【記事】ラッコの道具の利用は遺伝的な繋がりと無関係 | TOOL USE BY SEA OTTERS HAS LITTLE TO DO WITH GENETIC TIES: SMITHSONIAN STUDY

本日は2017年3月22日付のSmithsonian Insiderから、"TOOL USE BY SEA OTTERS HAS LITTLE TO DO WITH GENETIC TIES: SMITHSONIAN STUDY"をお届けします。
ラッコが道具を使うのは本能的なことであるということが研究から明らかになったようです。

ラッコが腹の上でバランスをとった石に貝をぶつけて開けている
ラッコが腹の上でバランスをとった石に貝をぶつけて開けている

今週スミソニアン保全生物研究所(SCBI)とそのパートナーにより発表された新しい研究によると、ラッコが固い殻をもった獲物を道具を使って開ける現象は、必ずしも血で受け継がれるものではない。道具を使用するミナミハンドウイルカの群れが共通の遺伝系統を持つという以前の研究と異なり、この研究ではラッコによる道具の使用は偏在するもので、実際遺伝的な結びつきとは関係がないということが分かった。

 

「ラッコもバンドウイルカもどちらも道具を使い、生態的に似ています。ですから、私たちは両者は似た遺伝子パターンを持っていると考えていました」SCBIの保全ゲノムセンターの名誉科学教授で3月22日にバイオロジー・レター誌で発表された論文の筆頭筆者であるキャサリン・ラルズは言う。「驚くべきことに、私たちが発見したのは、道具を最もよく使うラッコたちは、他のラッコとも個体群全体とも関連がないということでした」

 

個体群中の全ての個体が道具を使うわけではないが、ラッコは一般的に巻貝、カニ、アワビなどの獲物を壊して開けるために石や固い物を利用する。論文の筆者らはその研究で捕らえた獲物の少なくとも40%において道具を使っていることが観察できた個体を含めている。SCBIの保全ゲノムセンターは2000年から2014年にかけてカリフォルニア沿岸で採取されたラッコの個体の遺伝子情報の分析を行った。

「DNAの分析は私たちの自然界や世界の自然史をより良く理解するために不可欠なもので、このケースでは海洋哺乳類ではほとんど知られていない道具の利用について把握するのに役立ちます」とSCBI保全ゲノムセンター研究所のマネジャーであり論文の共著者であるナンシー・ロツェル・マキナニーは言う。「私たちの研究所は、捕獲することが困難な希少種や絶滅危惧種から採取した少量の組織や毛、糞から多くの遺伝子情報を得ることを専門にしています。このケースでは、ラッコの個体を識別するためのタグをつけた際に採取された少量の標本から多くの情報を得ることができました」

 

その研究の著者らによると、道具を使うラッコと道具を使うバンドウイルカの遺伝子パターンが異なるのはその種の道具の使用の長さに由来するという。イルカの道具の使用が過去200年ほどの間に発達したとみられる一方で、ラッコは数万年あるいは数百万年も道具を使っていた可能性がある。そのため、生まれながらにそのようにする傾向があるのではないかということだ。研究者らは、現代のラッコの道具の使用を物理的に示すようなものを求めてラッコの化石を調査し、ラッコがどのくらい昔から道具を使ってきたのかを断定することを目標としている。

 

国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種リストではラッコは「絶滅危惧種」に分類されている。商業毛皮貿易が終わった1911年には、ラッコは世界中で2,000頭しか生息していなかった。それ以降、個体数は復活してきているが、今でもサメによる襲撃や原油流出など様々な脅威に直面している。

 

SCBIは、野生生物を絶滅から救い、未来の保全活動家を育むスミソニアンの世界的な努力を牽引する役割を担っている。SBCIはバージニア州フロントロイヤルの本部、ワシントンDCのスミソニアン自然動物園、世界中のフィールドリサーチの拠点やトレーニング拠点における研究プログラムの先頭に立っている。

SBCIの研究者らは動物の行動や繁殖、生態学、遺伝学、移動、持続可能な保全活動などを学び、その知識を適用し分かち合うことで、今日の非常に複雑な保全問題のいくつかに取り組んでいる。

 

SCBIのジーザス・マルドナードはこの研究論文の共著者である。その他の著者は、ワイオミング大学のロデリック・バショア・ガニエ、ホリーB.アーネスト、アメリカ地質調査所のティム・ティンカー、モントレーベイ水族館のジェシカ・フジイとなっている。