【記事】2014年のカリフォルニアラッコの個体数、安定示す|Slowly Swimming Towards Recovery, California’s Sea Otter Numbers Holding Steady

Sea Otter Awareness Week(ラッコ啓蒙週間)中の9月22日付、USGS(アメリカ地質調査所)が2014年春のラッコの個体数の統計を発表しました。本日はその記事"Slowly Swimming Towards Recovery, California’s Sea Otter Numbers Holding Steady"をご紹介します。

▲フェザー・ボア・ケルプの中で休息するラッコ Image: Lilian Carswell/USFWS
▲フェザー・ボア・ケルプの中で休息するラッコ Image: Lilian Carswell/USFWS

ラッコは休息する際、海草を体に巻き付けて荒い波の中にしっかりと繋ぎとめます。

同じように、カリフォルニアラッコの個体数はその増加を阻止する圧力を押しのけ、その数を保っていることが、最近の州・水族館・大学の研究者によるフィールド調査で明らかになりました。

 

1980年代より、アメリカ地質調査所の研究者たちは、公的に「絶滅の恐れのある状態」の動物として挙げられているカリフォルニアラッコ(学名:Enhydra lutris nereis)の個体指数を計算してきました。この広域年次調査は、アメリカ魚類野生生物局に代わり保護下にあるこの海洋哺乳類のデータを集めています。

 

2014年に関して、アメリカ地質調査所は個体数指標は2,944頭(データはオンラインで参照可能)と報告しています。2013年に報告された2,939頭からごく僅かな増加です。


アメリカ魚類野生生物局が策定したラッコ回復計画によると、カリフォルニアラッコが「絶滅の恐れのある状態」の動物のリストから外されるためには、個体数指標が3年連続で3,090頭を超える必要があります。

 

「数が非常に少ないため、ラッコの個体数の傾向は様々な、その地域に由来する、もしくは広範囲に由来する要因に影響を受けやすいのです」

アメリカ地質調査所西部環境調査センターティム・ティンカー氏は述べています。ティンカー氏は、カリフォルニア魚類野生生物局の油濁予防対応局モントレーベイ水族館カリフォルニア大学サンタクルーズ校、その他の機関の調査研究者たちとともに、カリフォルニアラッコの調査を先導している人物です。

「餌となる生物資源の限界を暗示するような死亡率の増加が見られる地域もあり、また別の地域ではホホジロザメの攻撃による死亡率も増加しています。しかし、我々国、州、水族館、大学によるラッコの研究連合は、こうした傾向がカリフォルニア沿岸の環境にどう関係しているのかということへの理解をより深めています。」

 

カリフォルニアラッコは、「沿岸生態系」、つまり海岸線を含む海の広がり、で餌を獲り暮らしています。そのため、沿岸内陸部から流出した汚染物質や病原体を検出する指標種となっているのです。そして北アメリカ太平洋沿岸において、ラッコは自然の食物網の中でケルプの森や海草藻場のような重要な生態系のバランスを保つという非常に重要な役割を果たしているのです。

 

ラッコを研究することは個体数の回復を理解する助けになるだけではなく、人も同じように日々泳ぎ、魚を獲り生活をしている沿岸生態系の健全性やリズムの糸口を明らかにするのです。

▲USGSによるカリフォルニアラッコの個体数の傾向。実線は全体数、破線は成体数(子どもを抜いた数)を示す。カリフォルニア本土沿岸(青線)、サンニコラス島(赤線)、全域(□)IMAGE:USGS
▲USGSによるカリフォルニアラッコの個体数の傾向。実線は全体数、破線は成体数(子どもを抜いた数)を示す。カリフォルニア本土沿岸(青線)、サンニコラス島(赤線)、全域(□)IMAGE:USGS

母と子

ラッコはカリフォルニア・ビッグサーのような牧歌的な日の当たる、陸と海の境目の環境に暮らす。人間もまた同じ海を享受している。 Image: Ben Young Landis/USGS
ラッコはカリフォルニア・ビッグサーのような牧歌的な日の当たる、陸と海の境目の環境に暮らす。人間もまた同じ海を享受している。 Image: Ben Young Landis/USGS

19世紀の毛皮貿易後、カリフォルニアではラッコは絶滅したと考えられていましたが、一般人により1930年代に再度その存在が発見されました。当時、ビッグサー付近の沿岸で約50頭が生き残っていたと記録されています。


