アーカイブ(2016年1月)

2016年

1月

02日

【記事】絶滅に瀕するラッコが抱える新しい問題、個体数過密 | Endangered Sea Otters Have a New Problem: Overpopulation

本日は、2015年12月30日付のtakepartから"Endangered Sea Otters Have a New Problem: Overpopulation "をお届けします。
ここでいうOverpopulationとは、ラッコの数が増えすぎているということではなく、生息域が限定されているためそこでの定員がオーバーしているという意味です。

カリフォルニアのある地域に住むラッコは数が多過ぎて生息域にそれ以上の数を抱えきれなくなっているーしかし、他の多くの脅威に直面しているラッコもいる

(Photo: Mark Boster/'Los Angeles Times' via Getty Images)
(Photo: Mark Boster/'Los Angeles Times' via Getty Images)

1年前、保護活動家らはカリフォルニアの象徴であるラッコの回復が頭打ちになっていると警告した。2014年には、その地域でラッコの生息数はたった5頭増えただけで、この信じられないほど可愛らしい海洋哺乳類が危機的状況だと危惧する者たちもいた。

 

しかし、それほど早くはない。

 

カリフォルニアラッコは、多くの者が指摘しているように、保護活動のサクセス・ストーリーだ。かつてカリフォルニアでは絶滅したと思われていたが、1938年に約50頭が再発見された。それ以来、集中的な保護活動が行われ、その数は約3,000頭まで増えた。

 

そう、個体数の増加はここ数年鈍っているが、今はそれが何故かわかっており、悪いニュースが理由ではない。今月行われた海洋哺乳類学会のカンファレンスで発表された研究によると、ラッコは順調に増えているために現在の生息域で「環境収容量」に達しているのだ。つまり、その環境からエサを得られる最大量のラッコが存在するということだ。生息域の中央部では、単にこれ以上数を増やすことができないということなのだ。

 
著名なラッコの研究者である、アメリカ地質調査所のティム・ティンカーはこれを「ラッコ科学における大きなOSのアップグレード」と呼び、ラッコがその生存に影響を与える多くの脅威にさらされている「崖っぷち」の種であるという以前の認識を変えるものだと言う。

 

ティンカーは、30名以上の研究者による15年分の研究を総括した。データを集めるのは容易なことだとティンカーは言う。ラッコは海岸から1マイル(約1.6㎞)以内にとどまり、簡単な望遠鏡で観察することができる。そのため研究者らは、ラッコの行動は体の調子、繁殖状況などを研究することができた。ラッコはエサを持って水面に上がり、仰向けになって食べるため食生活についても記録するのは容易だ。

 

新しい研究は、絶滅の危機に陥ったため遺伝子多様性が制限されてしまったのではないかという疑問や、他の外的要因によりラッコの回復が制限されてしまっているのではないかという疑問を片づけてしまうものだ。ティンカーはこれらを「ひび割れた仮説」と呼ぶ。

 

しかし、そのサクセス・ストーリーも限界がある。ティンカーは、ラッコが環境収容力の限界に達しているのはラッコの生息域中央部であるカリフォルニア州モントレー付近だけだと指摘する。生息域の北端・南端に住むラッコは未だ脅威にさらされている。

 

もっとも注目すべきは、ティンカーが指摘しているように、サメの噛みつきによるラッコの死亡数が10倍にもなっているということだ。サメはラッコを食べないが、理由は不明だが、サメはラッコに噛みついて殺し始めている。こうした捕食者の攻撃により、生息域の北端と南端のラッコの数は年に1%から2%の割合で減少しているとティンカーは言う。

 

他にも脅威が増大している。別のプレゼンテーションで、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のPh.D候補生のマックス・タルジャンは生殖可能なメスに遭遇できないオスが多いという報告を行った。オスのラッコは成獣になると新しい縄張りに拡散していくが、メスのラッコは生涯生まれた場所近くにとどまる。そのため、タルジャンンの報告によると、オスのラッコの80%は生涯メスと交尾することもなく、子どもの親になることもないため、将来的に個体数力学に影響を及ぼすのではないかと報告している。

 

また、モントレーベイ水族館の生物学者テリ・ニコルソンは現在のエル・ニーニョがラッコに海洋性の寄生虫による神経症に苦しむラッコを増加させていると報告している。

 

しかし、現在のところ、ラッコはできる範囲でなんとかうまくやっているようだ。そして保護活動のサクセス・ストーリーも、祝うべきものだ。

 

この記事はパッカード財団の出資によるCOMPASSのフェローシップによるものです。

takepart

Endangered Sea Otters Have a New Problem: Overpopulation

DEC 30, 2015 John R. Platt 

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2016年

1月

03日

【記事】シェッド水族館のカユコス、急死 |Shedd Saddened by Loss of Southern Sea Otter

本日は2015年12月31日付のShedd Aquarium のニュースリリースより、"Shedd Saddened by Loss of Southern Sea Otter "をお届けいたします。昨年末、シェッド水族館のカリフォルニアラッコ、カユコスが急死しました。まだ4歳でした。

世界的な動物ケアと保護活動のリーダーであるシェッド水族館は、謹んでカユコスの死をお伝えします。カユコスはカリフォルニアラッコで、生後5週間の時にカリフォルニアの海岸で保護された後、2011年にシェッド水族館へやってきました。

 

「シェッド水族館にとって非常に悲しい日でした。私たちは家族の一員を失ったのです」とシェッド水族館のアニマルヘルス部の副部長であるビル・ヴァン・ボン獣医師は語りました。「動物のケアは私たちの一番の優先事項で、私たちはケアをしている動物たちから多くのことを学び続けています。シェッド水族館で回復とケアを提供することでカユコスに生き延びるチャンスを与え、カユコスは他のラッコとの関係や生物学的な行動を観察させてくれることで、私たちに知識という贈り物を与えてくれたのです。現在行われている動物の福祉を知らせるための貴重な見識や野生のラッコのための環境保全活動に貢献してくれました。

 

ヴァン・ボン博士によると、検死の初期的な結果には、根本的な原因が知られておらず病気の所為症状が隠れている、稀な急性の腹腔状態を示していました。この先数週間の追加検査により、シェッド水族館の獣医師チームと病理学者はさらなる情報を得ることになります。

 

カユコスは2011年、カリフォルニア州カユコスのビック・サー海岸の南端近くで生後5週間の時に身動きができなくなっていたところを保護されました。この愛らしい赤ちゃんラッコはモントレーベイ水族館へ移送され、アメリカ魚類野生生物局が野生に帰すことができないと判定された後、2012年の1月にシェッド水族館をついの棲家としました。

 

カユコスは当時シェッド水族館のラッコの中で最初のカリフォルニアラッコとなりました。他のラッコたちはアラスカラッコでした。カリフォルニアラッコはカリフォルニア沿岸に住んでいますが、かつての個体数のほんの一部の数で生存に苦しんでいます。

 

「カユコスは、濃い色ですぐ判別がつきました。また、社交的で外交的で、プラスチック製のアワビの殻や、ラッコたちが大好きな洗車用ののケルプと同じ厚いウールの布切れでできている緑のヒトデのオモチャで遊ぶのが好きでした」とペンギン・ラッコ・犬の担当マネージャーであるラナ・ヴァナガスムは話しました。「カユコスは子どもの頃、様々な大きさの浮きや水に浮くボールにとびかかって跳ね上がることでした。遊び好きの妹尾格から、カユコスはラッコの大使として愛されていました。カユコスを失い、私たちは非常に悲しみに沈んでいます」

 

シェッド水族館は、ラッコが生きていくためのケアを施すトレーニングをすることができる最初の施設の一つでした。当館は今や、ラッコの子どものリハビリを行う専門家であると認識されています。シェッド水族館のアボット・オセナリウム(ラッコがいるコーナー名)に住んでいるラッコたちの殆どは保護された子どもたちでした。当館は身動きができなくなっていた子どものラッコや親とはぐれたラッコの子どものリハビリについて20年以上の経験があります。1989年のエクソン・バルディース号原油流出事故以来、シェッド水族館は信頼のおけるコンサルタントであり、サービスを提供者であり、アメリカ魚類野生生物局のパートナーでもあります。

 

シェッド水族館は、他の4頭のラッコたち、ヤク、マリ、キアナそしてルナの家でもあります。

 

シェッド水族館のこうした素晴らしい動物についての保全保護活動については、ウェブサイトをご覧ください。

Shedd Aquarium News Release

Shedd Saddened by Loss of Southern Sea Otter

December 31, 2015

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2016年

1月

04日

【記事】ラッコが教えてくれたこと | What a dying sea otter tells us

今回は、個人的な体験についてのお話しです。
毎週のようにラッコを見にいっていると、できれば見たくない場面に遭遇することもあります。それはラッコの死です。

生まれ出づる者はすべてその命が終わりを迎える時がくることは理解していますが、実際に目の前で命の火が消えていくのを見ることはかなりの覚悟が必要です。

倒れていたラッコ

2015年2月のある週末。
私たちはいつものように、モス・ランディングでラッコたちを観察していました。

大きな群れはなく、ラッコがばらばらと思い思いに休んだりグルーミングをしたりしていました。

 

