【記事】ラッコの楽園:ボランティアが変えるラッコ研究 (2) | OtterEden :How two volunteers changed our understanding of sea otters (2)

 本日から2016年3月31日付のMonterey County Nowから、"Otter Eden : How two volunteers changed our understanding of sea otters."の2回目です。
時間のない研究者に代わり現場でデータを集める二人のボランティア。現場につねにいるからこそ気づくことも多く、そうした気づきに研究者らも動かされます。


カースティン・ワッソンは2000年からエルクホーン湿地帯の研究者だったが、イービーやスコールズと出会うまで、ラッコは湿地帯に属している生物だとは思ってもみなかった。

 

「研究を始めた時、『こんながラッコにすごく興味を持っているなんて信じられない。ラッコは湿地帯の動物でもないのに』なんて言っていました」とワッソンは言う。

 

ラッコがエルクホーン湿地帯に見られるようになって数十年になる。そして約20年前、モントレーベイ水族館が保護したラッコをここへ放すようになって以来、ラッコの数は増加している。しかし、ワッソンはラッコの多くが湿地帯に住んでいるとは思っていなかった。

 

「私が研究を始めた当時の一般的なパラダイムは『これは異常なことで、このラッコは水族館でリハビリを受けたラッコなのだ』というものでした」

 

そして2008年か2009年、スコールズは一つの発見をした。それが、ワッソンのラッコと河口域に対する考えをひっくり返すことになった。

 

モロベイ州立公園へ行く途中、スコールズは1冊の絶版本を発見した。アデル・オグデン著、「カリフォルニアのラッコ猟 1784年~1848年」これが歴史に光をもたらし、保護区のスタッフに衝撃を与えた。

 

「サンフランシスコ湾にはラッコが多く生息する」とオグデンは書いている。「ラッコは湾の中を泳ぎ回っているだけでなく、多くの河口域にも頻繁に現れ、浜に上がることすらあった」

 

1800年代、現在のサンフランシスコ湾はスペイン人が管理していたが、スペイン人はロシア人のラッコハンターやロシア人が雇ったアレウト先住民を湾には入れさせなかった。

 

そのため、解決策が講じられた。アレウト人は今日のゴールデンゲートブリッジ近くの岬の北に上陸し、カヤックを担いで丘を越え、サンフランシスコ湾にやってきた。そのようにして、アレウト人らは数千頭のラッコを僅か数年で狩りつくしてしまった。

 

スコールズとイービーにとって、その意味は明らかだった。自分たちが見たのは決して異常なことではなく、ラッコが河口域に生息するというのは歴史的に標準的なものだったのだ。

 

「その時でした。私たちが、何か特別なものに関わっていると考え始めたのは」とイービーは言う。

 

敷居を作るプロジェクトに先んじてイービーとスコールズが湿地帯上流でラッコの観察を始めた時、ラッコが湿地で快適に暮らし、むしろその環境を好んでいるという確証を得た。

 

それがワッソンの関心をそそった。

 

「二人は、ラッコに何か特別なことが起こっていることに気が付いていました「とワッソンは言う。「ラッコは誰も見たことがない方法で潮の満ち引きのある水路を使っていたのです」

 

間もなくワッソンは刺激を受けた。

 

2012年に行われた地元のラッコ研究者の会議で、ワッソンはイービーとスコールズの観測から得られた結果をスライドショーにして発表した。それには湿地帯上流の水路をラッコがどのように利用しているかも含まれていた。また、ワッソンは2人が提示した仮説を発表した。多くのラッコが1年を通じて湿地帯に暮らしているだけではなく、湿地帯に住むラッコは海に住むラッコに比べて採餌行動にかかる時間が短い。また湿地帯に住むラッコはエサをとるのに深く潜る必要がないため、余分なエネルギーを消費することもなく、その結果健康であるという仮説だ。(この仮説は正しいことが分かった)

 

この会議に、サンタクルーズを拠点にするアメリカ地質調査所の生物学者であり、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授でもあるティム・ティンカーが参加していた。ティンカーは何十年もラッコの研究を行っており、カリフォルニアにおける連邦のラッコ研究のプロジェクトリーダーでもある。

 

「ラッコが潮の満ち引きのある水路を利用しているという彼らの発見は、私には非常にエキサイティングでした」とティンカーは言う。

 

この発見はティンカーや他の研究者らに影響を与え、2013年からエルクホーン湿地帯ラッコプロジェクトと呼ばれる研究をスタートさせる引き金になった。研究者らは湿地帯で26頭のラッコを捕獲し、無線装置を取り付け、見て判別できるよう色のついたタグをつけた。

 

しかし、ラッコにタグと無線装置を取り付けたあと、研究者らには誰か3年間毎日出かけていってデータを集めてくれる人が必要になった。

 