そう考えると、現在のカリフォルニアラッコの状態は酷過ぎるとまではいえません。しかし、個体数の回復は緩やかになってきています。その理由の一つは、ラッコの生涯が、極端で崖っぷちの状態であるということが挙げられます。


クジラやアザラシのように脂肪層を持たないため、ラッコは体温を維持するために毛皮と高い代謝率に大きく依存しなければなりません。

「平均的な成体のラッコは、必要なエネルギーを満たすだけで毎日体重の20から30パーセントも餌を獲り、食べなければなりません」とティンカー氏は述べています。


今年、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、アメリカ地質調査所とモントレーベイ水族館が共同で発表した調査書には、子育て中の母親ラッコが必要とするエネルギーはどのように変化するのかという疑問について述べあれています。母親ラッコは自分が生きるためだけではなく、子どものために母乳を作り出さなければなりません。計算では母親が自分と子どもを食べさせるために2倍近くのエネルギー摂らなければなりません。6か月間ずっと、十分な餌を探し、二人分食べなければならないのです。


実際、研究者たちはカリフォルニアでは繁殖適齢期のメスのラッコたちが「授乳末期症候群」と呼ばれるものが原因で高い死亡率を示していると記録しています。「授乳末期症候群」とは、メスのラッコたちは子どもを育てたのち低体重とエネルギー的なストレスのため生命を脅かす病気や感染症にたいしてより脆弱になることです。

 本土沿岸とサンニコラス島における各地域ごとのカリフォルニアラッコの個体数密度を示す地図。Image: USGS
本土沿岸とサンニコラス島における各地域ごとのカリフォルニアラッコの個体数密度を示す地図。Image: USGS

最近の調査では、カリフォルニアにおけるラッコの生息域の中心であるシーサイドからカユコスにかけて、繁殖期のメスに高い死亡率が見られる理由を説明しています。「環境収容力」(その地域で得られる資源を利用し長期間にわたって維持できる最大の個体数)が限界近くに達していると思われます。


「このように基本的に多くのエネルギーを必要とすることが、ラッコの成体密度が最も高く、餌の資源が限られている生息域の真ん中でなぜ繁殖期のメスがそれほど多く死んでいるのかという理由の根底にあると思われます」と筆頭著者、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のニコル・トメツ氏は説明しています。

「その生息域の中心で、ラッコたちは生理的な限界に直面しているのだと思われます」


しかし、母親ラッコたちに対する名誉もあります。2014年の個体指数によると、子どもの数が多かったことも報告されています。


「扶養されている子どもと成体のラッコの比率は全体的に高いまま維持されています。タグをつけたラッコの調査から得られたデータと合わせて考えると、繁殖率は通常の範囲内で回復を制限するものではありません」

と年次個体数調査をコーディネートするアメリカ地質調査所の生物学者ブライアン・ハートフィールド氏は述べています。

ラッコの死

カリフォルニア州は、ラッコの死因や沿岸環境に影響を与える環境的な様々なストレスを理解するため、死んだラッコの研究を行っている。Image: Brian Hatfield/USG
カリフォルニア州は、ラッコの死因や沿岸環境に影響を与える環境的な様々なストレスを理解するため、死んだラッコの研究を行っている。Image: Brian Hatfield/USG

もちろん、子どもが増えたからといってそれが全体的な個体数の増加に結びつくかどうかは分かりません。

 

ハートフィールド氏は、浜に打ち上げられたラッコの年次調査のコーディネートも行っています。研究者たちに公表された報告を含む、カリフォルニア沿岸で死んだラッコ、病気や怪我を患ったが回復させたラッコの数の調査です。2013年は340頭が打ち上げられているのを発見されました。2012年と比較すると僅かに減少していますが、それでもかなり高い数字です。しかし、ハートフィールド氏はその浜に打ち上げられたラッコの数というのはつまり人々が見つけたラッコであると指摘しており、過去の調査では死んで打ち上げられたラッコは50%に満たないであろうと示されています。

 

発見されたラッコの死体を検死するため、チームがカリフォルニア州海洋野生動物保護研究センターに送られています。そこでは、検死によって主な死因を特定し、その他個々のラッコの死の一因となった可能性がある他の要因を明らかにする作業が行われています。

