニコラス島のラッコの個体数の3年平均値は引き続き強い増加傾向を見せていますが、最新の調査ではやや減少しています。これは、この春ケルプが非常にまばらになっていたことや、本土もしくは南カリフォルニアのシャネル諸島の他の島へ 移住していったラッコがいることと関連があるのではないかと考えられます」と年次個体数調査をコーディネートしているアメリカ地質調査所の生物学者、ブライアン・ハトフィールドは言う。

 

1980年代以降、アメリカ地質調査所はカリフォルニアラッコの年次個体数指数の計算及び傾向の評価を行ってきた。魚類野生生物局のカリフォルニアラッコ回復計画により設定されたしきい値によると、絶滅に瀕する種の保存に関する法律のもとで絶滅危惧種のリストから除外されることを考慮に入れられるためには、ラッコの個体数指数は3年連続で3,090頭を超えなければならない。海洋哺乳類保護法のもとでの持続可能な最適な個体数、つまり環境収容力や環境の健全性を考慮に入れたうえで最大の繁殖力になる個体数に到達するためには、カリフォルニアラッコの個体数はカリフォルニアだけで8,400頭に達する必要があると考えられる。

 

「過去100年の保全努力の結果、カリフォルニアラッコは約50頭の分断された個体群から私たちが現在見ることができる多くの個体群へと成長し、2年連続で3,090頭を超えました」と魚類野生生物局のカリフォルニアラッコ回復プログラムのコーディネーター、リリアン・カーズウェルは言う。「この成長は非常に頼もしく、サメの噛みつきによる死を乗り越えるための方策が発展し、生息域端で同じように成功してほしいと願っています。生息域の拡大はカリフォルニアラッコの長期的な回復にとって重要なだけではなく、ラッコが歴史的に生息していた沿岸海洋生態系の再構築にとっても重要なのです」

 

ラッコの個体数調査や座礁プログラムはラッコや沿岸生態系における捕食者としてのラッコの役割を調べるより大規模な研究の一部でしかない。サンタクルーズとモントレーの間にあるエルクホーン湿地帯では、最近の研究によりラッコがカニを食べることで海草棚の健全性が向上したことが示された。アメリカ地質調査所の研究者らはモントレーベイ水族館、エルクホーン・スルー・ナショナル・エスチュアリン・リサーチ保護区、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、カリフォルニア魚類野生生物局と協働し、この唯一の生息域におけるラッコの個体群の研究を行っている。カリフォルニア大学サンタクルーズ校、アメリカ地質調査所、モントレーベイ水族館による別の研究では、一部消耗病によるヒトデの激減によるウニの急増にモントレー付近のラッコがどのように対応しているかについて調査をおこなっている。また科学者らはヒトデがいない環境において、ケルプの森がウニに過剰に食べらるのをラッコが防ぐのにラッコが重要な役割を果たしているかどうかについても研究を行っている。

調査方法

  • 年次個体数指数はカリフォルニア魚類野生生物局原油流出防止対応局モントレーベイ水族館、アメリカ地質調査所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、魚類野生生物局、アメリカ海洋エネルギー管理局の研究者、学生、ボランティアにより、陸からの望遠鏡による目視、カリフォルニア沿岸沿いの低空飛行の飛行機による目視により計算されている。
  • 今年調査が行われた沿岸は、サンマテオ郡のピラー岬から南はサンタバーバラ郡・ベンチュラ郡の堺のリンコン岬まで、およびサンニコラス島を含む。

ラッコに関する事実

  • ラッコは毛皮交易時代後、カリフォルニアでは絶滅していたと考えられていたが、1930年代に再発見された。約50頭がビッグサーのビクスビーブリッジ付近で生き延びていたと記録されている。
  • ラッコは岩礁間潮帯生態系のキーストーン種と考えられている。ラッコはウニを捕食するが、もしラッコがウニを食べなければウニがケルプ床を食べつくしてしまうからである。
  • 科学者らはまたラッコを沿岸生態系の健全性を示す指標として研究している。ラッコは沿岸近くでエサを食べて生活するため、沿岸陸部から流れ出す微生物毒素ミクロシスチンのような汚染物質や病原体に最初に晒される捕食者だからである。
  • 座礁したラッコを見つけた場合は、このウェブサイトに掲載されている団体に通報することになっている。

詳しい調査結果や地図、「2017年春カリフォルニアラッコ個体数調査結果」の完全なレポートはオンラインで見ることができる。

図1:カリフォルニアラッコのカリフォルニア本土中央沿岸部およびサンニコラス島における分布 2017年。
図1:カリフォルニアラッコのカリフォルニア本土中央沿岸部およびサンニコラス島における分布 2017年。
図2:生データの3年平均値に基づくカリフォルニアにおけるカリフォルニアラッコの個体数傾向。データは本土生息域(左軸)、サンニコラス島(右軸)及び2012年以降の全生息域(左軸)における全個体数およびそのうちの成獣(幼獣ではない)を示す。個体数の合計が正式な個体数指数となる。
図2:生データの3年平均値に基づくカリフォルニアにおけるカリフォルニアラッコの個体数傾向。データは本土生息域(左軸)、サンニコラス島(右軸)及び2012年以降の全生息域(左軸)における全個体数およびそのうちの成獣(幼獣ではない)を示す。個体数の合計が正式な個体数指数となる。
図 3:カリフォルニア本土中央沿岸部におけるカリフォルニアラッコの地域的傾向。生データ及び3年平均値(点線)が北部、中央部、南部と分けてプロットされている。最新の5年平均値(変化の年率の幾何平均として計算)が実線で示されている。
図 3:カリフォルニア本土中央沿岸部におけるカリフォルニアラッコの地域的傾向。生データ及び3年平均値(点線)が北部、中央部、南部と分けてプロットされている。最新の5年平均値(変化の年率の幾何平均として計算)が実線で示されている。
図4:カリフォルニア本土中央沿岸部におけるカリフォルニアラッコの地域ごとの個体密度のバリエーション(沿岸500メートルあたりのラッコの数)。サンニコラス島の空間的に明白な分析が現在おこなわれていないため、サンニコラス島のデータは示されていない。
図4:カリフォルニア本土中央沿岸部におけるカリフォルニアラッコの地域ごとの個体密度のバリエーション(沿岸500メートルあたりのラッコの数)。サンニコラス島の空間的に明白な分析が現在おこなわれていないため、サンニコラス島のデータは示されていない。
図5:カリフォルニア本土中央沿岸部沿いのラッコの地域的な個体数傾向。傾向は5年の変化率指数平均を示す。サンニコラス島の空間的に明白な分析が現在おこなわれていないため、サンニコラス島のデータは示されていない。
図5:カリフォルニア本土中央沿岸部沿いのラッコの地域的な個体数傾向。傾向は5年の変化率指数平均を示す。サンニコラス島の空間的に明白な分析が現在おこなわれていないため、サンニコラス島のデータは示されていない。