午後になって、潮がかなり引きました。

ちょうど数日前までKing Tideと呼ばれる大潮が訪れており、満潮と干潮の水位の差が大きい時期でした。モス・ランディング・ハーバーの中も、半分近くまで海底が露出していました。見ると、1頭のラッコが水際で寝そべっていました。そのラッコの写真を撮っていると、隣に初老のご婦人が立っていました。

 

「あのラッコ、具合が悪いのよ。私、アニマルレスキュー(野生動物の保護団体)に電話したの」

波打ち際で倒れていたラッコ
波打ち際で倒れていたラッコ

アメリカへ来て驚くことの一つは、こうした野生動物を見つけたらどうすべきかということを、みんな知っているということです。日本だと警察や役所に電話しますが、アメリカではまずアニマルレスキューへ電話するのです。日本に野生動物を専門にする救護組織があるかどうかはわかりませんが、アメリカには様々な動物の保護団体があります。海獣専門、鳥専門の保護団体もあります。カリフォルニア中央部では、ラッコについては基本的にモントレーベイ水族館へ連絡がいくようになっているようです。そして一般市民がそこに電話すべきだということを知っているのです。これはひとえに教育の賜物だと思います。

 

モス・ランディングに通っていると、時々そのような方に出会います。

ラッコが浜に上がって休むことを知らない人もいるので、ただ寝ているだけのラッコを具合が悪いと勘違いして通報する人も少なくありません。一度見かけた方は、寝ているラッコに向かって小石を投げて生きているかどうかを確認していましたが、それは明らかに法に触れる行為でした。

 

しかしこのラッコは明らかに様子が変でした。

打ち寄せる波が顔にかかっても避ける仕草もなく、鳥がつついても力なく後ろ足をぴくりと動かすだけでした。

 

そのご夫人は、続けました。

「そうしたら、電話でさんざん待たされた挙句、水族館へ連絡してくれ、って。それで水族館にも電話したわ。水族館は、人手が足りないとか、もう少し様子をみないといけないとか、明日には行けるかもしれないとか、そんな返事だったわ・・・」

 

'Saving Otter 501'(【記事】ラッコ501号を救え!)というドキュメンタリーにもあったように、モントレーベイ水族館のラッコ保護プログラム(通称SORAC)のメンバーは週に数回通報を受けて保護に向かいます。水族館の裏でラッコの世話をし、救助し、また自然に返したラッコがきちんと適応できているかどうかの調査なども行っています。その合間を縫っての出動ということになりますから、水族館がただ「人手が足りない」と言うわけではなく、本当に人手が足りないのかもしれません。

 

保護動物であるため、一般人が野生のラッコに触れたり、近づいたり、餌をやったりることは法で禁じられています。ですから、このラッコが本当に死にそうだとしても、一般人であるわたしたちは決して手出しすることはできません。じっと見守ることしかできないのです。

 

「彼らは明日来るとかいうけど、潮が満ちたらあのラッコは流されてしまうか、溺れてしまうかどちらかでしょう。それが分かっているのにどうして何もしないのか」

そのご婦人は悔しさに満ちた目で、身動きできないラッコを見つめていました。

 

しばらくして、カリフォルニア州魚類野生生物局の職員の方が巡回にきました。そのご婦人はその職員の方へも交渉し、なんとか保護してもらえないかお願いしていました。職員は電話でどこかと話していましたが、特に何か変化があったようには見えませんでした。

 

夕方になっても誰も保護に来る気配もなく、そのご夫婦と私たちは車を並べて、日が沈むまでなすすべなくそのラッコを見守っていました。

 

日が落ちて視界が悪くなってきた頃、そのご婦人が私たちの車の窓をコンコンと叩くので窓をあけると、

「わたしはできることは全てやった。でも、彼らはなんの行動も起こしてくれなかった。最後まで見ていてくれてありがとう」

そう言い残して、そのご婦人はご主人に促されるように、去っていきました。

わたしたちも、後ろ髪を引かれる思いで、エンジンをかけ、パーキングを後にしました。

帰路、家に帰ってからもあの波打ち際にいたラッコのことが頭から離れませんでした。

普段は週に1度行くだけですが、翌日いてもたってもいられず、再びモス・ランディングへ向かいましたが、前日に見たラッコは姿が見えなくなっていました。まだ朝早い時間だったので、その時間までに関係者が死体を回収するのは難しいと思われました。恐らく夜の間に潮が満ち干きを繰り返したため、流されてしまったのでしょう。

最期の瞬間

2016年元日。
アメリカの元日は通常の祝日と同じ感覚なので、日本のようにのんびりするということはありません。
モス・ランディングハーバーもよくある休日のような賑わいでした。

 

元日は非常に寒く、強く冷たい風が吹いていました。水の上で休んでいるラッコもいれば、浜で日向ぼっこをしているラッコもいました。その中で1頭、動きの鈍いラッコが見えました。そのラッコは波打ち際にやっとのことで這い上がっていました。

 

実は前の週、そのラッコが浜に上がっているのを見ていました。毛のつやがなく、身体に力が入っていないのかほとんど這いつくばるような恰好でやっと浜に上がっているようでした。遠くからしか見ていませんが、腹部に切り傷のようなものが見えました。薄いピンク色をしていたので、出血は止まっていたようでした。

 

そのラッコは前の週見た時よりも、更に衰弱しているように見えました。とは言え私たちは専門家でも何でもなく、確信が持てなかったので、もう少し様子をみることにしました。

 

しばらくしてそのラッコはまた水に戻っていきました。体をひきずるようにして、しばらく波打ち際にとどまっていましたが、来た波に体を預けるようにし、波打ち際で仰向けになり、ただ流されるままになっていました。

通常ラッコは水の上にる時は熱が逃げないよう頭部と足ヒレを水面から出しています。しかしこのラッコは、頭部の半分と足ヒレ全体がすでに水の中に浸かってしまっていました。頭を上げる力もなかったのかもしれません。仰向けになったり、うつ伏せになったりと回転しながら、時折ふうっと大きく息継ぎをしていました。また通常ラッコの毛は水をはじくため、水に触れている部分が空気の層で光って見えるのですが、このラッコはグルーミングをきちんとすることができていないようで、毛がへたってしまっていました。おそらく保温を十分できていないのでしょう。それでも水の中に戻っていった理由が分かりませんが、見た感じ明らかに死期が近づいているように思えました。

通報すべきか?
元日で休日ではありますが、モントレーベイ水族館のラッコのホットラインは1年365日1日24時間通報を受け付けています。(営業時間以外は留守電対応)ただ、通報したところで2月の時のように人手不足などを理由にすぐ保護されないかもしれません。また保護に来られたとしても、このラッコが元気になるとはとても思えない様子でした。保護されてもどのみちすぐ死んでしまうのなら、このまま生まれ育った場所で死なせてやったほうがいいのではないか。人間だってそうでしょう。病院でたくさんの管につながれて死ぬより、自分の家で畳の上で死ぬほうがいいと思う人は多いでしょう。


そう思いなおし、通報するのをやめました。

力なく波打ち際に浮かんでいるラッコ。間もなく息をひきとった。
力なく波打ち際に浮かんでいるラッコ。間もなく息をひきとった。

他のラッコが突然、そのラッコに寄っていく場面がありました。
衰弱した動物は身の危険を感じると防衛のために攻撃的になると聞いたことがありますが、このラッコも最後の力を振り絞って、寄ってきたラッコを一瞬威嚇しましたが、その後また同じように浮かんでいました。

 

1羽のカモメがそのラッコの周りをウロウロしていました。

時々体を突いていましたが、その時にはラッコは抵抗する力も残されていないようでした。

 

そのうち、そのラッコはうつ伏せになりました。
顔は水の中に浸かってしまっており、時々ふっと顔を上げて息継ぎするほかは、身動きすることもなく浮かんでいるだけでした。その息継ぎの間隔は次第に長くなり、ついに顔を上げることもなくなりました。

 

「あのラッコ、死んでるんじゃない?」

「死んでないと思うよ」

「死んでるわよ」

「いや、生きてるよ」

隣でラッコを見ていたカップルがそんな話をしていましたが、何も言えませんでした。

 

周りをウロウロしていたカモメが、ラッコの体や目玉を突き始めました。

それも自然のサイクルとは理解しているものの、さっきまで生きていたラッコにスカベンジャー(腐食動物)がたかっている姿を見るのは、辛いものがありました。しかし、これも自然で生きている動物にとっては当たり前のことなのです。他の動物を食べることで生き、死んだら他の動物になる。そうやって循環することで生態系が成り立っているのです。

 

例えば銃に撃たれたとか、ボートにぶつかったなど、人間により致命傷を負った場合は、人間が責任を持って助ける必要があります。しかし、寿命や自然な病気などの場合、どこまで人間が関与すべきかは非常に難しい問題です。


昨年の2月に瀕死のラッコについて通報した際、モントレーベイ水族館が「人手が足りない」「明日まで様子をみる」と言ったのは、本当に人手が足りないのかもしれないし、自然に死んでいくものであれば自然に死なせるという方針なのかもしれません。もちろん立場的にはあらゆる通報を推奨しているため、表だって「自然死の場合は保護しません」とは言えないでしょう。おそらく電話での通報状況から、そのラッコがおそらく自然死であり、保護したとしても大きく寿命を延ばすことにはならないこと、保護の優先順位としては最優先にはならないことなどを考慮して、結果的に当日の保護には踏み切らなかったのかもしれません。