 

これらの検死から、研究者たちはホホジロザメによる咬傷(かまれた傷)が増加しているということを知りました。その咬傷は明らかに「試し噛み」の結果であり、サメがラッコを食べるということはないにしても、結果的にラッコを死に至らしめるものです。この死因はある期間は生息域の北側(ピジョンポイントからシーサイドにかけて)で一般的でしたが、近年は生息域の南端(カユコスからガビオタにかけて)に顕著になっており、その地域では成体のラッコの個体数は減少傾向にあります。

 

生息域の中心部に棲み、その生息域を南北に広げようとしているラッコたちにはあまりよい知らせではありません。

 

授乳末期症候群やサメによる咬傷に加えて、州の「CSI:ラッコ編」の調査班はカリフォルニアのラッコたちの様々な死因を明らかにしてきました。何年にもわたって、カリフォルニア州の獣医たちは、ラッコが富栄養化により温かな湖で繁殖し海に流れ込む微生物の毒素、ミクロシスチンにより毒されていることを発見していました。また、ラッコが、野良猫や家猫から感染するトキソプラズマ原虫を含む、致命的な脳の感染症を引き起こす寄生原虫に感染していることも分かっています。

 

カリフォルニアラッコの他の死因には、細菌感染症、心臓病、攻撃的な雄による交尾時の外傷、ボートとの接触、被弾などが挙げられます。今日においても、アメリカ魚類野生生物局は、2013年に3頭のラッコがカリフォルニア州モントレーで銃で撃たれ死亡しているのが発見された事件を解決することができていません。


ラッコの重要性の問題

カリフォルニア州からアラスカ州にかけて広がる、海洋生物に富む海のジャングルとも言えるジャイアントケルプの森が生き延びるための中心になっているラッコが生き延びていけるかどうかを決める、多くの様々な要因があります。

 

「ラッコは、非常に食欲旺盛な捕食者であり、ウニのような草食性の無脊椎動物を制限することができる唯一の存在です。ラッコによってコントロールされていなければ、ケルプ床とケルプが棲家を供給している魚たちが消滅してしまいます。したがって、ラッコはケルプのある生態系におけるキーストーン種(中枢種)と考えることができるのです」とアメリカ地質調査書のティム・ティンカー氏は述べています。ティンカー氏は指導教授のジム・エステス氏と共同で1998年にアラスカの海におけるこの偉大な生命の輪についての研究を発表しました。

 

アメリカ地質調査所、アメリカ魚類野生生物局、州機関、水族館、そして大学の研究者たちによる連携体は、海岸沖にあるケルプの森だけでなく保護地域の感潮河口においてもラッコが果たす生態学的、環境学的な役割について研究を続けています。

 

エルクホーン・スルー・ナショナル・エストゥアリーン・リサーチ保護区において、共同研究者たちは現在2つの研究を行っています。一つはラッコがカニの個体数をコントロールすることにより、海草藻場を窒息死させてしまう藻類を食べるウミウシ類の繁殖を助け海草藻場の再建に役立っているということです。もう一つは、ラッコがどのように感潮湿地帯を利用しているかということです。ラッコは河口から豊かな食料源と、暖かな浅瀬と日当たりのよい湿地帯を安心して利用できます。その研究により、いずれまたラッコがカリフォルニアの他の場所にある似たような生息地で再び群れを作り、生態系のバランスを取ることができるかを知ることができます。

 

最近のアメリカ地質調査所の遺伝学者リズ・ボーウェン氏の分析によると、ずっと南に離れたビック・サーの海岸では、2008年の山火事があった場所付近に住むラッコは灰により生成された化学物質に対し生理的反応を示していることが報告されています。それにより、陸地と海の2つの環境が相互作用するもう一つの経路が明らかになりました。


カリフォルニアのラッコの個体数に関し、アメリカ地質調査所とその共同研究者たちは現在、ラッコの個体数の増加と生息域の拡大、つまり新しい事実が分かるにつれカリフォルニアの沿岸生態系に利益をもたらラッコの回復をを押しとどめている原因を引き出すために10年以上にわたり分析を進めています。

 

