【記事】海の身になって考える(2) | Thinking like an Ocean (2)

 本日は2015年11月19日のSeaotters.comの記事より、"Thinking like an Ocean"をお届けします。先日お届けした魚類野生生物局の記事(【記事】海の身になって考える | Thinking like an Ocean)のロングバージョンです。

モスランディングで縄張りを持つオスのラッコがピックルウィードの中でイソガニを探している。Photo by Lilian Carswell/USFWS.
モスランディングで縄張りを持つオスのラッコがピックルウィードの中でイソガニを探している。Photo by Lilian Carswell/USFWS.

カリフォルニアカリフォルニアラッコを復活させることは絶滅の淵から救うこと以上のものが要求されるー復活はまた、生態系の関係を再構築することでもあるからだ。

アルド・レオポルドは自身の有名なエッセイ「山の身になって考える」の中で、死にかけているオオカミの目に「激しい緑色の炎をみた時「彼が経験したひらめき」について詳しく語っている。「わたしはオオカミが減ればシカが増える、だからオオカミがいなくなればハンターたちにとって楽園のようなものだ」と思っていた。しかし、緑色の炎が消えるのを見てから、わたしはオオカミも山もそんなものの見方には同意してくれないことに気が付いた」レオポルドが辿り着き、他の人にも辿り着いてもらおうとしたより大きな視点があった。それは、レオポルドと同時代の人が中傷し組織的に殺してしまった捕食者もまた、総合的な生態系の一部であり不可欠なものであったということだ。シカが食べていた植物にとって重要であったことは言うまでもなく、一見逆にも思えるが、シカ自身にとっても、その捕食者は重要であったということだ。「それ以来、わたしはオオカミのいない山の表面を観察し、シカが通る新しい道が迷路のように皺になって見える南向きの斜面を見つけてきました。そして、食べられそうな繁みや苗がだめになっているのを見つけました。シカの群れがオオカミに殺されてしまうかもしれないという恐怖の中で生きているように、山もまた、シカに食べ尽くされてしまうのではないかという恐怖の中に生きているのではないかと私は今考えています」とレオポルドは記している。


オオカミ同様、ラッコも本来の生息域のほとんどから組織的に取り除かれてしまった。18世紀と19世紀の毛皮貿易は、日本北部からメキシコのバハ・カリフォルニアにかけての北太平洋沿岸に分布していた、おそらく数十万頭いたと思われるラッコを数千まで激減させてしまった。20世紀初頭になりラッコの保護が始まるまでには、ラッコはアメリカ本土では絶滅したと考えられていた。しかし、カリフォルニア州の険しいビッグ・サーの隔離された場所でラッコの群れがなんとか生き残っているのが発見された。1915年に州の生物学者が最初に記録した時には50頭ほどだったが、これらが今日のカリフォルニアラッコである亜種 Enhydra lutris nereisの礎となっている。

モスランディングの縄張りを持つオスのラッコが侵略的外来種であるミドリガニを食べる準備をしている。Photo by Lilian Carswell/USFWS.
モスランディングの縄張りを持つオスのラッコが侵略的外来種であるミドリガニを食べる準備をしている。Photo by Lilian Carswell/USFWS.

カリフォルニアラッコは1977年の絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律において「絶滅の恐れがある動物」に指定された。それ以来、カリフォルニアラッコは少しずつかつての生息域であるカリフォルニア沿岸(自然な生息域の拡大による)およびカリフォルニア沖のサンニコラス島(移殖による)を断片的に取り戻しつつある。現在カリフォルニアラッコの個体数は約3,000頭になり、絶滅の恐れがある種のリストから外れるか外れないかの境目となっている。しかし、海洋哺乳類保護法にあるように、カリフォルニアラッコが「ラッコが属する生態系において非常に顕著に機能する要因」として役割を取り戻すまでの道のりは、まだまだ長い。その目標を達成するには、少なくとも8,400頭のラッコがカリフォルニア沿岸に必要である。