モントレーベイ水族館を含む北米の水族館では、人為的にラッコを繁殖させるということをしていません。ラッコがただ増えればいいと考えているわけではなく、飼育するのはあくまでも野生に返すことができない個体のみで、その飼育下のラッコも野生のラッコの保護について啓蒙活動をしてもらうという立場です。野生のラッコが本来あるべき姿になるようサポートを行うことが課題になっているからです。もし飼育下でどんどん繁殖させそれを野生に戻したとしても、それは今野生に生きているラッコとの競争を激しくするだけになってしまう可能性があります。人間によりマイナスの状態になったラッコを人間が関与することでプラスに戻すのではなく、できるだけラッコが自力で毛皮貿易以前の状態に戻れるようサポートするという考え方なです。生態系は複雑で敏感なので、突然ある種が増えてしまうと突如バランスが崩れてしまい、その増えた種自体も結果的に危機に陥ってしまうことになります。生態系が自然にバランスをとる力学の中で、ラッコが自力で繁殖していける環境を作っていくことに力を注いでいるのです。モントレーベイ水族館だけでなく、アメリカの水族館の多くは非営利で入場料や寄付金で活動しています。限られた資金、時間、保護スペース、人材、そうしたものをすべて考慮し、ラッコという種全体の繁栄にとって最善の選択をしていかなければなりません。だから、自然の死は自然のままあるべきことだと考えており、むやみに保護するのではなく、自然のまま死なせてあげることにしているのかもしれません。

2月当時、そんな事情をあまり理解していなかったため、モントレーベイ水族館が迅速に対応してくれないことに少し落胆しましたが、今となってはそれも理解できます。

 

2月の時のラッコ然り、元旦のラッコ然り、生まれて死んでいくというのは自然の大きなサイクルです。
死んだ動物は他の動物のエサとなり、他の命を生かしていく。ここに生きる野生のラッコたちも例外ではないのです。そんな大きな自然の摂理に対して、人間ができることには限界があり、また関与しないほうがいいこともあるのかもしれません。

 

波打ち際に浮かぶ背中を見ながら、これでよかったのかもしれない、そう思いました。

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2016年

1月

06日

【記事】噛む力がラッコを可愛く進化させた?! |A Crushing Bite Gives Sea Otters Their Cute Mugs

本日は2016年1月6日付のNational Geographicから、"A Crushing Bite Gives Sea Otters Their Cute Mugs "をお届けします。カワウソの仲間であるラッコは、他のカワウソたちとは異なる部分があります。ラッコが他の仲間たちと違うのは、食生活に原因があるのではないかというお話です。

カリフォルニア州ピデラスブランカ付近のカリフォルニアラッコ Photo by Brian Switek.
カリフォルニア州ピデラスブランカ付近のカリフォルニアラッコ Photo by Brian Switek.

カワウソ類は愛らしい。これは重力が存在するのと同じくらいの事実だ。しかし13種ほどの現存するカワウソ類の中でも、Enhydra Lutris、つまりラッコほど「わぁ♡」という言葉を生み出している種はないだろう。この「毛玉」たちは実際非常に可愛らしいので、その悪行は見過ごされがちだ。しかし、何がラッコを違ったものにしているのだろう?密度の高い体毛と、好き嫌いの多い食生活もある。もちろん、他のカワウソ類とが見た目にも少し異なっている。ラッコは他のカワウソ類と比較して短く丸い顔をしているが、それはラッコの特殊な食生活によるものだ。はっきり言えば、かみ砕くことでラッコは他の可愛い競争相手に対して優位になっているのだ。

 

そうしたことを思いついたのは、テキサス A&M動物学者のロリ・ティム=デイビス、トーマス・デウィット、クリストファー・マーシャルによるカワウソ類の2つの主要な食習慣に関する新しい論文を読んでからだ。オオカワウソやカナダカワウソのように主に魚や他のよじれる生き物を顎で獲るものもいれば、コツメカワウソやラッコのように器用な手で貝類や棘皮(きょくひ)動物(訳者注:ウニ・ナマコ等)や他の固い殻を持つ獲物を捕らえ、そうした固い殻を臼歯で噛み砕くものもいる。噛むということにおいてスピートと力とを取り換えたとしても、ティム=デイビスとその同僚らは2つそれぞれの食生活の違いは頭蓋骨に見ることができるのではないかと推測した。そう考えて、彼らはラッコの3亜種及び4種のカワウソ類の合計150の頭蓋骨を計測し、噛む力を想定した。

オオカワウソ Photo by Frank Wouters
オオカワウソ Photo by Frank Wouters
カナダカワウソ Photo by Dmitry Azovtsev
カナダカワウソ Photo by Dmitry Azovtsev
コツメカワウソ Photo by Sean Murray
コツメカワウソ Photo by Sean Murray

カリフォルニア州アニョヌエボ州立公園のラッコの頭蓋骨Photo by Brian Switek.
カリフォルニア州アニョヌエボ州立公園のラッコの頭蓋骨Photo by Brian Switek.

カワウソ類は通常研究者らの期待に沿う。魚を主食とするオオカワウソとカナダカワウソは長く幅が狭い頭蓋骨をしており、そのため早く噛みつくことを可能にしている。つるつるした動きの速い獲物を捕まえるために作られている。コツメカワウソやラッコは動きの鈍い無脊椎動物を捕らえるため、幅が広く短い顎を持つ頭蓋骨をしており、機敏ではないものの噛む力がより強くなっている。ラッコはこの特性が極端で、幅が広く丸い臼歯があるが、これは固いエサをかみ砕くのに最も適している。

 

しかし、すべてのラッコが同じように行動するわけではない。ティム=デイビスと共同著者らが独立した亜種ロシアラッコ、アラスカラッコ、カリフォルニアラッコの違いを調べる、それぞれの亜種の頭蓋骨が少しずつ異なっていることを発見した。これは食生活の違いによるもののようだ。ロシアラッコやアラスカラッコは、カリフォルニアラッコとは魚を食べると言う点で食生活が少し異なっている。この違いが顎の違いに現れているのだ。ラッコの3亜種の中でカリフォルニアラッコは他の亜種に比べ、臼歯が噛み砕く表面になっている割合が19.1%多い。ウニをよりうまくかみ砕けるようにだ。こうした比較的新しい変化は、食生活がどれほど早くラッコの進化の形に影響し始めているかを反映している。

 

 

しかし、おおかた最も現代的な嗜好のラッコですら、深く短く幅の広い形の頭蓋骨をしており、他の仲間たちとは異なっている。体毛や、小さな鼻や目があって「ラッコ」という完全パッケージとなっているが、カワウソ類としての見た目は、骨にも及んでいる。ラッコの可愛らしさというのは、噛み砕く力からきているのだ。

 

参考文献:

Timm-Davis, L., DeWitt, T., Marshall, C. 2015. Divergent skull morphology supports two trophic specializations in otters (Lutrinae). PLOS ONE. doi: 10.1371/journal.pone.0143236

Natinal Geographic

A Crushing Bite Gives Sea Otters Their Cute Mugs

POSTED WED, 01/6/2016 Brian Switek

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2016年

1月

07日

【記事】カーメルビーチでラッコの子どもを保護 | Aquarium's Sea Otter Program Rescues Pup from Carmel Beach

 本日は2016年1月7日付けのMonterey Bay Aquarium Newsroomより、"Aquarium's Sea Otter Program Rescues Pup from Carmel Beach"をお届けいたします。
昨日カリフォルニア州カーメルビーチで保護されたラッコの子どもの保護の状況についての水族館からの公式報告です。

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©Monterey Bay Aquarium
©Monterey Bay Aquarium

モントレーベイ水族館のラッコ保護プログラムは2016年1月6日水曜日、カーメルビーチでラッコの子どもを保護いたしました。
今回の保護に関する時系列と現在の子どものラッコの状態は以下の通りです。

  • 2016年1月6日午後1時半ごろ、カーメルビーチのナインス・アベニューとテンス・アベニューの間にラッコの子どもが打ち上がっているとカーメル警察のアニマルコントロールへ一般市民からの通報があった。
  • 当館のラッコ保護プログラムのチームが対応したが、高波と嵐という天候だったため、まずは付近で子どもを探している母親と思われるラッコを見つけようと試みた。
  • 母親を見つけ出すことができなかったため、ラッコの子どもはモントレーベイ水族館へ移送され、健康状態の検査が行なわれた。現在そのラッコはICU(集中ケアユニット)におり、ラッコ保護プログラムのスタッフが状態の安定をはかり、観察を続けている。
  • このラッコ719号はメスで、体重は6.4パウンド(約2.9kg)、およそ生後4週間とみられる。(この年齢からみて、このラッコは12月20日に当館のグレート・タイド・プールで生まれたラッコではない。)
  • モントレーベイ水族館と海洋哺乳類センターは国からの許可のもと、カリフォルニア沿岸で病気や怪我、親とはぐれるなどした生きているラッコに対応することをアメリカ魚類野生生物局に公式に認められている。
  • このラッコについては、3つの可能性が考えられる:
  1. 当館でメスの成体のラッコの都合がつけば、それをあてがい、この子どものラッコを野生に返し生きていけくことができるよう、数ヶ月間集中的なケアとモニタリングを行なう。
  2. アメリカの認定された水族館もしくは動物園の展示水槽に野生に返すことができないラッコを受け入れる余裕があれば、当館はこの子どものラッコをその施設へ任せる。
  3. アメリカ魚類野生生物局のカリフォルニアラッコ個体数回復計画の優先順位に基づき、1もしくは2が実行不可能であれば人道的に安楽死させる措置をとる。


