【記事】オリンピックコースト国立海洋保護区のラッコ研究 | Paws up for science: Foster Scholar Jessica Hale tracks sea otter habits in Olympic Coast National Marine Sanctuary

本日は2019年8月30日付NOAA's Office of National Marine Sanctuariesのブログから、"Paws up for science: Foster Scholar Jessica Hale tracks sea otter habits in Olympic Coast National Marine Sanctuary"をお届けします。ワシントン州オリンピック国立海洋保護区はラッコの再導入後順調に個体数を増やしていますが、ラッコの数の増加はラッコ自身や人間にも影響を与えています。

アラスカラッコはオリンピックコースト国立海洋保護区のフワフワ大使だ。浮かんで昼寝をし、手をつなぐラッコたちは沿岸の人々にも、ソーシャルメディアでも広く知られている。しかし、以前はこのようにはいかなかった。

オリンピック国立海洋保護区の母親ラッコと子どもPhoto: Jessica Hale
オリンピック国立海洋保護区の母親ラッコと子どもPhoto: Jessica Hale

毛皮交易時代に乱獲されて以来、1911年から1969年、ラッコはワシントン州の沿岸生態系から消されていた。1969年から70年にかけ、アラスカ州アムチトカ島から59頭のラッコが空輸され、オリンピックコーストに再導入された。(訳者注:再導入については【記事】アムチトカ島のラッコたち (2) | Victims of Amchitka Test - 2をご覧ください)今日、オリンピックコーストには1,800頭が生息している。かつてラッコたちが集まっていた場所に再度生息し、新しい生息地をチェックしているのを、ナンシー・フォスター博士の奨学生ジェシカ・ヘイルはラッコの食生活を調べることで、過去と現在の破片をつなぎ合わせている。

 

シアトルのワシントン大学の博士課程の学生であるヘイルは、オリンピック半島を縦走しオリンピック国立海洋保護区でエサを食べるラッコたちを観察して夏を過ごした。他の海洋哺乳類とは異なり、ラッコはエサをもって水面に上がってくる。崖や岩に望遠鏡をもって立ち、ヘイルはラッコがカニや貝、ウニ、巻貝や時にはタコなどを食べるのを密かに観察する。そして水中でエサを取るのにかかる時間、そのエサを食べるのにかかる時間などを記録する。ヘイルはこうした情報から、場所や時間が変わるとラッコの食生活がどのように変わるか理解しようとしている。

夏の間、ヘイルはオリンピック国立海洋保護区でラッコがエサを取るのを観察して過ごした。Photo: Kate Thompson/NOAA
夏の間、ヘイルはオリンピック国立海洋保護区でラッコがエサを取るのを観察して過ごした。Photo: Kate Thompson/NOAA

「ラッコは『キーストーン種』と呼ばれるものだから、私の調査は重要なのです。つまり、ラッコがいる生態系といない生態系は実に異なっているということなのです」とヘイルは説明する。「これは、ある一つの種のみの生態系になるか、あるいはラッコを含む本当に多様な生態系になるかというものです。再導入されたラッコがこの保護区にどれだけの影響を与えてきたかを目の当たりにする時、それを心に留めておくのが私にとっては非常に大切なのです」

 

ラッコがいない世界では、ウニがケルプの森を一掃してしまう。豊かな海中の森の代わりに、ウニに埋め尽くされた砂だらけの荒地が見渡す限り広がるだろう。キーストーン種として、ラッコはウニの個体数をコントロールする。バランスを保っていれば、ケルプの森の生態系は無脊椎動物や魚のコミュニティにとって非常に重要な生息地となり、幼魚の隠れ場所となり、また海岸を波や嵐から守ってくれる。

 

ラッコは毎日体重の25%を食べなければならないため、できるだけ高カロリーのエサ、高品質のエサを食べることが重要になる。ヘイルは保護区で長くラッコが住んで比較的低品質のエサをとっている場所と比べて、ラッコが新しく住み始めた場所では、1分当たりの摂取カロリーが高いことを発見した。