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「ラッコ観察を始めるのに、仮説など必要ありません」とイービーは言い、科学者らが研究費を得るためにしなければならないことと、イービーとスコールズ(右)がしていることの違いを指摘する。「私たちはこの機器を全部自分たちで購入しました」とスコールズは言う。「私たちが必要なのは、現場へ行くことだけです」 David Schmalz
「ラッコ観察を始めるのに、仮説など必要ありません」とイービーは言い、科学者らが研究費を得るためにしなければならないことと、イービーとスコールズ(右)がしていることの違いを指摘する。「私たちはこの機器を全部自分たちで購入しました」とスコールズは言う。「私たちが必要なのは、現場へ行くことだけです」 David Schmalz
最近、ある木曜日の朝、日の出からそう時間がたっていない頃、イービーは保護区の本部の北のほうで、強風と泥道の中ピックアップトラックを運転していた。イービーは短い堤防を横断し、小さな木が点在し鳥が好むハミングバード島へと向かった。車を停めるとイービーは追跡装置を手にした。7フィートのアンテナもある。スコールズも車を停めて望遠鏡を肩にかけた。島へ出発すると、湿地から霧が立ち上り、鳥の鳴き声が空を埋め尽くした。

二人の作業は滞りなく進む。それぞれが、それぞれのやり方で目的に合っているように見える。

イービーはメリーランド州の沿岸部で育ち、海軍将校としてキャリアの大半を費やした。水を見たり、観察したりするのはお手の物だ。

スコールズも軍で過ごしたことがある。「陸軍に33か月と18日在籍しました」その後、保安官代理として働いていた。スコールズもまた、周囲に波長を合わせる日を過ごしていた。

「湿地帯をここまで奥深く来ると、ラッコを探すのは釣りをしているような感じです」とスコールズは言う。

「オスのラッコは同じ場所にいる傾向があります」とイービーは言う。

二人は2時間の日課の中で何度か立ち夜場所があるが、島を横切るのはその一つだ。それから西側の土手に立ち寄る。

スコールズは望遠超で見渡し、視界にあるものをよく見ていく。タグがついたラッコを探すのだ。タグがついたラッコを見つけると、スコールズはイービーにどのラッコかを告げる。イービはそのラッコが発する無線信号を受信しようと試みる。タグのついたラッコはそれぞれ別の無線チャンネルを持っているため、イービーはこうして近くのラッコの個体を識別することができるのだ。

ラッコが遠くにいると信号が弱くなるため、ラッコが水に潜ってしまうと信号が完全に途絶えてしまう。

イービーはチャンネルをスキャンしながら眉を寄せた。「うーん、南のほうに580号の電波を受信したよ」

「私も1匹見つけたよ」とスコールズは望遠鏡を覗きながら答えた。「でも太陽がまぶしくてどのラッコか特定できない」

日々の観察の多くは興奮するようなものはないが、それでも野生生物の楽園に囲まれるのはスリリングな経験だ。

しかし、イービーとスコールズは熱意に満ちてそうした日々を続ける。

一つには、二人は野外にいることが好きで、そしてまた、100メートル以上泳いでいるコヨーテ、ハーバー内の水路でスパイホップ(頭を水から垂直に突き出す)するシャチ、湿地帯の上流へ泳いで戻っていくイルカ---そうした今まで見られるとは思っていなかったものを見ることができたからだ。

しかし、ラッコに関しては、発見のスリルは強迫観念になっている。

「ラッコが何か新しいことをするのを見るたび、とてもエキサイティングになります」とイービーは言う。

エキサイティングになるのは、彼らが現在手伝っている研究、特に9月に終了するエルクホーン湿地帯ラッコプロジェクトは、科学界に大きな影響を与える可能性があるからでもある。

モントレーベイ水族館のラッコ研究保護プログラムのアンディ・ジョンソンによると、この研究から論文が10くらいは出るだろうと見込んでいる。

「非常に綿密な研究ですし、協働研究も多くあります」とジョンソンは言う。

具体的には、アメリカ地質調査所、モントレーベイ水族館、カリフォルニア大学、カリフォルニア州魚類野生生物局、そしてエルクホーン湿地帯保護区による協働だ。

この研究には多くの研究者が関わっているにも関わらず、イービートスコールズには研究者にが余り持っていないものがある。時間だ。

ワッソンは他の研究者らと同様、自分たちに時間がないことが分かっている。自分の時間のほとんどがデータの解析や助成金の申請に費やされる。

「ロンやロバートのような一般人の研究者は現場でより多くの時間を過ごし、何かに気づくことができるのです」とワッソンは言う。ワッソンは一例として、イービーは湿地の沿岸に藻類が打ち上がり湿地に生息する植物を窒息させ枯らしてしまうのではないかと考えていることを挙げた。

「その後私たちは実験を行い、観察研究を行いましたが、ロンが考えていたことはまさに正しかったということが分かりました」とワッソンは言う。

しかし、イービーとスコールズが最も貢献したのは、ラッコと湿地帯の関係性についての理解とプロファイルを高めたことだった。

ティンカーは言う。「私たちは、ラッコの回復のために河口域がどれほど重要なのかを理解することに関心があります。エルクホーン湿地帯は、ラッコが回復する中で最初に出会った河口域なのです」

 

Monterey County Now

Otter Eden : How two volunteers changed our understanding of sea otters.

David Schmalz March 31, 2016