最新情報についてや写真等は逐次こちらのニュースルームへ投稿いたします。

Monterey Bay Aquarium Newsroom
Aquarium's Sea Otter Program Rescues Pup from Carmel Beach
Jan 07, 2016

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2016年

1月

09日

【記事】ラッコのゲノムを解析 | Decoding the sea otter genome

本日は2016年1月8日付のConservation & Science at Monterey Bay Aquariumから、"Decoding the sea otter genome "をお届けします。初のラッコのゲノム解析のプロジェクトが始まっています。かなり学術的な内容なので、翻訳の間違いはどうぞご容赦ください。間違いにお気づきの方はご連絡いただけましたら幸いです。

© Monterey Bay Aquarium
© Monterey Bay Aquarium

ラッコは沿岸生態系の健全性において非常に重要な役割を果たしている。しかし、1世紀以上前に収束した毛皮貿易の影響から、未だに個体数が回復していないため、私たちはその益を十分に享受していない。現在、ラッコの回復を助ける新しいツールが登場した。初のラッコの遺伝子の解析だ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校生態系進化生物学部の博士課程の学生、アナベル・バイヒマンはその研究とそのプロジェクトにおけるモントレーベイ水族館の重要な役割を率いている。

 

かつてラッコは日本の北部から太平洋沿岸に沿ってバハ・カリフォルニアまで数多く生息していた。1741年にベーリングの探検船がコマンドルスキー諸島で難破し、全てか変わってしまった。ヴィトウス・ベーリングや多くの船員は死んでしまったが、一握りの者たちがロシアへ帰国した際ラッコの毛皮を持ち帰り、東北部においてラッコやオットセイが潤沢に存在するという話をした。

1856年オレゴン州クーズ湾のラッコ猟師。Courtesy Oregon History Project
1856年オレゴン州クーズ湾のラッコ猟師。Courtesy Oregon History Project

これが先を争ってラッコの毛皮を手にいれようとする動きに拍車を当て、19世紀終わりにはラッコの個体数がほぼ絶滅寸前になるまで乱獲されてしまった。

 

1911年、ラッコは膃肭獣保護条約(おっとせいほごじょうやく)で保護されることになった。しかし、離れた場所で生き延びた小さなラッコの群れのほとんどにとって、その保護は遅すぎるものだった。そうしたそれぞれのラッコの小さな群れは100頭以下まで減ってしまい、カナダのぶり手一種コロンビア州とバハ・カリフォルニアで殆どが時間とともに消滅してしまった。

長く遅々とした回復

しかしクリル諸島、カムチャツカ半島、アリューシャン列島、アラスカ南部中央、カリフォルニアでは、残された群れが成長し始めた。20世紀の間に、一部はかつて生息していた規模へと戻った。カリフォルニアではその成長はより遅々としており、成獣と幼獣合わせて3,000頭で、毛皮貿易の前と比較して非常に少ないレベルだ。

(訳者注:遺伝子のボトルネック効果。横軸(→)が時間。もとは多様な遺伝子が存在したが(多色のラッコ)、急激に個体数が減少すると遺伝子の多様性が失われ、再度個体数が増加に転じても特定の遺伝子をもつ個体の子孫(青と茶色のラッコ)だけになってしまう。
(訳者注:遺伝子のボトルネック効果。横軸(→)が時間。もとは多様な遺伝子が存在したが(多色のラッコ)、急激に個体数が減少すると遺伝子の多様性が失われ、再度個体数が増加に転じても特定の遺伝子をもつ個体の子孫(青と茶色のラッコ)だけになってしまう。

ラッコの乱獲は「ボトルネック効果」と呼ばれるものを引き起こした。これは、個体数が急激に減少した後、再び増加に転じた際に起こるものである。一握りの個体群がボトルネック(訳者注:左図でいう細くなっている部分)の反対側に現れると、その個体群の将来的な構成員が全て幸運なその一握りの個体群の子孫になってしまうということだ。

 

このボトルネック効果は、長期にわたる遺伝的影響を及ぼす。その個体群はかつて存在した遺伝子の多様性のほとんどを失ってしまったため、その個体群で普遍的になる可能性を持つ有害な遺伝子の突然変異に影響を受けるからである。こうした突然変異は病気に対する抵抗力や生殖力、成獣になるまで生き延びる力などに影響を及ぼす可能性がある。

ラッコの遺伝子マッピング

最初の血液標本はモントレーベイ水族館のラッコ展示水槽にいるラッコたちから採取される。Photo courtesy USGS.
最初の血液標本はモントレーベイ水族館のラッコ展示水槽にいるラッコたちから採取される。Photo courtesy USGS.

今日、社会はゲノム配列解析(個々の遺伝子を作っているDNAを構成するブロック(その生物が何者かを特定する独自の設計図のようなもの)を配列すること)の真っただ中にある。ゲノム全体の配列を特定することがかつては重要な要素だったが、非常に高額な費用がかかった。現在は技術が大きく発達したおかげで、比較的適度な金額で全ての生物のゲノムプロファイルをマッピングすることができるようになった。

 

私たちは現在、初めてラッコのゲノム解析をしている最中だ。私たちはモントレーベイ水族館の獣医師マイケル・マリー博士に分けていただいた水族館のラッコたちの血液を使っている。(博士はロシアのカムチャツカ半島、アラスカ、太平洋北西部におけるラッコの生息域のラッコの研究を行っている)

 

私たちは、皆さんが会うことができる展示水槽のラッコから最初のラッコのゲノムを得られることに非常にワクワクしている。そのラッコたちは、ゲノム科学と保全科学が一緒になってこの素晴らしい動物に対する新しい識見を与えてくれる、生きる記念物だ。

個体群への識見

最初のゲノムは、それに続く様々な生息域のラッコからの60のゲノムの解析のひな形となる。ある種のゲノムを初めて解析しまとめるには、膨大な技術的で計算の多い仕事が必要になる。それが完了すれば、他の個体のゲノム解析はそれほど複雑ではない。

このプロジェクトの一環として、60頭のラッコの遺伝子が解析されることになっている。Photo © Jim Capwell.
このプロジェクトの一環として、60頭のラッコの遺伝子が解析されることになっている。Photo © Jim Capwell.

レファレンスゲノムと呼ばれるこの最初のゲノムは、非常に詳細に(ゲノムの様々な部分を重複して解析する)解析されることになる。その後、複雑なコンピュータアルゴリズムを用い、解析をまとめて一つの大きなゲノムにする。それに続くゲノム解析は、毎回最初から集めるのではなくレファレンスのひな形へマッピング(配列する)することができるのだ。

 

たった1つのゲノムがその種の進化について多くの情報をもたらしてくれる。かつての個体数の変遷や、特殊な適応、ゲノム中の有害な遺伝子のバリエーションのレベルを知るには、より多くの個体のゲノムが必要になる。一旦レファレンスゲノムをまとめることができたら、6つの個体群からそれぞれ10頭分のゲノムの解析をするのはそのためだ。

時間における変化

この膨大なデータにより、私たちは、ラッコが海洋環境で生きることができるようどのように特別に適応したかを探すことができる。ゲノム解析により、時代とともにラッコの個体数がどのように変化してきたかも知ることができ、毛皮貿易の個体数のボトルネックが現代のラッコのゲノムにどのように影響を与えてきたかを知ることができる。

カリフォルニア州チャネル諸島の貝塚で出土した昔の骨のDNAも解析されるだろう。Photo © National Park Service
カリフォルニア州チャネル諸島の貝塚で出土した昔の骨のDNAも解析されるだろう。Photo © National Park Service

私たちが行っているのは、生きているラッコの現代のゲノム解析にとどまらない。最近、「古いDNA」、つまり大昔に死んだ個体のDNAの解析に大きな発展があった。例えば、ネアンデルタール人のゲノムと家畜化される以前の馬のゲノムの解析を行った科学者らがいる。他にも、ゲノム解析が完了した古いゲノムもあり、未だ解析中のものもある。

私たちの研究所は、ボトルネックの前後のゲノム解析を比較するため、アメリカやカナダの先住民の貝塚から採取した、毛皮貿易以前のラッコの標本のゲノム解析も行う予定だ。これにより、時代とともに有害な突然変異がどの程度おこってきたのかを直接比較することができ、また、先祖らと比較して現代のラッコが有害な突然変異が増えてしまっているのかどうかを知ることができる。

回復の努力を後押し

モントレーベイ水族館の研究者らはラッコの回復のために非常に顕著な努力を行っているが、ゲノム解析は、そうしたラッコの回復努力に実際的に適用されている。そうした遺伝子情報はラッコ保護計画に取り入れられている。かつて個体数が少なく隔離されていたために病気や災害に対してより弱い個体群を特定したり、現在は交配することがない地理的に離れた別の個体群にいる、遺伝子プロファイルの異なるラッコを導入すれば何らか有益なことがあるかを測定するためである。