「私たちは、沿岸生態系においてラッコが必要不可欠な役割を果たしていることはすでに知っていますが、ここ数年のうちに発見された新事実は、この頂点捕食者のもつ大きな影響について、まだまだ分かり始めたばかりだということを示しています。」とアメリカ魚類野生生物局のカリフォルニアラッコ回復プログラムのコーディネーター、リリアン・カーズウェル氏は述べています。

「もしラッコが、かつての生息域に再び群れを形成することができれば、個体数が著しく増加することは確信できています。ラッコの回復にとってもそれは良いことですし、沿岸生態系にとってもよいことですし、私たち皆にとって良いことなのです。なぜなら、私たちは人が手を付けていない生態系から得るものをみな享受しているからです。」


もっとラッコの写真を見たい方は、アメリカ魚類野生生物局Ventura Fish and Wildlife Office作成のこちらのFlickrのギャラリーをご覧ください。

ラッコの数の調査方法

  • 毎年の個体数は、カリフォルニア沿岸部を研究者や学生、アメリカ地質調査所、油濁予防対応局のカリフォルニア州魚類野生生物局、モントレーベイ水族館、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、アメリカ魚類野生生物局、海洋エネルギー管理局、そしてサンタバーバラ動物園の有志による目視による調査から算出しています。
  • 目視による調査データは、年ごとの観察状態のばらつきを調整し、研究者たちがより信頼できるラッコの繁殖傾向を得られるよう、数年分を平均化してその年度の個体数を算出しています。
  • 調査は、海岸からの望遠鏡を使った目視による調査や低空飛行する飛行機による調査によって行われ、通常4月から6月までの間に行われます。今年はサンマテオ郡のサンペドロ岬から、南はサンタバーバラ郡/ベンチュラ郡のリンコン岬までの海岸線と、サンニコラス島で調査が行われました。
  • 2013年、個体数の計算方法が改められ、ロサンゼルス沖のチャネル諸島にあるサンニコラス島に生息するラッコが加えられることになりました。1980年代にアメリカ漁業野生動物局の回復実験の一環としてラッコがこの島へ移殖されましたが、多くは本土へ戻ったか行方不明になり、死亡したものもいます。当局は見直しを行い、2012年12月にその計画を終了させました。サンニコラス島に残ったラッコは、広域カリフォルニアにおける個体数の一部として数えられています。

安全にラッコを鑑賞するために

ラッコはカリフォルニアの海岸線沿いで見ることができますが、人間が多く出入りする港のような場所も含まれます。他の多くの野生動物たち、とくに肉食獣たちのように、離れて鑑賞しなければなりません。モントレーベイ水族館やアメリカ魚類野生生物局が勧めている鑑賞のポイントは以下の通りです。


  • ラッコがいると分かっている場所では注意を払うこと
  • ラッコや他の野生動物たちとは十分な距離をとること。ラッコがこちらに気づいたら、それは近すぎるということなので、速やかに離れること。
  • 港やドックでは、ペットはリードをつけること。
  • 攻撃的になる場合があるため、ラッコや他の野生動物に餌を与えないこと
2015年のカリフォルニアラッコの個体数調査についてはこちらをご覧ください。
2015年9月18日 - 【記事】カリフォルニアラッコ、増加傾向もサメの噛みつきによる問題増加 | Numbers Encouraging, but Shark Bites Still Problematic for Sea Otter Recovery

記事元:

USGS

Slowly Swimming Towards Recovery, California’s Sea Otter Numbers Holding Steady

POSTED ON SEPTEMBER 22, 2014 AT 10:15 AM

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コメント: 2
  • #1

    けものフレンズ (水曜日, 27 1月 2016 05:27)

    とても勉強になりました、ありがとうございます。カリフォルニアラッコの保全活動に携わっている方々に敬意と感謝の気持ちを抱きました。カリフォルニアラッコの個体数が増えることを祈ってます。

  • #2

    らっこちゃんねる | Sea Otter Channel (水曜日, 27 1月 2016 08:52)

    けものフレンズ様
    コメントありがとうございます。日本にも野生のラッコが戻ってきています。日本でアメリカのような取り組みをすることは非常に難しいとは思います。でも、いつか日本でもみんなが野生のラッコをみて楽しめるよう、また日本の海洋生態系がより良いものになり人間と動物たちが共存していくことができるよう、一人でも多くの方に情報発信していければいいなと思っています。