今日のカリフォルニアラッコの殆どはカリフォルニア中央沿岸部に生息しており、生息域の中央部でラッコが長く生息している場所はキャパシティの限界に達しているか、もしくは限界に近い。ラッコが隣接する南北の地域に生息域を広げようとしても、それらの地域はサメによる噛みつきが急増しており制限されている状態だ。サンニコラス島にいる約100頭の小さな個体群はキャパシティには達しておらず、増加しており、明らかにサメに起因する死亡には影響されていないようだが、サンニコラス島がラッコの生息域となったと勘定に入れたとしても、カリフォルニアラッコはかつての生息域であるワシントン中からバハ・カリフォルニアの13%というごくわずかな場所に生息しているに過ぎない。


毛皮貿易時代、ラッコが人間とエサをめぐって競争しているという理由ではなく、その豪華な毛皮が目的で殺される一方、ラッコの排除による影響はオオカミの絶滅の影響と一致していた。ラッコは脂肪層がないため、体温を維持するため、その密な体毛を注意深くグルーミングしなければならないだけでなく、日々体重の25%ものエサを食べなければならない。ウニは高カロリーで、藻類を食べる草食性の動物であり、ラッコの好物の一つだ。オオカミがいなくなるとシカやヘラジカが激増し、野山を全く変えてしまうように、ラッコによる捕食から解放された時、空腹なウニの大群が沿岸環境において「別の安定した状態」へ変えるスイッチの引き金を引いてしまう。無数の生物を擁していた複雑で多層のケルプの森を「ウニ砂漠」へと変えてしまうことになる。大量の空腹なウニがこうした広いケルプのなくなってしまった地域を支配するようになり、他の生き物は棲家やエサをそこで見つけることができなくなってしまう。嵐のような要素もケルプの繁茂に影響することはあるが、ラッコがいればケルプは増える傾向にある。ラッコはその少ない生息数からみれば不釣合いなほど大規模なコミュニティの効果があるため、オオカミのようにキーストーン種と考えられている。


北米沿岸の多くの部分からラッコがいなくなってしまった間、カニ・貝漁業はかつてラッコのエサであり今や異常に増殖してしまった底生無脊椎動物の開発を進めた。特にアワビは利益のでる商業漁業の基盤となり、カリフォルニアではスポーツフィッシングが盛んになった。ラッコが毛皮貿易の深い傷からやっと復活を果たし始めると、カリフォルニア沿岸におけるアワビの生息数が激減し、20世紀後半アワビ漁業と厳しい軋轢が生じてしまった。ラッコはアワビが何層も積み重なっていた漁業従事者たちの楽園を破壊するエイリアンか侵略者、もしくは害獣とみなされた。


1997年、サンフランシスコ北部の素潜りでのスポーツフィッシングを例外として、カリフォルニア全域でアワビ漁は閉鎖された。ラッコはカリフォルニア州中央で赤アワビ漁業と争わなければならなかったが、アワビ漁が閉鎖する頃には商業的に開発されていたアワビ5種はすべてカリフォルニア全域で驚くほど減少してしまった。その後、2種のアワビ、白アワビは乱獲、また黒アワビは病気と乱獲により絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律のもと、「絶滅の恐れがある種」に分類されてしまった。ラッコがその原因であると思われてはいけないので説明するが、毛皮貿易後のカリフォルニアラッコの生息域で、黒アワビの生息域とかぶっているのはほんの一部だけであり、白アワビとはほぼかぶらないということは重要である。アワビの商業漁はラッコとは共存できないように思えるが、ラッコがアワビと共存できないというのは事実ではない。実際、相反するように思えるがラッコは大きな生態系に益をもたらすだけでなく、エサとなる生き物にも益をもたらしているのである。