遺伝子の歴史を理解することで、ラッコの回復への試みが進展するかもしれない。Photo © Jane Vargas-Smith
遺伝子の歴史を理解することで、ラッコの回復への試みが進展するかもしれない。Photo © Jane Vargas-Smith

ラッコ自身の代わりに行ているこうした回復への努力のように、私たちの仕事は多くの協力者、今回のケースでは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、スミソニアン保全生物学研究所、モントレーベイ水族館との協働が含まれている。私たちにはラッコの専門家、ゲノムの専門家、保全遺伝学の専門家がおり、このような前代未聞のレベルの生きたラッコや昔のラッコのゲノムデータを活動することができる。


まだまだ学ぶことは多い。プロジェクトが進むに伴って発見したことについては、改めて報告したい。

 

ラッコゲノムプロジェクトについて詳しくはこちら

Conservation & Science at Monterey Bay Aquarium

Decoding the sea otter genome

January 8, 2016

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2016年

1月

11日

【動画】浜を歩く野生のラッコ | Wild sea otter walking on the beach

ラッコが浜にあがってきました。ずいぶん長い距離を歩いています。

撮影地/Location:Moss Landing, Monterey, CA, USA

撮影/Credit:らっこちゃんねる | Sea Otter Channel

撮影日/Date:2015年12月24日 

撮影時はKing Tide(大潮?)という、潮の満ち引きの差が大きい日でした。
潮が引いてもいつもは露出しないところが、この時ばかりは露わになっていました。

ラッコはモノや場所に執着する習性があるのか、いつもだいたい同じ場所に上がって休みます。
引き潮のせいで、いつも休んでいる浜が波打ち際からずいぶん遠くなってしまい、長い距離を歩かなければならなくなりました。

ラッコは歩くのはあまり得意ではないのですが、このラッコは頑張って50mくらい(もっと?)歩いて、やっといつもの場所へたどり着いたようです。

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2016年

1月

13日

【記事】オオカミがラッコを捕食 | Do wolves hunt sea otters?

本日は2016年1月7日付のTHE SQUAMISH CHIEFから、"Do wolves hunt sea otters? "をお届けします。バンクーバー島のカイウクォット湾で研究を行っている研究者が、沿岸に住むオオカミがラッコを捕食している証拠を発見しました。

クエスト大学のノイフェルト、イーグル・フェスティバルの講演で「奇妙な」証拠について語る

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5月、クエスト大学の学生らがカイウクォット湾沿岸に住むオオカミを研究している。  Photo: Submitted
5月、クエスト大学の学生らがカイウクォット湾沿岸に住むオオカミを研究している。 Photo: Submitted

クエスト大学の講師クリス・ノイフェルトはもともとラッコを観察するために人里離れたカイウクォット湾で行動生態学の授業を行っていたが、彼らの発見により研究に新しい道筋が与えられることになった。

 

「私たちは、オオカミがラッコを食べている証拠を見つけました。これは実に奇妙なことです」とノイフェルトは言う。彼は1月17日、ブラッケンデール・イーグル・フェスティバルのナショナル・ワールド・レクチャー・シリーズで発表を行うことになっている。

 
バンクーバー島北西部にあるその地域の沿岸に住むオオカミは、鮭、ミンク、小型のカニ、フジツボ等の海の生物で陸上での食生活を補っていることが知られているが、5月に行われたこのクラスのフィールドトリップで、ラッコの死体の一部が食べられ、内陸部へ動かされているものがあるという新発見があった。

 

ノイフェルトと学生らはオオカミの糞を研究室に持ち帰り、何を食べていたのか分析を行った。

 

「私たちはかなりの証拠を見つけました。ラッコであることが分かりました」とノイフェルトは言う。

 

しかし、彼らの研究はまだ初期段階であり、仮説が成り立つかどうか調べるためにもっと多くの証拠を集めている。

 

一番いいシナリオは、ラッコを食べているオオカミを捉えることだが、カメラを設置してもオオカミがラッコを獲っている映像をとることができていない。

 

ノイフェルトによると、この島のオオカミは2年半前に本土から泳いで渡ってきたそうだ。春には8頭の子どもが生まれ秋まで生き延びており、個体数がわずかに増えていると言う。

 

オオカミは目の前に現れたものを狩るという日和見主義であると長い間知られてきた。何頭かがエサを狩る目的で島の周囲を日に1~3周しているとノイフェルト言う。「オオカミたちはなんとかしてラッコを獲ることができているようです」

 

ラッコがわずかに陸に上がっている間にオオカミたちが待ち伏せしている、というのが仮説だ。

 

もともといたラッコは18世紀から19世紀の間、毛皮貿易の時代に消滅してしまっていた。1960年代に、問題になっている地域のすぐ北のほうにアラスカからラッコが再導入されてから、その地域のラッコの数が再び増えてきており、ラッコはオオカミにとって恐らくぴったりの獲物だろう。

 

ノイフェルトはもともと植物学を研究するつもりだったが、沿岸生息域に興味を持ち始めてから、専門を海洋生物学に変更した。ビクトリア大学で大学院を修了してから、生態学の博士号をとるためアルバータ大学へ進んだ。大学は海に面していない場所にあったが、彼自身はほとんどの時間をバンクーバー島の西海岸で海洋生物が異なる環境にどのように反応するかを研究して過ごしていた。

 

ノイフェルトの発表は、1か月にわたるコンサートや美術展を含むイベントであるブラッケンデール・ウインター・イーグル・フェスティバルの中で行われる。

 

発表者らは複雑な生態系が自然環境にどのように作用しているのか意識を高めるため、経験をシェアする。他にも、1月10日にカナダと数か国の古生物学についてをブライアン・チャタートンが、1月24日に気候変動がどのように動物を脅かしているかについての専門家キンバリー・ドウが、1月31日にスカミッシュ川で発見された先住民の儀式で使用された古代の石の鉢についてを考古学者のルビー・ライマー/ユンクスが発表する。講演は全て、ブラッケンデール・アート・ギャラリーにて午後8時から行われる。

THE SQUAMISH CHIEF

Do wolves hunt sea otters?

Michaela Garstin / Squamish Chief January 7, 2016 06:00 AM

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2016年

1月

18日

【動画】小石で遊ぶ野生のラッコ3 | Wild sea otter playing with rocks

 野生のラッコが石で遊んでいました。

撮影地/Location:Moss Landing, Monterey, CA, USA

撮影/Credit:らっこちゃんねる | Sea Otter Channel

撮影日/Date:2016年1月15日

このラッコはたまにしか見かけませんが、見かけたときはいつも面白い姿を見せてくれます。
他にもこのラッコの石遊びの動画がありますのでご覧ください。

 

Wild southern sea otter playing with rocks | 小石で遊ぶ野生のラッコ2

Wild sea otter juggling!! | 野生のラッコ、ジャグリングの練習

Wild southern sea otter playing with a pebble | 小石で遊ぶ野生のラッコ

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2016年

1月

21日

【記事】お帰り、ラッコたち! | Welcome Back, Otter

本日は2015年11月18日付のOregon Wildから、"Welcome Back, Otter "をお届けいたします。

3回シリーズで、ラッコの生態や歴史、その重要性に触れた記事になっています。今回はそのパート1をお送りします。

ラッコ。やわらかい、グレーブラウンの房のような毛、小さくていぶかしげな二つの黒い目、だらりとした水滴の垂れるひげ。太平洋のワシントン州の海岸沖にぷかぷか浮かび、濡れた頭を水の上に出し、小さな前足を空中に突き出してバランスをとる。「何か心配でも?」という表情で、大人の男も女も初めて子犬を手にしたときのような歓声を上げてしまうような、面白い動作。ラッコは愛さずにはいられない。ラッコはまた、偶然にもキーストーン種であり、まじめに可愛いという他に沿岸海洋生態系の生態系の健全性において非常に重要なのだ。

 

ラッコへの愛情は、最初の子ども、お気に入りのジーンズ、ブレザー、オレオクッキー、そんなものと張り合えるものだということは分かっているだろう。しかし、このヒゲの生えた毛玉のような生き物をありがたく思うには、この生き物について基本的なことを少し知っていくことが大切だ。

ラッコはMustelidaeと呼ばれるイタチ科の動物の中でもっとも身体が大きい。海洋哺乳類の中では2番目に小さく、オスの体重は49~99パウンド(約22~44.5kg)、メスは31~73パウンド(約14~32.8kg)になる。体は小さいがカーダシアン家(訳者注:リアリティ番組のお騒がせセレブ一家。毛深いことで知られる)を含む地上のすべての動物の中で最も密度の高い体毛を持っている。実際、ラッコは1平方インチ当たり25万から100万本の毛が生えている。ポートランドの美容師が羨ましがるほどの複雑な2層になっている毛の構造によりラッコの皮膚は完全に水に濡れない状態になっている。脂肪層がないことを補うために進化した特徴だ。

 