時間の経過によりどのように食生活が変わるのかを知るため、ヘイルは1990年代のこの保護区の10か所の別々の場所のデータと比較した。「暫定的な結果は、同じ場所では低品質のエサを食べていました」とヘイルは言う。「1990年代は一般的に二枚貝を食べていましたが、現在は沿岸全体で主に巻貝を食べています」個体群がより長く一つの場所にとどまると、ラッコ内での競争が激しくなり、それが高品質のエサが豊富でなくなる原因となる。従ってラッコが新しい食糧資源を見つけようとするため、こうした場所ではラッコのエサが多様化するのをヘイルは目撃してきた。

 

こうした時間や場所とともにおこる変化のほとんどはラッコ自身が引き起こしているものだとヘイルは考えている。「バイキングを食べに行って、全てのものがそろっていれば、人は間違いなく自分の好きなものを最初に食べ、それから他のものを食べるでしょう」とヘイルは説明する。「ラッコも同じようなものです。新しい場所へ移って、まずは好きなエサを食べます。大概はウニです。ウニは簡単にとることができ、カロリーも高いのです。ラッコが増えたり時間がたったりすると、ラッコがエサ資源を食べつくし、プレイ・スイッチング(エサを他のものに変える)と呼ばれる行動を示すのです。エサの豊富さにより、ラッコは最終的に他の種類のエサも食べるようになります。カニや貝などです。これがどんどん続いて、最初は好き嫌いがあっても、最終的には手に入るものなら何でも食べるようになるため、エサが本当に多様になるのです。

 

ラッコも人間も、同じ食べ物が好きです。ダンジネスクラブ、バタークラム(二枚貝の一種)、リトルネッククラム(二枚貝の一種)、イチョウガニなどだ。保護区の南のほうでは、ラッコはマテ貝を主に食べる。その結果、その場所のラッコは観察されている他の場所のラッコよりも多くカロリーを摂取している。1分当たり25キロカロリーだ。小さな差に思えるが、1日で考えるとその3キロカロリーが大きな差となるのだ。

 

その場所のラッコがマテ貝を好むということは話題になっている。「マテ貝漁が今年あまりよくなく、ラッコが最近その場所に生息するようになってきたため、9月のオリンピックコースト委員会でこの問題を進めるため話をしました」とヘイルは言う。保護区の管理者が、ラッコが生態系への貢献をしてくれることと水産業とのバランスをとる手助けをしていますが、非常に管理が難しいように思われる。しかしヘイルはこうしたことがあるからこそ、保護区に関わるのを楽しんでいる。

 

「私にとって保護区は重要です。なぜなら、保護区は教育やアウトリーチを通じて研究やマネジメントを推し進めているからです」とヘイルは言う。「皆、ラッコは人々のために存在して、ラッコにとって大切なのだということを知る必要があります。だから、保護区が行っている教育活動を非常に頼りにしています。人々に、コミットメント意識や、海を大切にしようという一般的な感覚を持ってもらうのです。私の研究を人々n理解してもらうため、そうした活動を頼りにしています」

 

ヘイルは博士号を取得しつつ、オリンピックコーストでラッコの個体群の変化と拡大を追跡して夏を過ごす。ヘイルの研究はオリンピック国立海洋保護区がこの重要なラッコという種や、ラッコが維持しているケルプの森の生態系を守る手助けとなるだろう。ヘイルの研究は本当に重要なのだ。

オリンピック国立海洋保護区のジャイアント・グレイブヤードに日が沈む。夏のフィールドワワークの際、このような場所がヘイルの研究場所となった。Photo: Jessica Hale
オリンピック国立海洋保護区のジャイアント・グレイブヤードに日が沈む。夏のフィールドワワークの際、このような場所がヘイルの研究場所となった。Photo: Jessica Hale

NOAA(アメリカ海洋大気庁)のナンシー・フォスター博士奨学金プログラムは、海洋学、海洋生物学、海洋考古学、および沿岸・海洋資源マネジメントを専攻する大学院生に、大学院内外での成功のため、経済的な援助を行っている。当プログラムはこうした科学分野における女性やマイノリティの増加を目的とし努めるものである。とくに、アメリカ海洋大気庁国立海洋保護区局のミッションはこうした人々と関係があるからである。奨学金について詳しくはこちらをご覧ください。