【記事】エステス博士、著書でアラスカでの先駆的な研究を回想 | New book by ecologist James Estes recounts pioneering research in Alaska

 本日は2016年4月27日付のUC Santa Cruz News Centerから、"New book by ecologist James Estes recounts pioneering research in Alaska"をお届けします。ラッコと生態系の強い繋がりを見出したジェームス・エステス博士の最新の著作の紹介です。

沿岸生態系におけるラッコの生態学的役割の研究のパイオニアとして知られるエステスが、海洋科学において重大で影響力のある経験を語る

海洋生態学者ジェームス・エステスは近著「偶然の発見~自然を理解しようとするある生態学者の冒険~」(UC Press, 2016)の中で、1970年彼がアリューシャン列島でラッコの分布と個体数を調査することになった不思議な運命について思い起こしている。それは、生態系の複雑な相互作用や、自然の生態系における捕食者の重要性に対して深く洞察を行うきっかけとなった、目覚ましい発見の旅の始まりだった。

 

エステスは現在カリフォルニア大学サンタクルーズ校の生態系・進化生物学の教授であり、最初にアリューシャン列島を訪れてからほぼ毎年訪問し、その地域の自然の歴史についての知識を深め、その生態系における劇的な変化を目の当たりにしてきた。エステスは「偶然の発見」でラッコとケルプの森の調査から始まり、一つの疑問が他の疑問にどのように繋がっていくか、また自らの発見によって示された生態系の幅広い原理を説明している。

 

「科学的な話をするだけでなく、どのように起こったか、そしてまた生態系化学にとってなぜ重要なのかを伝えたいと思っています」とエステスは言う。

キーストーン種

James Estes (photo by C. Lagattuta)
James Estes (photo by C. Lagattuta)

エステスの研究により、ラッコが、ケルプを食べるウニの個体数を制御することによりケルプの森の生態系を維持する「キーストーン種」であることが示された。ラッコは毛皮貿易のため絶滅寸前まで乱獲された。アリューシャン列島において個体数の回復は均一でなく、分散していた。そのためエステスはラッコがいる島といない島の沿岸生態系を比較することができ、ラッコがいない場所にはケルプの森がないということを発見した。

 

エステスの発見は頂点捕食者が生態系を形成する方法を示す古典的な例となっている。エステスはその後数十年に渡り初期観察の構築を継続し、ラッコとウニとケルプの森の他の要素の間の相互作用を慎重に記録し続けた。エステスは長期的な研究を行い、ラッコが再移住し個体数を増やしていった島や、かつてラッコが繁殖していたが急激に個体数が減少した別の場所の変化を追った。

予期しなかった崩壊

1990年代、アリューシャン列島の一部でラッコの個体群が予想外に崩壊し、研究を新たな方向へ導いた。エステスは、シャチによる捕食により個体数が減少した可能性があると結論づけた。しかし、なぜシャチがラッコを捕食し始めたのか?数種のアザラシやアシカを含むより広い「大型動物相の崩壊」の一部であるように思われた。

 

エステスや他の研究者らは、産業捕鯨により、以前大型のクジラを捕食していたシャチが捕食の対象の変更を余儀なくされていたことを指摘した。大型のクジラが希少になるにつれ、シャチはアザラシ、アシカ、ラッコなど小型の海洋哺乳類を捕食するようになったため、そうした海洋哺乳類の個体数が著しく減少した。これは議論の多い仮説に留まっているが、エステスは、この著作の中で現在進行中の議論について一つの章を割いている。

 

エステスは近年、大型の捕食者や食物網の最上位にある頂点捕食者が減少することにより、広い範囲の生態系がどのように破壊されてきたかを調査する国際的な科学者のチームを率いている。

 

「自然の生態系はこのような大型捕食者に強く影響を受けます」とエステスは言う。「頂点捕食者は、生態系の構築やその維持において非常に大きな役割を果たしています。そのため、生物多様性の崩落の一部としてこうした動物がいなくなってしまうと、世界全体で深刻な問題になります」

偶然の発見

この著作のタイトル「Serendipity(偶然の発見)」は、彼の研究のキャリアが予測できない、驚くべき方向をとったことを示しているとエステスは言う。「科学的なプロセスの多くは偶然の出来事や、出会う人、非公式な会話から浮かび上がるアイデアに関係しています」

 

エステスにとって非常に需要だったのは、1971年、先駆的な生態学者ロバート・ペインと交わした短い会話だった。エステスがベースとしていたアムチトカ島にペインが訪れた際のことだった。エステスはアムチトカ島周辺で繁殖するラッコの個体群を観察し、ケルプの森へ潜り、博士論文のアイデアを得ようとしていた。ペインに触発され、彼はラッコの個体数が回復したことのないアリューシャン列島の別の島を訪れることにした。

 

「初めてラッコのいない島を訪れ、海に潜り、その光景が全く違うのを目撃した時、それが私の科学者としてのキャリアの中で最もエキサイティングな瞬間だったと思います」とエステスは言う。「本当に力強い経験でした。1秒足らずのうちに起こったことですが、恐らく私の人生で最も決定的な瞬間でした」

 

エステスは1978年にカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教員になり、2014年に全米科学アカデミーに選出された。彼はまた、カリフォルニア科学アカデミーのフェローであり、西部博物学会のLifetime Achivement賞、ピュー海洋保全フェローシップ、およびアメリカ海洋哺乳類学者協会のC.Hurt Merriam賞を受賞した。

エステス博士の最近の講演から。おそらくこの本の内容を簡単に説明したもの。
字幕作成に参加できるようなので、時間があれば字幕を付けて改めてご紹介したいと思います。

UC Santa Cruz News Center

New book by ecologist James Estes recounts pioneering research in Alaska

April 27, 2016 By Tim Stephens