ラッコはフレンドリーだが、皆が思うほど社交的ではない。ラッコは、いつも一緒につるんで楽しく過ごすが普段は一人でいるような友人のようなものだと思えばよい。ラッコは殆どの時間一人で過ごす。エサをとったり、食べたり、毛がちゃんとしているか確認したりという日々のことをを一人で行う。実際、ラッコは1日のうち24~60%はエサを探すために費やしており、残りの時間の多くは体毛がきれいでちゃんとしているか確認するのに使われている。

 

自分がラッコだったと想像してみてほしい。驚いて、前足を顔の前に上げる。「こんなふうに生まれ変わるなんて、どうしてこんなに運がよかったんだろう?」と隣にいる獰猛なヒトデに尋ねてみる。まあ気にしないで欲しい。そういうことを考える時間はない。ブルースタードーナツ(訳者注:人気のドーナツ店)にいる学生よりも腹ぺこだからだ。何を食べようか?自分の好きなエサを探しに海の底へ潜る。海に住む\無脊椎動物や小さな魚。ふと、アワビを発見する。1分から4分ほどかけて動かして吸盤を外し、アワビを持って水面に上がる。左脇にあるポケットから、自分オリジナルの石を取り出し、殻をジャックハンマーのように正確に激しく45秒ほど打ち付ける・・・そしてできた!ファーストフード・シーフードだ。

ラッコは一夫多妻制だ。つまり通常オスは複数のメスをパートナーとしている。妊娠期間は4か月から12か月で通常は1度に1頭の赤ちゃんが生まれる。ほとんどのメスが出産するのは年に1度だ。赤ちゃんが生まれたら、メスのラッコは子どもに対して信じられないほど献身的になる。母親ラッコは冷たい水に触れないよう赤ちゃんをお腹の上に乗せる。赤ちゃんが水に浮いていられるよう毛の間に空気を入れるために一生懸命舐めていない時は、母親はエサを探しに行く。赤ちゃんを寿司のようにケルプの切れ端に巻き付け、海に流されていかないようにしておく。

 

結局、生まれて死ぬまで、生命は一周するようになっている。でも微笑んでいてほしい。ラッコたちはまっすぐ天国へ行くと確信できるだろう。野生では通常オスなら10年から15年、メスなら15年から20年生きる。高齢、病気、捕食者など死には様々な原因があるが、その3つがほとんどの場合この動物にとって致命的となっている。

 

次回は、西海岸における毛皮貿易とラッコの個体数の崩壊、オレゴンでの絶滅について探ってみることにする。パート2はこちら

Oregon Wild

Welcome Back, Otter

Nov 18, 2015 By Seth Heller

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2016年

1月

24日

【記事】獣医研修医がアラスカラッコの保護に協力 | Vet Resident Assists in Alaskan Sea Otter Rescue

本日はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校獣医学大学院のウェブサイトから、研修医(レジデント)によるブログ"Vet Resident Assists in Alaskan Sea Otter Rescue"を ご紹介します。獣医をめざす研修医の方が、ラッコの大量死が起きているアラスカでの調査活動に参加されました。この経験が将来きっと役立ってくれることでしょう。

10月、シェッド水族館がラッコの保護・リハビリテーション活動を通じて、アラスカ州ホーマーへ行く素晴らしい機会を与えてくださいました。これはアラスカシーライフセンター(ASLC)からの獣医学的サポートの要請に応えるものでした。アラスカシーライフセンターは、浜に打ち上げられた海洋哺乳類の通報に対応するアラスカ海洋哺乳類座礁ネットワークに属しており、アラスカ州では唯一海洋哺乳類のリハビリテーションを行う公式な認可を得ています。しかし、シーライフセンターはホーマーから168マイル(約270km)も離れているため、シーライフセンターにいる獣医たちが日々の動物たちの座礁の通報に対して応えることが難しいのです。ホーマーでは昨年の夏以降、病気になったラッコの目撃情報が非常の多く寄せられています。ラッコは私たちの生態系で重要な役割を果たしているので、ラッコの個体数に影響があれば生態系全体に何らかの影響を及ぼすことが考えられます。

ミーガン・ワトソン博士はイリノイ州動物・水棲動物研修プログラムに属する獣医師です。ワトソン博士はイリノイ大学、ジョン・G・シェッド水族館、ブルックフィールド動物園の研修医(レジデント)である。
ミーガン・ワトソン博士はイリノイ州動物・水棲動物研修プログラムに属する獣医師です。ワトソン博士はイリノイ大学、ジョン・G・シェッド水族館、ブルックフィールド動物園の研修医(レジデント)である。

2006年以降ホーマーでは尋常でないラッコの死が起こっています。4年以上バクテリア(ストレプトコッカス)により主に引き起こされる弁膜心内膜炎が主な死因であるとされてきました。こうしたラッコたちは痩せて衰弱しており、ある一定の期間病を患っていたことを示しています。今年まで死因は主にこの病気が原因でした。しかし、今年は病気にかかったラッコの数が増加しただけでなく、違う症状を持ったラッコもいたのです。今年は振戦(震え)や発作のような神経症の兆候が急激に現れたラッコの座礁が起こっており、別の病気によるものではないかということを示しています。その原因を明らかにするために、更なる調査が必要となっています。

 

サポート獣医師としての私の仕事は地元のボランティアの皆さんやスタッフの方々にあらゆる面でできる限り協力することでした。ホーマーの座礁対応チームは普段は別の仕事を持つ訓練を受けたボランティアでした。アメリカ魚類野生生物局の職員、大学生、大学の職員、その他にもいました。私たちは1日単位で座礁ネットワークで受けた通報に対応していました(アラスカシーライフセンターはアメリカ魚類野生生物局LOA/MA-837414によりラッコの対応をする許可を得ています)。滞在中、私はラッコに関する通報の対応や検死、標本採集、ボランティアや大学生への教育などを手伝いました。地元の浜で見つかった夥しい数のラッコたちの苦痛を和らげ、貴重な情報を地元の病理学者に提供する重要な標本を集める手伝いを行いました。こうした標本は、ラッコの死因について理解する手助けになります。シェッド水族館の保護、研究、リハビリの努力のお陰で、私はこの素晴らしい動物を助ける一員となれ、ラッコや生態系の助けになる答えの発見に近づくことができたことを非常に幸運に思っています。

 

—ミーガン・ワトソン獣医学博士

 

ワトソン博士は、イリノイ大学、ブルックフィールド動物園、シェッド水族館が提携するイリノイ州動物・水棲動物研修プログラムに属する動物学・水棲動物医学の研修医(レジデント)である。

College of Veterinary Medicine, University of Illinois at Urbana-Champaign

Vet Resident Assists in Alaskan Sea Otter Rescue

Jan 21, 2016 / Student Blogs / Veterinary Clinical Medicine

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2016年

1月

26日

【記事】ラッコの復活をめぐる対話 | Coastal Voices: Navigating the Return of the Sea Otter

 本日は、COASTAL VOICESというウェブサイトから、カナダのサイモン・フレーザー大学による”Coastal Voices:Navigating the Return of the Sea Otter”という動画の書き起こしをご紹介いたします。アラスカ先住民は昔からラッコと共存してきました。ラッコの乱獲による減少ののち、アワビやウニが増え、その漁を生業とする人も増えました。そして今、ラッコがかつての生息域に復活し始めたとき、それらをめぐって人間とラッコの間に軋轢が生まれはじめます。人間とラッコがどのように共生していくべきか、先住民とラッコ研究者らがお互いを尊重する対話を始めています。

2014年、様々な人々で構成されるグループが、新しい考え方を知り耳を傾けるために危機に瀕している海に対する情熱を分かち合った。このグループは先住民のリーダー、芸術家、科学者、ジャーナリストらから成り、ブリティッシュコロンビア州の中央沿岸部に集い、ラッコの復活による大きな変化について話し合った。我々の目的は、伝統的な知識と西洋科学を通じ、情報を共有したり、沿岸に住む人々のコミュニティがラッコの復活による生態学的、社会経済学的な変化をうまく切り抜けていくための、お互いを尊重する対話を行うことにある。我々の対話をご覧いただきたい。

女性: 雲に触ったらきっとこんな感じなんだろうと思いました。柔らかで、毛が密で。

男性: ラッコの毛皮は、族長や偉い猟師だけに許されていました。地位の高い人だけがラッコの毛皮を持っていたのです。

Hup in Yook, トム・ハピーヌック

Huu‐ay‐aht族 代々の捕鯨船長, ヌートカ族
私たちの言葉では、ラッコを「クワックワッ」と呼びます。

 Wickaninnish, クリフ・アトレオ

ヌートカ族カウンシル前会長
「クワックワッ」ですね。どういうスペルかは私に訊かないでくださいよ。

Kii'iljuus, バーブ・ウィルソン
ハイダ族の女族長
「クー」です。私たちは「クー」と呼んでいますね。

Wigvilhba Wakas, ハービー・ハンチット Sr.
ヘイルツク族の代々の族長

ラッコはわたしたちの環境にいるべき場所があると思います。ラッコはケルプの森が育つ場所で重要な役割を果たしています。私たちはラッコがいなければケルプの森はウニに占領されてしまうということを知っています。だから、そのバランスをどう維持するかを学ばなければならないのです。