もともとラッコがいなかったチャネル諸島において黒アワビが1980年代にその個体密度を増やしたことは、多くの生き物との接触が原因でおこったキセノハリオチス症(アワビの病気)の蔓延を悪化させたと考えられている。水温上昇もまたこの病気の惨害を増加させ、その結果カリフォルニア南部から黒アワビはほぼ一掃されてしまった。理由ははっきりしないが、黒アワビが絶滅に瀕する種に分類される頃までに、カリフォルニア南部で唯一黒アワビが健全に増加している場所は、唯一ラッコが生息している場所でもあった。サンニコラス島である。キセノハリオチス症に影響を受けたことのない黒アワビの生息域の中では比較的水温が低く、岩に深い裂け目のある場所であり、ラッコの個体密度が良い方向に黒アワビの個体密度と関連している。黒アワビに人間による密漁から守ってくれる避難地とアワビの主なエサとなる漂流する豊富なケルプを提供してくれる生息域へと変えてくれたところに、ラッコの影響があると説明できるだろう。進化論的な視点では、北太平洋の東側ではアワビの多様性やその大きなサイズはラッコのおかげである。この仮説によると、アワビを捕食から逃げるために深い岩の裂け目に追いやると、アワビは漂流しているケルプを食べるしかなくなる。ラッコはケルプを食害から守り、ケルプが身を守るために化学物質を生産するように進化することを防ぎ、その結果、そうした草食動物が食べる漂流するケルプの質を良くしているのである。

足ひれと前足を同時にこすり合わせることで、グルーミングを有効的に行う。Photo by Lilian Carswell/USFWS.
足ひれと前足を同時にこすり合わせることで、グルーミングを有効的に行う。Photo by Lilian Carswell/USFWS.

ラッコが本来の生息域のほとんどから一掃されてしまってから、生態学が発展したため、この頂点捕食者の生態学的な影響はまだ知らせていない。ラッコーウニーケルプ間よりも複雑な栄養カスケードが最近、カリフォルニアのラッコ生息域の中でもっとも個体密度が高いエルクホーン湿地帯のアマモ棚で発見された。この潮の満ち引きがある湿地帯では、人間に起因する窒素汚染が藻類の着生を引き起こし、アマモの葉の表面に生えた藻類は日光を遮断し、最終的にはアマモを枯らしてしまう。ウミウシ類はこうした着生藻類を食べるが、カニがいる場合、カニはウミウシ類を大量に食べるため藻類の繁殖を抑えることができない。カニを大量に食べることで、ラッコはウミウシ類を守り、ウミウシ類がもっとも効率的な藻類を食べる動物であることを可能にするだけでなく、それがアマモを守ることにもなり、多くの他の生物の生息地を提供することにもなる。


新しく、驚くようなラッコの影響の数々が日常的に明らかになってきた。例えば、エルクホーン湿地帯にもともと住むカニを食べるのに加え、ラッコは外来種であるミドリガニも食べることで、湿地帯の外来種の侵略に対する影響を和らげている。またケルプやアマモの繁茂を促進することで、ラッコは海岸線を侵食から守り、記子変動の原因となる大気中の二酸化炭素を固定化する手助けをしている。


ある種を復活させることは、絶滅の危機から救うこと以上に意味がある。種の復活は生態系の関係を再構築することでもある。わたしたちは、環境変化の厳しい時代に生きている。しかし、多くの意味でそれはまた、再構築の時代ともいえる。ラッコが本来住んでいる生態系の復活においては、ラッコは最も重要な要因だ。ラッコを通じて、私たちは海の身になって考えるという意味を理解できるようになるかもしれない。

参考文献:

Estes, J.A. and J.F. Palmisano. 1974. Sea otters: their role in structuring nearshore marine communities. Science 185:1058-60.

Estes, J.A. et al. 2011. Trophic downgrading of planet earth. Science 333:301–306.

Hughes, B.B., R. Eby, E. Van Dyke, M.T. Tinker, C.I. Marks, K.S. Johnson, and K. Wasson. 2013. Recovery of a top predator mediates negative eutrophic effects on seagrass. Proceedings of the National Academy of Sciences 110:15313-15318.

Estes, J.A., D.R. Lindberg, and C. Wray. 2005. Evolution of large body size in abalones (Haliotis): patterns and implications. Paleobiology 31(4): 591-606.

 

ベンチュラ生態系フィールドオフィス、カリフォルニアラッコ回復プログラム・海洋保全コーディネーター、リリアン・カーズウェルへのコンタクトはこちらlilian_carswell@fws.gov or 805-612-2793.
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Seaotters.com

Thinking like an Ocean

November 19, 2015 by Lilian Carswell