アン・サロモン
サイモン・フレーザー大学

人間とケルプの森そしてラッコの関係は文字通り千年にも及び、実際、こうした関係を管理している場所があります。毛皮貿易は、そうしたものをことごとく変えてしまいました。毛皮貿易はラッコを消し去ってしまっただけではなく、ラッコのエサとなる生物、つまり甲殻類、ウニ、アワビ、貝、そしてそうした生物を頼っている生物の増加を招きました。そうしたエサになる生き物がより手に入りやすくなり、人間はそうした生き物により依存するようになったのです。家族が食べる分だけではなく、生活の糧を得るための仕事としてです。 

 

現在ラッコが戻ってくると、私たちが好んで食べ、経済的な価値に頼ってきた貝や甲殻類と同じものが減ることになり、それが軋轢を生みだしたのです。

ボニー・マッケイ
ラトガース大学
ラッコの復帰は確かにある種の問題を引き起こしています。自分たちの地元の海のスペースをどう管理すべきかということを人々は本当に注意して考えなければなりません。また、ラッコが帰ってくると利用可能な魚介類の量が減ってしまうため、もう魚介類はいらないとするかということも。そうして、こんな疑問を持ち始めるのです。「私たちがここに必要としているものは本当は何なのか?」と。それはまるで、この地域の先住民グループの立場での領有権を新たに確約することを求め、そこから利益を得ようとしているように聞こえてしまうのです。

男性
私たちの仲間には伝統的にこうした資源を責任をもって管理している者たちがいて、私たちの領域でラッコが増えると、この一家が私たちが貝を採る浜やカニを獲る地域を守る役目を果たしていました。

 

Kii'iljuus, バーブ・ウィルソン

ハイダ族の女族長
昔、ハイダグワイでは、族長や猟師らが自分のテリトリーでラッコ猟を行っていました。男たちは出かけるまえに儀式を行い、ケルプの森をたやすくすり抜けられるカヌーに乗り、槍やこん棒を使いました。ラッコはラナアグア(?)と呼ばれるヘッドピースに使ったり、冬の間家の中で温かく過ごすため壁を覆うものとして使われました。寝具としても利用されました。

ラッコが描かれた槍
ラッコが描かれた槍
ラッコの毛皮のヘッドピース
ラッコの毛皮のヘッドピース

イアン・マケニー
オレゴン大学/サイモン・フレーザー大学ハカイ研究所

私たちは北部の沿岸域4か所で、考古学的にラッコの食生活が特化していることを見て、このラッコたちが占めている非常に狭いニッチがあるということが分かりました。それは、人間がラッコの生息数を最大環境収容力を越えないよう保ってきたということを示しています。つまり、貝や甲殻類などの資源を利用し続けられるよう、ラッコをある地域から故意に追い出していたということです。これが、今日、先住民に継続的に広くみられるラッコの取り扱い方なのです。

Hup in Yook, トム・ハピーヌック
Huu‐ay‐aht族 代々の捕鯨船長, ヌートカ族

私の祖父がよく言っていたのですが、ラッコが浜に上がってこないように、ラッコを数頭殺して浜の前に繋いでおいたそうです。そうすれば浜に上がってきたラッコが殺された仲間のラッコを見て、思いとどまるのです。

ジェームス・エステス
カリフォルニア大学サンタクルーズ校

私は様々な人たちによるグループと仕事をします。ラッコが大好きでどんな理由にせよラッコが傷つけられることを望まない人たちもいます。水産業と深い繋がりがある人々もいます。どちらの人々も尊重していますが、彼らの考え方は根本的に異なっていて、私自身の考え方はその中間にあると思います。

ジェーン・ワトソン
バンクーバーアイランド大学
ラッコは貝や甲殻類を食べます。ラッコはウニを食べ、ウニはケルプを食べます。ケルプに依存している生物にとってはいいことです。でも、ウニやミル貝を獲ったり、間潮帯で貝を掘ったりしていたら、ラッコと競争することになってしまいます。そうした人のラッコの行動に対する考え方は、ケルプを見る人の考え方ほど好意的ではないでしょう。良し悪しの問題ではなく、ラッコは生態系において重要な役割を果たしているというだけのことなのです。

ティム・ティンカー
カリフォルニア大学サンタクルーズ校
私たちが研究している生態系を通じて広がる間接的な影響が非常に大きいのです。一般的には、生態系にラッコや他の大型の捕食者が復活することは社会にとって非常に重要です。なぜなら、そうした動物たちは人間同様非常に大切な役割を果たしていたからです。この生態系には、そうした大型の捕食者も人間も含まれていたでしょう。本当に大切な機能を果たしていたんです。

 

Guujaaw

ハイダ族

人間も自然の一部、生態系の一部、バランスをとるものの一部としてみなければなりませんし、そのような役割を果たさなければなりません。貝を掘ったことがない人や、食事のために動物を殺したことがない多くの人たちにとって、私たちが住んでいる世界は別の世界に思えるのではないでしょうか。

 

 Wickaninnish, クリフ・アトレオ

ヌートカ族カウンシル前会長

イサク(?)というのは、自分や他者、生き物や命のないものに対する尊敬の念です。それが統治の柱です。??(聞き取れず)と呼ばれる統治の道具箱があり、そこには族長が部族を支配するために必要なものが全て入っています。何が入っているのかというと、??(聞き取れず)や様々な資源を獲る許可のための彫刻などです。

Guujaaw

ハイダ族

保護地区というのが、人間を追い出しそこから何も利益が得られない所なのだとしたら、私たちの民族にとっては良いことではありません。管理が必要な場所というのは自然の世界とは言えません。管理されるべきなのはむしろ人間のほうなのです。

Wigvilhba Wakas, ハービー・ハンチット Sr.

ヘイルツク族の代々の族長
伝統的な知識と、科学的な知識を融合させることが重要だと思います。お互いに耳を傾けることが有効だと私は思っています。

アン・サロモン

サイモン・フレーザー大学
過去にあった領有権が、今日のこうした軋轢や取引を解決するために使われるかもしれません。

ジェームス・エステス

カリフォルニア大学サンタクルーズ校
ラッコについての問題が、何度も何度もまるで水産業との軋轢だけのように持ちあがっているように思えます。でもそれは単に水産業との軋轢の問題だけなのではなく、多くの間接的な影響を巻き込んでくる問題なのです。

ロバート・ペイン
ワシントン大学
これらは私たちにとって最大の生態系であり、そこに栄養カスケードがみられるというまことしやかで信用できる論争をすることもできるでしょうが、よく見てこれが力学的な世界であるということを考慮する必要があります。この力学を無視したり失ったりすれば、理解という意味では私たちは再び科学的な暗黒時代に戻ることになってしまいます。

 

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2016年

1月

28日

【記事】ラッコの個体数増加と生態系の変化 | Rising sea otter population signals major ecological changes

 本日は2016年1月25日付のTHE PEAKから"Rising sea otter population signals major ecological changes"をお届けします。ラッコの復活により沿岸生態系にはさまざまな影響が生じます。生態系自体の変化、そして人間の文化や生活、経済活動への影響。対立するだけでなく、異なる立場への理解を深めることで全ての関係者にとってより良い未来を探します。

100年前に絶滅寸前までに追いつめられたが、ラッコは復活を遂げつつある。Image Credits: Illustration by Janis McMath
100年前に絶滅寸前までに追いつめられたが、ラッコは復活を遂げつつある。Image Credits: Illustration by Janis McMath

サイモン・フレーザー大学の生物学の教授がラッコが沿岸生態系に及ぼす影響を研究

ラッコがブリティッシュコロンビアの沿岸に戻りつつあるということは、近いうちに生態系に大きな変化が起こることを意味している。そうした変化を研究するため、研究イニシアチブが結成された。

 

このプロジェクトを主導する科学者がサイモン・フレーザー大学資源環境マネジメント学部の教授、アン・サロモンだ。サロモンは学生らとともに2010年からケルプの森を研究し、時間の経過によるケルプの森への変化を調べている。

 

この情報をもとに、サロモンらはラッコが復活することにより将来的にケルプの森がどのように変化していくか、そして特にこうした資源に依存している沿岸の生態系がどのように影響を受けるかを予測できるだろうと考えている。

 

しかし、ラッコが沿岸に再度生息地を確立することは、単なる保全活動の話ではない。サロモンによれば、「保全という難問であり、人間が何千年にもわたって憂慮し考えてきたこと」だという。ドキュメンタリー「Coastal Voices: Navigating the Return of the Sea Otters」(訳者注:【記事】ラッコの復活をめぐる対話 | Coastal Voices: Navigating the Return of the Sea Otter 参照)では、先住民のリーダーや高齢者、資源管理者、科学者らが集い、こうした複雑な問題について話し合った2014年のワークショップを取り上げた。これは食糧保障や食の主権、また先住民の権利や財産の保有権、自治権についての基本的な問題を含んでいる。

 

人間とラッコ、ケルプの森との関係は1000年に及ぶ。これは長年考古学的、民俗学的、伝聞的な歴史において明白である。しかしラッコは18世紀から19世紀にかけての太平洋海洋毛皮貿易と植民により一掃されてしまい、その二つが沿岸生態系の管理方法を変えてしまった。

 

ラッコの絶滅がウニやアワビ、貝、カニなどのエサになる生物の増加をもたらした。これらは人間にとってもなじみのある食材であるため、ラッコの復活によりこうした食糧としての魚介類が減り、それに伴い地元経済に影響が及ぶことを考慮しなければならない。

 

メディアリリースの概要で触れたように、ラッコの個体数の増加は間接的にウニの個体数の減少をもたらし、それによりウニが精力的に食べてしまうケルプの森の復活を助けることになる。従って、ラッコの復活はケルプを利用する魚の漁獲率の増加やキチジ(魚の一種)の幼魚の定住の促進と関係している。しかし、サロモンは、ラッコの復活はまた同じく絶滅危惧種であるアワビが食べられてしまうことも意味すると言う。

 

メディアリリースによると、植民以前は人間とラッコの相関関係はバランスが取れていたと説明する。先住民は自分たちの食糧資源を守る一方で、ラッコの数を繁栄できる程度に維持していた。

 

 

サロモンはこうした複雑な事情に基づき様々なバックグラウンドや経験を持つ人が協働しラッコの復活をマネジメントする必要があると言う。このプロジェクトにより、沿岸部の住民と政策担当者に対し、生態学的、社会経済学的、文化的な視点からラッコの生息域の再建の管理に必要なリソースや共有すべき知識が与えられることが望まれる。

 

サロモンとそのパートナーらは、沿岸のコミュニティがラッコの復活に対して備える手助けを続けるため、今年の夏このプロジェクトを実行に移す予定だ。「私たちはみな、システムを異なるレンズを通して見ています。また私たちはみな異なる知識を持っています。だから、それを合わせればもっと学ぶことができるはずなのです」

THE PEAK

Rising sea otter population signals major ecological changes

January 25th, 2016 by Amanda Smith

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2016年

1月

31日

【記事】ラッコの毛を模したウエットスーツ素材 | Wet suits with hair?

本日は2016年1月25日付のStudent Scienceから、"Wet suits with hair?"をお届けします。

ラッコの毛は冷たい水の中で体温を保持するため重要な役割を果たしています。その特徴から着想を得て、ダイビングスーツの素材が開発されているそうです。

太くて短いとげ状の物で覆われているこのゴムシートにより、冷たい水に潜るダイバーのウエットスーツの表面に空気を閉じ込め保温効果をもたらす「毛の多い」素材ができるかもしれない。FELICE FRANKEL
太くて短いとげ状の物で覆われているこのゴムシートにより、冷たい水に潜るダイバーのウエットスーツの表面に空気を閉じ込め保温効果をもたらす「毛の多い」素材ができるかもしれない。FELICE FRANKEL

ラッコは非常に可愛らしい。疑う余地もない。しかしこの海洋哺乳類は別の意味でも素晴らしい。
ラッコは摂氏16度(華氏61度)以下の海で泳いで暮らしているが、摂氏38度(華氏100度)の体温を維持することができる。またクジラやアザラシ、アシカなどのような脂肪層で断熱しなくても体温を維持することができるのだ。今日、技術者たちはラッコから鍵を得ている。一つの長期的な最終形の製品は、冷たい海に潜る人々のための、毛の生えたウエットスーツになるかもしれない。

ラッコは多くの時間を冷たい水の中で過ごす。常にグルーミングを行い、密な体毛に空気の断熱層ができるようにしている。“MIKE” MICHAEL L. BAIRD/WIKIMEDIA COMMONS (CC-BY 2.0)
ラッコは多くの時間を冷たい水の中で過ごす。常にグルーミングを行い、密な体毛に空気の断熱層ができるようにしている。“MIKE” MICHAEL L. BAIRD/WIKIMEDIA COMMONS (CC-BY 2.0)

ラッコの秘密はどんなものなのだろう?ラッコは動物の中で毛の密度が最も高い。切手より少し大きいほどの面積(6.5平方センチメートル/1平方インチ)に約100万本の毛が生えている。ラッコが泳ぐとき、厚い体毛が体のすぐそばに空気を抱え込む。それにより冷たい水が皮膚へしみ込み体温を奪うのを防いでくれるのだ。

 

表面が短くて太い棒状のものに覆われたものを研究している研究者もおり、それがいつか毛皮に着想を得た布地になるかもしれない。そう、毛の生えたウエットスーツだ。まだ実現はしていないが、今のところメーカーや技術者らの助けになるものを学んでいるところだ。

表面

表面の粗さは水のしみ込みやすさに影響する。化学的なレシピもそうだ。科学者たちは長い間そうした特性を研究してきた。また、小さな突起や畝状になったものの影響の解析も行っている。しかし、毛のような柔軟な構造物がその物質の防水性にどの程度影響を及ぼすかについて研究を行っているチームは非常に少ないとアリス・ナストーは言う。ナストーは、ケンブリッジのマサチューセッツ工科大学のメカニカルエンジニアだ。(メカニカルエンジニアは機械装置の設計、開発、構築、テストを行うため物理学や材料科学を使用する人。)

 

 

最近、ナストーとその同僚は、毛皮のようなデザインに向けた最初のステップに取り掛かった。このデザインは、ラッコやオットセイの密な体毛が皮膚の側にどのように空気を溜め込むのに役立つかという点に触発された。この分野での基本的な知識のギャップを埋める手助けをする機会に触発された、とナストーは述べている。例えばこのような疑問だ。大きな構造物を表面に作ると、小さな突起や尾根状の物と同じように撥水性を増すことができるだろうか?

 

その疑問に答えることで、エンジニアがいくつもの問題を解決する手助けになるだろうとナストーは言う。例えば、表面が水がしみ込むのに抵抗する力を向上させるような、様々な技術を開発することができる。

 

最初のステップとして、ナストーらのチームは表面が硬くて短いもので覆われていた場合、撥水性の表面が’どのようになるかを証明した。まず、彼らは、金型に管状の穴を何百も彫刻するためにレーザーを使用していた。次に、液状のゴムのようなシリコンでその金型を満たした。シリコンは穴を埋め、その上に溢れる。材料がゲル化すると、短いもので覆われたシートが完成する。最後にナストーのチームは、水を入れた容器にこのゴムシートを浸し、何が起こるか観察を行った。水がゆっくりその構造物の中に浸され空気と入れ替わるほど、より表面が撥水性を持つと考えられた。

 

その研究所の試験では、材料の特性を変更したときの効果も研究しました。例えば、それらは、短い構造物の大きさとその密度を変えてみた。研究者らはまた、その表面をゆっくり水に浸すかわりに早く浸す研究も行った。

 

その構造物が長く、密であるほど水が浸み込むまでに時間がかかることが分かった。また水の中に素早く浸すほど、捉われた空気を長く保つことができることも分かった。それでも、様々な表面は最終的にすべて全部水がしみ込んでしまった。

 

ナストーは11月23日にマサチューセッツ州ボストンで行われた米国物理学会の流体力学部門の年次総会で、調査結果を発表した。

 

チームの結果は「非常に興味深く、非常に有用でしょう」と研究に関与していないホセ・ビコは言う。ビコは、フランスのパリ市立工業物理化学高等専門大学に勤めており、流体力学を研究している。液体と気体が圧力下でどのように流れるかも研究対象だ。

 

新たな発見が車のラジエーターのような奇妙な形の構造を設計するエンジニアを助けることができるのではないか、とビコは指摘している。(これらの装置は、フィンと呼ばれる多くの平坦で密集した表面を持っており、車両のエンジンの熱を冷却する。)メーカーは多くの場合、錆止めの液体に、このような装置を浸す。その装置が液体に十分長く浸されていないと、液体は完全には浸透しない。そうなると、装置は錆びやすくなってしまう。新しいデータによって、錆止めの液体で完全にコーティングするために一つの装置をどの程度浸さなければならないか、エンジニアたちはより良いアイデアが得られるかもしれない。

ラッコに学ぶ

将来的には、ナストーとその同僚らは、毛により似せた、長く柔軟な構造物を配した表面を研究することを計画している。この研究により、いくつかの疑問は解決するかもしれない。例えば、空気をよく捉えられるフェイクファーを作るためには、その「毛」の長さや柔軟性、密度はどの程度にすればいいのか、ということだ。

 

このような構造を設計方法を探している人々はラッコから学ぶことがある、とヘザー・リワナグは言う。リワナグは、カリフォルニア工科大学サンルイスオビスポ校の海洋生物学者だ。リワナグはカリフォルニア大学サンタクルーズ校で博士号を取得した際、ラッコの毛について研究を行った。

 

一つには、長く粗いラッコの毛は断面が丸くない。ガードヘアと呼ばれるこの毛は、楕円形をしている。その形状により、毛が濡れていると一定の方向にねるようになっている。また毛の表面が小さなうろこ状になっているという特徴がある 。そのため毛がひっかかることができるようになっている。そのため、水を弾き、空気を閉じ込める柔軟な殻のようになるのだ。

 

「その空気を閉じ込める層がなければ、ラッコは厚い毛皮の層が必要になり、結果的にはアザラシほどの大きさになってしまったかもしれません」とリナワグは指摘している。

 

これは、レメルソン財団からの寛大な支援により実現できた、初めての技術と革新のニュースです。

Student Science
Wet suits with hair?

BY SID PERKINS 7:00AM, JANUARY 25, 2016

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